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ライブラリー目次(論文など)

ライブラリー目次

 

国際連帯税フォーラムが推薦する金融取引税(通貨取引税)や国際連帯税の諸論文集です。「5、環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現をめざして」以外は英語で書かれていますが、それらはすべて邦訳しています。

 

<もくじ>

1、次の段階へ―通貨取引開発税の実施 

Taking the Next Step – Implementing a Currency Transaction Development Levy

 

デービッド・ヒルマン、ソニー・カプーア、ステファン・スプラット、2006年12月

 

英国のNGO、Stamp Out Povertyのメンバーによって書かれたこの報告書は、開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループの第3回国際会議を主催するノルウェー外務省に委嘱されたものである。同国際会議は2007年2月にオスロで行われた。この報告書で通貨取引開発税(CTDL: Currency Transaction Development Levy)が提案された。第2章~第4章を翻訳してある。

 

 

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2、通貨取引税:税率および税収の見積

The Currency Transaction TaxRate and Revenue Estimates

 

ロドニー・シュミット、2007年10月

 

この小論において、経済学者のロドニー・シュミットは0.005%の通貨取引税を提案している。このレートは「多くの資金を得るには十分高いが、市場歪曲の避けるのは十分低い」とシュミットは言う。またこの通貨取引税が一国・一地域単独で単一の主要通貨に課税される場合(ドル、ユーロ、円、ポンド)と、これらのうち複数の通貨に協調して課税される場合の税収を見積る。

 

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3、モンテレイ精神の維持 開発資金アジェンダと未完事項

Upholding the Spirit of Monterrey 

The Financing for Development agenda and its Unfinished Business

 

CIDSE(開発と連帯のための国際協力)政策文書、2008年6月

 

カトリック教会の開発団体のネットワークであるCIDSEは、効果的な参加とパートナーシップに基づいた完全に包含的で公正な万人のための世界的開発というモンテレイの目標を共有し、ドーハ・レビュー会議に対するCIDSEの結論および提案を示す政策文書である。

 

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4、連帯のグローバル化:金融課税のための論拠

「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

 

Globalizing solidarity: The Case for Financial Levies

Report of the Committee of Experts to the Taskforce on International Financial Transactions and Development

 

開発のための革新的資金メカニズムに関するリーディング・グループ、2010

 

この報告書は、米国、英国、フランス、ドイツと日本を含む9カ国からの専門家委員会によって書かれたもの。金融セクターからのより大きな税収を得るために5つの異なるオプションを評価しつつ、通貨取引に課税することが国際的な開発と気候変動への解決のために資金提供を促進する最良の方法であると結論する。ここでは、第3章の「革新的資金調達オプションの評価」の「3.5 中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)」について翻訳している。

 

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5、環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現をめざして

―地球規模課題に対する新しい政策提言―

 

国際連帯税推進協議会(寺島委員会)最終報告書、2010 9

 

国際連帯税推進協議会(通称、寺島委員会)は、国際連帯税、とりわけ通貨取引税の内容

と方法、税収の使途、ガヴァナンスを検討し、日本からその実現の道を切り開いていくこと

を目的として、国際連帯税創設を求める議員連盟(2008 年2 月設立)との密接な連携のも

と、2009 年4 月に創設された。委員は、この分野に関心をもつ研究者、NGO、国会議員、

労働組合、金融業界によって構成され、外務省、財務省、環境省、世界銀行がオブザーバー

として参加した。協議会はこれまでに10 回開催され、2009 年末に中間報告書を作成し、それをふまえて今回の最終報告書が完成した。

 

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IMF中間報告書 金融取引への課税:実務上の実現可能性の評価

 

IMF Working Paper

Taxing Financial Transactions:An Assessment of Administrative Feasibility

 

John D. Brondolo - IMF中間報告書、2011年8月

 

本文書は、様々な金融商品に対する金融取引税(FTT)徴収の管理実現可能性を検討するものである。現在このテーマには、政治家、市民社会組織、学者が多大な関心を寄せているとともに、金融セクターへの課税の様々な選択肢に対する政策・管理メリットに議論が集中している。本文書では、管理実行可能性の問題、つまり広い基盤を持つFTTが管理可能であるか、またそれをどのように行うかという点にのみ焦点を合わせている。ここではFTT全般の分析のうち「IV. 外国為替商品」の部分を邦訳している。

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7、金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

 

Proposal for a

COUNCIL DIRECTIVE

on a common system of financial transaction tax and amending Directive 2008/7/EC

 

欧州委員会、2011年9月28日

 

欧州委員会は、欧州連合(EU)の加盟27カ国で金融取引税を導入する法案を提出。取引に関わる機関のうち少なくとも1機関がEU域内に拠点を置いている場合課税対象となり、株と債券の取引については0.1%、デリバティブ(金融派生商品)取引には0.01%の税率が課せられる。これにより、年間約570億ユーロの税収が見込まれる。欧州委員会は、同税の2014年1月1日導入を提案している。

 

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8、金融取引税を巡る12の誤解

Financial Transaction Tax: Myth-Busting

 

Stamp Out Poverty 編、2012年3月

 

国際的に見ても金融取引税(FTT)への支持が広がっているのに、反対論者たちはいまだにFTTが経済に与える影響に関する「神話」を広めようとしている。だが、こうした「神話」は事実無根だ。この論文の目的は、こうした「神話」を一掃することである。

 

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1、次の段階へ―通貨取引開発税の実施

原文:”Taking the Next Step – Implementing a Currency Transaction Development Levy” Chapter 2~4, David Hillman, Sony Kapoor, Stephen Spratt(デービッド・ヒルマン、ソニー・カプーア、ステファン・スプラット共著「次の段階へ―通貨取引開発税の実施」第2章~第4章)

http://www.stampoutpoverty.org/wf_library_post/taking-the-next-step/

 

 

第2章 通貨取引開発税の実施

 

金融取引税(FTT

 

株式取引、債券取引、住宅の購入、銀行預金引落としに対する税などの金融取引税は長い歴史を持っており、その多くは長年にわたり成功裏に実施され特に市場に影響を与えることなく多額の税収を上げてきた。実際、カナダを除く10か国蔵相会議(G10)の参加国すべてが時期は違えども金融取引税を課税している。このうち、米国[13]、英国、フランス、ベルギー、スイスは現在もFTT制度を実施している。他のG10各国は自国で実施していたFTTを(比較的最近)廃止した。廃止の時期は、日本が1999年、イタリア1998年、スウェーデンおよびドイツが1991年、オランダが1990年である。

 

しかし、これら取引税の廃止または減税の動きは、最近他国で導入されたFTT制度により相殺される形となっている。これらの国は、インド(2004年)、ペルー(2003年)、アルゼンチンおよびコロンビア(2000年)、エクアドル(1999年)、ギリシャ(1998年)、フィンランド(1997年)である。さらにギリシャは1999年に株式取引に対する取引税を二倍に増税している。本書付録の表に、さまざまな金融取引税のより包括的な一覧を示しておいた。

 

金融取引税の導入に対する反対理由としてよく聞かれる意見には以下のようなものがある。(a)市場をゆがめる。(b)投資家、金融業者が課税対象の経済地域または分野から非課税の経済へと流れる。しかし多くの場合、現実はこれとかけ離れている。たとえば英国では、株式取引に対する印紙税は毎年約70億ドルの税収を上げている。徴税費用は所得税の徴税にかかる費用の50分の1に過ぎない。この0.5%(50ベーシスポイント)の印紙税が株式取引に課税されているにもかかわらず、英国は現在も世界有数の金融センターであり、ロンドン証券取引所は世界の首位に立つ取引所の一つであり続けている。

 

ペルー政府は2003年、教育分野のための資金創出を目的として、0.1%の一般金融取引税を導入した。その際、国内・国際経済新聞、関連民間投資家、および国際通貨基金(IMF)などの国際金融機関は、同税がペルー経済に深刻な悪影響を与えると予測した。特に彼らは、銀行預金が引き出され、これが同国経済における信用貸しの利用可能性にマイナスの影響を与え、それにより成長率が抑制されることを恐れた。下の「図1」では実際に起きた結果を示している。

 

図1 ペルーにおける金融取引税導入(2003年)以降の銀行預金および信用貸しのレベル

出典:Superintendencia de Banca y Seguros, Lima(2005年12月)

 

 

 

ここで見られるように、銀行預金の減少、およびそれによる信用貸しの減少が起きるどころか、金融取引税の導入以降に銀行預金および信用貸しへのアクセス両方が着実に伸びている。

 

事実、コロンビアやアルゼンチンなど近年導入された取引税の多くについて、金融セクターは大きな影響もなく取引税に適応している。これらの税率が、私達が本報告書で提案している通貨取引開発税(CTDL)の税率と比べて何倍にも及んでいるにもかかわらず、である。徴税されている税率は0.2~0.8%(20~80ベーシスポイント)で、毎年多額の税収を生み出している。徴税費用は非常に低く、脱税の問題もほとんどない。さらに、これらの税の徴税は、主に電子的な手段を用いて最小限の費用で、政府に代わって銀行を通して行われている。税収は国や時期によって、GDPの0.3%~3.5%、または税収総額の1.5%~26.7%の範囲にわたっている[14]

 

要約すると、FTTの主要な要素は以下となる。

 

● どのような形態であれ、金融取引への課税は珍しいものではない。金融取引税は、英国の株式取引に対する税から、ドイツの社債取引に対する税、ペルーの金融取引に対する一般税まで、多岐にわたっている。

● FTTが課税された場合も、金融市場は概して大きな影響を受けることなく適応している。

● FTTは多額の税収を生み出す。

● ほとんどの場合、これらの税は決済の時点において最小限の費用で電子的に徴税され政府の手元に届いている。

● 租税回避、脱税のいずれも深刻な問題とはなっていないことが判明している。

 

この議論から明らかになってくるポイントの一つは、外国為替市場が未だ課税されていないのは異例のことであるという点だ。同市場が世界最大の金融市場であることを考えると、取引決済の時点における適切な徴税メカニズムを設計することができれば多額の税収を創出することが期待できる。税率を適切な低いレベルに設定することで同税は市場の日常の活動に悪影響を与えずに済む。税収は、国際開発などの政府が望む措置を実施するといった目的のために動員することができる。

 

私達は本書において、各国に対し、一国・一地域単独で非常に少額の税を通貨取引に課税し、既存の電子決済システムを利用して徴税することを提案する。

 

私達が提案する通貨取引開発税

 

私達の提案は、それが世界のどこで行われようと、特定の通貨での外国為替取引が0.005%の課税対象となるというものである。過去20年間、外国為替取引の決済方法は大きな変化を遂げてきた。この変化は、国内では即時グロス決済(RTGS)システムの使用、国際的には多通貨同時決済(CLS)銀行の使用によってもたらされた。(「BOX2:国際支払と決済システム」参照。)

 

このため、各国の中央銀行は、制度的に重要な各国ベースの決済システムが効果的に機能することを保証する責任を負っているが、各国はこの意味で孤立しているわけではない。むしろ、相互に連結した(そして相互に依存した)中央銀行および国内決済システムの世界的ネットワークの中で機能しており、CLS銀行などの国境を越えた決済システムを協力して管理している。

 

これらの発展により、現在CTDLを一国・一地域単独で実施することが可能となったのである。同分野研究の第一人者であるロドニー・シュミット(Rodney Schmidt)教授は、この問題について2000年に次のように述べている。

 

「…外国為替取引決済のためのインフラはますます形式化、中央集権化され、規制されるようになっている。これは規模に関する収穫の増加および、決済リスクを減らすためのトレーディングバンク・中央銀行間の協力を可能にするための新技術によるものである。外国為替取引の決済には、2度の支払(取引された各通貨における支払)が発生する。決済リスクは、支払義務が当該の原取引に結び付けられその原取引までさかのぼり、双方の支払が同時に行われることで解消される。現在ではこの業務に対処するための技術と制度が配備されている。これにより、取引を規定するのに使用される金融商品の種類や取引の当事者の所在地にかかわらず、外国為替の支払総額を特定し課税することが可能となった。」[15]

 

BOX1 ノルウェーにおける決済システムの重要性と中央銀行の役割

「決済システムは、国の重要な経済、金融インフラの一部である。円滑に機能する支払システムにより、物品やサービスの購入、資本移転、有価証券や外国為替の取引の決済にあたり、安全かつ時宜を得た支払取引を実行することが可能となる…これらの取引は民間の顧客、銀行、および政府機関により行われる。これらの取引により、支払人の銀行・受取人の銀行間における請求が発生する。これらの請求はノルウェー銀行に設置された各銀行の口座を通して決済される。このため、各銀行および中央銀行は支払システムの中核を担うものである。」[16]

 

BOX2 国際支払および決済システム

過去20年間で、支払業務および決済システムは世界的に大きく変化した。監督当局が決済リスクを減らし制度的効率を上げようと努めた結果、時点ネット決済(DNS)システムは即時グロス決済(RTGS)システムに取って代わられた。RTGSは、PVP決済(決済時に異なる2通貨の支払いを同時に行う)およびDVP決済(証券の引渡しと代金の支払いを同時に行う)を使用するため、少なくとも国内では、決済リスクが効果的に解消される。大まかに言うと、非正統的な形式が、ITの進歩により、一般に使用される技術的プラットフォームに基づいたより均質な方法に徐々に取って代わられることで、均一性が広がった。これにより、効率性が高まり費用が大幅に削減されたのである。先進国の主な大口支払システム(LVPS)はますます相互依存度が高まっている。これらのシステムは共通の技術的インフラに依存している。これらの技術的インフラは、この相互依存関係が円滑、効果的に機能することを保証しているのである。

 

国際銀行間通信協会(SWIFT)が他に先駆けて実施したメッセージ機能は、このプロセスの中心となっている。これは、規模の経済を考慮すると、すべての世界的な市場参加者が同じシステムを利用するのが理にかなうようになってきたからである。金融業界が所有するSWIFTは、現在206カ国・地域において8,000以上の金融機関にメッセージサービスを提供している。このためSWIFTは、国内および国際的に、金融インフラの重要な一部となっているのである。ノルウェー銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行が各自SWIFTの活動を監督しているわけではないが、これらの銀行は、国際決済銀行におけるG10グループが提供する援助の下で実施されている、ベルギー中央銀行による監督を支援している。[17]

 

本報告書の目的のためには、通貨決済がどのように行われるか理解することが重要である。たとえば英国では、CHAPS(Clearing House Automated Payment System、英国のコンピュータ決済システム)がこの点において主要な機構となる。英国ではこのCHAPSという機関を通してほとんどの大口の支払が処理される。CHAPSではRTGSシステムが採用されている。ポンドの通貨取引はCHAPSと多通貨同時決済(CLS)銀行のいずれかを通して決済されているのである。

 

ノルウェーのこれに相当する機関はノルウェー銀行(ノルウェーの中央銀行)独自の決済システムであるNBOである。ノルウェー銀行はこの他に、DnB NOR Bank ASAおよびノルウェー銀行間決算システム(NICS、Norwegian Interbank Clearing System)という2つの支払・決済システムも公認している。しかしこれらは比較的少額の決済しか行っておらず、また中央銀行の監督下で業務している。

 

大口のユーロ取引の決済については、欧州中央銀行(ECB)がTARGETシステムを運営している。これは、自動決済を可能にするために、ユーロ圏15カ国の各国レベルにおけるRTGSシステムを連結するシステムである。同システムは、共通の手順(特に各国のRTGSシステム間で決済のための支払指図が円滑に移動できることを可能にするメッセージ機能)を提供することを目的としている。

外国為替に関わるユーロ取引のほとんどは、CLSシステムまたはTARGETシステムを通して決済されており、ノルウェー クローネの場合はNBOまたはCLSを通して決済されている。

 

国際的には、越境の外国為替におけるヘルシュタット[18]リスク―世界金融セクターにおいて最後まで残っていた決済リスクの産物―の問題もまた、CLS銀行を開始することにより取り組まれた。つまりCLS銀行を通して、異なるタイムゾーンでの外国為替取引もPVP決済を用いて行われることが可能になったのである。国内の大口支払システム(LVPS)と同様、CLS銀行の開始により決済リスクは事実上解消されたことになる。

 

CTDLが効果的であるためには、同税は以下の特性を備えている必要がある。

●既存の市場インフラおよびネットワークを利用して、比較的容易かつ安価に実施することができる。

●特定の通貨で世界的に行われる取引の大部分に課税することができる。

●市場をゆがめないよう、また金融機関がCTDLの納税回避のために現在のシステム外に逃げるインセンティブを与えないよう、税率が十分に控えめなレベルに抑えられている。

 

以下に、このようなCTDLがどのように機能するかの詳細を、イギリスポンドとノルウェークローネの例を使って解説する。また、このCTDL案がこれら3つの条件をどのように満たしているかを説明する。

 

CTDLの実施

 

2002年のCLS銀行の開始以来、同システムへ移行した外国為替取引の割合は増え続けた。現代、世界で行われているすべてのポンド、クローネおよびユーロ取引のうち60%強が、CLSシステムを通して実施されている[19]。残りの取引のうち、圧倒的多数がそれぞれ英国のCHAPS、ノルウェー銀行のNBO、および欧州中央銀行のTARGETシステムを通して処理されている。このため、これらの特定通貨専用のシステムは、CLSの加盟銀行に直接連結しており、この連結を通して他の主要なRTGSシステムともつながっているのである。

 

このため、CTDLが効果的であるためには、同税はいくつかのレベルで実施されなければならない。このうち最も簡単な方法はCLS銀行を通して実施することである。上述したように、すべてのポンド、クローネ、ユーロ取引の60%以上がCLSシステムで決済されている。CLSシステムにおいてこれらの取引を特定するのは容易である。たとえば、英国家財政委員会はこの点が妥当であることを認めている。その理由は、この方法が実際に容易であるからである。また、英国が同税を実施することになれば、CLS銀行にも遵守してもらう必要があるから、というのが主な理由である。

 

英国家財政委員会は次のように述べている。

「技術的に言えば、CLSを通して通貨取引税(CTT)を一国・一地域単独で課税することは可能である…CLS銀行は15の通貨で決済しており、このため同銀行は各管轄区域の関連法に従わなければならない。この関連法にはたとえば、一国・一地域単独で実施される通貨取引税も含まれる。」[20]

 

ポンド、クローネ、ユーロの外国為替取引すべての60%以上に課税できたとしても、CTDLは残る取引の課税にも取り組まなければならない。(上述したように、この「残り」の占める割合は今後数年のうちに非常に低くなると考えられるが。)この点で間違いなく最も重要な位置を占める機関は、LVPSであろう。具体的には、各3地域におけるCHAPS、NBOおよびTARGETである。ここでは、LVPS分野の発展が、効果的なCTDL実施の実現可能性へのカギをにぎっている。

 

実際にCTDLはどのように徴税されるのか?

 

たとえばノルウェーで、ノルウェーの銀行1(以下N銀行1)がノルウェーの銀行2(以下N銀行2)からノルウェーの金融資産を購入したいと考えたとする。売却価格が合意されると、N銀行1は、ノルウェー銀行にある自行の決済口座からその価格分を引き落とし、N銀行2の決済口座にその金額を振り込むよう指示するSWIFTNetメッセージを関連LVPSに送信する。これと同時に、N銀行2は当該資産の所有権をN銀行1に移行するよう要請するSWIFTメッセージを送信する。SWIFTはこの2つのメッセージを適合させ、両銀行に確認を求めその確認を受け取った後、クローネの金額と資産の所有権をそれぞれ移行する。この場合、取引は両サイドともクローネで行われるため、CTDLの対象とはならない国内取引となる[21]

 

しかし国際的な取引では、状況は少々異なる。N銀行1がクローネで米ドルを購入しようと考えたとしよう。N銀行1は米国銀行1(以下米銀行1)に(いくつかの可能な経路のうちの一つを通して)売買を提案し、提案が受け入れられたとする。上記の国内取引の例と同様、N銀行1はしかるべき額のクローネをノルウェー銀行にある自行の決済口座から引き落とし、中央銀行にあるN銀行2の口座にその金額を振り込むよう要請するSWIFTメッセージをLVPSに送信する。(ここでは、標準的な国際銀行業務の慣行を反映し、米銀行1がエスクロー勘定としてN銀行1の口座に保有クローネを保持していると想定する。)これと同時に、米銀行1はしかるべき額のドルを自行の残高から米国銀行2(以下米銀行2)の口座へ振り込むよう要請するメッセージを自国のLVPSに送信する。(ここでも、N銀行1が米銀行2の口座に保有ドルを保持していると想定する。)

 

ノルウェーでは、SWIFTはN銀行1にこの取引を確認するよう要請する。SWIFTはN銀行1からの確認を受けると、ノルウェー銀行にあるN銀行1の口座から当該金額を引き落とし、N銀行2にこの額を振込む。しかし国内取引と異なり、SWIFTはこのN銀行1のメッセージともう一つのクローネをベースとした取引のメッセージを、システム内で適合することができない。このため、国内のPVP決済プロセスでは双方の取引を適合させ決済リスクを解消する必要があるが、国際的な外国為替取引ではNBOなどの国内のシステムにおいてPVP決済を行うことができない。これは、国際外国為替取引では双方の取引が、(多くの場合異なるタイムゾーンで運営される)異なる各国内のLVPSで行われるからである。このようにクローネでの取引の一対が適合できないことにより、この取引が外国為替取引であると特定され、この取引はCTDL課税の対象となるのである。

 

このような方法で、CLSシステムおよびNBOを通して世界的に行われるクローネ取引の圧倒的多数が特定されるため、CTDLはノルウェー一国単独で実施することが可能となる。上記の定型化された例が示すように、この方法は国内のLVPSにおけるPVP決済システム、およびCLS銀行が用いているPVP決済方式に基づいている。しかし、このプロセスを円滑化し可能とする「潤滑油」の役割を果たすのは、金融セクターにおいて標準化され広く使用されているメッセージフォーマットである。

 

外国為替取引が決済できるさまざまな連結システムの重要な特色は、これらがSWIFTNetのメッセージシステムを使用しているという点である。重要なことに、SWIFTは過去においても現在においても、FXallなどの主要な外国為替の電子取引プラットフォーム、および主要な外国為替のバイラテラルネッティング(2者間で行われる相殺決済)、マルチラテラルネッティングの世界的システムにも、メッセージサービスを提供している。このようなSWIFT使用の世界的な広がりによって、CTDLの適用範囲をさらに拡大し、CHAPSにおけるポンド、NBOにおけるクローネ、TARGETにおけるユーロのすべての外国為替関連取引を確実に特定することができる可能性がある。

 

SWIFTが運用される各システムにおいて、SWIFTNetは自社のFINシステムを通して加盟金融機関間の安全な支払メッセージサービスを提供している。さらに重要なことに、SWIFTは個々の外国為替取引の確認に使用される専用のメッセージ様式(MT300)を持っている。このため、CLSシステムにおいてであろうと、CHAPS、NBO、TARGET、FXall、またはマルチラテラルネッティングシステムにおいてであろうと、外国為替取引はFIN MT300メッセージまたはその変形を用いて取引先企業間で確認されることになる。

 

MT300メッセージはまず外国為替契約に合意した当事者らにより、または当事者らを代行して交信される。MT300メッセージは、契約の修正および、以前に行われた確認の取り消しも扱っている。これは、本CTDL提案において重要なポイントとなる。というのも、この機能があることによって、CTDLがポンド、クローネ、またはユーロの最終的な外国為替取引にのみ課税されることが保証できるからである。また、MT300は個々の外国為替取引の確認を行うものであるため、各取引に続くかもしれないバイラテラルネッティングのプロセスに先行して確認が行われる。バイラテラルネッティングのプロセスが行われた後では、関連する個々の取引を特定することができなくなる可能性があるため、これも重要な点である。

 

各MT300メッセージでは、いくつかの項目が入力されなければならない。外国為替取引の場合、この必要項目には、当該通貨と売買される金額が含まれる。MT300メッセージの必須項目(Mandatory Subsequence)セクションの中でこれらに該当する部分は、購入した通貨と金額についてはB1(Tag 32b)、売却した通貨と金額についてはB2(Tag 33b)である。したがって、ポンド、クローネ、またはユーロ取引を特定するのに必要な情報はすべて揃っていることになる。専用のインフラは必要ないというわけである。

 

このためMT300のメッセージシステムは、「従来の」外国為替市場におけるポンド、クローネ、またはユーロ取引の大部分を掌握することができる。しかし、その他にまだOTC(店頭)デリバティブ市場の分野が残る。しかし重要な点として、この市場もまたMT300系のメッセージにより扱われるのである。これらのメッセージは、外国為替操作が実行されたことを確認するために使われる。この場合のメッセージフォーマットとしては、MT305およびMT306が使用される。その他すべての外国為替のOTCデリバティブ契約は、SWIFTスタンダードのメッセージフォーマットの3つめのカテゴリとなる、MT300~MT341、およびMT350~MT399のフォーマットを用いて扱われる。従来の市場の場合と同様、これらのメッセージ内には通貨、金額、取引先企業が入力される必要があり、また契約を修正、取り消しできる機能も必要とされる。

 

続いてCTDL実施に必要となる「配管工事」としては、CTDLを徴税するためにこの様式で送信される関連メッセージを中枢部に集める必要がある。しかしここでも、既存のネットワークに便乗して、SWIFTNet FIN Copyというコピーメッセージ機能を利用することが可能である。SWIFT FIN Copyメッセージは、中央集権化されたRTGSシステムでの決済を促すものであるため、同メッセージの受取人のほとんどは中央銀行である。この目的に最も適したテンプレートはFINInformであろう。というのも、これは当事者の身元または送信されたメッセージの種類に応じてメッセージのコピーが中央銀行に送信されるものだからである。

 

このため、従来の市場およびOTCデリバティブ市場におけるMT300~MT399の外国為替メッセージ送信をトリガー(プログラムに特定動作を起こさせる入力)とする、SWIFTInformメッセージサービスを確立することが、本CTDL案の重要なポイントとなる。この場合、たとえばポンドに関わるすべての外国為替取引について、メッセージの一部のコピー(通貨、金額、取引先企業)が自動的に、イングランド銀行に送信されるようにする。本提案のすべての側面同様、このプロセスはすべて自動化され、また専用のインフラを必要としない。次に、集められた情報を元にCTDLがどのように徴税されるかについて解説する。

 

下図は、ポンド取引を例として、CTDLが既存の決済インフラを利用して実際どのように実施されるかを示したものである。

 

 

 

 

 

 

図2 世界的なポンド支払・決済システム

 

 

図3 ポンド印紙税が採用された場合の世界的なポンド支払・決済システム

 

CTDLの徴税と租税回避の予防

 

上述した方法で課税対象を特定した後は、CTDLの徴税は比較的単純なプロセスである。CLSシステムに参加するためには、金融機関はCLS銀行に口座を開設している必要がある。しかし実際には、英国に拠点を置くCLS銀行加盟機関はイングランド銀行に、ノルウェーに拠点を置く加盟機関はノルウェー銀行に、ユーロ圏の加盟機関はそれぞれの中央銀行に口座を設けている。これにより、CLS銀行はCLS銀行に対する流動資産要件に従ってこれらの口座からの出金、これらの口座への入金を行うことができる。このためCLSシステムにおいてCTDLを課税するには、これら当該口座から直接徴税すればよい。

 

これと同様に、CHAPS、NBOまたはユーロ圏のRTGSシステムに参加するには、金融機関はそれぞれの中央銀行に決済口座を開設している必要がある。このため、支払われるべき税が特定されRTGS加盟機関までたどることができれば、中央銀行に設けられた当該の決済口座から、こちらも中央銀行に設けられた財務省の口座に、税金分の金額を移せばよいのである。

 

全般にSWIFTメッセージシステムは、(そして特にFINInformのコピーメッセージ機能は、)日常ベースで完全に自動化されている。このため、税の特定と中央銀行にある当該口座からの徴税を促進するため関連システムに若干手を加える必要はあるものの、変更は比較的少なくて済む。さらに、始動のための固定費用が賄えれば、システムの運営にかかる限界費用は非常に少ない。

 

CLSシステムおよび各国レベルのLVPSに直接加盟している機関の数は比較的少ない。これは、これらの加盟機関が第三者である顧客を代行して取引全体のかなりの割合を実行しているからである。こういった市場参加者は、直接課税されはしないが、CTDLの影響を受ける。つまりCLS銀行、CHAPS、NBO、またはその他のRTGS加盟機関が外国為替業務の実行と引き換えにこれらの市場参加者に請求する手数料に、CTDLが直接反映されるのである。

 

残るポンド、クローネ、またはユーロの取引(たとえば企業によるもの)もまた、上述したSWIFTNetメッセージサービスを使用するため、特定することができる。さらに、これらの取引は取引を行う企業を代行して取引先銀行が決済する。これらの取引先銀行は、各自の中央銀行またはCLS銀行、もしくはその両方に口座を設置している。この結果、最終的にはこれらの外国為替取引にもCTDLが課税されることになる。

 

運営費

 

SWIFTメッセージの費用は平均で各メッセージ約0.067ポンド(0.82クローネ、0.1ユーロ)である。CLS銀行は1日に20万件の取引を決済している。これはすべての外国為替取引の半数以上である。このため外国為替市場全体を掌握するには、1日40万メッセージが必要となる。下の表では、現在議論している3つの通貨について、SWIFTコピーメッセージ送信を実施するのに必要な費用の見積もりをいくつか示している[22]

 

表1 SWIFTコピーメッセージの実施に関わる費用見積もり

 

ここまで(a)外国為替取引の特定(b)CTDLの徴税の2点に関する実現可能性を立証してきたが、最後に残る問題はどのようなレベルの税率を設定するのが適切か、という点である。ここでの目的は、税収自体を最大まで増やすことではなく、ミレニアム開発目標(MDG)達成のための資金を提供するのに十分な税収を得ることと市場のゆがみを避けることをうまく両立させることである。

 

2004年に、ポンド、クローネ、ユーロ取引は、世界の外国為替取引全体(総額で1日平均1兆8800億ドル)のそれぞれ8.5%、0.7%、18.6%を占めていた。つまり3通貨それぞれ、1日合計約1600億ドル、130億ドル、3500億ドルが課税対象となる可能性を秘めていたということになる。

 

下の表は、1年に260取引日があると想定した場合の、異なるCTDL税率における年間税収額の試算を示したものである[23]

 

 

 

 

 

表2 さまざまな税率における年間税収額の試算

 

上記から分かるように、仮に税率1%で課税した場合、何千(または何百)億ドルもの税収を上げることができる可能性がある。しかし、CTDLをこのレベルに設定すると、確実に市場をゆがめる結果を招き、取引高が劇的に減少することになる。0.1%のレベルでも、理論的には相当な額の年間税収が可能となる。しかし、標準的なスプレッド(買値と売値の差)はこのレベルより低いため、この10ベーシスポイント(bp)の税率でも市場にかなり大きな影響を及ぼすだろう。特に、この税率では同税が取引の阻害要因となり、取引高が落ちる結果となる可能性があり、その場合減少した取引高に応じて税収も減少することになる。

 

より現実的なCTDLの税率は0.01%(1ベーシスポイント)であろう。この場合、ポンド、クローネ、ユーロ取引からの年間の税収はそれぞれ41.5億ドル、3.4億ドル、90.9億ドルとなる。1ベーシスポイントのCTDLなら、それぞれの通貨市場に大きな混乱を招かないと考えられるが、私達はこの税率は提案していない。本提案では、CTDLを0.005%(0.5ベーシスポイント)に設定している。この低い税率ならば、同税が市場をゆがめると反論するのは非常に難しいだろう。しかし、それでも同税は相当額の税収を生み出すことになる。

 

以上のことから私達は、控えめな条件に基づき、英国の場合は20.8億ドル、ノルウェーの場合1億7000万ドル、ユーロ圏の場合45.5億ドルのCTDL税収が得られると見積っている。もちろん、これはCTDLの実施が取引高に影響を与えないことを前提としている。税率レベルが非常に低いことから、これは不合理な前提ではない。しかし、用心のため、通貨の取引高が2.5%減少すると想定しよう。すると年間の税収は英国の場合20.3億ドル、ノルウェーの場合1億6700万ドル、ユーロ圏の場合44.3億ドルとなる。この2.5%という数字は、国連の依頼により作成された通貨取引税による税収の可能性に関する報告書に基づいている(Nissanke、2003)[24][25]

 

CTDLを徴税する法定権力を持つ政府機関は、他の税と同様、各税務当局である。しかし、課税対象の資金が中央銀行の口座に置かれていることから、徴税のシステムは非常に単純化できる。たとえば英国では、CHAPSシステムを通して税金を支払うことはすでに可能となっている。このことから分かるように、最も簡単な徴税方法は、税務当局の専用CHAPS口座に税金が直接支払われるという方法である。この口座はイングランド銀行に開設される。他の通貨についても同等の措置が取られるとよいだろう。

 

ここまでの議論すべてにおいて、私達は潜在的に徴税できる税収の見積もりを出す際、非常に控え目な数字を選んできた。つまり、従来の市場にのみ焦点を当て、OTCデリバティブ市場を無視してきた。OTCデリバティブ市場では、従来の市場より多い1日2兆3170億ドル相当の通貨が取引されている。すでに述べたように、このOTCデリバティブ市場で税を実施することは、従来の市場で実施するのと複雑さの点で差異はない。このため、従来の取引およびOTC取引における特定の通貨取引の割合がおおよそ同様であると想定した場合、ポンド、クローネ、ユーロ取引に0.005%課税した場合の実際の潜在的税収は、ここまでに私達が計算した金額の2倍以上となる。

 

経済的な影響範囲

 

CTDLの「経済的な影響範囲」はまず第一に、CLS銀行およびNBOやCHAPSのようなRTGSシステムに加盟する大規模金融機関に及ぶ。これらは主に国際銀行および最大級の国内銀行である。CTDLの影響がここまでに達するだけなら、次ページの表3および表4が示すように、主要な国際銀行はこのコストを容易に吸収できるに違いない。

 

大規模な国際銀行は世界的な外国為替市場を独占している。各通貨地域の大規模な国内金融機関とともに、これらの国際銀行はポンド、クローネ、ユーロを含むすべての通貨に関して、外国為替市場の大部分を占めている。これらの銀行による取引は突き詰めれば、これらの銀行が幅広い顧客から請け負っているものである。たとえば、CLS銀行では毎日20万件の異なる取引が決済されていると見積もられている。この数字から、世界的な外国為替市場における最終的な市場参加者数の規模をある程度想像することができるだろう。

 

ここで、ポンドに対するCTDLの対象者、また同税が企業に与える影響を手短に検討してみたい。これまで見てきたように、CLS銀行は1日平均20万件の外国為替取引を処理している。世界規模の状況と一致させる形で、20万件のうち取引の一方がポンドである割合が17.5%だと想定する。すると、CLS銀行におけるポンド取引は1日3万4000件と計算できる。

 

表3 主要国際銀行の収益(2005年)[26]

銀行 2005年収益
シティグループ 250億ドル
HSBC 160億ドル
UBS 110億ドル
JPモルガン・チェース 80億ドル
バークレイズ 70億ドル
ゴールドマン・サックス 60億ドル
ABNアムロ 50億ドル
メリルリンチ 50億ドル
モルガン・スタンレー 50億ドル
ドイツ銀行 40億ドル

 

表4 ノルウェーの主要銀行の収益(2005年)[27]

 

銀行 2005年収益
Nordea 40億ドル
DnB NOR 20億ドル
Handelsbanken 20億ドル
Skandinaviska 10億ドル

 

しかし、CLS銀行はすべての外国為替取引の約半分しか決済していないため、世界的に実行されているポンド取引の件数は6万8000件ということになる。このため一年間では、合計1770万件のポンド取引が行われていると見積もることができる。CTDLの影響は、この1770万件の取引を実行している何万人もの市場参加者に、非常に広く国際的に分散されることになる。取引毎の費用は約117ドルで、取引の規模は平均200万ドル強である。

 

しかし企業の場合、状況は明らかに異なる。たとえば、英国は年間約3800億ドル相当の物品、サービスを輸出している。1990~2002年における英国の会社の利益幅に基づくと、平均利益幅は10%と想定される[28]。3800億ドルの10%は380億ドルであるため、これを英国の輸出分野における大体の年間収益と見積もることとする。英国企業に対するCTDLは約1億1500万ドルである。この結果、英国の輸出業者への影響としては年間収益のたった0.3%ということになる。これは企業の収益性に影響を与える他の多くの要素に比べて非常に小さな割合である。たとえば、過去10年間で、英国の企業の平均収益性は年間最大10%も変動している。このため一般的な業況の変化、金利やポンド為替レートなどの指標の変動と比べれば、0.005%のCTDLが識別可能な影響をほとんど与えないことは明らかである。これはユーロおよびクローネに対するCTDLの影響についても言えることである。

 

これらを検討した結果、私達はCTDLが生む負担のうち少なくとも半分が、最終的には若干広めに設定されたスプレッドとして銀行から世界の顧客に回されると予測している。このためCTDLの影響は、世界の金融システム全体に広く分散することになり、一機関に偏って負担がかかることはない。

 

結論

 

この章では、国際支払・決済システムの発展が、共通の技術的システム、通信システムにより円滑化されつつ、相互に関連する世界的ネットワークを作り上げてきた過程を見てきた。まさにこの相互に依存したネットワークの発展によって、現在どの通貨に対しても一国・一地域単独でCTDLを実施することが可能となったのである。市場のゆがみを生み出すのを避けるために、本提案では特定の通貨によるすべての外国為替取引に0.005%の税率を課税することを提案している。またこの章では、CTDLを効率的に特定し徴税するメカニズムを論証してきた。

 

私達は、各国・各地域単独でのCTDL実施を通して創出できる年間の税収を、非常に控え目な計算に基づいて提示した。具体的には、英国では20.8億ドル、ノルウェーでは1億7000万ドル、ユーロ圏では45.5億ドルである。この税収を同システムの運営費用見積もりと比較すると、管理費および徴税費用は極小であり、国際開発目的に使用できる額が最大限確保されることは明らかである。

 

最後に私達は、CTDLの影響を受ける金融機関にとって、その影響は(国内においても海外においても)金融システム全体に広く分散し、たとえば英国では、最終的には平均200万ドルの外国為替取引に対してたった117ドルの負担となることを示した。

 

企業の輸出分野について言うと、たとえば英国では、平均的な年間利益幅10%に対して0.3%という、上記同様に控え目な負担となることを示した。これらの金融セクターおよび非金融民間セクターは明らかに、本提案で設定した税率のCTDLによる影響を、容易に吸収することができるだろう。これは、他の国・地域の当該機関に関しても言えることである。

 

 

 

第3章 異議に対する反論

 

この章ではまず、通貨取引への課税案に対する最も一般的な批判を2つ挙げる。次に、CTDLがトービン税とは全く異なるものである理由を説明し、その後最も広く議論されている争点に関しての反論を述べる。

 

2つの典型的な「租税回避」批判

 

● すべての国がCTTを同時に実施しない限り、CTTの支払いを回避するために通貨取引は他の取引へ移転される。(このいわゆる多国間実施という議論はCTTの推進を阻むために何年も使われてきたことから、この問題を最初に扱うことが重要である。)

 

● 取引の移転によりCTTが回避できないとしても、同税の支払いを回避するために、改造された、または新たに作られた外国為替商品が使用されるようになる。

 

本CTDL案は、これらの障害および旧来の論点を主に次の2つの理由から克服することができる。

 

CTDLはある国が自国の通貨に対して課税するものである。これは自国で取引されるすべての通貨への課税とは違い、世界中で取引される自国の通貨に課税するものである。この違いが非常に重要である。特にこの違いによって、一国による単独実施または志を同じくする国のグループによる実施が可能となるため、この違いは実現可能性の面で重要なカギとなる。このような実施がうまくいくのは、(前章のBOX1にあるノルウェー銀行速報に示されるように)通貨がタックスヘイブン(租税回避地)を含む世界のどこで取引されようと、その国の中央銀行が自国の通貨取引の中心的役割を果たしているからである。CTDLの支払いは他のすべての税と同様、法律上の義務である。この支払いを回避しようとすれば、その金融機関は自社の世評を危険にさらすことになる。非常に少額の税を回避するためにこのようなリスクを冒すことは理にかなった行為ではない。(これについては以下に詳述する。)

 

本CTDL案で提案している税率は、もともとのCTT提案の200分の1である。これが長年CTTに抵抗してきた旧来の懸念の多くを覆す数々の結果を生む重要な要素であることは明らかであろう。提案している0.005%という税率は非常に低く、通常の市場の機能に影響を与えることはない。同様に、これは租税回避のために手の込んだ対策を取るに値しない税率である。以下に示すように、この税率では、租税回避により金融機関が得られる利益よりも損失の方が上回ってしまう。0.005%のCTDLを回避するのは基本的に不経済なのである。

 

CTDLはトービン税ではない

 

ジェームズ・トービンが1970年代に提唱したもともとの考えは、外国為替市場で働く動機を、課税によって変化させるというものであった。トービンが提唱した税の目的は、日々の通貨取引を妨げ[29] 投機的活動を阻止することであった。同氏がこの提案を行った時代の通貨市場の売買高は1日180億ドルであった。これに対し、現在の売買高は1日2兆ドル弱である。またトービンが提案した税率は本提案で設定した0.005%の200倍に当たる1%であった。さらに、税収はたとえば開発などの特定の目的に使用するよう指定されていなかった。

 

CTDLはこれとは全く異なる。CTDLのレゾンデートル(存在理由)は開発のための資金調達手段を提供することである。その税率は、通常の市場の働きを妨害しないようにしつつ、取引される売上高のほんの上澄みをすくい取るために設定されている。この2つの提案に共通する要素は、両税とも通貨に関わる税であるということだけである。このためCTDLは、異なる時代に生まれ、異なる税率を持ち、異なる目的のために設計されたという意味で、トービン税とは根本的に違うものである。

 

旧来の争点

 

金融市場の参加者は、新たな外国為替商品を創り出すことにより、またはオフショアのタックスヘイブンや他の課税対象外の管轄区に通貨取引を移転することにより、CTDLを回避するか?

 

批評家の意見に反し、(通貨取引が行われる司法管轄区に課税される税に対し)通貨に課税されるCTDLを回避するインセンティブは非常にわずかである。CTDL(もしくはどのような税でも)を回避するインセンティブの有無は税率レベルによるところが大きい。銀行および他の金融機関は、租税回避の潜在的コスト(罰金、資格の一時停止、世評に関するリスク、実際に新たな法人組織や商品を通して租税回避するための技術的コスト)と遵守した場合のコスト(利益総額のほんのわずかな一部分または顧客に請求するコストの微増額)を比較検討する。0.005%という非常に低い税率では、回避する場合のコストが遵守する場合のコストを大きく上回ることが予測されるため、同税を回避するインセンティブは非常に低いと考えられる。

 

新たな商品を使いCTDLを回避する余地も非常に限られている。本提案で私達は、取引の種類や継続期間にかかわらずすべての取引に課税することを提案している。各外国為替商品はそれぞれ独自の機能を持っており、課税対象外の完璧な代替品を見つけることは難しいため、変わり種の金融商品を使う余地は非常に少ない。たとえCTDLを回避するために独創的な手段が取られたとしても、各国の課税体制は固定的なわけではない。たとえば所得税などの徴税は、納税者がなるべく支払う税を少なくしようと常に努力する一方で税務当局はなるべく多くの税を徴税しようとする、いわば「いたちごっこ」である。税法を回避しようとする行為は市場での展開を監視する当局の反撃に合う。また、市場の性質上、租税回避は技術的に難しくなっている。現在では外国為替取引を電子的に追跡できるようになっているからである。さらに、支払システムは金融の安定に非常に重要であるため、租税回避のためであれ他の理由であれ、金融機関が支払システムの使用を避けるのを監視機関が許すとは考えられない。つまり必要とされているのは、CTDLを実施する政治的意思、また確実な支払いを保証し租税回避を罰するために必要な法的執行のシステムを提供する政治的意思である。

 

取引の移転により同税を回避する余地もまた、わずかである。それは、私達の提案ではCTDLは特定の司法管轄区ではなく特定の通貨に課税されるものだからである。つまり、一旦ある国が同税を実施すれば、その通貨に関わる外国為替取引は世界のどこで行われようと課税される。国際決済システムは、最終的には特定通貨の国の中央銀行に頼っているため、取引が行われる場所にかかわらず、同税を徴収することができる。

 

以前はCTDLを一国・一地域単独で実施できなかったかもしれないが、今ではそれが可能である。歴史的に見ると、世界的な外国為替市場は(お互いにほとんどまたは全くつながりのない)異なる要素の寄せ集めであった。取引は取引先同士で電話を通して手動で行われ、互いにほとんどつながりのないさまざまなシステムで決済されていた。現在では、世界的な外国為替市場の各要素は共通の技術的プラットフォーム上に構築され、共通の電子メッセージ供給業者が使用され、共通のシステムを通して電子的に取引が行われている。そしてこれらすべてのシステムは、各監視機関により厳密に管理監督されている。

 

経済的影響:誰がCTDLを支払うのか?影響範囲はどこまで広がるのか?同税の実施により市場の活動は変わるのか?

 

外国為替市場は、比較的少数の大規模な国際銀行が独占している。最初にCTDLの「経済的な影響範囲」に入るのは、CLS銀行および即時グロス決済(RTGS)システムに参加しているこれらの大規模な金融機関である。これらの金融機関が得ている収益の規模から見れば、これらの機関は同税をたやすく吸収できるだろう。しかし、これらの機関はスプレッドを若干広げることにより、できる限りこのコストを広範な顧客に回そうとするだろう。CLS銀行は、毎日平均20万件の取引(世界合計の約半分)を決済していると見積もっている。この数字から、世界的な外国為替市場における最終的な市場参加者数の規模をある程度想像することができるだろう。このためCTDLの影響は、世界の金融システム全体に広く分散することになり、一機関にかかる負担は最小限に抑えられる。

 

この点をさらに強調するため、ここでポンドに対する0.005%のCTDLの例を使って説明したい。上述したように、CLS銀行は1日平均20万件の外国為替取引を処理している。世界規模の状況と一致させる形で、20万件のうち取引の一方がポンドである割合が17.5%だと想定する。すると、CLS銀行におけるポンド取引は1日3万4000件と計算できる。しかし、CLS銀行はすべての外国為替取引の約半分しか決済していないため、世界的に実行されているポンド取引の件数は6万8000件ということになる。このため一年間では、合計1770万件のポンド取引が何万人もの市場参加者により行われていると見積もることができる。この1770万件の最終的な取引を見ると、取引毎の費用は約117ドルで、取引の規模は平均200万ドル強である。

 

しかし企業の場合、状況は明らかに異なる。英国は年間約3800億ドル相当の物品、サービスを輸出している。1990~2002年における英国の会社の利益幅に基づくと、平均利益幅は10%と想定される[30]。3800億ドルの10%は380億ドルであるため、これを英国の輸出分野における大体の年間収益と見積もることとする。英国企業に対するCTDLは約1億1500万ドルである。この結果、英国の輸出業者への影響としては年間収益のたった0.3%ということになる。これは企業の収益性に影響を与える他の多くの要素に比べて非常に小さな割合である。たとえば、過去10年間で、英国の企業の平均収益性は年間最大10%も変動している。このため一般的な業況の変化、金利やポンド為替レートなどの指標の変動と比べれば、0.005%のCTDLが識別可能な影響をほとんど与えないことは明らかである。

 

0.005%のCTDLを回避するのが基本的に不経済なのはなぜか?金融機関はCLSシステムの利用を止めることによってCTDL回避を試みる価値はあるのではないか?

 

すでに述べたように、CLS銀行設立の主な理由は、国境を越えた外国為替取引における決済リスク(ヘルシュタット銀行の崩壊で明らかになったような)を解消することである。この意味で、CLS銀行は著しく成功したといえる。同システムは2002年に開始されて以来、ほぼ完璧に機能している。各主要銀行の日々の取引における合計額を考えると、外国為替市場に関わる主要な国際銀行が一行でも破たんすれば、その破たんは波及効果をもたらし世界中でシステムリスクを生み出し、個々の銀行および、最終的には各国レベル、国際レベルの支払・決済システムに予期せぬ結果をもたらす可能性がある。

 

もしもCTDLの導入によって現在の加盟機関がCLSシステムを離れることになれば(または金融機関が同システムに加盟する意志がくじかれるようであれば)、これは深刻な結果を招くことになる。しかしCTDLが銀行にとってCLSシステムを離れるインセンティブとなるには、CTDLを納税する場合のコストがCLS銀行への加盟がもたらす利益を上回る必要がある(ここでもポンドへの課税を例に説明する)。つまりこれは単純な費用対効果の問題である。ポンドにCTDLが課税される場合、この方程式の両側を比較するとどうなるだろうか。

 

CLS銀行の加盟機関が同システムに加盟する場合、固定費と変動費の両方が関わってくる。固定費では、ITシステムの開発、組織的な実務の構築、同システム上での職務遂行を可能にするためのスタッフ研修にかかるコストがある。変動費では、CLS銀行への参加により、定量化できる大幅な効率向上が得られる。また、最低流動性要件・正味の資金調達額に関係するコスト削減が可能となる。

 

効率向上

 

金融機関がCLS銀行に加盟することによって得られる主な利益は、スタッフの数はそれまでと同じで(またはそれまでより少数で)外国為替の取引量を増やす能力を向上させることができる点だ。この点は、ロンドンに拠点を置くZ/Yen社の研究グループが2004年のデータを元に行った調査の結果により明らかにされている[31]。調査結果によると、銀行間の外国為替の平均売買高が1年で大幅に増加した一方で、同じ期間内に平均人員数は減少している。調査では、CLS銀行への参加によって同システムに加盟した機関は32%の直接的な効率向上を得たとことが実証されている。では、各外国為替取引が(スプレッドという形で)1.5ベーシスポイントの純益を生み出すと想定し(これは妥当な想定である[32])、この効率性向上の効果を見積もってみよう。CLSシステムは毎日2兆ドル相当の取引を処理している。しかし、CLS銀行のデータは、各取引の両サイドのデータを含んでいるため、発表されたこの数字は半分にする必要がある。1日の利潤は1兆ドルの1.5ベーシスポイントであるから、1億5000万ドルと見積もられる。しかし上述したように、CLSシステムで得られる運営上の効率性向上によって、システム参加者は経常的支出を増やすことなく取引の規模を32%増やすことができる。この結果、CLSシステムへの参加により、外国為替取引の利潤を1日1億5000万ドルから1億9800万ドルに増やすことができる。つまり、システム全体としての利益は1日につき4800万ドルの増加となるのである。これを一年に換算すると、この効率性の向上は、CLS銀行参加者にとって124.8億ドルの直接的な利益となるのである[33]

 

流動性・正味の資金調達額に関わるコスト

 

各国内の「RTGS」システムのうち頭文字「G」は、ネット(相殺後の正味額)ではなくグロス(総計)を意味している。CLS銀行の取引もグロス決済の形で行われるが、資金調達は正味額に基づき行われる。この方法によるメリットをCLS銀行は次のように説明している。「決済する加盟機関が取引ごとの総額を資金調達するのではなく、必要な日々の資金調達を多通貨のネットポジション(純持ち高)に基づいて行うことを可能とすることにより、CLSは必要な資金調達額を90%以上削減した。」[34]

 

CLSシステムのこの機能は参加銀行に実質的な金銭的利益をもたらしている。参加銀行が銀行間市場において必要とされる正味の資金調達額のうち、10%を調達する必要があると想定しよう[35]。この10%という数字は、英国の主要な銀行が2000~2003年に経験した資金不足分の平均である。資金不足分は銀行の総預金と総貸付額の差額である[36]。この不足分は外部からの借入(国内または海外)により埋めなければならない。もちろん、国内での貸付における銀行の活動と国際的な外国為替市場における銀行の活動は大きく異なる。しかし、グループとして見た際に、(CLS銀行を通した金融活動において資金調達が必要とされる正味額が90%削減されることによる)流動資産の使用節約は、グループ全体として他の機能にその流動性を利用できるようになることを意味する。この結果、資金不足分が減ることとなり、そのためその銀行の活動を支えるために外部から調達しなければならない資金の額を減らすことができる。この不足分の減額規模は、CLS銀行への加盟により減らすことができる必要な流動資産の額を直接的に反映したものであると想定するのが妥当だろう。

 

CLS銀行の550加盟機関は、CLSシステムを通して1日平均2兆ドル相当の取引を実行している。このためグロス(総計)での資金調達額としては、全体で2兆ドルが決済のために使用可能となっている必要がある。(ネッティング(相殺)を全くしない場合、取引の両サイドの当事者が流動資産として全額を供給しなければならない。このため、上記では半分のデータを使用したが、今回は2兆円が実際の状況を正確に反映した額となる。)しかし必要な正味の資金調達額が90%削減されるとなると、システム内では2000億ドルが使用できればよいため、CLS銀行の参加者は全体で1日1兆8000億ドル分の流動性を節約することができる。平均でこのうちの10%分を外部から資金調達しなければならなかったと想定すると、ここで「節約」できる額は1日1800億ドルとなる。毎日3%のLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)でこの額を一晩借り入れると1年に54億ドルのコストとなる(3%の金利が年率で、1年の取引日が260日であると想定した場合)。この数字、つまり年間54億ドルが、CLS銀行の参加者が同システムへの参加の直接的な結果として得る節約分ということになる。

 

CLS銀行への参加で得られるメリットと、私達の提案するCTDLが与える影響を、定量的に比較する

 

前章では、CTDLが創出できる可能性のある税収を見積もった。ポンドに対するCTDLでは約20億ドル、ユーロでは45億ドル、ノルウェークローネでは約1億7000万ドルであった。以下に、銀行その他の金融機関がCLSシステムに参加することにより得られる潜在的利益を見積もることとする。

 

表5からも分かるように、CLS銀行への参加が生む利益が年間180億ドル弱という中、税率0.005%のCTDLの導入は租税回避のためにCLSシステム参加者が同システムの使用を止めるインセンティブにはなり得ない。実際、そのようなインセンティブとなるには、CTDLは提案された税率よりはるかに高いレベルで課税されなければならないだろう。

 

表5 CLS参加による銀行の利益

 

利益の種類 CLS参加により得られる年間の利益
効率向上 124.8億ドル
正味の資金調達要件が採用されることによる利益 54億ドル
合計 179億ドル

 

さらに、金融機関が(監督責任のある)中央銀行の容認を得られ、自己資本比率基準と反マネーロンダリング関連法規を遵守するためには、CLS銀行を去ることを希望する金融機関は厳密な規制管理を伴う上記の機能を備えた同等のシステムを設置する必要が出てくる。このため、このような許容範囲となる代替システムを通せば、結局CTDLを徴税することが可能となる。

 

金融派生商品を使用すればCTDLは回避できるか?

 

この報告書で説明したCTDLの税収予測は、数値に金融派生商品(デリバティブ)を含んでおらず意図的に控え目に見積もられている。しかし第2章では、デリバティブ取引に同税を課税することも容易であることを明らかにした。事実、私達はCTDLが従来の外国為替市場およびOTC(店頭)外国為替デリバティブ市場の両方に課税されることを想定している。このため、(特に、デリバティブ契約も最終的には従来の外国為替市場で決済されることになるため)取引活動をデリバティブ市場に移してもCTDLを回避することはできない。

 

ただし考えられる例外が一つある。それは「差額決済契約(CFD:contract for difference)」と「ノンデリバラブル・フォワード(NDF:non-deliverable forward)」で、ここでは取引の総額ではなく契約の差額(つまりネットポジション)のみが決済される。しかしそうだとしても、CFDやNDFを販売する金融機関は通常このエクスポージャー(価格変動のリスクにさらされる金融資産)を自らの帳簿に載せておくことを嫌うため、これらの契約に伴うリスクをヘッジしようとする。このヘッジプロセスは、すでにCTDLの範囲となっている外国為替市場内の分野でしか行うことができないため、これらの商品もまた同税の範囲内に入ることになる[37]

 

この点に関連する要素は他にもいくつかある。まず、CLS銀行はそのシステム内でデリバティブ契約を決済する能力を次第に備えてきている。CLS銀行は、NDF契約および外国為替オプション料のためにキャッシュポジション(現金持高:即時換金可能な持ち高)を決済する「端から端まで完全につなぐ」サービスを2007年までに提供開始する。そうなればCTDLの徴税プロセスはさらに単純化できる。

 

他のサービスと同様、デリバティブ契約を決済するCLSの能力が向上すれば、CLSシステム内において大幅なコストの節約が可能となるだろう。これまで見てきたように、金融機関は一旦CLSシステムに参加すると、外国為替業務の多くの割合を同システム内で決済する方が効率的になってくる。これはデリバティブを含む外国為替取引の形態すべてにおいて言えることである。

 

第4章 戦略的にニーズを満たす―CTDL税収の用途

 

私達は早急に資金調達が必要な分野を3つ特定している。この3分野を選んだ理由は、これらの分野で資金調達を実現することが多数の開発目標の達成に大きく寄与するからである。この3つの分野とは、水と公衆衛生の劇的な改善流行病克服のための保健医療人材への投資国連中央緊急対応基金(CERF)への資金供給の緊急増額である。これらはすべて、戦略的に貧困を克服するために必要な構造を築くのに、思いのほか重要な分野となっている。

 

清潔な飲料水および基本的な公衆衛生を提供するための投資

 

「これまでにない豊かさに恵まれた現在の世界において、コップ1杯のきれいな水と適切な公衆衛生が不足しているために毎年200万人の子どもが命を落としている。何百万もの女性と少女達が、水を汲み運ぶために何時間も費やしており、このため彼女らに与えられる機会と選択肢は制限されている。さらに、水系感染症は世界の最も貧しい国々における貧困削減と経済成長を阻止している。」[38]

 

現在、11億人が安全な水にアクセスできない状況で生活しており、26億人が穴を掘った簡易なトイレにさえアクセスのない不衛生な環境で生活している。この最低レベルの必需品にアクセスのない状況を私達は当然のように容認しているが、この状況は世界の最も貧しい地域で見られる非常に高い疾病率と死亡率に直接的に関係している。初歩的な浄水と公衆衛生設備さえない状況のために、毎年180万人以上(うち大部分が児童)が下痢のために命を落としている[39]。2億人以上が身体を衰弱させる水系の病気である住血吸虫症に感染している。コレラやチフスなど他の水系の病気はそれほど流行していないが、死亡率ははるかに高い。

 

すべての統計、個々の症例に関する証言から、開発コミュニティが水と公衆衛生の提供に関する危機に取り組めていないことが分かる。1990年から2004年の間に、浄水にアクセスできない人々の数は、合計11億8700万人からわずか1億1800万人しか減少していない。同様に、改善された公衆衛生にアクセスできない人の数は、1990年の27億1000万人から9800万人減少したに過ぎない[40]。このままの速度では、安全な飲料水と基本的な公衆衛生にアクセスのない人々の数を半分に減らすというMDG目標(目標7)が達成できないのは明らかである。

 

「安全な飲料水と清潔な公衆衛生設備の組み合わせは、保健医療および、貧困、飢え、児童の死亡、男女不平等に対する闘いを成功させるための前提条件である。」[41] 適切な水と公衆衛生設備の提供に関する目標およびコミットメントを達成できずにいることにより、その他のMDG、特に医療(目標6)、教育(目標2)、男女平等(目標3)に関連する目標の進展にも支障をきたしている。また児童の死亡率を削減するという目標4は、安全な水を飲み衛生的な環境に暮らす児童の数が増えない限り、実現できそうにない。教育への普遍的アクセスは、児童が病気のために、または水を汲みに行くのに忙しいために学校に通うことができなければ、達成することはできない。下痢のためだけでも4億4300万日分の授業日が失われている。女性や就学年齢の少女達は遠方に水を汲みに行くために1日平均何時間も費やしているため、これは男女平等に関する進展の支障となっている。

 

きれいな飲料水と基本的な公衆衛生へのアクセスがないために起きている問題の規模の大きさ、深刻さは疑う余地もない。それにもかかわらず、援助供与者の対応は不可解なものである。二国間の援助供与で見ると、水・公衆衛生分野に充てられた資金は金額で1995/1996年の28億ドルから2003/2004年の26億ドルに減少している。また、ODA総額に占める割合で見ても1999/2000年の8%から2003年には6%に減少している。この分野に充てると公約された合計額は、1995/1996年の36億ドルから2001/2002年の31億ドルへと急激に縮小した後、2004年には39億ドルに増額されている[42]。しかしこのような控えめな増額は、この規模の問題に取り組むには全く不十分である。

 

「水と公衆衛生は感染症削減に政府が使用できる最も強力な予防医学の一部といえる。」「この分野に1ドル費やす毎に平均8ドルのコスト回避、生産性向上が得られる。」たとえば、米国で20世紀の最初の約30年間に死亡率が半減したのは浄水によるものである。また英国における公衆衛生の拡大は、1880年以降の40年間に平均寿命が15年も伸びたことに寄与している[43]

 

このため私達は、ノルウェー政府の次の発言に同意する。「給水、衛生設備、衛生状態の改善は、貧困克服の闘いに不可欠である。」[44] 私達は、ノルウェー政府がCTDLの税収をUNDP人間開発報告書2006に概説された水と公衆衛生に関する世界的行動計画の策定と資金供給に率先して充当することを提案する。援助供給分野の中でも非常に重要なこの分野に対する支出を、現在のレベルから倍増することが急務である。CTDLのような長期的で予測可能な資金源の充当により、この分野に対する投資を促進することが可能であるため、このような資金源は医療、教育、男女平等、貧困に関わるMDGに前向きな影響を与える開発利益をもたらすだろう。

 

保健医療人材(HRH)に対する投資

 

「世界的医療において、私達はこれまでにない保健医療人材の危機に直面している。」[45] WHOは、57カ国(そのほとんどは最も重大な危機に瀕しているアジアとアフリカの国々)における不足を埋めるためには、400万人以上の医師、看護師、管理者その他の公衆衛生に携わる就業者が必要であると見積もっている[46]。また、人材と資金が不足しているということは、現在の労働者が過度の仕事を抱え、経済的な苦難、不安感、崩壊しつつあるインフラ、HIVなどの病気感染の高い危険性に直面しながら働いているということである。これらはすべて勤労意欲の低下につながる。「保健医療に携わる労働者の深刻な不足により、小児期の予防接種、母親に対する安全な妊娠、出産に関わるサービス、HIV/エイズ、マラリア、結核の治療へのアクセスといった、必要不可欠な救命ための診療の提供が妨げられている。」[47]

 

このHRH危機は大きな被害をもたらしている。たとえば、「マラウィでは必要とされるスタッフの数が大きく不足しており、平均寿命は1990年に48歳であったのが2000年には39歳と短くなっている。マラウィにおいて5歳の誕生日を迎える前に亡くなる子どもの数および出産時に亡くなる女性の数を減らし、HIVに感染したマラウィ人に治療を提供するには、適切な資源を割り当てられた医療サービスが必要不可欠である。」[48] 構造調整プログラムの下で実施された保健医療分野の改革では、保健医療従事者は医療システムの中核的な財産というよりは財政的な重荷と見られることが多かったため、十分な注意を払われてこなかった。この深刻な投資不足、最低生活賃金ぎりぎりの賃金、熟練したスタッフの転出、残るスタッフのHIV/エイズに関わる高死亡率により、問題は危機的状況に達している。これに労働者の不均衡な配分、不適切な技能の構成、知識の差があいまって、HRH危機は医療に関わるすべてのMDGにおける進展を脅かしているのである。

 

予防接種および熟練助産師の提供を80%達成するなどの、主要な目標を達成するには、人口2000人につき最低限でも5名の医療従事者が必要である。しかしこれに対し、サハラ以南のアフリカの6億人以上が、人口1000人につき1人未満の技能者しかおらず医者の数が合計で10万人未満しかいないという状況に置かれている。MDGを達成するには、アフリカでは医療従事者の数を3倍に増やす必要がある。つまり、100万人の増員が必要である。医療関連のMDG達成にはHRH対策を避けて通れないのであり、この危機は自然に消失するものではない[49]

 

世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)などの国際的なイニシアティブを通して動員された資金源が、重大課題に重点を絞りMDG達成に向けた進展のスピードを加速させるのに重要な役割を果たしてきたことは間違いない。特にUNITAIDなどの、最近開始された医薬品に焦点を合わせたイニシアティブにおいては、適切に訓練された意欲のある労働者なしに診断薬や治療薬は役立たないことを覚えておくことが非常に重要である。だからこそ、対象人口の基本的な医療ニーズ全範囲に取り組むための保健医療システムを確立することに重点を置く必要があるのである。

 

多くの援助供与者はこの状況の真意をまだ理解していないようである。HRH危機が存在しその影響が広範囲にわたっているにもかかわらず、医療従事者の研修や雇用といった平凡な活動よりも、医療施設の建設や医薬品の提供などのより目立つ介入のために資金を集める方がはるかに容易である。援助供与国は診療所の建設は安請け合いするが、スタッフ配属の費用を満たすという点では受益国政府を当てにしている[50]。しかしスタッフ不足の規模はあまりに大きく、最も貧しい受益国政府の多く(特に最も深刻な危機に直面している国々)はとても必要な資源を充てられる状況にない。就業前の教育、定期的な研修、および農村部門に就業するスタッフへの特別手当などのインセンティブが必要なことも考えると、この資源不足はさらに悪化する。

 

医療インフラへの投資のライフサイクルは短いが、人材への投資ははるかに長期的な視野が必要である。これは大部分のODA支出の対象期間と相いれない。ODA支出の多くは5年以上にまたがることがほとんどないためである。医療システムの供給を中核的な使命とする世界基金でさえ、資金提供の対象期間は3年から5年である。このタイムスパンは、長期的に医療従事者を教育し、訓練し、補充するには短すぎる。

 

HRH危機の解決には、援助供与者が割り当てる資金額を大幅に増額し、より長い20~30年という「ライフサイクル」での援助を約束するという解決策が、強く求められている。この状況においては、CTDLによって動員することのできる、長期的で予測可能な相当額の資金源が、非常に適切な資金源になるといえる。

 

中央緊急対応基金(CERF)の拡大への投資

 

「世界は地球規模で災害の可能性が高まっている状況に直面しているだけでなく、危険に対して脆弱な人々の数も増加している…」[51] 1995~1999年のデータと2000~2004年のデータを比較すると、報告されている年間平均災害数は55%増加しており、貧しい国々で災害の影響を受けた人々の数は100%近く増加している[52]「都市集中、気候変動の影響、環境劣化により、脆弱性は大幅に増している。」[53]

 

災害に直接的に関連しているもの、それほど直接的な関連性のないものを含め、人道的緊急事態の数も急増している。「食料危機は何度も繰り返しアフリカの眼前に現れる…私達はアフリカの食料危機が『当たり前』のこととして受け入れられるようになっているのではないかと懸念している。WFP(世界食糧計画)が危機の際に食料を提供するアフリカ人の数は、10年前に比べ倍増している。」[54]

 

このような災害や緊急事態は、MDG達成および持続可能な開発というさらに広範な目標に向けた進展を台無しにするものである。これらの緊急事態への対処を十分に行えなければ、何年もかけて開発努力を注いで得た成果を後退させることになる。

 

何億人もの人々を危険にさらす災害と脆弱性の急増に照らして見たとき、国際社会の対応は全く不十分である。たとえば、国連要請後の最初の月に提供された資金は、ニジェールの危機では要請された資金額の約22%、マラウィの危機では約30%に止まった。さらに広範囲でいうと、(急激に発生した災害やすでに存在する人道的危機の突然の状況悪化に対する)国連の緊急アピールは数日のうちに発表されるが、そのほとんどが最初の月に受け取る資金は、要請された資金額の30%未満である[55]。このような危機では、時間がかかるほど人命が失われる。

 

さらに、国連はアフリカだけでも1600万人が「放置された緊急事態と資金供給が不足した状態の危機」により危険にさらされていると見積もっている。ここでは、マスコミ報道が少なく政治的に目立たない、または長期化問題で援助供与者が援助疲れしているといった理由から、十分な人道的援助が実現していないのである[56]。ここ数年間、すでに存在する人道的危機および新たに起きた人道的危機に対処するために必要な資金額のうち、年間約10億ドルが不足する事態となっている。このため実質的に、当事国の対処方法と国内資源が尽きれば、人々は極貧、飢餓、死亡に直面するがまま放置されているのである[57]

 

この分野への資金増額が差し迫って必要とされていることに対応し、ノルウェーを含む数カ国が国連の既存の緊急対応基金をCERFという形で再開した。CERFは2つの使命を持つ。一つはスピードが重視される要件に対処するための早急な行動を推進することである。もう一つは資金供給が十分でない危機および放置された危機に対する人道的対処を強化することである。CERFは時機を得た形でより多くの資金を提供することによって、災害その他の人道的緊急事態に対処しようとしている。

 

しかし、4億5000万~5億ドルというCERFの控えめな資金調達目標でさえ、いまだ達成されていない。さらに、多くの解説者は現在の災害、緊急事態に対処するための資金不足を埋めるだけでも資金を最低でも倍増すべきだと考えている[58]。スウェーデンやオランダなど多くの国々が年間支出を約束しているが、このような複数年にまたがる公約の達成に関する開発コミュニティの過去の達成度は非常にお粗末である。このため、CERFもまた、現在の国連の人道的支援要請を悩ます資金の予測不可能性および資金不足という問題に直面する可能性が高い。このような事態は、開発コミュニティが緊急事態に適切に対処する能力を弱めるだけでなく、医療と教育を扱う目標(目標6および目標2)を含むいくつかのMDG達成における進展を後退させることになる。

 

増加する災害および人道的緊急事態に効果的に対処できる資金の迅速な支出を可能とするメカニズムを持たせるため、私達はCERFを年間最低10億ドルに拡大し、(少なくとも一部は)CTDLのような長期的に予測可能な資金源から資金供給されるようにすることを提案する。CERFに資金供給するためにCTDLを利用することは、合意された地球公共財の費用を支払うという、(国内で徴税され国際的に支出される)革新的な連帯税の精神に沿うものである。



[13] 米国では、公開株の取引、取引所での先物取引およびオプション取引に対して有価証券取引税が課税されており、同税からの税収は証券取引所委員会(SEC)などの金融規制機関の運営費用を賄うために使用されている。

[14] Bank Debit Taxes in Latin America: an analysis of recent trends, IMF Working Paper 67 (2001)(「ラテンアメリカにおける銀行預金税:最近の動向に関する分析」、IMF調査報告書67、2001)

[15] Schmidt (2002)(シュミット、2000)

[16] Norges Bank’s oversight and supervision of the payment system, Norges Bank Economic Bulletin 2002 Q1 (2002)(ノルウェー銀行による支払システムの管理監督、「ノルウェー銀行経済速報」2002年第1四半期、2002)

[17] Annual Report on Payment Systems 2005, Norges Bank (May 2006)(2005年支払システムに関する年次報告書、ノルウェー銀行、2006年5月)およびBank for International Settlement(BIS:国際決済銀行)

[18] 1974年6月26日、中央ヨーロッパ標準時15:30に、ドイツ政府当局は大規模な外国為替業務を行っていた中規模銀行であるヘルシュタット銀行を閉鎖した。しかし閉鎖前に、ヘルシュタット銀行の取引銀行はヘルシュタット銀行に(変更不可な)ドイツマルクの支払を行っていた。この際、米国の金融市場は開いたばかりで、取引銀行は支払ったドイツマルクと引き換えに行われるべきドルの支払を受けていなかった。この不履行は、世界的な(特にニューヨークの)支払・決済システムに連鎖反応を起こした。最終的に、この連鎖反応はニューヨークのマルチラテラルネッティング(多数の企業間で行われる相殺決済)システムに達し、このためその後3日間、同システムを経由する純支払が60%減少した(BIS、2002)。この決済リスクはヘルシュタットリスクとして知られ、この問題は即時グロス決済(RTGS)システムの開発および多通貨同時決済(CLS)銀行の近年の導入によって取り組まれた。

[19] CLS Issue Brief October 2006(2006年10月CLS発行物要約)。CLSがすべての通貨の取引を同等の割合だけ決済していると想定した場合。

[20] HM Treasury (2004)(英国家財政委員会、2004)。Stamp Out Povertyの提起した点に対する回答文書の中で。

[21] この定型化された例は、Schmidt (2001)(シュミット、2001)の中で使われたものに脚色を加えたものである。

[22] ここでは、各中央銀行の運営費合計(これらの銀行が自行内にシステムを設置する費用も含む)が追加のSWIFTコピーメッセージを作成するコストの2~3倍であると想定している。

[23] これらの税収見積もりは非常に控え目な数字で、国際決済銀行(BIS)が報告した1日1兆8800億ドルという従来の外国為替市場における売買高だけに基づいている。OTCデリバティブ市場では1日2兆4100億ドル、取引所で取引される外国為替商品の市場では1日4兆6570億ドルの売買高がある。これらの市場も含めると、見積もられた税収の3倍の税収を見込める可能性がある。

[24] 取引高の減少の一部は、異なる通貨建ての株式を取引することによって外国為替取引を実行できる、株式市場への移行を反映している可能性がある。この慣行は、今後伸びる可能性は限られているとはいえ、現在でもすでにある程度行われている。しかし、取引された株式もこの報告書で説明したような中央集権化されたシステム上で決済されるため、比較的簡単にCTDLの範囲に取り込むことができる可能性がある。

[25] 現在ロドニー・シュミット教授が作成している外国為替の取引高の価格弾力性に関する研究報告書が発行されれば、この点については同研究報告書の中でより明瞭化されるだろう。

[26] 米国の銀行に関するデータ:http://money.cnn.com/magazines/fortune/fortune500/full_list/index.html

米国以外の銀行のデータ:各機関の2005年連結財務諸表より。米国以外の銀行に関する米ドル換算データは、2006年1月3日の為替レートを使用して換算している(端数切り捨て)。

[27] 主要国際銀行およびノルウェーの銀行の年報より(端数切り捨て)。

[28] Citron and Walton (2002) 参照。

[29] 同氏の目的は「過度に効率的な国際通貨市場の車輪に砂を入れる(=邪魔をする)」ことであった。Professor James Tobin(ジェームズ・トービン教授)(1978)「A Proposal for International Monetary Reform(国際通貨改革のための提案)」Eastern Economic Journal、1972年プリンストンのジェインウェイ講義に基づく。

[30] Citron and Walton (2002) 参照。

[31] この調査の全文はwww.zyen.comを参照。

[32] たとえば2002年には、銀行間の「卸売市場」のスプレッドは米ドル/円の取引で0.023%、米ドル/英ポンドの取引で0.021%であった(Spahn 2002)。

[33] ここでは年間取引日を260日間と想定している。本報告書でこの想定を採用している。

[34] About CLS(CLSについて)を参照: www.cls-group.com

[35] もちろん実際には、銀行はさまざまな資金源から自行の活動の資金調達を行っている。しかし、これらの資金調達に関する費用を総計として見積もるには、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の金利を使用するのが妥当である。

[36] 英国の金融部門の資金調達パターンに関する詳細レビューについては、Bank of England(イングランド銀行)(2003)を参照。

[37] この点に関するさらに詳細な議論については、Currency Transaction Taxes; financing development and enhancing stability(通貨取引税:開発資金源と安定性の強化)Sony Kapoor(ソニー・カプーア)(2004年)を参照。

[38] 2006 Human Development Report(人間開発報告書2006)、UNDP(国連開発計画)(2006)

[39] Jose Augusto Hueb(2006)「Trajectories of Progress Achieving the MDGs and Achieving Coverage on Water and Sanitation(MDG達成と水・公衆衛生の項目達成に関する進展の軌跡)」、WHO(世界保健機関)

[40] 同上

[41] Meeting the MDG Drinking Water and Sanitation Target: a mid-term assessment of progress(飲料水と公衆衛生のMDG目標の達成:進捗状況の中間評価)、WHO(2004)

[42] Measuring Aid For Water – has the downward trend in aid for water reversed…?(水のための援助を評価する―水のための援助における減少傾向は逆転したか…?)

www.oecd.org/dac/stats/crs/water

[43] 2006 Human Development Report(人間開発報告書2006)、UNDP(2006)

[44] Norwegian Action Plan for Environment in Development Co-operation(開発協力における環境のためのノルウェー行動計画)、MFA(外務省)(2006)

[45] Lincoln C Chen(リンカン・チェン)(2005)「Triple C’s in Oslo – consultation, consensus and call for action(オスロにおける3C―コンサルテーション、コンセンサス、コール・フォー・アクション:協議、合意、行動要請)」

[46] World Health Report 2006(世界保健報告2006)、WHO

[47] Global Health Workers Alliance(世界医療保健労働者連合)

[48] Hilary Benn(ヒラリー・ベン)英国国際開発相の発言。2004年12月3日付のDFID(国際開発省)プレスリリースより。

[49] Working Together to Tackle the Crisis in Human Resources for Health(保健医療人材の危機に共に取り組む)(2005)。Learning Initiative of the Global Health Trust(世界保健医療トラストの学習イニシアティブ)での推定値を引用して。

[50] Sony Kapoor(ソニー・カプーア)(2006)、A Think Piece: making aid more effective(解説記事:援助の効率性を上げる)、世界銀行(未刊)

[51] UN-ISDR(国連国際防災戦略)

[52] World Disasters Report 2005(世界災害報告2005)、IFRC(国際赤十字社・赤新月社国際連盟)、Table 1(表1)、およびWorld Disaster Report 2005(世界災害報告2005)、IFRC、Table 3(表3)、p196

[53] Salvano Brinceno ISDR事務局長の言葉をBBCが引用:

http://news.bbc.co.uk/2/hi/in_depth/3666474.stm

[54] James Morris(ジェームス・モリス)世界食糧計画(WFP)事務局長の言葉をWFPプレスリリースで引用:

www.wfp.org/English/?ModuleID=137&Key=1990

[55] Jan Egland、パワーポイントでのプレゼンテーション「UN Humanitarian Response: An Agenda for Reform(国連人道支援への対応:改革のための検討課題)」、2005年10月

[56] OCHA(国連人道問題調整事務所)、2005年10月13日、Campaigns, Forgotten and Neglected Emergencies(キャンペーン、忘れられ放置された緊急事態)

http://ochaonline.un.org

[57] 2005: Year of disasters(2005年:災害の年)、Oxfam Briefing Paper(オックスファム簡易報告)(2005)

[58] 同上

2、通貨取引税:税率および税収の見積

南北問題研究所  North-South Institute

 

通貨取引税:税率および税収の見積

The Currency Transaction Tax:Rate and Revenue Estimates

ロドニー・シュミット                                     200710

Rodney Schmidt                                     October 2007

 55 Murray, Suite 200, Ottawa, Ontario Canada K1N 5M3

Tel 613-241-3535 Fax 613-241-7435 E-mail rschmidt@nsi-ins.ca

Web www.nsi-ins.ca

出典:http://www.globalpolicy.org/images/pdfs/10rate.pdf

 

通貨取引税:税率および税収の見積

要約

通貨取引税(Currency Transaction Tax, CTT)は、開発その他の世界的プロジェクトに独立、安定した資金を供給する資金源となる可能性を秘めた制度である。ではその税率はどうあるべきか。どの程度の税収が得られるのか。また外国為替市場にどのような影響を与えるのだろうか。

CTTは機能的には外国為替市場のビッド/アスク スプレッド(売値と買値の差額)に相当する。つまりいずれも取引費用である。ここでは計量経済学の回帰分析を用いてスプレッドと取引量の関係を推定した。その結果、税率0.5ベーシスポイント(0.005%)のCTTを主要通貨の市場に課税した場合、取引量は14%減少することが分かった。CTT導入後のスプレッドおよび取引量は、近年の観測値の範囲内に十分収まる程度であり、市場の動きを妨害するものではない。税率0.5ベーシスポイントのCTT課税により、年間330億米ドル、またはおそらくそれ以上の税収を得ることができる。

 

 

謝辞

本研究に資金援助くださった匿名の援助ドナーに、心から感謝いたします。この援助なくして、本研究を実施することはできませんでした。本プロジェクトの管理を担当してくださった、英国のWar on Want、東京の国連大学に感謝申し上げます。ストラスクライド大学(University of Strathclyde)のアンソニー・クルーニーズ・ロス(Anthony Clunies-Ross)教授は、本研究を提案、手配してくださり、また表現を明確化するようご指導くださいました。ここに心から御礼申し上げます。有益な提案をくださった英国Stamp Out Povertyのデービッド・ヒルマン(David Hillman)氏、南北問題研究所の著者の同僚ロイ・カルペパー(Roy Culpeper)氏、アン・ウェストン(Ann Weston)氏、ビル・モートン(Bill Morton)氏に感謝申し上げます。

 

通貨取引税:税率および税収の見積

 

通貨取引税(Currency Transaction Tax, CTT)は、独立、安定した多額の世界的資金を創出する新たなメカニズムとして、政府、国際機関などが検討している方法の一つである[1]。創出された資金は、国際開発や公衆衛生などの世界的課題を扱うプロジェクトの資金供給に使用される。(3.4の表4に挙げた)新たな資金源メカニズムのそれぞれに関して、次の2つの疑問が浮かび上がる。これらは実現可能だろうか(つまり費用効率は適切か、副次的な悪影響をもたらさないか)。また、これらはどの程度の資金を創出できるのか。著者らおよび他の研究者らは、CTTが実現可能であることを他文献で既に明らかにしている(1.2)。本研究では、適切なCTTの税率を算出する。つまり多額の資金を生み出すのに十分高いと同時に、基本的な市場の動きを変えずに済む低さに設定された税率を算出する。またCTTが一国・一地域単独で単一の主要通貨に課税される場合(ドル、ユーロ、円、ポンド)と、これらのうち複数の通貨に協調して課税される場合の税収を見積る。

 

         課題および前提

 

CTTは、個々の外国為替取引に課される定率税で、外国為替市場で売買を行う取引業者に課税され、金融上の清算、決済システムにおいて徴税される。外国為替の取引業者とは、ビッド(買値)とアスク(売値)の為替レートを提示し、要求に応じてその為替レートまたはそれより条件のよい為替レートで通貨を取引する金融機関のうち、大規模なグロス決済システムまたはネット決済システムに直接アクセスのある機関である。外国為替の取引業者は、他の取引業者または取引業者ではない顧客と取引を行う。

CTTは概念的にはトービン税(Tobin Tax, TT)を継承している。徴税の仕組み(金融決済システムにより徴税する)および税基盤(銀行間の外国為替市場)については、両者は全く同じである。しかし両構想の目的と税率は互いに異なる。TTは、国境を越えた資本の流れを抑制し、それにより金融政策を強化し、為替相場の危機を防止または管理することを目的としていた。TTの税率は、外国為替市場の動きを変えるために高く設定されることが提案されていた。これとは対照的に、CTTは市場の動きを妨害することなく資金を創出することを目的としている。このため、CTTの税率は低く設定される。

CTTおよびTTからの税収の見積は過去にも行われている。その結果を3.3の表3にまとめた。私達が実施した見積も含め、これらの数字を見積もる際の問題は、税が導入された場合に外国為替の取引量がどの程度縮小するかを予測することである。過去の研究ではこの数値を推測していた。本研究では、以下のようにこの当て推量を排除することができた。

 

1.1       CTT導入後の取引量

 

CTTは導入されていないため、導入の結果起こりうる取引量の減少を直接測定することはできない。しかし、CTTは実質的にはビッド/アスク スプレッド(取引業者が提示するビッドとアスクの為替レートの差)に相当するものである。両者とも外国為替取引を行う上で発生する直接費用の一部である。CTTはスプレッドを上昇させることにより外国為替市場に影響を与える。このため、CTTがどのように取引量に影響するかを予想するには、取引量がスプレッドの変化に対して通常どのように反応するかを測定すればよい。

この測定を1986~2006年における取引業者のドル/円スポット市場で行った(付録A)。この結果、スプレッドが1%上昇すると取引量が0.43%減少することが分かった。経済専門家の言葉を使うと、スプレッドに対する外国為替取引量の弾力性は-0.43である。

CTT課税のために一対の通貨ペアの市場におけるスプレッドが上昇した場合に、取引が他の市場に移転される可能性があるか否かについても調べた(付録A.2)。しかし、円のスプレッドと比較した場合の相対的なユーロやポンドのスプレッドの減少が、ドル/円市場における円の取引量の減少と関連していたという結果は認められなかった[2]

 

1.2       脱税

 

弾力性は外国為替取引に対する通常の需要を測定するもので、ここには脱税は反映されない。

CTTが大規模な金融、外国為替決済システム(多通貨同時決済(Continuous Linked Settlement, CLS)銀行や広範囲に普及しているSWIFTなど)によって徴税される場合、CTTを回避することは困難かつ無益であることは、学者、官僚の間で認識されてきている(例えば Landau (2004) 参照)。著者ら、ならびに他の研究者は、どの外国為替商品が使用されようとも、どこでどのように取引が行われようとも、同じことがいえることを過去の研究で明らかにしてきた(Hillman, Kapoor, and Spratt (2006); Schmidt (1999, 2000, 2001); Spratt (2006))。

外国為替取引の多くが、決済される前に相殺されてしまい課税されないのではないかと懸念する声もある(例えばNissanke (2004))。また、非公認、非課税の新たな決済システムが出現するのではないかという声もある(例えばLandau (2004))。しかし、前述の出典を注意深く読めばこのような懸念の必要はないことが分かる。グロス決済、ネット決済、公式、非公式、多国間、二国間にかかわらず、全ての金融、外国為替決済システムでは、その運営の過程で個々(「グロス」)の取引まで遡って追跡、照合が行われているからである。また、オンショアであろうとオフショアであろうと、これらの取引全てには、個々の取引で使用される通貨を発行している国の中央銀行に開設された口座が必要となる。さらに全ての取引では、SWIFTにより開発され中央集権的に運営されているメッセージ付きネット決済システムが共用されている。これら全ての決済システムは、各中央銀行により監督、統制されている。これらに代わる決済業務を確立することは、変則的で独自仕様のシステム、技術が使用されていた30年前に戻ることであり、CTTを支払うよりもはるかに費用がかかりリスクが高くなる。

 

1.3       税収を見積もる際の前提

 

CTT税収を見積もるにあたり、以下を前提とする。

 

  • 取引業者のスプレッドにはCTTの税率全てが反映される。
  • CTTは伝統的な外国為替市場(具体的にはスポット、アウトライトフォワード、スワップ市場)に課税される。
  • 脱税が行われていない。
  • 全ての通貨ペア、外国為替商品について、スプレッドに対する外国為替取引量の弾力性は-0.43である。

 

上記の第一、第二の前提は保守的である。まず取引業者は、小売のスプレッドおよび非金融のスプレッドを広げることにより、税の一部を取引業者ではない顧客に転化する可能性が高い。このため、想定しているほど取引業者に対するスプレッドが広がらない可能性がある。次に、決済の際に個々の取引から税が徴収される場合(それ以外に実現可能な方法はない)、同税は取引所で店頭取引されるデリバティブおよび外国為替商品を含む、非伝統的な外国為替市場にも当然課税される[3]。この非伝統的市場は巨大である。

最後の前提は単純化したものである。スプレッドに対する取引量の弾力性は、おそらく市場により異なるだろう。しかしこれは重要ではない。私達は全ての市場において取引量の弾力性を(絶対値)-1に増やし、私達が計算した税収の見積が取引量の弾力性にどの程度影響されるかを確認した。この結果、弾力性が-1の場合でも見積もった取引量は10%しか減少しないことが分かった。

私達はCTTの税率を0.5ベーシスポイント(0.005%)と設定することを提案する。この場合、第一の前提に基づくと、取引業者のスプレッドは1ベーシスポイント上昇することになる。その理由は、スプレッドが通貨の購入と売却両方の価格を含むためである。為替新聞や取引契約に記された為替レートは、買い相場と売り相場の中間価格である。このため、通貨を購入するために取引業者に連絡した者は、取引業者にスプレッドの半分を支払う。同様に、通貨を売る者はスプレッドの半分を支払うのである。一方、誰かが通貨を今月購入し次の月に売却するなど、「往復」の投資を行う場合に2回の取引にかかる費用が、全スプレッドである。CTTが施行されると、取引業者は通貨の購入、売却の各取引について税全額を支払う。つまり、各取引の費用は、課税前のスプレッド半分にCTTを足した額となる。取引業者は通貨の購入、売却両方を行うため、購入価格と売却価格を含めた課税後のスプレッドは、CTTの税率の2倍分上昇することになる[4]

以下に説明する見積は、2007年4月時点の外国為替市場に基づいて計算したものである。これは、国際決済銀行(Bank for International Settlements, BIS)がまとめた最新の外国為替に関するサーベイの月である(BIS, 2007)。

 

 

         CTTの税率

 

CTTの税率として望ましいのは、外国為替市場を妨害することなく多額の資金を創出できる税率である。この税率を正確に特定する方法はない。しかし実務的見地から言えば、課税後のスプレッドは近年のスプレッド値の範囲内に十分収まり、取引量が極端に減少しない程度である必要がある。

スプレッドの平均および変動性は、通貨市場全体にわたり大きく異なっている(表1)。このため、各通貨ペアまたは外国為替商品に、異なるCTT税率を設定するのがふさわしい。しかし、全ての市場において定率を採用することにより、望ましくない市場間の取引活動を避けることができる。

 

表1:外国為替のスプレッドおよび取引量

 

市場

平均スプレッド[e]

標準誤差[f]

変動係数[g]

取引量[h]

取引量の割合

ドル/ユーロ

2.95

1.14

0.30

201,600

0.52

ドル/円

3.39

0.95

0.23

95,280

0.25

ドル/ポンド

2.59

0.83

0.25

86,640

0.23

加重平均

2.98

1.02

0.27

合計

383,520

1.00

ユーロ/円

4

16,800

ユーロ/ポンド

5

15,360

円/ポンド

9

2,400[i]

 

出典:(ユーロ、円、ポンドに対する)ドルのスプレッドはOlsen Financial Technologies(http://www.olsendata.com)。ドル以外のスプレッドはFX Solutions(http://www.fxsol.com)。取引量はBIS (2007, Table 4)。

 

2.1       近年のスプレッド値

 

スプレッドは過去20年間(特に近年)、減少している(図1)。現在スプレッドは今までで最小となっている。取引、通信、決済の技術が向上し、取引量が多いことが原因であろう。

しかし、スプレッドは大幅に、しかも長期的に上がることもある。1992年にはポンド/ドル市場において平均スプレッドが0.54ベーシスポイントも上がり、この高いレベルが6年近くも持続した。1999年1月にはドイツマルク/ドル、ユーロ/ドル市場において、ユーロの導入に伴いスプレッドが1ベーシスポイント上昇した。この上昇は4年間継続した。円/ドル市場では、1989~1995年にスプレッドが着々と上昇し合計1.76ベーシスポイント上昇した。

 

図1:スプレッド

(対米ドル)

 名称未設定1

 

スプレッドの変動性は、通常「標準誤差」で測ることができる。標準誤差は、そのスプレッドの平均値からの平均偏差を示すもので、単位はベーシスポイントである。標準誤差の特徴は、平均スプレッドに標準誤差を足し、平均スプレッドから標準誤差を差し引くことにより、過去のスプレッド値の68%を含む範囲を限定できることである5。この範囲外にあるスプレッドは確率的に異例ということになる。過去5年間(2001年1月~2006年3月)における主要な通貨ペア市場全体の標準誤差の平均は、1ベーシスポイント強であった(表1)。標準誤差を平均スプレッドで割った数値が、「変動係数」である。過去5年間では、標準誤差の平均は平均スプレッドの27%であった。

以上から、主要通貨の市場におけるスプレッドは通常、約1ベーシスポイント変動し、まれにそれ以上変動する。また1ベーシスポイントかそれ以上上昇した状態は、長期間持続する。このため0.5ベーシスポイントのCTT導入によりスプレッドが恒久的に1ベーシスポイント上昇することは、近年の経験と同様ということになる。

ではCTTはどのように取引量、ひいては市場の流動性に影響するだろうか。

 

2.2       CTTと取引量

 

外国為替市場は取引量で見て世界最大の市場である。2007年の取引量は過去最高であった(図2)。私達の計算では、0.5ベーシスポイントのCTT導入により、外国為替の取引量は、取引に影響を与える他の要素全てを考慮に入れると14%減少する(計算方法については、3.1参照)。このCTTが2004年から導入されていたとしても、市場規模は全ての主要通貨において2007年には過去最大となっていたと予測できる。

外国為替市場は常に拡大しているわけではない。1998~2001年には、ドル市場、円市場はそれぞれ11%、4%縮小している。つまりドルの場合で見ると、上記で見積もった0.5ベーシスポイントのCTT導入による縮小規模に近い規模で縮小している。

これらの比較から、0.5ベーシスポイントのCTT導入が為替レートの動きや市場の流動性を妨害することは考えにくい。本研究では過去のスプレッドと取引量の共変動に基づき税率を決定し、税の導入による取引量の減少を見積もったわけであるから、これは当然の結論である。

 

図2:取引量

(他の全ての通貨に対し)

 名称未設定2

 

出典:BIS(2007, Table 1と3, 2007年4月の恒常為替レートにおける伝統的な市場)および年間取引日を240日とした著者らによる計算。

 

 

         CTTによる税収の見積

 

ここでは0.5ベーシスポイントのCTTが各国・各地域単独でそれぞれ独立、独自にドル、ユーロ、円、ポンドに課税された場合の税収を見積もる。また、CTTが複数の通貨に協調して課税された場合(主要通貨全て、ドル以外の主要通貨全て、ユーロとポンドのみ)の税収を見積もる(表2)6

 

3.1       計算

 

CTTからの税収は、税率(0.005%)× 税導入後の外国為替の取引量 となる。税導入後の取引量は、税導入前の取引量(v0)、スプレッドに対する取引量の弾力性(-0.43)、および税導入によるスプレッドの増加率(1.0/s()、ここでs() は平均スプレッドを示す)により決まる。

これら全てを統合し、以下の式を使用してCTTの税収(R0.5)を計算した。

 

 

 

前述したように、これらの見積がスプレッドに対する取引量の弾力性にどの程度影響されるかを確認した。例えば弾力性が(絶対値で)-0.43から-1に増加した場合、税収は10%減少すると見積もられる。

 

3.2       予想される税収額

 

0.5ベーシスポイントのCTTが、(他の通貨全てに対する)ドルの取引にのみ課税された場合、税収は年間122.9億米ドルとなる。また、円のみに課税されると55.9億米ドル、ポンドのみに課税されると49.8億米ドルとなる。

0.5ベーシスポイントのCTTを協調して主要通貨全てに課税すると、年間の税収は334.1億米ドルとなる。これはドルのみに課税される場合に比べ50.3億米ドルの増加に留まる。ほとんどの外国為替取引は主要通貨間で行われており、そのうちのほとんどがドルに関わる取引だからである。ドル以外の主要通貨全てに協調してCTTが課税される場合、212.4億米ドルの税収が得られる。ユーロとポンドのみに協調してCTTが課税される場合、165.2億米ドルの税収が得られる。

 

表2:0.5ベーシスポイントのCTTから得られる税収の見積額

(10億米ドル、年間)

 

通貨

税導入前の取引量[j]

平均

スプレッド[k]

1.0/平均

スプレッド

税導入後の取引量[l]

税収の

見積額[m]

CTTをドルに課税…

ドル

664,855

2.98

0.34

567,653

28.38

…および他の主要通貨全てに課税。

+ユーロ

+83,448

4.48

0.22

+75,554

3.78

+ポンド

+13,560

9

0.11

+12,919

+0.65

+円

+12,636

9e

0.11

+12,038

0.60

合計

774,499

668,164

33.41

CTTをユーロに課税…

ユーロ

285,048

3.17

0.32

245,825

12.29

…およびポンドと円に課税。

+ポンド

+100,200

2.78

0.36

+84,689

4.23

+円

+107,916

3.39

0.29

+94,459

4.72

合計

493,164

424,973

21.24

CTTを円に課税。

127,116

3.59

0.28

111,811

5.59

CTTをポンドに課税。

ポンド

115,560

3.08

0.32

99,659

4.98

 

出典:BIS(2007, Table 1, 2007年4月の恒常為替レートにおいて, およびTable 3)ならびに本論文の表1。

 

表3:過去に算出されたCTT税収の見積額

 

出典

税率[n]

税基盤[o]

取引量の補正

見積額[p]

Felix and Sau (1996)

25

世界

1995

  • 公務上の取引10%を除く
  • 脱税25%
  • 弾力性は長期間に-1.5~-0.75。

300

Frankel (1996)

10

世界

1995

  • 弾力性は-0.32。

166

Nissanke (2004)

1~2

世界

2001

  • 公務上の取引8%を除く。
  • 「漏出」2%。
  • 弾力性-0.12~-0.23d

17~31

Spratt (2006)

0.5

世界

2004

  • 弾力性-0.11e

24

 

3.3       過去に算出されたCTT税収の見積との比較

 

10年前に提案されたCTTの税率は、現在のものよりはるかに高かった(表3)。これは初期の提案者がCTT(当時は「トービン税」と呼ばれていた)を、税収を創出するとともに外国為替市場を規制する手段と捉えていたことに一因がある。また、当時の提案者らは取引業者のスプレッドがどれほど狭いかを理解していなかったことも一因となっている(Tobin, 1996)。

過去に算出されたCTTの見積額は、提案された税率と税基盤がそれぞれ異なるため、さまざまである。各見積では、その時点で最新のBIS外国為替に関するサーベイを使用している。またこれらの研究では、取引量の変化に影響するさまざまな要素が考慮されている。この中には、取引される場所で徴税されると想定しているか、または決済システムにおける徴税の性質について誤解しているために、脱税される取引量を減じているものもある。これら全ての見積における、税によるスプレッドの上昇を原因とする取引量の減少は、推測に基づいているに過ぎない。

今回の私達の見積は、考え方の上ではSpratt (2006) の見積に最も近い。彼の合計見積額より私達の合計見積額が100億米ドル近くも高い理由は、彼が使用した情報が出された2004年から現在までの間に、外国為替市場が非常に大きく成長したからである。また、それほど重要ではないがこの違いが生じた一因は、使用した税基盤(彼は全ての通貨を含めたが、私達は主要4通貨のみ含めた)および弾力性(彼は暗に弾力性を-0.11と想定した(表3の脚注de参照)が、私達はドル/円市場の弾力性を-0.43と見積もった)が異なるためである。また、一日の取引高から一年間の総計を求める際の前提が異なっている(彼は年間の取引日が休暇なしの260日と想定し、私達は年間の取引日を240日と想定した)。

 

3.4       他の資金源から得られる収入との比較

 

他にも新たな潜在的資金源は存在する(表4)が、これら全てがCTTと同等の資金源というわけではない。国際金融ファシリティ(International Finance Facility, IFF)および予防接種のための国際金融ファシリティ(International Finance Facility for Immunisation, IFFIm)は、新たな収入を創出するわけではなく政府開発援助(ODA)の通常の流れを前倒しにするもので、2010~2015年にピークを迎える。政策の変更がなければODAは2020年以降、前倒しされた額と比例して、通常のレベルより減少する。また、IMFによる開発のための特別引出権(SDR)発行は、おそらく一回に留まるだろう。

航空券税やIFFImなどの新たな収入源のいくつかは、既に進行中である。前者はパイロットプロジェクトとしてフランスで、後者は本来のIFFの専門分野バージョンとして実施されている。これらの収入については、必然的に推論となってしまう他の収入源より信頼性のある見積ができるだろう。航空券税からの税収は2億米ドル、IFFImからの収入は40億米ドルで、いずれも新たな収入源の中では少ない部類に属するが、他の政府がこれらの仕組みに参加すれば、収入ははるかに増額できる。炭素税の税収は税率によって年間1,300億~7,500億米ドルと見積もられ、潜在的な税収としては圧倒的に最大である。しかし、炭素税は炭素排出を抑制することも目的としているため、税収の多くは影響を受ける産業や労働者のために使用される可能性がある。

 

表4:他の資金源から得られる収入の見積

 

手段

税率

基盤

特徴

見積額[q]

航空券税[r]

€4(エコノミー)

€40(ビジネス)

フランス

  • 「リーディンググループ」の40以上の加盟国政府が支持
  • UNITAID、IDPF、IFFImに資金供給

0.200

炭素税[s]

$0.05~0.35

/USガロン

世界

  • 2020年までに52億トンの炭素排出に課税されると予測

130~750

グローバル

宝くじ[t]

世界

  • 国営宝くじに適用される

6

IFF[u]

出資

  • 2020年より前のODAの前倒し
  • 2020年以降のODAに追加されるわけではない
  • 援助すべき分野について合意が必要

50

IFFImf

出資

  • 2020年より前のODAを前倒し
  • 8カ国が支持
  • GAVI アライアンスに資金供給

4

SDRg

IMFが発行

  • 開発のために一回配分
  • 富裕国の政府が貧困国の政府に配分を移譲する必要がある
25~30

 

 

         通貨取引税の利点

 

CTTは、開発その他の世界的プロジェクトに使用する資金を創出する、実現可能で新しい収入源である。著者ら、ならびに他の研究者らが行った過去の研究から、CTTの実施方法は分かっている。また今回の研究から、CTTが年間最低330億米ドルの、独立、安定した世界的な税収を創出できることも分かった。この見積で使用した伝統的な外国為替市場より実際の税基盤ははるかに大規模であると考えられるため、これは控えめな見積額である。

私達は0.5ベーシスポイントのCTTの導入(これにより主要通貨市場のスプレッドは1ベーシスポイント上昇する)により、取引量は14%減少すると見積もった。CTT導入後のスプレッドおよび取引量は、近年経験されたスプレッドおよび取引量の範囲内に十分収まる。

通貨取引税は、2002年のモンテレー国連開発資金会議、およびその後国連と「開発資金のための連帯税に関するリーディンググループ」により求められてきた新たな資金源の中で、最も即時に実施できる有効な資金源と考えられる。

 

         CTT導入後の取引量の予測

 

CTTの導入による外国為替の取引量の減少率を予想するため、計量経済学の回帰分析を用いてドル/円市場のスプレッドに対する取引量の弾力性を推定した。CTTは機能的には外国為替市場のスプレッドに相当するため、これは理にかなった方法である。以下の項では回帰データおよび回帰モデルを概説する。詳細な解説は近々発行する。

 

A.1       データ

 

本論文の回帰分析および記述的分析では、月次データを使用した。月次データはスプレッドと取引量の長期的関係を示す。予測不可能な取引は、非体系的、一時的であり、月間などの長期間に相殺される傾向にあるため、予想通りの取引量および予想外の取引量を区別する必要はない(Hartmann, 1998)。経験的な慣行では、ニュースをきっかけとする予測不可能な取引量は平均するとゼロとなると見なされている。

ここで使用したスプレッド、為替レート、および為替レートの変動率は、1986年2月~2006年3月のスプレッドに関する取引日ごとの観測値を月次集計したものである。出典はOlsen Financial Technologies(http://www.olsendata.com)である。取引量に関するデータ(こちらも出典はOlsen Financial Technologies)は、各月のロイターの「ティック」を合計したものである。これはスプレッド見積の頻度、つまり取引業者が提示したスプレッドを変更する回数である。この数値は、日次の、または頻度の低い取引量の、世界的取引量に代わって使用することのできる数値である(Demos and Goodhart, 1996; Hartmann, 1998)。これらのデータを使用した方が、Nikkei Economic Electronic Databank System(NEEDS)(http://www.nikkeieu.com/needs/pdf/needs_guide.pdf)出典の日本のブローカーによる日次のスポット取引に関するデータを使用するより、正確に分析できた。日本の輸出、輸入に関する月次データおよび日本の四半期毎のGDPも、NEEDSから引用した。GDPデータは月次データを得るため手を加えた。輸出および輸入をGDP比率で表わすためである。

 

A.2       回帰モデル

 

CTTの税収を見積もるために主に関心を寄せていたのは、取引量に対するスプレッドの影響である。しかし逆の影響、つまりスプレッドに対する取引量の影響について、多くの著述がある。双方向の影響を計算に入れるために、二式の連立方程式から成る回帰モデルを作成した。私達はこれをWinRATS6.20ソフトウェア(http://www.estima.com)を使用して、累次積分の3段階最小2乗法(3SLS)により見積もった。

下記の方程式(1)には、取引量に対するスプレッドの影響が含まれる。また取引量は、為替レートの変動率および、Black (1991) に従い他の通貨市場のスプレッドならびに物品、サービスの貿易にも影響される。

下記の方程式(2)はスプレッドに対する取引量の影響を表すもので、Hartmann (1998) から採用した。

完全な回帰モデルは以下のとおりである。

 

 

 

名称未設定3

(1)(2)

 

 

ドル/円市場における取引量

ドル/円市場におけるビッド/アスク スプレッド

ドル/ポンド市場またはドル/ユーロ市場のビッド/アスク スプレッド

円の為替レートの変動率

日本における輸出、輸入のGDP比率の合計

ダミー、トレンド、左辺のラグ付変数

回帰誤差

 

YおよびZ以外の変数は全て、各変数の自然対数で表している。つまり各係数は弾力性である。特に、統計的に有意と分かったα1(=-0.43)は、スプレッドの変化に対する取引量の弾力性を示す。

 

参考文献

 

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BIS (2005, March). Triennial central bank survey of foreign exchange and derivatives market activity in 2004. Statistical report, Bank for International Settlements, Basle.

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Black, S. W. (1991). Transactions costs and vehicle currencies. Journal of International Money and Finance 10, 512-526.

Cooper, R. N. (1998, April). Toward a real global warming treaty. Foreign Affairs 77 (2), 77.

Demos, A. A. and C. A. E. Goodhart (1996). The interaction between the frequency of market quotations, spread and volatility in the foreign exchange markets. Applied Economics 28 (3), 377-386.

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Frankel, J. (1996). How well do markets work: Might a Tobin tax help? In M. ul Haq, I. Kaul, and I. Grunberg (Eds.), The Tobin Tax: Coping with Financial Volatility, Chapter 2, pp. 41-82. New York and Oxford: Oxford University Press.

Hartmann, P. (1998). Do Reuters spreads reflect currencies’ differences in global trading activity? Journal of International Money and Finance 17, 757-784.

Hillman, D., S. Kapoor, and S. Spratt (2006, December). Taking the next step: Implementing a currency transaction development levy. Technical report, Stamp Out Poverty, Commissioned by the Norwegian Ministry of Foreign Affairs.

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Landau, J.-P. (2004, December). Report to Mr Jacque Chirac, President of the Republic. Technical report, Working Group on New International Financial Contributions.

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[1] 2002年にメキシコのモンテレーで開催された国連開発資金会議には、50カ国以上の首脳と200名以上の大臣、および国連、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)の首席が出席した。同会議において新たな開発資金源の探求が開始された。この活動は、公式には国連経済社会局(http://www.un.org/esa/ffd/)が、非公式には「開発資金のための連帯税に関するリーディンググループ」(http://www.innovativefinance-oslo.no/)に参加する40カ国以上の政府が主導している。

[2] ユーロのスプレッドの係数は統計的に有意ではなかった。一方、ポンドのスプレッドの係数はわずかに有意であったが、記号が「逆」であった。つまりポンドのスプレッドが減少した際、円の取引量がわずかに増加した。

[3] この点はHillman et al. (2006, p.24) が指摘している。

[4] この点は、クライド大学のアンソニー・クルーニーズ・ロス教授にご指摘いただいた。

[e] 単位はベーシスポイント。データを入手できた昨年2005年4月~2006年3月の平均値。

[f] 2001年1月~2006年3月のスプレッドの変動性を示す。単位はベーシスポイント。

[g] 標準誤差÷2001年1月~2006年3月の平均スプレッド。この計算に使用した平均スプレッドは5年間の平均であるため、表中に示した数値とは異なる。

[h] 単位は10億米ドル/年。BISが報告した2007年4月の一日平均に基づく。1年の取引日を240日と想定。

[i] 1.36 × 7.4として計算。後者は2004年4月の数値(BIS, 2005, Table E.7, 日本および英国で取引された額の合計)。前者は2004~2007年におけるドル/円、ユーロ/円の取引量増加率の平均。

5 これは過去のスプレッド値が「正規」分布に近似している場合である。

6 CTTは、清算、決済機関により徴税される。これらの機関では、ネット決済システム、最終決済システムにかかわらず、2通貨および個々の取引の金額が照合され処理される。このため、CTTは「通貨ペア」に対して課される。例えば、CTTは円とドルに関わる購入または売却に対して一度徴税され、それとは別にポンドとドルに関わる購入または売却に対して再度徴税される。

[j] 他の通貨全てに対する取引。二重計算の除去のため、表1の当該通貨ペア市場の取引量はこれより少ない。

[k] 表1に示した通貨ペア市場のスプレッドおよび取引量から概算。

[l] 計算については3.1参照。

[m] 計算については3.1参照。

e 仮定数値。

[n] 単位はベーシスポイント。

[o] 年は各研究で使用されたBIS外国為替に関する中央銀行サーベイの年を示す。

[p] 10億米ドル、年間。

d 出典から推定。Nissanke (2004) は、税率1ベーシスポイント、2ベーシスポイントの税の導入により、取引量がそれぞれ5%、15%減少すると想定している。この論文が発行された時期、ドルの通貨ペア市場の平均スプレッドは3.79ベーシスポイントであった。税率1または2ベーシスポイントで税が導入されると、スプレッドがそれぞれ2または4ベーシスポイント(つまり53%または106%)上昇することになる。このため出典から推定される弾力性はそれぞれ、ln (0.95) / ln (1.53) = -0.12、または ln (0.85) / ln (2.06) = -0.23 となる。

e 2004年の平均スプレッドを使用し出典から推定。

[q] 10億米ドル、年間。

[r] Jouanneau (2006)。

[s] Cooper (1998), Sandmo (2004)

[t] Addison and Chowdhury (2004)

[u] Mavrotas (2004)

f IFFIm (2007)

g Aryeetey (2004)

3、モンテレイ精神の維持 開発資金アジェンダと未完事項

モンテレイ精神の維持 開発資金アジェンダと未完事項

20086

CIDSE(開発と連帯のための国際協力)政策文書

はじめに

 

「我々の目標は、完全に包含的で公平な世界経済システムを達成しつつ、貧困を克服し、持続的な経済成長を達成し、持続可能な開発を推進することである。」[1]

 

2002年のモンテレイ開発資金国際会議は、リオデジャネイロ(1992)、ウィーン(1993)、カイロ(1994)、北京(1995)、コペンハーゲン(1995)における国連サミットでこれまで発表された全ての世界的公約を実施するための資金調達に関する、堅い決意と明確な戦略をもたらすことを目的に開催された。2000年の国連ミレニアムサミットおよびそれに続くミレニアム開発目標の策定は、「21世紀が万人のための開発の世紀になることを保証する」(モンテレイ合意第3項)ために緊急行動が必要であるという気運を非常に象徴的な形で高めるものとなった。

 

この目標を達成するため、モンテレイ合意(以下MC)では、相互に連結した世界的課題に取り組む国内、国際的な政策努力を含めた「全体論的アプローチ」(MC第8項)を明確に求めている。これらの取組みは「途上国の完全かつ効果的な参加」(MC第7項)の上に築かれた「先進国、途上国間の新しいパートナーシップ」(MC第4項)に基づき、「公正、公平、民主主義、参加、透明性、説明責任、包含の原則に基づいた国内および世界経済システム」(MC第9項)を目指す必要がある。2008年11月29日~12月2日にカタールのドーハで開催される「モンテレイ合意の実施を評価するための開発資金に関するフォローアップ国際会議(Follow-up International Conference on Financing for Development to Review the Implementation of the Monterrey Consensus)」(以下「ドーハ・レビュー会議」)は、モンテレイ合意の実施に関する進展、障害、新たな課題を評価するための重要なステップである。同会議が全体論的アプローチとモンテレイのアジェンダの緊急性に忠実であり続けることが非常に重要である。同会議は首脳レベルで開催されるべきであり、2002年のモンテレイ会議と同様の透明性を確保し、市民社会を含む利害関係者全員の参加の下で準備されなければならない。

 

カトリック教会の開発団体のネットワークであるCIDSEは、効果的な参加とパートナーシップに基づいた完全に包含的で公正な万人のための世界的開発というモンテレイの目標を共有している。しかし私達の見解では、このパートナーシップは「新しい」ものではない。これは時代や場所を超えた、男性、女性、子どもの間の基本的な関係である。2008年1月1日の世界平和の日に教呈ベネディクト16世がメッセージの中で想起したように、神に創造され、神の創造物としての私達の責務において、また神に提供された命の豊かさを共有するという私達に共通の宿命において、全人類は一つの共同体、「人類という家族」を築いくものである。この基本的概念は世界的開発の広範囲にまで影響を与えるものである。開発は、連帯、富と権力の公平な分配、資源の慎重な使用に基づく必要がある。開発は、全ての人が公正、公平な立場で協力できるものでなくてはならない。包括的な人間開発の一環としての経済発展は、現在では地球規模となった公益が必要とする要件に、効果的に対応することができなければならない[2]

 

本文書はこれらの原則に基づき、ドーハ・レビュー会議に対する私達の結論および提案を示している。本文書では、「完全に包含的で公平な世界的経済システム」(MC第1項)の枠組みにおいて、貧困の克服、持続的な経済成長、持続可能な開発という全体目標を達成するために必要不可欠であり緊急に取り組まれる必要があると私達が考える主要課題を中心に取り上げている。この中では、モンテレイ合意の各章において(国内資源、民間のフロー、貿易、政府開発援助(ODA)、対外債務、システミック・イシュー(構造的問題))、取るべき行動についても言及している。

 

I. 脱税と資本逃避からの国内資源の保護

 

「開発のための国内資金源を動員する」という言葉が、モンテレイ成果文書に書かれた6つの行動提案の一項目として示されている。これには正当な理由がある。このような資源を動員することは、開発の資金調達のためだけでなく、国内、国際レベルでの民主的な説明責任と参加を強化するために、開発にとって不可欠である。このため、課税および税公正、関税、印税は、国内資源の動員だけでなく、外国民間投資、貿易、援助、対外債務、システミック・イシューに関わる分野横断的な問題なのである。

 

租税(および程度は異なるが関税、印税)は、自らが依存する社会の公益に市民や企業が貢献する主要な手段である。この基本的な仕組みが正しく機能して初めて、民間投資や貿易は貧困層の利益となる成長と開発を推進できるのである。またこの仕組みは、一国が自立した、対外援助フローと持続不可能な借り入れから独立した国として、その自立性を維持するために必要な前提条件である。

 

寛大な富裕国からの対外援助に依存する本質的に貧しい国々という、広く知られたイメージは誤っている。ほとんどの途上国は、国内に天然資源、人的資源という富を保持している。重要な問題は、これらの資源が全人口、特に貧困層の利益となる公共財の資金源として使用されるのを妨げる障害が、国内、国際レベルにおいて存在することである。国連は、途上国からの純資金移転は、流出額が最大だった2006年には年間6,580億米ドルに達したと見積もっている(UN, World Economic Situation and Prospects 2007, New York 2007, 58f))[3]。同期間のOECD(経済協力開発機構)加盟国からの援助は、1,039億米ドルであった[4]。世界貿易機関(WTO)の統計によると、世界貿易の50%以上が同じ会社または持ち株会社所有の会社の系列会社間で取引されるグループ内取引であり[5]、そのほとんどがタックスヘイブン(租税回避地)に事業体を置いている。「資本逃避の削減」は、モンテレイ合意で言及されており(MC第10項)、2005年の世界サミット成果文書[6]でも「国内資源を動員する権能を与える国内環境を作るために」必要な取り組みであると繰り返されているが、上述の事実は国際社会が資本逃避の削減に真剣に取り組んでいないことを示している。

 

私達は、国内資源の効果的な動員と利用を妨げている障害には、以下のようなものがあると考える。

 

1. 金融市場のグローバリゼーションおよび自由化を原因とする自由な資本移動の増加のために、資本の追跡と規制が欠如している。このため、途上国および先進国における資本への課税および、危機の際の資本逃避規制が難しくなっている。資本への課税による税収が低くなることによって、消費と賃金に対する課税の圧力が高まり、特に貧困層と女性への負担が相対的に高くなる。資産家の資産がタックスヘイブンに保管され課税不可能となっていることによる税収の損失は、低く見積もっても途上国だけで年間約500億ドルに上る[7]

 

2. 各種のインセンティブ、休日、手当に関する措置を通して外国投資家を誘致する招致国が課税競争を繰り広げている。この競争は多国籍企業(TNC)が自社の納税を最小限に抑えるために利用しており、法人税に関する「底辺への競争」を招いている。また公共支出を削減し、累減的な効果を持つ税、特に消費税を増額する圧力を各国政府にかける結果となっている。同様に、国内の企業家は免税を受けた外国企業に対し不公平な競争を強いられることが多い。

 

3. TNCは政府間の課税競争により優遇税制措置を受けるだけでなく、自社の複数の系列会社間で行われる相当量の取引をうまく利用し、納税を回避するために複雑なミスプライシング戦略を構築している(つまり、振替価格操作)。例えば、TNCは税金の高い国から税金の低い国に収益を移転するために、企業内の資本構成を操作している。TNCの年次報告や会計基準は、企業が活動中の地域に関しても、関連する年間の総売上高、収益、納税額に関しても、正確な情報を提供していない。これらの偽造価格構造および歪められ操作された資本構成は、透明性の欠如と相まって、脱税の主要な抜け道を形成している。この結果途上国が被った年間損失額は、2000年には500億米ドルと見積もられている。これは同時期の世界のODA合計額に匹敵する[8]

 

4. 節税のためのシェルターを提供するオフショア金融センター(OFC)の重要性が高まっている。国際通貨基金(IMF)によると、このようなOFCは1970年代の25カ所と比較して、現在では52カ所以上存在する[9]。税公正ネットワークは、11.5兆米ドルがオフショア金融センターに保管されていると見積もっている[10]。さらにオフショアシステムは、主に貧困層に影響を及ぼす金融の不安定と金融危機の一因となってきた[11]

 

5. タックスヘイブンにおける司法の実態の遅れが、資金の不法な流出と腐敗のシェルターとなっている。独裁者や官僚に略奪された資産は多くの場合、銀行秘密、トラスト、財団その他の匿名性を許す特別目的媒体の陰に隠されている。富裕国間を含め、司法の協力が大幅に強化される必要がある。またどのような種類の法人についても、実際の所有者情報を司法当局、税務当局が入手できるようにする必要がある。不法な資金の本国への送還は、切に必要とされている開発資金の提供に大いに役立つ可能性がある[12]

 

6. IMFや世界銀行などの国際金融機関および援助供与者からの助言や融資条件は、貿易自由化、資金フローの規制撤廃、外国投資を誘致するための租税控除、財政引き締めに向けて途上国に圧力をかけるものがあまりにも多い。このような政策は、保健、教育、需要主導型の経済刺激プログラムの実施に対する支出を増額するために、切に必要とされている財源を適切に動員する努力を妨げるものである。ほとんどの途上国では、外部から強いられた貿易の自由化によって失われた関税からの多額の税収を、租税で賄うことができない[13]。失われた税収を賄うために、消費税や労働所得税などの移動性の低い税基盤に対する課税が増額されることが多く、これらは累減的な性格を持ち特に貧困層に大きな打撃を与える。ブラジルでは、1996年から2001年の間、労働所得税は27%増加し社会保険料は66%増加した。一方、法人税は16%減少し、地方の所有地に対する税は半減された[14]

 

7. 財政において、公共支出および歳入創出政策全般、特に課税に関して、ジェンダーの問題が十分に考慮に入れられていない。男性と女性では、課税および財政の目減りにより受ける影響が異なる。それは、男性と女性では、環境、所得、無報酬の仕事に関する社会経済条件や状況が異なり、資源の入手可能性と処理が異なるからである。またジェンダーに特定の行動にも違いが見られる。

 

主に腐敗に対する取組みに限って言えば一定の進展があったとはいえ、上述の評価は正しいものといえる。世界銀行によると、「犯罪活動、腐敗、脱税による、国境を越えた収益のフローは、世界で年間1兆~1.6兆ドルと見積もられている」[15]。汚職資金問題に対処する国際社会の関与が強化されたことを示す取組みには、2005年に発効した国連腐敗防止条約(UNCAC)、世界銀行統治・対腐敗戦略(World Bank Governance and Anticorruption Strategy)、2007年9月に世界銀行と国連が開始した不正蓄財回収構想(Stolen Assets Recovery (StAR) initiative)などがある。しかしStAR構想は、腐敗により蓄財された約200~400億米ドルの資金に焦点を合わせており、脱税により生じた多額の不法な資本フローは対象となっていない。

 

節税と脱税については、IMF職員によるオフショア金融センターに関する評価は現在までのところ26司法管轄区を対象として行われている[16]。OECDレベルでは、租税委員会(Committee on Fiscal Affairs)、税制・税務行政センター(Centre for Tax Policy and Administration)、課税に関するグローバルフォーラム(Global Forum on Taxation)が国際的な課税問題を扱っている。それにも拘らず、OECDはこの点において途上国が直面している問題にほとんど注意を注いでおらず、非協力的なオフショア地域のリストからはほとんどの行政区が取り除かれている。2000年以降に同リストから消された国の政策が、実際に変更されたという証拠はほとんどない。しかし現在ブラックリストに掲載されているタックスヘイブンは、アンドラ、リヒテンシュタイン、モナコの3カ国に過ぎない。同様に、金融活動作業部会(Financial Action Task Force (FATF) )はマネー・ロンダリング(資金洗浄)に関して非常に貴重な提案を策定したが、FATFと関連する地域当局は、加盟国からの非公式な圧力以外にその実施を保証する仕組みをほとんど持ち合わせていない。

 

税収に関する途上国を巡る状況は全般的に暗いままである。脆弱な税務行政や大規模なインフォーマル部門などの国内問題に加え、この極めて重要な問題の根源的な原因は、脱税と資本逃避という世界的課題に取り組むための国民の意識と政治的意思が欠けていることである。対腐敗、金融セクターの監視、課税の問題に取り組む上述のイニシアティブでさえ、この問題にまったく取り組んでいないか、激しい反対を受け有効な施策の代わりに見せかけに過ぎない取組みを行う程度の結果に終わっている。

 

このため、途上国が最大限の政策余地の中で扱うことのできる資金源の保護と増額は、引き続き重要なアジェンダであり続けているのである。

 

提案

 

国内資源の動員を可能にする環境を整えるために取るべき主要行動は、以下の通りである。

 

(1)既にモンテレイ合意で示唆されたように、タックスヘイブンおよび脱税の克服を含め、税務、財政問題におけるより効果的な国際協力を保証する。この協力は以下を含む必要がある。

  • ドーハ成果文書の一部として経済社会理事会(ECOSOC)の税問題に関する小委員会により策定される国際的な脱税・節税克服のための協力に関する行動規範採択する。この行動規範には、以下の主要点が含められるべきである。

- 例えば銀行秘密規定を制限するなどの、金融問題に関する透明性についての要件。

- 税務当局間の、包括的かつ自動的な情報交換に関する協定。

- 秘密に付された条件を持つトラストなどの、課税の実施を混乱させることを意図した合法的投資手段の設立を回避することに関する公約。

- 銀行その他の金融仲介機関については「顧客を知る(KYC:know your customer)」規定、企業その他の法人については「株主を知る(know your shareholder)」規定に関する、新興の基準の準拠。

- 大口の現金移転に関する規定などの、報告規定の採択と実施を約束する公約。

  • 国連税金問題における国際協力に関する専門家委員会(UN Committee of Experts on International Cooperation in Tax Mattersを、特にOECDによる既存の国際的取り組みを拡大する政治的な代表に基づく政府間委員会に格上げすることにより、国際的な税務に関する協力を強化する。格上げの際には、同委員会に割り当てられる資金を大幅に増額すべきである。また、国際税務機関を設立するという提案が真剣に検討される必要がある。
  • 国際会計基準の一環として、一部のセクターだけでなく全てのセクターのTNCに対して国別報告を義務付ける。これにより振替価格操作の可能性が大幅に低減できる。現在、貿易関連投資措置(TRIM)協定により禁止されている、現地調達や貿易の均衡に関する要件などの受入国による要件を、再度導入できるようにすべきである。これらの措置は振替価格操作を阻止できる可能性があるからである。

 

(2)途上国が富の再分配と保健や教育などの公共サービスへの資金調達を保証できる累進課税を導入できる政策の余地を保証する。また、課税スキームの社会的およびジェンダーに対する影響評価を支援する。

 

(3)以下の要素を含め、各国間の司法協力を強化する。

  • 腐敗や公共資金の横領だけでなく、脱税の疑いのある人物に関して、外国の司法当局、税務当局に要求された場合、銀行の情報を提供することを義務付ける。
  • 受取り側の国が、本国送還の司法手続きを開始できるか否か、または開始する意思があるかないかに拘らず、着服された資産を本国へ送還することを義務付ける。

 

(4)金融センターおよび国際金融構造の監視監督に関する、国際通貨基金(IMF)の責任を強調する。この責任を果たすためにIMFは、同機関が発行する国際基準の遵守状況に関する報告書(Reports on Observance of Standards and Codes (ROSCs))において、非居住者の顧客に代わり資産を扱う金融センターである管轄区域が、国際的な金融の透明性および効果的な情報交換に関する基準を遵守しているか否かについて、報告すべきである。

 

 

II. 革新的な開発資金源

 

国際的な税公正に密接した関係を持つ課題には、現在「革新的な開発資金源」という名の下に議論されている課題がある。これらの課題には、開発資金のための連帯税に関するリーディンググループ(Leading Group on Solidarity Levies to Fund Development)の設立などの前途有望な展開を含め、注目が高まっている。これらの議論は(国際金融ファシリティ(International Finance Facility)、事前買取制度(Advanced Market Commitments)などの)革新的な資金源を創出することに重点を置いているが、提案の中には、グローバリゼーションがもたらす利益の公正な分配の問題や、国際税によって地球公共財の費用を賄うといった問題を扱っているものもある。CIDSEは航空燃料、炭素、金融取引全般および通貨取引(通貨取引税(CTT))に対する課税の提案、および航空券税に見られるこれらの税の実施に関する最初の進展を歓迎している。

 

1. 通貨および金融取引税

CIDSEは、スパーンによる二重構造の通貨取引税(CTT[17] 案を長年にわたり推進してきた。CIDSEが同税案を支持するのは、同税がより公平な富の分配を実現する可能性を持つため、また開発資金の創出と同時により安定した金融状態を支える施策としての可能性を持つためである。加えて、同税は税負担を労働所得税や消費税から資本に対する課税に移すことに寄与し、税制全体をより公平なものにする働きがある。

 

これは1994年にポール・ベルント・スパーン(Paul-Bernd Spahn)(当時フランクフルト・アム・マイン大学の経済学教授で、IMF専門家)が提案した税案である。この案は、税収を得ることを目的とした非常に低率で単一税率の税(0.01または0.02%)、および為替レートの変動速度からその通貨が投機的な通貨流出の対象となると考えられる場合に課せられる一時的な懲罰的税率(50~100%)という、二重構造を持つ[18]

 

モンテレイ以降、CTTの提案に関する議論の機運はさらに高まり、多くの国にわたり国内および国際的に実現可能な選択肢として広く受け入れられてきている。いまや同税の実施は政治的意思の問題であることは明らかであり、実施すべきときが来たといえる。非常に低い税率のCTTは一国または単一の通貨圏で導入することができ、投機攻撃に対抗する非常に高い税率を持つ二番目の措置は単独で導入できる。

 

開発資金のための連帯税に関するリーディンググループによる近年の発行物や議論では、0.5ベーシスポイント(0.005%)という非常に低率の税を特定通貨の全ての取引に課税する「通貨取引開発税(Currency Transaction for Development Levy (CTDL))」が提案されている。この税は、市場のひずみや租税回避の可能性を最小限に抑えるために、取引される地域に拘らずその特定通貨の取引全てに課税される。この提案は、CTTの導入に関する長期的な展望を維持しつつ、税の実施に関する経験を得る第一歩としてパイロット・スキームの役割を果たせる可能性がある。

 

通貨のスポット(直物)取引以外の金融商品を使用した取引の重要性が高まる形で金融市場が発展する中、オーストリア政府の支援を受けてオーストリアの研究所が全般的な金融取引税(Financial Transaction Tax (FTT)の実現可能性と効果に関する調査を行った。通貨取引のみならず、株式、債券などと関連デリバティブ(金融派生商品)(金利契約、先物取引、オプション)を含む全ての金融取引(スポットおよびデリバティブ)を含めることにより、税基盤が拡大する。このため低い税率を保ったままで多額の税収を得ることができる。この税は短期取引への影響がより大きくなるため金融市場の安定に寄与する可能性がある。

 

全ての主要経済大国における金融資産の取引全般に対する課税は、いくつかの主要なEU加盟国においてスポットおよびデリバティブ取引に対する課税に限定して実施し、後にこれを拡大していくという、段階的なFTTの実施プロセスの最終段階と位置づけられる。

 

今後の国際レベルにおける一層の議論および研究は、FTTの実施の詳細に集中して行われるべきである。

 

2. 航空券税

開発資金のための連帯税に関するリーディンググループによるイニシアティブとして、いくつかの国によって航空券税が導入されている[19]。同税は、航空産業に悪影響を与えない最低限の妥協案として、低い税率が採用されている。この税は現在、途上国におけるHIV/エイズ、マラリア、結核治療のために新たに設立された仕組みである国際医薬品購入ファシリティ(International Drug Purchasing Facility)のUNITAIDを通して、結核、エイズ、マラリアに対する医薬品調達の資金源となっている。

 

航空券税の導入は、その体制において、国および市民社会の代表を含む北と南が対等な立場で開発資金を創出し管理する共同行動の経験を積む一助となる、興味深いパイロット・プロジェクトである。この取組みは、一国または一地域が単独で、もしくは主導的な国家の連盟が、国際税に向けた第一歩を踏み出せることを証明するものである。しかし、現在の航空券税が効果的な仕組みになるには、以下の点について改善が必要である。

 

1. 負担は任意ではなく義務付けられるべきである。

2. 環境コストを内部化し、個々人の行動に影響を与えるためには、航空券税の税率を十分に高く設定する必要がある。それにより税収も大幅に増額できる。

3. その重要性を増すには、より多くの国を含む国際社会の支持を得る必要がある。

 

全ての革新的メカニズムにより創出された資金の割り当てにおいては、その資金の受益国のオーナーシップという原則が尊重されるべきであり、受益国は重荷となるどのような形の融資条件も強いられるべきではない。資金は、持続可能な開発のための包括的プログラムに割り当てられるべきである。援助供与者が定義する資金割り当ての基準の範囲が狭すぎれば、受益国のオーナーシップが損なわれ、そのような援助は恐らく受益国のニーズと重点事項に対応できないものになるだろう。

 

提案

 

ドーハ・レビュー会議では、これまでの革新的資金源に関する成果と議論を基礎に、以下の行動を取ることによりさらなる前進に向けて措置を講じるべきである。

 

  • CTTを含む国際開発税に関する課題をドーハのアジェンダに含めること。
  • 以下に関して明確な公約を行うことを目指すこと。

- 国連大学世界開発経済研究所(United Nations University- World Institute for Development Economics Research (UNU-WIDER))に対して金融取引税の実施に関して研究するよう要請する。

- 実施経験を得るために低率のCTTまたはCTDLを実施するためのパイロット・スキームを導入することに合意する。

  • 革新的資金源から得られる資金を管理する体制が、国内、国際レベルにおける資金の活用において透明性、説明責任、利害関係者の参加を保証するものであるようにすること。このことは、開発のためのグローバル・パートナーシップをより実質的なものにすることになるため、ミレニアム開発目標(MDG)の目標8の実現に寄与することになる。
  • 革新的資金源の追加性を公約すること。
  • 航空券税の規制効果の側面をさらに重視すること、開発資金のための連帯税に関するリーディンググループをさらに強化すること、UNITAIDの体制をさらに改善することを公約する。これらの強化改善には、費用効率および有効性の改善、医薬品の配布を超えた持続可能な開発のための資金活用、国際開発のイニシアティブに資金供給するリーディンググループによる航空券税イニシアティブに対するより多くの国々の参加などがある。
  • 新たな資金調達手段は、少数の国で実施するよりも、多国間ベースで実施することによって、その効率性を高め規模を拡大することができる。また、これらの新たな仕組みにより創出された資金がどのように活用され管理されるかを決める制度的枠組みが必要である。国連は、これらのイニシアティブのいくつかについて議論し、支持を獲得し、実施を助ける促進者の役割を維持すべきである。しかし、多国間協定を通して、いくつかの種類の資金源をより汎用的に使用することを模索する価値はある。革新的資金源とその管理に関する取組みは、そのガバナンスを多国間の国連機関として制度化することによって、改善できる可能性がある。

 

VI.フォローアップ・プロセスの強化

 

モンテレイ合意は結果ではなく、出発点となるよう意図されたものであったことを強調することが重要である。ここで発表された約束やコミットメントは、「モンテレイの精神」に具象化されているように、継続的な対話と全ての利害関係者による取組みを通してのみ実現されるところが大きい。モンテレイ合意の重要な功績は恐らく、そのような対話の枠組みを作ったことであろう。

 

しかしこれは、各国政府によるコミットメントの度合いが、成果文書で使用される言葉遣いよりもフォローアップ・プロセスの力強さによって量られるべきであることを意味する。

 

CIDSEは初期のモンテレイ・プロセスに取組み、そのフォローアップに定期的に参加してきたが、このプロセスに対するコミットメントが薄れていることを懸念している。この煮え切らないコミットメントを象徴する最近の出来事として、首脳レベルでのドーハ・レビュー会議の開催が合意できなかったことが挙げられるが、それだけではない。事実、ECOSOCのハイレベル対話と国連総会は牽引力をますます失ってきており、国連以外の利害関係者はこれらの成果の政治的価値が不明確なため無視しがちである。

 

また市民社会は、フォローアップ・プロセスの最近の段階において、重要な利害関係者として意味のある関与の場を与えられていない。これは地域準備会議において特に言えることで、市民社会は事前にこれらの会議について通知を受けることも招聘されることもなかった。開発資金プロセスへの多様な利害関係者の参加という方式に従い、このような通知や招聘は行われるべきであった。

 

不調なプロセスを背景に、フォローアップの強化ができなければ、モンテレイの精神の喪失につながり、その公約全ての価値が下がることになる。このため私達は、ドーハ・レビュー会議で合意されるフォローアップの力強さを最も重要視しているのである。

 

提案

 

CIDSEは現在のフォローアップ・プロセスを、少なくとも以下に示す5つの特徴を持つ、制度化された新たなメカニズムに置き換えることを提案する。

 

1.定期的に、高い頻度で会合すること。

2.交渉による成果を出すこと。私達は、交渉を行わないフォローアップ様式から、交渉を行うフォローアップ様式へと移行しなければならない。

3.この制度化されたメカニズムは最高レベルで取り組まれるものであること。これは、特に加盟国の主要な経済関連の地位に着く高級官僚を含む政府の参加に加えて、国際金融機関および世界貿易機関の最高指導者、ならびに関係する全ての開発主体の参加を含む。

4. 開発資金プロセスの開始段階からそうであったように、市民社会は参加の機会を与えられるべきである。ドーハ会議準備プロセスの最終段階において、進行全てに市民社会が完全に参加できるようにすることにより、国内、地域、国際レベル、および会議自体における市民社会の本プロセスへの参加が推進されるべきである。

5. 開発資金プロセスが、真に多様な利害関係者が参加するプロセスとなることを保証するために、情報の入手可能性、および市民社会を含む全利害関係者の交渉への参加を推進する必要がある。

 

さらに、この制度化されたメカニズムは、開発資金問題への取組みを強化した国連事務局に支援される必要がある。

 

このような成果を達成する具体的方法の一つとして、国連総会およびECOSOCにおける既存のフォローアップ・プロセスを置き換える開発資金委員会(Financing for Development Commission)を設立することを提案したい。モンテレイの精神を保持するために、同委員会には全ての関連する利害関係者からの参加者が含められる必要がある。また、市民社会と民間セクターの参加というECOSOCにおける方式と同様の方式が採用される必要がある。

 

開発資金委員会は、モンテレイ合意の実施の進展を評価するため、定期的(毎年または半年毎)に会合を持つべきである。出席者には財務担当大臣、貿易担当大臣が含められるべきである。同委員会は、全ての利害関係者により協議されたアジェンダに基づいて会合すべきである。また、モンテレイの精神を保持するために、全ての政府に合意され、関連する機関利害関係者の支持を得た成果文書を発行すべきである。

 

国連総会は「開発資金委員会」を、日々のフォローアップ事項に関する国連事務局の政府間カウンターパートとなる形で、また他の機関利害関係者との協力関係を維持する政府間の要となる形で設立すべきである。

 

開発資金フォローアップ・プロセスの事務局における必要物に現在当てられている資金は、定期的に協議される開発資金委員会の成果文書の策定に当てられるべきである。また、国連事務局、国連総会の開発資金委員会、ブレトンウッズ機関の加盟国、WTOその他の関連する利害関係者が同委員会の定期的会議を準備するためのプラットフォームとして、事務局が設置される必要がある。

 

 

結論

 

CIDSEは、モンテレイに向けたプロセス、モンテレイ会議、現在の「ドーハへの道」フォローアップに参加してきたが、モンテレイ合意の精神を実現するためにやるべきことは未だ多くあると確信している。同時に、ドーハ・レビュー会議およびその成果文書においては、変化する世界経済および財政の現状と、このような変化の開発資金アジェンダに対する影響を無視することはできない。

 

本文書では、モンテレイ・アジェンダの状況を検討し、ドーハ・レビュー会議およびそれ以降に取るべき行動に関する提案を行った。CIDSEは、このアジェンダを実現する野心的な成果文書が発行されることが、まさしくモンテレイの精神に対するコミットメントの証明になると考えている。

 

●原文⇒ http://www.fastenopfer.ch/data/media/dokumente/entwicklungspolitik/entwicklungszusammenarbeit/entwicklungsfinanzierung/cidse_doha_2008.pdf


[1] United Nations (2002), Monterrey Consensus of the International Conference on Financing for Development. Chapter I.1. Monterrey, Mexico, 18-22 March 2002. 開発資金国際会議で採択された合意と公約の最終版。

[2] Benedict XVI (2008), Message for the World Day of Peace, paras 9-10, Vatican, 1 January 2008.

[3] Gurtner, Bruno (2007) Verkehrte Welt: Der Süden finanziert den Norden. In IUED, Schweizerisches Jahrbuch für Entwicklungspolitik, Vol. 26, N°2, 61-84, Geneva.

[4] OECD (2007) Development aid from OECD countries fell 5.1% in 2006, Paris.

[5] World Trade Organisation (2006) International Trade Statistics 2006, Geneva.

[6] United Nations General Assembly (2005), 2005 World Summit Outcome (A/60/L.1), 24 (e), New York.

[7] Tax Justice Network (2005) The price of offshore, London. 全ての国を含めた概算は約2,550億ドル。

[8] Oxfam (2000) Tax havens: Releasing the hidden billions for poverty eradication, Oxfam Briefing Papers, Oxford.

[9] International Monetary Fund (2006) Offshore Financial Centers: the Assessment Program – A Progress Report.

[10] Tax Justice Network (2005)

[11] Oxfam (2000) Tax havens: Releasing the hidden billions for poverty eradication, Oxfam Briefing Papers, Oxford. 同報告書では、東アジアへの短期資金フローの経路として使われたタイのバンコク国際金融市場(BIBF)の例を取り上げている。同地域は、租税優遇措置と規制要件の控除を提供するオフショアセンターとして機能していた。これらの慣行によって、タイで100万人を貧困に陥れ、インドネシアで貧困生活を送る人口を倍増させた、アジア危機の下地が作られたのである(Bank for International Settlements (1998), 68th Annual Report, Basel および、Financial Stability Forum (2000) Report of the Working Group on Offshore Centres (point 36)参照)。

[12] CCFDの調査では、南の国々の独裁者が過去数十年に着服した資金は1,000億~1,800億ドルと見積もられている。(CCFD (2007) Biens mal acquis… profitent trop souvent. La fortune des dictateurs et les complaisances occidentales, Paris)

[13] 125カ国の情報を評価したIMFの研究者によるパネル調査では、中所得国は失われた貿易からの収入1ドルに対し35~55セントを回収できている。しかし最低所得国は基本的に全く回収できてない。(Baunsgaard, Thomas and Keen, Michael (2004) Tax Revenue and (or?) Trade Liberalization. Washington DC.)

[14] GRESEA (2003) La Justice fiscale pour le développement social – Etudes de cas: Brésil et Algérie, pp. 17-18, Brussels.

[15] World Bank Fact Sheet on Stolen Asset Recovery, Washington DC.

[16] これよりはるかに多くの管轄区に対して接触が図られたが、そのほとんどは(明確に、または事実上)参加していない。International Monetary Fund (2006) Offshore Financial Centers. The Assessment Program – A Progress Report, Washington DC 参照。

[17] CIDSEウェブサイトのCTTに関する取組み、および CIDSE (2004) Redistribution through Innovative Measures: a Currency Transactions Tax, Brussels and CIDSE (2005) New Resources for Development, Brussels 参照。

[18] Spahn, Paul Bernd (2006) in IMF Finance and Development, June 1996.

[19] フランス、チリ、コートジボワール、コンゴ、韓国、マダガスカル、モーリシャス、ニジェールが現在この税を実施している(出典:UNITAID)。

4、連帯のグローバル化:金融課税のための論拠 「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

開発のための革新的資金メカニズムに関するリーディング・グループ

報告書2010

連帯のグローバル化:金融課税のための論拠

「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

 

3.5 中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)

中央で徴収する複数通貨を対象とした通貨取引税(CTT)(中央徴収型多通貨取引税)と前述の税(訳注:国内で徴収する単一通貨取引税(国内徴収型単一通貨取引税))には多くの共通点があるものの、当委員会では、この二つのオプションには別個に評価するだけの十分な違いがあると判断した。

一国で実施するCTTと異なり、このオプションは、ある管轄区内で中央システムを通して決済される全ての取引(どの通貨かに拘わらず)に適用されるため、本質的に多国間の税である。現在のところ、この中央システムは多通貨同時決済(CLS)銀行[31]だが、この税はCLS銀行を通して実施するものと限っているわけではない。むしろこの税は、中央集権的な外国為替取引決済のための多通貨メカニズム全てを想定している。とはいえ、中央集権化された世界的な外国為替取引の決済システムはその性質上独占状態を生むもののようであり、このような機関が複数生まれる状況は考えにくい。

 

3.5.1 十分な収益性

このオプションについての税収見込みは、国内徴収型CTTを全ての主要通貨群に課税する場合と同等である。しかし、前節で見たように、現行の見積額は近年の市場の出来高や呼び値スプレッドの変化を考慮に入れていない。

この問題を解決するために、我々は潜在的税基盤[32]に関する数値を新たに見積もり、これらを主要通貨ペアのスプレッドに関するより最近のデータと組み合わせ、現在の年間税収見込みをより正確に出すこととした。

2009年末における主要4通貨(ドル、ユーロ、円、ポンド)の出来高の見積もりを表2に示す。

 

表2 外国為替の年間出来高の見積額(2009年)(単位:米10億ドル)

米ドル

ユーロ

日本円

イギリスポンド

ドル/ユーロ 出来高 ユーロ/円 出来高 円/ポンド 出来高 ポンド/その他 出来高
現物

87427.85

現物

8020.80

現物

603.55

現物

4868.73

先物

28265.20

先物

2593.11

先物

195.13

先物

1574.05

FXスワップ

134996.11

FXスワップ

931.94

FXスワップ

7517.74

ドル/円 FXスワップ

12384.81

円/その他
現物

42290.16

ユーロ/ポンド 現物

4799.69

先物

13672.30

現物

6589.91

先物

1551.73

FXスワップ

65299.64

先物

2130.50

FXスワップ

7411.14

ドル/ポンド FXスワップ

10175.39

現物

28917.32

ユーロ/その他
先物

9348.90

現物

20618.01

FXスワップ

44650.84

先物

6665.75

ドル/その他 FXスワップ

31835.98

合計

年間

909,392

現物

113014.48

合計

一日

3,637

先物

36537.30

FXスワップ

174504.08

出典:国際決済銀行(BIS)(2007)、ロンドン外国為替合同委員会(FXJSC)、ニューヨーク外国為替委員会、東京外国為替市場委員会、および著者による計算。

 

この表から分かるように、一日の平均出来高は36,370億ドルと見積もられ、2007年に発表された3年ごとのBISによる調査(BIS Triennial Survey)結果から約20%の増加となっている。この間に、現在生きている人が記憶する中で最も深刻な金融危機が発生したにも拘わらずの増加である。

これらの出来高の見積額を表2に示すスプレッドと組み合わせ算出した、3つのシナリオにおける税収の見積額を表3に示す。各シナリオでは、(現在75%がCLSを通して決済されているのに対し)外国為替取引の87.5%が中央システムで決済されると想定した。基本ケースとして、価格弾力性はシュミット(Schmidt, 2008)に従い-0.43とした。

 

表3 CTT税収および出来高縮小の見積もり(2009

シナリオ1

シナリオ2

シナリオ3

年間税収(米10億ドル)
米ドル

28.63

29.42

21.34

ユーロ

12.75

13.13

9.22

日本円

5.76

5.94

4.12

イギリスポンド

4.47

4.57

3.57

世界

33.47

34.38

25.00

出来高縮小(%縮小)
現物

14.60

14.60

14.60

先物

14.60

11.68

14.60

FXスワップ

14.60

9.73

50.93

出典:上と同じ、スプレッドのデータはOlsen Financial Technologies

 

シナリオ1では、各通貨ペアでスプレッドは当然異なるが、3つの市場分野(現物、先物、FXスワップ)全てにおいてスプレッドは同じであると想定した。またこれら3つの分野における価格弾力性は同じレベルであると想定した。表3から分かるように、結果としてもたらされる世界全体での税収は334.7億ドルとなり、シュミット(Schmidt, 2008)が示したものと非常に近い数値となった。上述のように、20%の出来高の増加はスプレッドの縮小により相殺され、これらの想定の下では税収の見積額は概して変わらない結果となった。

シナリオ2では、先物市場とFXスワップ市場のスプレッドを現物市場のスプレッドからそれぞれ50%、25%増加させた。これは先物市場で流動性が最も低いこと(決済日が固定されているため)、またFXスワップ市場でも現物市場より流動性が低いことを反映してのことである。ここでは税収の合計は若干増加し343.8億ドルとなった。これはスプレッドが増加しCTT税率の占める割合が下がったため取引される出来高への影響が小さくなったことを反映している。

シナリオ3では、シナリオ1と同様に3種類の市場におけるスプレッドは同じと想定するが、FXスワップ市場における価格弾力性を-0.43から-1.5へと大幅に増やした。これは基本的には「感受性試験」であるが、FXスワップ市場からの大幅な資本移転の効果を示すことも目的としている。ここでは税収は大幅に減少するが、それでも250億ドルと多額である。

ここで重要なことは、これらの見積もりは取引の1区間にのみ課税される取引を対象としていることである。このため、ポンドが売られユーロが買われる場合、その全体の取引に0.005%の税が課税されるのであって、両方の区間それぞれに課税されるのではない。しかし、もし英国とユーロ圏の両方がCTTメカニズムに参加しているのであれば、両方の区間それぞれに課税しない理由はどこにもない。例えば、英国当局はポンドの売却に、ユーロ圏はユーロの購入に課税することができる。この場合、税収の見積額は当然大幅に増加する。結果として取引に対する税率が2倍になるため、出来高は大きく減少することとなり、このため税収が単純に倍になるわけではない。しかしCTTの対象となる主要通貨全ての両区間に中央徴収型CTTが課税されれば、世界的な税収の合計はここで示した見積額を大幅に超えることになる。

 

3.5.2 市場への影響

表3では、3つのシナリオにおけるCTTの市場に対する潜在的影響についても見積もっている。中心的な数値となった「14.6%縮小」は、シュミット(Schmidt, 2008)で算出された数値に近いが、この間起きたスプレッドの縮小を反映し今回の縮小度合いが若干増している。シナリオ2では、先物市場、FXスワップ市場の流動性が比較的低いことから、先物市場、FXスワップ市場ともに現物市場よりスプレッドを大きく想定している。ここでは、出来高への影響は先物市場、FXスワップ市場で低減されている。シナリオ3では、FXスワップの価格弾力性を非常に高い-1.5と想定した。その結果、出来高は大幅に縮小した(50%の縮小)。

これらの見積もりでは、外国為替取引の87.5%が中央システムで決済されると想定した。この小節ではこれ以降、この想定について議論していく。

世界的な外国為替市場における決済は、ますます中央集権化されてきている。この潮流を推進している要素が2つある。一つは、異なる標準時間帯、管轄区における外国為替取引に関わる決済リスクを金融機関が緩和しようと努めていることである。これは、取引の区間の片方で受け取りが行われる前に、対応するもう片方の区間で送金が行われた場合、不履行により取引が完了しないリスクが発生し、関係金融機関に深刻なリスクがもたらされるからである。第二に、グローバル金融機関同士の相互連関性は非常に高く、一機関の破綻は個々の機関に大きなリスクを与えるだけでなく、世界レベルで深刻なシステミックリスクをもたらす。このため、金融規制当局や中央銀行は2通貨を同時に決済する(PVP方式)形での中央集権化された決済を推進している。PVP方式は外国為替取引の両方の区間の送金を同時に行うもので、これにより「ヘルシュタット・リスク」[33]を排除することができる。外国為替市場における決済リスクを解決するために、現在までに取り入れられた主要な手段はCLS銀行の設立である。CLS銀行は一つの窓口で全ての標準時間帯における通貨取引をPVP方式で決済する機関である。

近年の世界金融危機により、システミックリスクの削減に向けた規制努力に拍車がかかっている。これらの勢力により、今後時間とともにより多くの外国為替取引が中央システムで決済されるようになる可能性が非常に高い。しかし、世界的な決済機関を通して適用されるCTTがこの傾向にどのような影響を与えるかが、未解決の問題として残る。ある機関にとってのこのインセンティブの規模を測るには、CTTの費用(つまりCTT税率×取引額)と他の決済形式に取引を移転させる場合の費用を比較する必要がある。後者の費用は次の4つのカテゴリに分類することができる。

第一に、CLSを通して取引するために確立された制度的インフラを放棄することによる直接的な固定費[34]がある。第二に、中央集権化されていないシステムを通して取引することにより、(a)効率性が劣る、(b)取引毎の費用が高くなる、(c)一日毎に取引を可能にするには相当高い流動性が必要となる、という問題から発生する追加的な変動費がある[35]。スプラット(Spratt, 2006)は、これらの変動費の節約によりCLS参加者が受ける恩恵は年間179.4億ドルに上ると見積もっている。これらの数値が見積もられた時期から取引額が大幅に増加したことを考慮すると、節約された額も増加していると考えられる。第三に、非PVPシステムでは取引相手側における不履行の可能性があるため、莫大な決済リスクが発生する。確率は低いが、実際に起きた場合にはその機関に破壊的な結果をもたらす。

第四に、これらの経済的要素は潜在的規制コストを伴う。外国為替市場における主要な取引先の不履行がもたらす影響によるシステミックリスクは重大である。これは2008年のリーマン・ブラザーズ破綻の影響により痛感させられた事実でもある[36]。提案された金融規制・監督改革は現在取り組まれている最中であるが、改革の結果、リスクが高いと考えられる活動(特にシステミックな影響が重大な場合)を阻止するため規制当局がより大きな権力を持つことになりそうな気配である。

中央集権化されていないシステムで決済される外国為替取引はまさにこのカテゴリに当てはまると見られる。当委員会の知るところでは、バーゼル銀行監督委員会では現在、中央システム以外で決済される外国為替取引はリスクがより高いことを反映し、そのような取引に対してより高い自己資本比率規制を適用する案を検討しているという。

中央徴収型CTTについて、デリバティブ(金融派生商品)がもたらす問題の多くは、国内徴収型CTTの関連で上述された問題と類似している。しかしいくつか異なる点もある。中央システムで決済される外国為替デリバティブは増加してきている。その方が市場参加者にとって経済的利益となるからである。その結果、一般的に好まれる決済システムを通したCTTの適用と上述の規制圧力の組み合わせにより、CTT適用における「従来の外国為替取引」と「外国為替のOTC(店頭)取引」の相違が少なくなっている。このため概して、中央決済システムを通したデリバティブ取引へのCTT課税は、従来のFX市場への課税と同じ課題を抱えることになる。

CTT支持者の間では、「従来の」外国為替取引(現物取引、アウトライト先物FXスワップ[37])は課税されるべきとの合意が形成されている。中央システム以外で決済される非従来型のFX取引については、話はそこまで明瞭ではない。全体としては、これらの契約の概念的価格に課税することは、次の理由から望ましくも可能でもないというのが当委員会の意見である。(a)デリバティブ契約のほとんどは実際の通貨の受け渡しを伴わない。(b)オプションが従来のFX取引と同じ税率で課税されると、過重課税の問題が起きる[38]。(c)デリバティブは従来のFX取引の完全な代用にはならないため、従来のFX取引のみが課税されても実質的な租税回避の機会を与えることにはならない。

当委員会は、特にFXオプションが実行された場合には現物市場で課税されるため、FXオプション契約へは課税しないことが正しいと考えている。しかし一方で、平等な競争条件を確保するために、オプションプレミアムには多国間CTTを課税すべきだと考える。OTCデリバティブからの税収は上記の見積額には含んでいない。

最後に、当委員会は、「CTTの納税回避のために複雑なデリバティブ商品が構築されるリスク」が誇張されていると考えている。金融革新は基本的に費用便益に基づく決定である。非常に低率のCTTはそのような商品の構築にかかる費用よりも低い[39]

さらに、英国の株式に対する印紙税と同様に、中央システム以外で決済される取引が法的に実施不可能となるように、租税回避を阻止する確固とした法的環境が整えられることになるだろう。

 

3.5.3 実現可能性

技術的な実現可能性が高い点が、中央徴収型CTTの魅力的な特徴といえる。例えばCLSでは、既に1,000,000ドルの取引毎に22セントという少額の税がかかる。これは0.000022%のCTTに相当する。CLSを通して0.005%のCTTを課税する場合、このインフラに便乗することができ、その場合既存の税率は0.005022%に増加することになる。

CLS銀行などの中央決済機関に頼る参加国は、それらの決済機関の領土管轄権を持つ国々に対して共同委任することにより、第三者徴税システム[40]を設置させることもできる。

中央徴収型CTTの実施には、国内徴収型CTTの実施より当然はるかに多くの国際的な法的取り決めが必要となろう。また、税の基本原則(「代表なくして課税なし[41]」や税の主権など)、実施上の法的原則(税の執行管轄区における領土権の原則)、国際的な原則(無差別待遇および、投資・貿易自由化の原則)に対する解決策が必要である。しかし当委員会は、これら全ての課題については国際課税のこれまでの経験を参考にすることができ、共同で適用されれば必要な解決策が得られると考える[42]

現在100%民間資本の世界的決済インフラを通して徴税する国際税を確立するためには、課税に関する相当な調整と連携が必要である。また、国際経済法の基準(特に既存の法定の資本・貿易自由化との適合性に関わる基準)に沿った設計が必要である。共通に合意された設計に基づき国際的な公共体のために徴税することを目的にCLS銀行などの中央決済・支払機関に共同の法的委任・指示を与えることにより、多重課税のリスクを解決することができるだろう[43]

国内徴収型CTTと同様に、(公認の)支払・決済機関を通して多通貨取引税を中央集権的に徴収することは、市場参加者によるコンプライアンスを促進し、また代替方法がより費用のかかるものとなるため、そのこと自体がインセンティブとなるだろう[44]

無差別待遇と自由貿易の国際原則の問題については、多通貨CTTでは通貨によって異なる扱いをすることがないため資産の差別という法的問題には抵触しない。

中央銀行は、中央銀行により独占的に発行される通貨に関して法定の「独占権」を持つ。このことは、(各国通貨が各参加国の管轄区内で唯一の法定通貨であるという)通貨取引における特定の法的側面と課税手法を組み合わせる、国際法上またとない機会を与えることとなる。このような強力かつシステミックな仕組みは、英国で発行される株式の取引に対する印紙税の場合と同様に、地理的な租税回避を完全に排除することにはならないにせよ効率的に阻むことになる。上述のように、税外の契約を実施不可能にするという英国の手法を活用して、この仕組みを強化することもできる。

 

3.5.4 安定性と適合性

中央徴収型CTTからの税収の安定性は、FX市場の発展、税の設計の強靭性、中央決済システムからの移転の度合いに左右されることになる。また中央決済システムからの移転の度合いは、移転を逆方向に押し戻そうとする中央銀行による監視行為を含めた、経済的手段、規制手段を使用した勢力の強さに左右される。

全体として中央決済に向かう勢力が強い場合、このオプションは他にも次のような長所を持つことになる。第一に、中央徴収型CTTは、国内での徴税、支出を避けることにより、その時々の税収の予測可能性を低くする「国内歳入問題(domestic revenue problem)」を克服することができる(訳注:国内で徴税された場合、これらの税収を差し迫った国内ニーズに充てようとする政治的圧力が高まり、開発資金のための税基盤が浸食されるという問題)。第二に、中央徴収型CTTは、グローバル決済時点で徴税することにより、上述の「世界的連帯のジレンマ(Global Solidarity Dilemma)」に対する解決策を提供するもののようである(訳注:グローバル経済の成長は地球公共財の費用を抜きに進められ、今日世界経済、社会、環境等のリスクを招き、逆にグローバル化の基礎を蝕んでいる、というジレンマ)。中央システムで決済される外国為替取引に低率の税を課すことは、税の帰着を世界経済における影響力と結び付けることにより、「徴税における不釣合い(asymmetry of revenue collection)」の問題をも克服している(訳注:金融機関の拠点国では税収が不相応に高くなる問題)。また、金融機関がCTTの負担の大部分を金融・法人顧客に転嫁すると想定すると、その影響は、経済市場参加者の市場への関与の度合いに応じて世界経済全体に市場ベースで均等に分配される。その結果、世界経済全体が地球公共財の供給のために低率の税を支払うことになる。これは地球公共財のための資金を調達するには適切な方法である。

別表4では、これらの評価の概要をマトリックス形式で示している。

 

3.6 主な提案

地球公共財のための資金調達源として最も適切なのは世界経済の経済活動そのものであり、その資金調達による影響度は国際システムへの関与の度合いに比例しているべきである。これは、「グローバル・コモンズ」の使用により得た金銭的利益について、世界経済システムに課される料金(fee)または課徴金(levy)であると考えることができる。その収益は世界公共財の資金源として使用される。これは、公平な人間開発と安定した自然環境という、システムの安定を支える地球公共財に対して世界的責任を果たすことに匹敵する。我々は、この料金を直接世界経済の全ての経済参加者に課すことを推奨しているのではない。我々が推奨するのは、最も利益を得ており最も貢献力のあるセクターが負担の重要部分を担うようにしつつ、費用負担が国際システムに広く分配されるような資金調達方法を見つけることである。

検討されたオプションは全て公共資金調達メカニズム案として価値があるが、これら全てが同等に上述の特定の任務に適しているというわけではない。我々はこの任務と、「国際開発および環境危機の緩和・適応のための安定した革新的資金源として最適な潜在的資金源を特定する」という当委員会に課せられた付託事項を直接結び付けている。

これは極めて重要な点である。世界経済は社会、環境の揺るぎない安定性なしにはその目的を果たせない。これを支えるための安定した長期的資金を提供できなければ、開発目標はいつまでも達成できないし、環境変化は驚くほど激しさを増すことになるだろう。その先にあるのは長期的な世界的安定ではなく、貧困、不平等、急速に悪化する環境により悪化し続ける社会不安であろう。

まず第一に、この理論に基づき我々は世界金融セクターが最も適切な資金源であると特定した。国際金融はグローバリゼーションと密接に結びついている。国際金融は世界経済の活力源である。世界経済活動と世界金融は共進化してきたもので、相互依存性が非常に高い。金融なしには今のグローバリゼーションはあり得なかっただろうし、その逆もまたしかりである。国際金融システムの成長はグローバリゼーションに依存している。

また、金融システムのいくつかの側面は、本質的に国際的である。最終的に、当委員会が全般的な金融取引税(FTT)、金融収益・報酬への課税(FAT)、金融セクターへの売上税の拡大(VAT)を推奨しない主な理由はここにある。これらの提案にはそれぞれ、特に国内の資金調達方法としてのメリットはあるものの、「世界的連帯のジレンマ」の解決と地球公共財への資金調達という任務には適していないと我々は考えた。これらの提案には全て国際的な要素が含まれるが、いずれも完全にグローバルなものではなく、国内レベルの金融活動に大きく頼っている。その結果、これらは「徴税における不釣合いの問題」と「国内歳入問題」の両方を抱えることになる。

当委員会は、金融市場の中で最も国際的に組織化され統合化された分野であり、投資、商品、サービスの国際決済に組織的構造を提供している外国為替市場が、この目的を達成するためのメカニズムとして最も適していると考える。国際通貨取引に課される低率の税の一部は、間違いなく金融機関からその顧客、他の金融機関(ヘッジファンドなど)、企業に転嫁されるだろう。これらの機関はさらにその顧客にコストの一部を転嫁する。この波及プロセスによって、世界経済活動における金融セクターを含めた各参加者の関与の度合いを幅広く反映する形で、コストの一部が国際経済全体に分配、共有されることになる。金融セクター内では、ヘッジファンドや投資銀行などのより頻繁に金融取引を行う参加者、および高収益で高い報酬を支払う参加者らは、全体の税のうち高い割合を負担することになる。またこの事実は、他のオプションと比べこの税が比較的公平であることを意味する。

本報告書では、2つの外国為替メカニズムが検討された。まず、「国内で徴収する単一通貨取引税(国内徴収型単一通貨取引税)」は、特に租税回避が困難であることと比較的容易に一国の管轄区内でメカニズムを設立できるという点で、明らかに重要な潜在性を有する課税メカニズムである。しかし、当委員会は検討の結果、この税は資金が国内レベルで徴収されるという点において、もう一つのオプションである「中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)」と比べ、地球公共財に資金調達するという任務には適していないと考えた。

中央システムでのグローバル決済時点で外国為替取引に料金を課す方法は、世界的連帯のジレンマの解決に直接取り組む方法となる。この案の最も重要な課題は、外国為替取引を中央決済から移転させるインセンティブをこの税が与えてしまう可能性があることである。しかし当委員会は、中央決済を促進する経済手段、規制手段を用いた勢力の方が、全体としてそのようなインセンティブに勝ると考える。

 

バーゼル委員会では既に、承認されたメカニズムを通した中央集権的な決済を使用しない取引に対する自己資本比率規制を採用することにより、中央決済システムがもたらす安定性の利益を内部化しようとするイニシアティブが存在すると聞いている。この要件は、バーゼル合意の第一の柱に追加されるか、第二の柱における監督の裁量のメカニズムを通してこのイニシアティブが取り入れられるかのどちらかであろう。後者の場合、バーゼル合意の改正を必要としない。このような動きは、もし正しく調整されれば、中央決済を促進する勢力をさらに強化することになる。

これらの勢力は、法的措置(例えば、下位指令で定める税の遵守に関する規定、確固とした反租税回避規制、税外取引の実施可能性に対する法的保護の欠如)と組み合わせれば、CTTの適用により発生する阻害要因を相殺するどころか、これに勝ることになるだろう。

さらに我々は、税を徴収した中央決済システムが、国際開発と環境危機への資金調達を担う機関にその税収を直接渡すことを推奨する。そのような機関がどのように機能するかについて、いくつかの提案を下に示す。

我々は「税(tax)」ではなく「課徴金(levy)」という言葉を意図的に使用する。上述したように、当委員会はこれらの税収を、「グローバル・コモンズ」へのアクセス、およびグローバル化した経済圏の富の共有へのアクセスを反映して、広く世界経済に課する「料金」であると捉えている。このため、これを「通貨取引税」と考えるのは適切ではなく、「世界連帯課徴金(Global Solidarity Levy)」と考えるのが適切である。



[31] 2002年、中央銀行と世界的民間銀行のコンソーシアムが、外国為替取引の決済をより確実なものにするため、多通貨同時決済銀行(Continuous Linked Settlement (CLS) Bank)を設立した。CLS銀行は、決済インフラの世界的中枢となっている。同銀行は他に類を見ない市場主導の機関で、市場参加者にネッティング(相殺決済)・決済サービスを提供し、世界の17主要通貨に制度的枠組みを提供している。CLS銀行には59の銀行が加盟しており、これら59行はCLS銀行を所有する持株会社であるCLSグループの株主でもある。CLS銀行の企業統治および、CLS銀行がどのようにデータ、リスク・エクスポージャー(リスクにさらされる度合い)、加盟銀行へのサービスの管理を行うかについては、これらの59株主銀行が責任を負っている。これら59加盟銀行に加え、現在合計7070の参加機関、参加主体がCLS銀行のサービスを利用している。これらの第三者参加者のうち、6620機関が投資銀行で、残る450機関は銀行、企業主体、その他銀行以外の金融機関である。このため、CLS銀行のネットワークの範囲は幅広く、同銀行が提供する外国為替決済サービスの範囲もまた、これらの機関や主体による外国為替取引に及んでいる。外国為替決済市場におけるCLS銀行のシェアが増加していることから、同銀行は将来的に外国為替取引の価格や出来高に関するデータの管理、収集を制度的に支配することになると考えられる。とはいえ、この市場シェアの成長は危ういものである。もし加盟銀行やその顧客が取引銀行間(二行間)などのより従来型の方法を使用する、または他の決済取り決めを使用するなどしてFX取引を決済するとの決定を下せば、このシェアは減少する可能性がある。しかし、CLSを通して決済を行う加盟銀行とその顧客金融会社・機関はリスク削減に関して多大な利益と相乗効果を得ており、外国為替取引に対する非常に低率の取引税を回避するためにこれらの重要な費用の優位性を犠牲にしたいとは恐らく思わないだろう。

[32] 潜在的税収の見積額については、国際決済銀行(BIS)の外国為替とデリバティブ(金融派生商品)取引に関する3年ごとの調査(Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Derivatives Market Activity)に頼っていることがほとんどである。しかし前回の調査は2007年であり、2010年の調査は当委員会の報告が終了した後に発行される予定である。この問題を解決するため、我々は、主要な外国為替取引センター(ロンドン、ニューヨーク、東京)の出来高データを照合し、これを元に世界レベルの傾向を推定することにより、世界レベルでの数値を見積もった。

[33] 「これは、時差により銀行間資金送金システムの営業時間が重ならないことによって起こる通貨間決済リスクである。この状況下では、一方の取引先側の決済が不履行となることで横断的な不履行の連鎖反応が起きる。1974年6月に、取引先からの支払いを受け取った後契約を決済すべき期間に破綻したドイツの小規模銀行(Bankhaus Herstatt)の名前にちなみこのように呼ばれる。」(BusinessDictionary.comより)

[34] 金融サービスIT調査会社であるタワーグループ(Tower Group)は、CLS加盟銀行、利用者、第三者が1999~2003年に既存または新たなITインフラに費やした費用は、1億8300万ドルだと見積もっている。

[35] スプラット(Spratt, 2006)は、CLSを通して処理される各取引の費用は他の方法に比べ相当に低く、これによりCLS参加者は6000万ドル以上の純益を得ているとしている。またスプラットは、CLSのネッティング(相殺決済)処理によって、流動性確保のための必要額(liquidity requirement、各機関がシステムに払い込む必要のある額の合計)が取引全体の総額の2%で済むという点も指摘しており、CLS参加者はこのメリットにより年間54億ドルの利益を得ていると見積もっている。またスプラットは、CLSシステムによって少ないスタッフでより多額の取引を行うことができるようになり、年間120億ドル強という大幅な効率向上につながっているとしている。

[36] ドイツ国有銀行であるドイツ復興金融公庫(KfW)は、リーマン・ブラザーズ倒産の日に3億ユーロを送金した。CLSを通さない取引であったため、KfWはドルの支払いを受けられず、ユーロの回収もできない事態となった。

[37] CLSによると、現物、スワップ、アウトライト先物の価格の75%がCLSを通して決済されているという。2009年10月にCLSにより決済された支払指図書の合計価格は一日平均3.766兆ドルであった。

[38] 通貨デリバティブの売り手にとって、そのデリバティブが有効な期間中管理し続けるということは、原資産の額の一部に関する現物取引が絶え間なく発生することを意味する。

[39] デリバティブを利用して、従来のFX取引に対する税を回避する方法は2つある。一つは、例えばローンと2つのオプション取引(コールとプット)を組み合わせることにより、デリバティブ商品を利用して現物取引を人工的に再構成することである。もう一つは、例えば通貨自体の代わりに二種類の通貨建ての流動性を有する証券(財務省短期証券のような)をスワップ取引することである。問題は、このような回避行為が行われる可能性はどの程度あるかという点である。これらの操作は純粋な従来のFX取引(現物またはFXスワップ)より費用がかかりリスクが高いため、従来のFX取引に対する税率が十分低く設定されていればこのような操作を行う価値は見出せないだろう。

[40] 多くの国の金融セクターに適用されている既存の印紙税、有価証券取引税、不動産取引税の経験がある。領土外の管轄区に関する発想は、これまでの経験から得ることができる。例えば、EU貯蓄指令(EU Saving Directive)における支払代理人(paying agents)システムが多数のオフショアセンターへ拡大されていること、仲介業者に資格を与えるという米国の考え方、また多くの管轄区における、賃金、配当、金利に対する国境を越えた源泉徴収税の負担義務に関する経験などがある。

[41] 国内の税務当局が徴税を監督するため、税のこの部分に関する民主的管理は国内レベルで行使されることになる。税の支出側については、これ以降に説明されるように、税収を受け取り資金を分配する「グローバル基金(Global Fund)」の統治構造により、民主的に管理することができる。

[42] 多通貨CTTでは明らかに、金融取引税(FTT)や単一通貨CTTよりさらに、各国間で税の適切な共通設計に合意する必要がある。これらの設計には、課税対象の取引と資産、課税対象の活動、税基盤と税率、納税者、徴税を委任・指示される金融仲介業者を承認するための基準についての、一致した定義が含まれる。各国は、二重(または多重)課税を避けるために、共通に合意された個人または対象領土の関連要素に従って税の徴収(を共同で委任すること)ができるよう、各々の課税の権利・権力に関する主権を共有することに合意しなければならない。しかし多通貨CTTでは、一国の通貨ではなく、参加管轄区内の外国為替市場全体が対象となる。つまり、取引に関与する通貨の種類、取引先(の住所)、仲介業者に拘わらず、全参加管轄区における全ての取引が課税される。このような税はその適用においてより中立的であり、全ての市場参加者にとって公平な競争の場を提供できる。さらに多通貨CTTでは、この共有メカニズムに参加していないが参加国の管轄区内で取引されている国の通貨が関わる取引に対しても、課税することができるのである。このことは徴税を行う決済機関レベルでの実際的な実施を大幅に簡素化、促進し、類似の単一通貨課税より多くの税収をもたらす可能性が高い。

多国間での導入では当然、課税の権利に関する摩擦のリスクや多重課税を排除できるが、海外にある領土外の課税執行管轄権(徴税)の委任、組織化を伴うことを意味する。適切な枠組みとしては、基本的な課税の特徴、定義、相互協力を含む多国間協定および/または地域的取り決めが考えられる。さらにこれらは各国で実施され国内法に統合されることになる。

[43] 参考:多くの国の金融セクターに適用されている既存の印紙税、有価証券取引税、不動産取引税の経験がある。領土外の管轄区に関する発想は、これまでの経験から得ることができる。例えば、EU貯蓄指令(EU Saving Directive)における支払代理人(paying agents)システムが多数のオフショアセンターへ拡大されていること、仲介業者に資格を与えるという米国の考え方、また多くの管轄区における、賃金、配当、金利に対する国境を越えた源泉徴収税の負担義務に関する経験などがある。

[44] 脚注22参照。(訳注)脚注22:コンプライアンスに関わる市場参加者の負担(徴税を担う公認の仲介業者を通さない取引を行う場合)には次のようなものがある―納税申告の提出、取引先への税の支払いと税の徴収、より詳細な報告を市場規制当局に行うことによる取引データの監視、税務当局による管理。税務当局による管理は、市場規制当局への報告および当局による監視に基づくもの、SWIFT(国際銀行間通信協会)や類似機関のメッセージシステムが要求する情報に基づくものが考えられる。また税務当局による管理は、(資金洗浄、テロリズムへの資金調達などの)不法な資金フローの領域における監視機能を持つ総合的な金融情報サービスとの協力の下行われることが考えられる。税収がEU予算に使用される場合には(EUの開発資金を含む)、欧州不正対策局(OLAF)が関わってくるEUの「経済的利害」保護のためのEU法もまた、適用されることになる。

 

 

 

 

原典: http://www.leadinggroup.org/IMG/pdf_Financement_innovants_web_def.pdf

5、環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現をめざして ―地球規模課題に対する新しい政策提言―

国際連帯税推進協議会(寺島委員会)最終報告書、2010 

 

国際連帯税推進協議会(通称、寺島委員会)は、国際連帯税、とりわけ通貨取引税の内容 と方法、税収の使途、ガヴァナンスを検討し、日本からその実現の道を切り開いていくこと を目的として、国際連帯税創設を求める議員連盟(2008 年 2 月設立)との密接な連携のも と、2009 年 4 月に創設された。委員は、この分野に関心をもつ研究者、NGO、国会議員、 労働組合、金融業界によって構成され、外務省、財務省、環境省、世界銀行がオブザーバー として参加した。協議会はこれまでに 10 回開催され、2009 年末に中間報告書を作成し、そ れをふまえて今回の最終報告書が完成した。

 

原文PDFはこちら。

「環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現めざして」

6、IMF中間報告書 金融取引への課税:実務上の実現可能性の評価

IMF中間報告書     WP/11/185

IMF(国際通貨基金)財政局

 

金融取引への課税: 実務上の実現可能性の評価

 

著者: John D. Brondolo[1]

配布認可者: Michael Keen、Juan Toro

2011年8月

I. はじめに

 

本文書は、様々な金融商品に対する金融取引税(FTT)徴収の管理実現可能性を検討するものである。現在このテーマには、政治家、市民社会組織、学者が多大な関心を寄せているとともに、金融セクターへの課税の様々な選択肢に対する政策・管理メリットに議論が集中している。FTTに関するこの重要政策課題については、本文書以外でも幅広く議論されている。例えばIMF(2010a)およびMatheson(2011)では、税収確保と金融市場破綻の軽減を目的とする場合には、他の課税措置がよりふさわしいとの議論を展開している。本文書では、管理実行可能性の問題、つまり広い基盤を持つFTTが管理可能であるか、またそれをどのように行うかという点にのみ焦点を合わせている。

 

FTTは金融商品の取引に課する税である。 同税は金融商品の売買および、定義上は売買と見なされなくとも同様の効果のある金融取引の形態(例えば種々のデリバティブ(金融派生商品))に適用することを想定している。FTTは1種類の金融商品、少数の金融商品、または広範囲の金融商品(株式、確定利付き証券、デリバティブ、外国為替など)に課税することが考えられる[2]。いくつかの国が現在FTTを徴収しているが、大抵の場合、少数の金融商品(最もよく見られるのが株式および債券)[3] への課税である。

 

FTTはいくつかの手法により構築することが可能である。同税の管理における主な特徴は以下の通りである。

 

・同税は金融商品の最初の発行時、同商品のその後の取引、またはその両方に適用できる。

・同税は、取引により持ち主が変わる金額、取引の想定元本、またはその他の様々な査定方法に基づきさてい評価

できる。

・一定の種類の取引また一定のカテゴリーに当てはまる者を免除するよう設計することができる。

・同税は、単一の税率または複数の税率で、従価方式(%)または特定金額(固定額)の税として課税することができ

る。

・同税は、売り手、買い手、またはその両方に課税することができる。

・取引所、手形交換所、または市場参加者が徴収することができる。

 

金融取引への課税という考え方には長い歴史がある。ケインズは1936年、有価証券取引に対し相当な額の譲渡税を課すことにより、金融市場での投機を減らす可能性を提起している。[4] その40年後、トービンは通貨市場の不安定性を低減する手段として通貨取引への課税を提案した(Tobin, 1978, 1996)。それ以降、FTTの長所・短所が広く議論され、現在もその議論は続いている。

 

近年、FTTへの新たな関心の高まりが見られる。この関心の高まりは、次のような動きが一因となっている。2009年1月にピッツバーグで開催されたG20サミットで、G20首脳らは、2010年6月のトロントでのG20サミットに向け、銀行制度修復のための政府介入に関わる負担に対し金融セクターが公正かつ実質的な貢献をする手段のオプションについて、IMFに報告書を作成するよう依頼した。2010年6月のサミットに向け、学者、市民社会組織などが、FTTを含む様々な税政策について意見を述べた。この中で、FTTの支持者の中には、FTTのような税が(国際開発を含む)様々な目的のために歳入を確保する手段として、また金融市場が破綻するリスクを低減するための手段として、有用であると考える者もいた。

 

IMFG20首脳への報告書の中で、IMFが助言を求められた課題に対しては、FTT以外の課税政策がよりふさわしいとの見解を示した。[5] 同報告書では、過去の賃借対照表項目に基づき「回顧的に」金融機関への負担を課すことが、近年の危機時の金融機関に対する直接支援で発生した財政費用を回収する方法として、最もゆがみを抑えた方法であるという提案をしている。また同報告書では、将来の金融破綻の原因を取り除くために、次の二つの税を提案している。(1)過度のリスクを冒す行為を抑え、将来の破綻の直接的財政費用を賄うための、解決メカニズムにつながる、金融安定負担金(FSC:Financial Stability Contribution)および、(2)将来の金融危機のより広範な財政的、経済的費用を賄うこと、金融セクターが巨大すぎることによる税のゆがみを相殺すること、過度のリスクを冒す行為をさらに減らすことを目的とした金融活動税(FAT:Financial Activities Tax)である。[6]

 

トロントサミット後も、引き続きFTTは注目を集めてきた。例えば、「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」が2010年に作成した報告書では、グローバルな通貨取引税の採用を提案している。[7] 2011年1月、欧州委員会は、2011年夏までに金融セクターへの課税に対する影響評価(FTT導入の影響評価を含む)を作成することを示唆した。[8] また2011年2月には、同議題について関係者が意見を述べる諮問論文を発行した。2011年3月、欧州議会はFTTの導入を欧州連合(EU)に強く求める決議を採択した。このような中で、FTTの支持・反対に関する議論は、主に同税の政策的影響と管理実現可能性に集中して行われるようになっている。

 

FTTに関しては、いくつかの政策的懸念が挙げられている。FTTは、歳入を創出するものであると同時に、有価証券の価値を下げ、使用者にとっての資本の費用を増やし、金融市場の流動性を低下させることから、非効率な手段であることが分かったためである。金融市場規制とバブル予防に関するFTTの効力についても懸念の声が上がっている。つまり、FTTが短期的な価格の不安定性を抑えるという説得力のある証拠はなく、また資産バブルは過度の金融取引数というよりは過度のレバレッジにより引き起こされることが分かっているのである。さらに、FTTの実際の負担は、金融セクターの収益にかかる(そのように想定されていることが多いようであるが)というよりは、主に最終消費者の負担となるという可能性も指摘されている。[9]

 

FTT導入を計画する国は、税管理の問題についても相当の検討をする必要がある。一般的な議論として金融取引への課税の実現可能性評価を行っている論文はすでにいくつかある(Griffith-Jones 1996, Schulmeister 2008, Kern 2010, Leading

Group 2010)。また、特定の種類の金融商品、特に外貨取引に対して、取引税を適用する方法を詳細に説明した論文もある(Kenen 1996, Schmidt 1999, Spahn 2002, Hillman, et. al. 2006)。しかし、幅広い金融商品に適用するFTTの管理について、その実現可能性と選択肢を掘り下げて評価した論文は、我々の知る限りではまだ存在しない。

 

原則として、FTTは他の税以上に管理が困難というわけではなく、逆により簡単な側面もある。他の税に適用されるのと同じ管理業務、つまり、納税者の登録、税の査定と徴収、税負担の検証が、FTTでも必要となる。これらの業務にはFTTのいくつかの特徴が有利に働く。同税が取引ベースで課税されるため、多くの金融商品について税負担額の計算がかなり容易になる。金融セクターの記録能力が高いことから、同税の計上が容易になる。また、FTTの対象主体数が比較的少ないことから、同税の管理に関する税当局の作業量が削減される。

 

実際には、FTTの管理にはいくつかの難題がある。その中には、同税の地理的範囲、課税対象となるイベント、税基盤、課税対象者の定義といった、概念的な問題に関わる課題もある。また、金融商品は非常に流動性が高く、常に革新されていくため、課税対象外の管轄区や商品へと取引を移動させることにより租税回避が可能となるという問題もある。

 

ケインズおよび後にトービンがFTTを提案して以降、同税の実現可能性を促進する発展および、同税の実現可能性を複雑化させる発展があった。実現可能性を促進した要素としては、金融商品の決済における手形交換所の役割の拡大、自動取引プラットホームの急増、紙ベースの有価証券から電子記帳式の有価証券への変換、近年いくつかの国においてデリバティブの相対(OTC)取引の規制が強化されたことが挙げられる。実現可能性を複雑化させた要素としては、新しい複雑な金融商品の創造、増加の一途をたどる金融取引量、進む金融市場のグローバル化が挙げられる。

 

これらの背景に照らし、本文書では、広い基盤を持つFTTの管理実現可能性を評価する。それにより、このような税を、(1)上場商品、(2)OTC商品、(3)外国為替商品、という3つの広範かつ一部重複する金融商品カテゴリーに適用する方法について検討する。(3)に示す外国為替商品については、取引所およびOTCで取引されるものであるが、外国為替市場が大規模であること、取引の性質がグローバルであること、これらの商品への課税に対する注目度が高いことから、独立した一つのカテゴリーとして扱う。本文書では、これら3つの各カテゴリーについて、FTTの管理を促進または複雑化する要素、同税の査定と徴収のオプション、起こる可能性の高い遵守に関わるリスクの種類、これらのリスクを緩和する方策について、検討する。[10]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IV. 外国為替商品

 

外国為替市場に対するFTTの課税というのは、特に難しい分野である。取引が主にOTC取引であること、限定的な規制しか持たない国が多いことから、課税対象取引と課税対象者を特定する税当局の作業が複雑になるのである。さらに、通貨取引の範囲が世界的であり、大規模銀行が取引デスクの世界的ネットワークを維持していることから、取引を非課税の管轄区へ移動して租税回避を行うことが特に容易にできてしまう可能性がある。

 

とはいえ、以前より現在の方が対処しやすくなった可能性のある課題もある。過去数年間に起きた制度上の進展によって、通貨取引への税を管理できる新たな可能性が出てきた。これらの進展のうち、最も重要なものは、本節で述べるように、多通貨同時決済(CLS)銀行という単一の決済機関を通して決済される外国為替(FX)取引の割合が高まっていることである。

 

外国為替取引に取引税を課している国は数少ない。その一例はブラジルで、主に資本フロー管理の手段としてFX取引(およびその他の金融商品)に課税している。通貨取引に対するFTTの設計は、同税の主目的が資本フロー管理か歳入確保かによって変化するが、徴税の管理機構は政策目的が異なっても概して同じになると考えられる。[11] この観点から、下に示すように、ブラジルの例は通貨取引に対するFTTの実際の適用について有用な識見を提供するものとなっている。

 

A. 市場における組織、商品、および規制環境

 

外国為替市場は最大級の金融市場で、世界で一日に約4兆米ドルが取引されており、その内訳は、従来の外国為替商品(スポット、外国為替スワップ、アウトライト・フォワード)が3.7兆米ドル、非従来型の商品(通貨スワップとオプション)が0.3兆米ドルである。[12] 最もよく普及している外国為替商品の定義を表3に示す。

 

3.普及している外国為替商品

商品

定義

外国為替スポット取引 一つの通貨でもう一つの通貨を購入または売却する行為で、通常受け渡しは取引日の2日後に行われる。
外国為替オプション 事前に合意されたレートで、満期日に一つの通貨をもう一つの通貨に交換する権利(義務ではない)を買い手に与える契約。
外国為替先物取引(フューチャー) 二つの異種類通貨を事前に合意された日に事前に合意されたレートで交換する取決め。アウトライト・フォワードと似ているが、OTCではなく取引所で取引される。
アウトライト・フォワード 事前に合意された将来の為替レートと日において、ある種類の通貨を異種類の通貨に交換する単一取引。「アウトライト」とは、先渡し(フォワード)を外国為替スワップと区別するための用語。前者は単一取引で、後者は多くの場合スポット取引とそれに続く先渡し取引で構成される。
ノンデリバラブル・フォワード(NDF) アウトライト・フォワードと似ているが、満期に二つの異種類通貨の物理的な受け渡しは行われない。その代り、契約した決済日に、合意された想定元本について、(i)契約したフォワードの為替レートと(ii)スポットの実勢為替レートの差額に基づき、一方の当事者からもう一方の当事者に現金決済が行われる。NDFは現金決済される商品であるため、想定元本が交換されることはない。
外国為替スワップ 2者が、事前に合意された日(通常、スポット日とフォワード日)に事前に合意されたレートで、一定額の通貨の売買および買戻し・売戻しを同時に合意する契約。
通貨スワップ 事前に合意された期間毎に、ある種類の通貨での元本と金利(固定または可変)の両方を、異種類の通貨での元本と金利(固定または可変)に交換するスワップ。取引の最後に、両者は元本を互いに交換しなおす。金利スワップと異なり通貨スワップの元本を交換できるが、通貨スワップの金利は異種類の通貨に基づくため純支払はできない。

 

外国為替市場は、銀行間取引市場と顧客市場の2種類に分かれる。銀行間取引市場は、直接または外国為替ブローカーを通して互いに取引を行うディーラー(通常は大銀行および証券会社)に支配された市場である。[13] 顧客市場では、ディーラーは顧客と取引を行う。顧客には、比較的小規模な銀行、年金基金、投資信託、ヘッジファンドなどの金融機関や、外国貿易・対外投資に携わる金融機関以外の機関が含まれる。取引の大部分(87%)は、ディーラーと他の金融機関の間における取引で、残りの13%は、ディーラーと非金融機関の間における取引である。[14] 銀行間取引市場においても顧客市場においても、スポット、先渡し(フォワード)、先物(フューチャー)、オプション、その他の通貨取引が行われる。

 

外国為替取引は、世界的に、そして少数の金融機関で集中的に行われている。大抵の取引はOTCで行われ、集権的な取引所で行われる取引は比較的少額である(特に外国為替先物取引(フューチャー)、外貨オプションの場合)。FX取引は世界市場で行われ、その外国為替取引の3分の2は越境取引である(BIS, 2010)。取引される商品が均一な性質を持つことが、越境取引を促進している。この均一な性質のために、異なる金融センターでも同じように容易に通貨の売買ができるのである。市場は非常に集中して存在しており、不釣り合いなほど多額の取引額を各国の少数の大規模金融機関が扱っている。[15]

 

規制環境は国により、また市場の種類のより様々である。一般的に、取引所で取引される通貨市場は、より大規模なOTC通貨市場より厳しく規制されている。厳しい規制が敷かれた国では、企業が外国為替取引に携わるためには認可が必要で、取引可能な商品の種類と外国為替予約に含めるべき情報が規制で定められており、トレーダーは当該規制機関に個々の取引に関する情報を報告しなければならない。それほど厳しい規制が敷かれていない国では、銀行や証券会社は通常OTCでの外国為替に関わる活動に携わるために認可を義務付けられることはなく(他の目的のために登録を義務付けられている場合もあるが)、OTC取引のための条件として公式の規則や規制は存在しない(ただし市場参加者がベストプラクティス指針を作成する場合もある)。このような国では、事業取引を取り締まる標準的な商法に従ってさえいれば、取引を行う2者が満足する条件・規定ならどのようなものでも採用してFX取引を行うことができる。

 

B. 管理オプションとその実現可能性

 

外国為替取引への課税管理について、いくつかの方法が評者から提案されている。

トービン(1978)が提案した最初の案は、少なくとも全ての主要通貨国によるスポット取引に一律の税率で課税するというものであった。トービンは後に、租税回避に歯止めをかけるためには、短期のフォワードやスワップなどの、スポット取引に似た代用品となる商品も課税対象にする必要があると認めている(Tobin, 1996)。続いて、通貨取引に対するFTT適用のための管理取決めの概要が、他の評者から提案された。これらの取決め案の主な違いは、同税を市場参加者が自己査定するか、決済機関が源泉徴収するかという点である。

 

一つのアプローチとしては、外国為替予約が確認された時点で市場参加者が税の自己査定を行うという、ケネン(Kenen, 1996)が提案した案がある。このアプローチの下では、銀行その他の外国為替ディーラー(これ以降「銀行」という)は、課税対象の管轄区内において各銀行の取引デスクが行った全種類の外国為替取引について徴税する。銀行は定期的に(毎月、毎四半期、またはその他の定められた期間毎)、納税申告書を税当局に提出し税負担の申告と政府への税の送金を行う。国の税当局は、管轄区内で行われた取引に対する納税義務を銀行が遵守しているか否かを監督する。

市場参加者を通した自己申告によるFTTの徴収には短所と長所がある。主な長所としては、この徴税は既存の管理方法に基づくため、決済機関において新たな源泉徴収の取決めを導入する必要がない。また、銀行が、定期的な所得申告を行い、徴収した税を政府に送金するまでの間、一時的に銀行が徴収した税を保持できるようにすることで、FTTを支持する大きな金銭的インセンティブ(フロートという形で)を銀行に与えることになる可能性がある。主な短所としては、決済機関ではなく市場参加者から直接徴税する場合、税当局はより多くの取組が必要になり、またより大きな納税遵守リスクに直面することになる。さらに、税の査定、経理、徴収に関わる時間と費用という負担が市場参加者に課されるという問題もある。

 

これに代わるアプローチとしては、決済機関が税を源泉徴収する取り決めを行うことである。銀行の取引デスクが外国為替予約を行うと、取引相手との間で通貨(多くの場合銀行差額)が送金された際に、最終的にその取引が決済される。決済は様々な方法で行われる(BOX 4参照)。この点については、CLS銀行や各国の大口資金決済システム(LVPS)のような決済機関に対し、決済済みの各取引に課税・徴税することを義務付けるよう提案する評者もいる。[16] この手法は、英国の清算機関(CREST)が有価証券取引に対する印紙税を徴収する方法と似た形で機能することになる(Section II)。

 

 

BOX 4. 外国為替取引の決済方法

金融機関が行う外国為替取引の決済方法には主に4つの方法がある。

多通貨同時決済(CLS)銀行:売却された通貨を受け取った場合のみ購入された通貨を支払うようにする、専門の決済機関(Appendix 2)。

従来の取引先銀行を通した取引:取引する者が取引先銀行を通してその者が売る通貨で相手の銀行預金に送金する。送金は多くの場合、各国の大口資金決済システム(LVPS)を通して行われる。

双方向相殺決済(相互ネッティング):特定の日が満期の2当事者間の取引が相殺され、従来の取引先銀行を通した方法など、他の方法を通して正味額が決済される。

 “on-us”決済:外国為替取引の両レッグ(取引の両行程)が単一機関の帳簿を通して決済される。これは、一つの銀行がその銀行の顧客と取引しており、その顧客が両方の取引通貨ベースの口座をその銀行に持っている場合など、様々な場合に行われる。

 

 

CLS銀行は、世界の外国為替取引の50%以上を決済しており、これらの取引から徴税するためにCLS銀行を利用することもできる。[17] CLS銀行は、通貨取引の決済不履行リスクを減らすために、複数の最大規模の外国為替銀行が2002年に設立した、外国為替決済の専門機関である(CLS銀行の事業の詳細についてはAppendix IIを参照)。各CLSメンバーはCLS銀行に複数通貨口座を持つ(メンバーでない者は、メンバーを通してCLS銀行にアクセスすることができる)。決済のために外国為替取引がCLS銀行に提出されると、2当事者の口座で、売却された通貨の額の引き落とし、購入された通貨の額の入金が同時に行われれる。CLSは、売却された通貨を受け取った場合にのみ購入された通貨を支払う仕組みとなっている。これにより、CLSは決済プロセスにおける信頼された第三者機関の役割を果たす。

 

CLSは徴収した歳入を様々な方法で配分することができるだろう。例えばCLS銀行は各取引ベースで課税し、税収を各国または取引当事者が位置する国に送金することができる。または、税収は(取引当事者が位置する国ではなく)取引に使用された通貨の国に蓄積させることもできる。ただし、この方法では、ある国に位置する銀行が他の国の通貨を取引した場合(例えば韓国にある銀行がユーロと円を取引した場合)などに、管轄権上の大きな問題が起きる可能性がある。重要な点として、CLS銀行では、外国為替取引の様々な種類を判別することができる(スポット、フューチャー、オプションなど)ため、必要であれば各種類の取引に異なる税を適用することもできる。

 

各国の大口資金決済システム(LVPS)を外国為替取引税の徴収に利用することもできる。各国は少なくとも1つのLVPSを運営している。LVPSは、主要金融機関が、中央銀行の口座を通して大口資金または緊急の支払いを行うために利用する。[18] 銀行は多くの場合、中央銀行の口座から相手の中央銀行に(または相手の取引先銀行の口座に)差額を送金するために、LVPSを使用して、外国為替取引を決済する。原則として、LVPSは、税の査定を行い税収を政府の口座に送金することができるだろう。この作業は、金融機関が現在利用している標準メッセージシステムを使用して行うことができると提案する評者もいる(Hillman et. al.)。標準メッセージシステムは、確認指示のコピーを当該LVPSに送ることによって、外国為替取引を確認するために金融機関が利用しているシステムである。コピーを受け取った当該LVPSは、税を査定し徴収することができる、というものだ。[19]

 

決済機関を通して通貨取引に対するFTTを徴収することには、重要なメリットがある。主な長所は、遵守しない可能性を低くできる点と、銀行に対する記録義務を減らすことができる点である。前者については、第三者が税を源泉徴収する場合(例えば雇用者が個人の所得税を従業員の給与から源泉徴収する場合)、納税者から直接徴税するより、遵守率が高くなることは、文書で十分に立証されている(GAO, 2006)。後者については、決済機関が徴収する税が最終版であると見なされ、銀行は納税義務を果たすための広範囲に及ぶ報告システムを維持する必要から解放される。

 

FTTを徴収するために決済機関を使うことには、いくつかのデメリットもある。

・第一に、FTTを管理するためには決済機関のコンピューターシステムを大幅に技術的に強化させる必要がある可

能性がある。これには追加的コストを伴い、また導入には時間がかかる。この問題については、多くの国の大口資金決済システムは外国為替の支払いとその他の支払いを区別する機能を持たないため、そのような機能を持たせるためにはかなりの取組が必要となる可能性がある。

・第二に、決済機関に徴税の責任を追加して負わせることは、円滑で安全な支払サービスを提供することで金融の安定化を推進するという、中心的目的から決済システムを逸脱させる可能性がある。

・第三に、CLS銀行を通してFTTを適用し、他の決済機関に適用しない場合、非課税の決済システムを通して取引を決済するインセンティブをユーザーに与えることになる。このような結果となれば、CLS銀行が開始されて以来提供してきた、決済リスクを低減するという重要なメリットが損なわれる可能性がある。税率によっては、CLS銀行を使用することによるメリットが、取引税のコストを上回る可能性があるとの証拠も出ているため、この懸念は完全に根拠があるとは言えないかもしれない。[20] いずれにせよ、CLS銀行またはその他の徴税を行う決済機関以外で決済を行う取引の割合に合わせて、各銀行に高い資本費を適用すれば、トレーダーがCLSを利用するのを止めるリスクをある程度減らすことができる可能性がある。

・最後に、決済機関を通して徴税することにより銀行の記録負担が減るという潜在的利益は、誇張され過ぎている可能性がある。決済機関が課税対象の取引全てに対するFTTを源泉徴収できない限り(そしてそのような源泉徴収は実現可能ではないと考えられる妥当な理由がある)、各銀行は結局、決済機関外で決済した取引に対する税を計上するために、報告システムを設置する必要が出てくる。

 

上記の問題は、十分な資源と政治的支持があれば解決できるかもしれないが、十分に注意深く評価する必要がある。同時に、決済機関を徴税のために利用する、または少なくとも決済機関が特定の当事者らのために決済した取引に関する情報を税当局に報告するようにできない場合、外国為替取引に対しFTTを適用することは、より難しく費用がかさむことになるという事実を、認識する必要がある。いずれにせよ、このようなシステムがうまく機能する例を、ブラジルに見ることができる。

 

ブラジルは、様々な種類の外国為替取引に取引税を課税している。ブラジルのFTTである「Impuesto sobre Operacoes Financieiras(IOF)」は、(1)外国為替、(2)有価証券、(3)融資事業という3種類の金融商品に課税されている。[21]

 

IOFはブラジルで行われる外国為替取引に課税される。同税はスポット取引とデリバティブの両方に課税され、資本流入(非居住者によるレアルの購入)と資本流出(居住者による外国為替の購入)の両方に課税される。スポット取引については、IOFは0.38%(38ベーシスポイント)で課税されるが、外国為替取引で得た現地通貨をどのように使用するかによって高い税率が追加される場合がある。[22] さらに、銀行間取引や輸出を含む、様々なスポット取引には一連の控除が設定されている。2010年に(外国為替だけでなく全ての金融商品に対して)徴収されたIOFは、連邦政府の歳入の1.9%を占めた。これはGDPの0.7%にあたる。[23] 

 

同税は、自己査定ベースで管理されている。IOFはブラジルで発生する取引にのみ適用され、納税義務は外国為替予約が決済される際に発生する(つまり、国内通貨が外貨と交換で受領または支払われる際に発生する)。同税は、外貨で取引することをブラジル中央銀行から認可された金融機関により徴収される。これらの機関は、外国為替取引の記録を維持し、これらの取引を中央銀行に登録することを義務付けられている。これらの金融機関は、各FX取引に対して課税し、各10日間サイクルの最後の日から3営業日後に政府に税収を送金し、毎月納税申告書を提出しなければならない。[24]

 

ブラジルは、金融機関のための査定プログラムを維持している。ブラジルの税当局は、サンパウロとリオデジャネイロに、金融機関の管理に責任を持つ2つの支所を持つ。これらの支所は、外国為替取引に対するIOFを含む、銀行が支払義務を負う全種類の税を審査する会計監査官の専門チームが行う、総合査定プログラムを持つ。

 

IOFの遵守に関する推定は存在しないが、過去に投資家が節税計画を立てた形跡がある。これは、資本規制とそれに関わる税を回避することを目的としたものである。これらには、短期資本を外国直接投資と偽る、ブラジルの基礎商品についてオフショアでデリバティブ取引を行う[25]、オプション条項が組み込まれた債券を発行する(Carvalho and Garcia, 2006)などの手法が含まれる。[26]

 

他の商品と同様、外国為替取引に対するFTTの課税を実現可能にするには、次の点に関して明確なルールと実用的な方法が必要になる。(1)同税の領土的範囲の確立、(2)課税の対象となる出来事と課税のタイミングの規定、(3)税基盤の評価、(4)課税対象者の特定、(5)税の査定と徴収。

 

同税の領土的範囲の確立について。国境を越えた外国為替取引が多額に上るため、これらの取引に対するFTTに関する領土的範囲を決定する際には整合性のあるアプローチを取ることが特に重要である。通貨取引は取引所とOTCの両方で行われるため、この分野における課題とアプローチは、前述の節で説明した、取引所およびOTCにおける取引に関するものとほぼ同じである。取引所におけるFX取引については、取引所が位置する国でFTTを課税するのが妥当なアプローチであろう。

OTCで行われる外国為替取引については、取引当事者が別々の国に位置することが多く、両方の国がその取引に課税する権限を正当に主張することができる可能性があるため、事態はより複雑である。この問題に対して考えられる解決策は、国境を越えたOTC取引についての議論の中でも述べたように、国はFTTの税率の半分をその国の登録納税者に支払わせ、残りの半分を、その国の非居住者で、FTT非課税国に居住する取引相手に課税するというものである(その国の非居住者で、FTT課税国に居住する取引相手の場合は、課税しない)。

 

課税の対象となる出来事および課税のタイミングの規定について。Section IIとIIIで述べたその他の金融商品と同様に、課税の対象となる出来事は、FTTの範囲となる全てのFX取引を含むよう、広範に規定することができる。また、課税のタイミングは、取引当事者同士がFX取引契約を結んだ時(発生ルール(accrual rule))または取引が決済された時(現金ルール(cash rule))とすることができる。これらルールの通貨取引への適用には、この論文で述べた他の取引と同様の長所と短所がある。[27] 「発生ルール」はトレーダーの納税義務の履行を遅らせないようにするという利点があるが、実際に取引が行われるまで取引される外国為替の額が分からない取引に対して無規則な課税が行われる可能性がある(オプション、フューチャー、フォワード、ノンデリバラブル・フォワード(NDF)、スワップなど)。このため、外国為替取引に関しては、取引される商品に応じて「発生ルール」と「現金ルール」の両方を使い分ける折衷型が適切ではないかと考えられる。[28]

 

税基盤の評価について。外国為替取引の税基盤は、他の金融商品と同じ方法で評価されるべきである。つまり、取引当事者同士が交換する、国内通貨ベースの金額(またはその他の対価)ということになる。この定義は、多種類のFX取引に容易に適用することができる。[29] しかし、これをノンデリバラブル・フォワード(NDF)などの商品に適用しようとすると、概念的問題が出てくる。NDFでは、取引当事者同士は二種類の通貨を実際に引き渡すことはなく、その代り契約期間における為替レートの変動に基づいて、一方の当事者が他方の当事者に相殺後の純支払額を支払う。このような商品の場合、純支払額にFTTが課税されると、取引当事者同士が実際に二種類の通貨を交換し、交換された総額にFTTが課税される場合と比べて、非常に低い税負担が課される結果となる。純支払と総額支払のどちらが税基盤として適切かの議論は、最終的にはこの二つの取引が同等のものか否かという点に集約される。一方で、この二つの取引は、両取引当事者にとって同じ利益と損失をもたらすため、これは同等の取引であると考えられる。これに基づくと、総支払額への課税が正しいと論証できる。他方で、NDF契約の両当事者は、取引終了時に通貨を実際に所有することによる利益を享受することはない。これに基づくと、純支払額への課税が正しいと立証できることになる。

 

課税対象者の特定について。通貨取引に対するFTTは、取引当事者に課税される。前述と同じ理由で、同税が法的にどちらの当事者に課税されるかは、経済学的観点からは重要なことではない。しかし、管理の観点から見た場合、特に同税を決済機関が源泉徴収するのが実現可能でない場合には、同税を二当事者間で折半することには利点がある。この取決めの下では、FX取引に携わるため登録された者は、取引の記録を維持し、税を請求し、政府に送金し、決済機関で徴税されたもの以外の取引について定期的に納税申告書を提出する義務を課される。小口または不定期のトレーダーは登録を免除されることも考えられるが、これらのトレーダーも登録者と取引した場合には課税される。

 

税の査定と徴収について。査定・徴税方法は、取引がどのように決済されるか、取引相手が控除対象者か否かによって異なる。

集中型の決済機関(CLS銀行など)を通して決済される取引については、決済機関が二当事者から半分ずつ税を課税・徴収することが可能であろう。このためには、政府は決済機関による徴税を定めた協定を決済機関と結ぶ必要がある。

集中型の決済機関で決済されない取引で、その取引が登録者(ブローカーディーラー[訳注:株式の仲買と自己売買を共にする業者]やその他の主要参加者)により行われる場合、二登録者は半分ずつ税を支払うことになる。[30] この手法では、税当局が二当事者間の取引を照合することができるため、遵守の確認が可能になるという重要な利点を持つ。さらに、FX取引において両当事者が同時に(一つの通貨の)「買い手」であり(もう一つの通貨の)「売り手」となる中で、「売り手」と「買い手」のどちらにどのように課税するかを決定するという、概念的問題を解決することができる。

集中型の決済機関で決済されない取引で、その取引が登録者と非登録者(小口のトレーダー)の間で行われる場合、登録者は税の半分を自ら支払い、残りの半分を非登録者に請求する。この手法は、登録者と非登録者の間で行われる取引において、税の全額を確実に徴収するために必要である(非登録者は徴税義務から免除されるため)。[31]

 

管理制度の設立について。FX取引に対する取引税を徴収するための機構を確立することは、大事業となる可能性が高い。CLS銀行と各国の大口資金決済システム(LVPS)を通して決済される通貨取引について、これらの機関に税の源泉徴収をさせるには、相当な政治的、財政的資源が必要となる。集中型の決済機関で決済されない取引の場合、または徴税に決済機関を利用できない場合、査定、計上、検証すべきFX取引の額が莫大であることを考えると、市場参加者を通して同税を徴収するには、多大な努力が必要となる。

 

C. 納税遵守リスクとリスク緩和

 

過少申告リスク

全ての税に言えることだが、納税者の中には自分が行った外国為替取引ついて支払う義務のあるFTTを過少申告する者が現れるだろう。ほとんどの外国為替ディーラーはFTT納税義務を期限内に全額申告し支払うことが予想されるが、制度に打ち勝とうとするか、または不注意によって、義務を果たさない者も出るだろう。例えば、ブラジルの外国為替取引税に対しては、前述のように様々な節税計画が存在した。

 

過少申告を取り締まるには、いくつかの対策を考慮する必要がある。まず出発点として、FTTの計算方法は単純にし、可能であれば徴税には決済機関を利用すべきである。例えば、CLS銀行および各国の大口資金決済システム(LVPS)は、銀行からFTTを徴収するか、または銀行の外国為替取引に関する報告を税当局に提供するよう義務付けられるべきである。このような取決めは、源泉徴収の対象となる税や第三者による報告の対象となる税の納税遵守率が最も高いことを明確に示した税管理における国際優良事例とも整合している。さらに、納税者と決済機関が報告する税の正確性を検証するためには、適切な罰則体制に裏打ちされた監査プログラムが必要である。

 

国境を越えた取引の過少申告に対処するためには、追加的措置が必要となる。FX取引に関する課税対象となる出来事を検証する作業は、国際銀行の子会社や支社が取引場所ではなく帳簿記入場所(自国または第三国)に記録を保持している場合には、さらに複雑になる。[32] この問題に対処するために、市場参加者は、記録の写しを取引場所で保持し、監査の際には提出することを義務付けられることになる。また市場参加者は、FTT課税目的のために取引場所においても彼らが行った外国為替取引について把握しておくことが義務付けられる。

 

移動リスク

通貨取引に対するFTTを一国だけで導入した場合、非課税の管轄区への大規模な外国為替取引の移動が起こるため、FTTが台無しなってしまうという主張がある。[33] このような懸念は大げさだと却下する意見もある。一カ国または少数の国によるFTTの導入が一定の取引の移動をもたらすことはほぼ確実であるが、移動する額やその結果発生する歳入の損失を正確に予測するのは難しい。しかし確実に言えることは、歳入の漏出を大きく左右するのは、移動により得られる利益(節税と遵守に関わる負担の軽減)と移動によりかかるコスト(銀行の取引業務の移動にかかる費用および、移動により発生する現地の顧客サービスの混乱)だということである。この観点から、FTTの税率を低く抑え、主要金融センターを持つ国々が共同でFTTを導入することによって、FTTの前途はより明るくなるだろう。

 

資産代用リスク

もう一つの納税遵守リスクとして挙げられているのが、トレーダーが課税対象の外国為替取引を課税対象外の外国為替取引で代用するという可能性である。これに関しては、もし同税がスポット取引のみに課税された場合、トレーダーは外国為替デリバティブ(フューチャー、フォワード、オプション、スワップ)で取引を行うことによって、税を回避する可能性がある。または、もっと複雑な方法として、二カ国の短期国債(またはその他の流動資産)を交換した後すぐにその国債を売却して銀行預金に換える可能性もある(Garber and Taylor, 1995)。

 

多国籍企業は、ストラクチャード・ローン(structured loan)を外国為替取引の代わりに用いることで税を回避しようとする可能性がある。例えば、1970年代にイングランド銀行は、ロンドン外国為替市場でFX取引を行う英国企業に対し、外国子会社の運営に資金提供するために、米ドルについて市場価格より割増したレートを支払うことを義務付けた。その結果、英国企業にとってロンドンでドルを借りる方がニューヨークで借りるより割高となった。このドル購入に対する税を回避するため、英国の多国籍企業は、パラレルローン、バックツーバック・ローンを米国の多国籍企業との間で手配した。[34] これらを手配したことにより、米国と英国の企業は、外国為替市場で実際に通貨を獲得することなくそれぞれの通貨を貸し借りすることができるようになり、税を回避することができた。(Schinasi et.al., 2003)。

 

トービンが提案したように、資産代用リスクに対する最良の解決策は、スポット取引に近い代替商品にもFTTを課税することである。これらには、満期の短いフューチャー、フォワード、スワップが含まれる。それでも多少は代替品利用の可能性が残るかもしれないが、最終的にはより複雑な(そして最適ではない)代用品を使用するコストが税により発生するコストを上回るようになるため、失われる歳入はそれほど大きくならない可能性がある。さらに税当局は、バックツーバック・ローンやその他の回避計画のような一定の種類の取引について報告義務を導入し、税法の回避対策条項を利用してそのような取引を課税対象取引として再定義することもできるだろう。[35]

 

D. 評価のまとめ

 

外国為替取引にFTTを課税することは、他の金融商品への課税より難しい。しかしこれらは解決不可能な問題ではない。外国為替取引が困難である原因は、外国為替市場がグローバルな性格を持つものであること、通貨取引を国境を越えて容易に移動させることができること、多くの国で同市場に対する規制が緩いことにある。もしCLS銀行のようなFX決済機関が徴税または少なくとも銀行の外国為替取引に関する情報を税当局に報告するようにできれば、これらの難題を減らすことができるだろう。もしこのような取決めが実現可能でないとなれば、外国為替取引に対する課税の見通しは、他の金融取引にも増して以下の点に左右されることになる可能性が高い。(1)主要な金融センターを持つ国々が、ある程度均一な形で協力して共同で同税を導入する。(2)租税回避のインセンティブを低減するよう低い税率で税を査定する。(3)スポット取引に似た代替商品を課税対象にする。(4)納税者が自由意思で納税義務を果たさなかった場合に、税当局がFTTの遵守を強制できるよう、十分な資源を税当局に提供する。

 

V. 結論

 

広範な基盤を持つFTTの導入を検討している国は、その政策目的と管理面の実現可能性を考慮に入れるべきである。税務政策の観点から、最近のIMFによる研究結果では、歳入創出と金融市場破綻リスクの緩和にはFTT以外の税手段の方が適切であることが述べられている。税管理の観点から、本文書では、FTT管理の実現可能性についていくつかの結論を導き出している。

 

FTTの実施がどの程度容易かは、金融商品によって異なる。一般に、組織化された取引所で取引され、集中型の決済機関で決済される商品の方が、OTCで取引され集中型の決済機関で決済されない商品より、課税しやすい。しかし、最近いくつかの国で行われた法律改正(OTCデリバティブに関する新たな金融規制の制定など)や進行中の制度的発展(外国為替取引の決済においてCLS銀行の役割が卓越して大きくなっていることなど)によって、以前よりも幅広い商品にFTTを課税することが容易になってきた。ただし、CLS銀行などの決済機関を徴税に利用する前に、これら決済機関を通してFTTを徴収する場合の意図せぬ悪影響の可能性(およびこれらの悪影響を緩和する措置)について、徹底した評価を行うべきである。

 

FTTの効果的な管理には、整合性の取れた法律制定が不可欠である。特に、FTTの法律には、同税の領土的範囲、課税対象となる出来事と課税のタイミング、税基盤、課税対象者を定める明確な条項が必要である。金融取引が多様であることと、複雑な商品が存在することから、「納税義務が現金ベースで課されるべきか発生ベースで課されるべきか(またはその両方か)」、「商品の想定元本を税基盤とすべきか持ち主が変わる額を税基盤とすべきか」、「現金で決済される取引への課税を純支払額に基づいてすべきかその基礎をなす総支払額に基づいてすべきか」といった、概念的問題が出てくる。法律の効果的な管理のためには、このような問題に対してうまく機能する解決策が必要になる。

 

取引所や清算機関を通してFTTを徴収することには大きな利点がある。これらの機関を利用することで、市場参加者が登録、税の徴収、送金を行う必要が無くなり、遵守・管理コストが削減できる。取引所や清算機関が利用できない場合は、課税・徴税の義務をブローカーディーラーおよび主要トレーダーに限定して課すことによって、市場参加者から直接FTTを徴収する際のコストを低減することができるだろう。小口の市場参加者や不定期の市場参加者はこの義務から免除されるが、ブローカーディーラーやその他の主要トレーダーと取引する際には課税対象となる。徴税が取引所や清算機関を通して行われないことになった場合でも、取引所や清算機関は、取引に関する情報を税当局に報告する必要がある。

 

FTTの遵守リスクに対処するには、適切なリスク緩和手法を適用する必要がある。納税者がFTTを過少申告するリスクに対しては、適切な罰則体制に支えられた施行プログラムが必要となる。金融商品の所有権の譲渡に関する法的地位を同税の支払いに関連付けることによって、過少申告を阻止することもできる。市場参加者の中には、取引を課税対象の金融商品から非課税の金融商品に移動しようとする者も現れる可能性がある。この問題に対処する最良の方法は、課税対象の金融商品に近い代替商品に対しても、税を適用することであろう。トレーダーが取引を非課税の管轄区に移動するリスクについては、移動のインセンティブを減らすような低い税率での課税を行うことで、そのリスクを低減することができる。

 

FTTの実現可能性は国際協力によって強められる。主要金融センターを持つ国々がある程度均一な形でFTTを導入すれば、各国がFTTを実施する自由度は高まり、税のアービトラージ(裁定取引)や取引移動の可能性についての懸念も低減される。

 

FTTの実施には入念な準備と計画が必要である。主な実施業務としては、法規制の制定、情報システムと管理手順の作成、税務官の補充と養成、納税者の登録、納税者の義務に関する教育がある。これらの業務を遂行する際には、官民両セクターの関係者と協議し、徴税のための管理に関する取決めを設計する際に関係者のニーズや懸案事項を考慮に入れることが不可欠である。各国による新税の実施を支援したIMFの経験から、FTTの導入には少なくとも18カ月はかかると考えられる(IMF, 1991参照)。新税を導入する場合、一般的に優良事例とされている方法は、様々な設計と実施業務を行う専門チームを税当局の中に設立することである。これにならい、税当局は、FTT管理が安定して最終的に税当局の主要業務にFTTを統合させるまでの間(実施の初期)FTTを管理するための、特別部署を設立すべきである。最後に、FTTの実施と管理のために、継続的に税当局に十分な資源(予算、人員、必要に応じて技術的支援)を提供することが極めて重要である。

 

原文:Taxing Financial Transactions: An Assessment of Administrative Feasibility

http://www.imf.org/external/pubs/ft/wp/2011/wp11185.pdf

 


[1] この文書の策定にあたり以下の皆様から大変有用な指導・コメントをいただきました。Roberto Benelli, Vieri Ceriani, Massimo Cirasino, Serge Cools, Carlo Cottarelli, Mark de Brunner, Randall Dodd, Simon English, Michael Gaw, Simon Gray, Miles Harwood, Michael Keen, Andrei Kirilenko, Robert Kramer, Heitor Lima, Antonella Magilocco, Thornton Matheson, Arbind Modi, Victoria Perry, Luc Robin, Christine Sampic, Alessandra Sanelli, Robert Schroeter, Bernd Spahn, Lawrence Sweet, Victor Thuronyi, Franz Tomasek, Juan Toro, and Koenraad van der Heeden. しかしいかなる誤り、記述漏れも著者に全責任があります。

[2] 現在のFTT提案者は支持していない考え方だが、当座預金銀行取引も同税の対象になりうる。

[3] FTT課税を行っている国の一部が、Matheson (2011)表1に示されている。

[4] Keynes(1936)、104~105ページ参照。

[5] IMF(2010a)参照。

[6] FSCは、最初は定額の拠出金とし(ただし金融機関の種類により額は異なる)、後に個々の機関のリスク度とその機関のシステミックリスクへの寄与度に応じた額に改訂される。またFSCは、広範な賃借対照表の債務側に基づき適用される(資本は除外、簿外の項目を含める可能性あり)。拠出金は、脆弱な金融機関の破綻処理を促進するための基金に貯蓄されるか、一般歳入に支払われる。FATは総収益および金融機関の報酬に課すもので、一般歳入に支払われる。詳細については、IMF(2010a)および、Keen, Krelove and Norregaard(近刊のIMF中間報告書)参照。

[7] Leading Group(2010)参照。

[8] Semeta(2011)参照。

[9] これらを含む政策課題の詳細は、Matheson(2011)、IMF(2010a)およびShome and Stotsky(1996)の中で詳細に分析されている。

[10] 各国は、国境を超えた株式投資に特定した課税、対外債権に特定した課税、外国為替の流れに特定した課税を、資本フロー抑制の手段として使用することもできる。このような税を資本フロー管理に使用することが望ましいか否か、効力があるか否かの評価は、本文書では行わない。

[11] 資本フロー管理が望ましいか否か、またその手段に関わる問題は、本文書での検討の範疇外となる。これらの課題の検討については、IMF(2011)およびOstry et.al.(2011)参照。

[12] Bank for International Settlements(BIS, 2010)。国際決済銀行(BIS)は3年毎に、外国為替市場とOTCデリバティブ市場の規模と構造に関する情報を取り纏めるため、50の中央銀行と連携しTriennial Central Bank Survey3年毎の中央銀行調査)を実施している。

 

[13] 外国為替のディーラー(マーケットメーカーとも呼ばれる)は、ディーラー自身のため、または顧客のため、もしくはその両方のために外国為替を売買する。これにより、これらの業者は様々な通貨の売値と買値(為替レート)を提示し、そのレートで取引できるよう待機する取引のプリンシパルの役割を果たす。一方、外国為替ブローカーは、ブローカー自身のために取引することはなく、顧客に連絡を取ることもない。ブローカーは、ディーラーを引き合わせるサービスを提供し手数料を請求することにより収益を得る。

[14] 出典:Bank for International Settlements(2010年12月)

[15] 例えば、英国、米国、スイス、日本における外国為替の取引高の75%は、それぞれ12銀行、10銀行、3銀行、9銀行が扱っている(BIS, 2007a)。同様の状態が他の国でも見られる。

[16] 詳細は、Schmidt (1996, 2001), Spahn (2002) および Hillman, Kapoor, and Spratt (2006) 参照。

[17] CLS銀行の活動の規模を示す数字を挙げると、2010年2月16日には、CLS銀行は一日で過去最高の170万サイド、額にして合計で6.2兆米ドルを決済している。CLS銀行が世界の外国為替取引に占めるシェアは、2007年のBISサーベイ時の50%から70%にまで伸びている可能性があるとされている。

[18] LVPSは中央銀行か銀行業界が所有している場合がある。

[19] 銀行とその他の金融機関の間で金融メッセージを交換する際に使用されるシンタックス(体系)は、SWIFT(国際銀行間通信協会)メッセージシステムに基づき標準化されてきた。SWIFTは、ベルギーの法の下に登録された協同組合で、加盟金融機関が所有する協会であるが、2010年9月時点で209ヶ国、9,000の金融機関と連携している。重要なことは、SWIFTがMT3000とその変形という専用のメッセージ形式を持っており、これらは異なる種類の外国為替取引(スポット、デリバティブなど)確認のために使用されるということである。

[20] 例えば、Spraat et.al. ((2005) はポンドの取引に対するFTTによりトレーダーが追う費用の合計と、CLSを使ってポンド取引を決済することにより彼らが得る利益の合計を比較した。その結果、ポンド取引へのFTTが0.005%の場合トレーダーが支払う費用は年間10億米ドルと見積もられた。これに対し、CLSを使用してポンド取引を決済することによる利益は、180億米ドルと見積もられた。その内訳は、効率向上による利益が125億米ドル、必要とされる正味資金の削減が54億米ドル、操業コストの削減が1億ドルである。メンバーがCLSを去った場合に失われる追加的利益には、CLSにアクセスするためのコンピューターシステムの開発に必要な費用(メンバー毎に約500万米ドルと見積もられる)などの様々な固定費がある。

[21] 具体的には、IOFには、(1)外国為替のスポット取引に適用されるIOF sobre Cambio(外国為替取引)、(2)株式、社債、有価証券オプション、有価証券フューチャー、外国為替フューチャー、オプション、デリバティブ(フォワード、スワップ、金利先渡し契約(FRA))に適用されるIOF sobre Titulos e Valores Mobiliarios(有価証券取引)、(3)金融機関と非金融機関による融資に適用されるIOF sobre Operacoes de Credito(融資・信用貸し事業)がある。

[22] 例えば、(1)投資家がブラジルの株式、債券に投資することを目的に外貨を現地通貨に交換する場合、それぞれ6%、2%を課税できる。(2)投資家がデリバティブのマージン支払を目的として外貨を現地通貨に交換する場合、6%が課税される。(3)外国の銀行がブラジルの金融会社または非金融会社に満期720日以下のローンを提供する場合で、借り手がそのローンからの外貨をレアルに交換する場合、そのローンに6%を課税できる。(4)国際クレジットカードの管理会社が、海外で購入された物品、サービスに関わったクレジットカード所有者の債務を支払うために外貨を購入した場合、その管理会社に対し6.38%を課税できる。

[23] 2010年に、徴収されたIOFは266億100万レアル、連邦政府の歳入合計は1兆3,786億900万レアル、GDPは3兆6,749億6400万レアルであった(出典:財務省およびIMF)。

[24] 納税者は、外国為替その他の金融商品へのIOFを含む全ての月間の連邦税負担額を、DCTFと呼ばれる単一の統合納税申告書を使用して申告する。

[25] ブラジルの基礎商品に基づくデリバティブ取引の多くは、ブラジルの外で行われる。これによりトレーダーは、ブラジルの基礎資産を取得することなく(つまり税を回避しながら)買い持ちすることができる。

[26] この計画は、過去に短期外債に適用されていた高い税率を回避するためのものである(満期が90日以下のローンには5.38%の税が課せられていた)。これはプットオプション条項が組み込まれた長期債券を発行するというものであった。これらの条項は、オプションの行使によって外国投資家が長期のローンを短期化することを可能にし、しかも税率は長期ローンに対する低い税率で済むというものである。

現在IOFは満期が720日以下のローンに適用される。

[27] 場合によってはこの2つのルールは同じ取引について全く異なる課税の成果をもたらすことになる可能性があることに触れておきたい。例えば、輸出業者と銀行が、米ドルから韓国ウォンへのノンデリバラブル・フォワード(NDF)契約を結んだとする。具体的には、輸出業者は銀行と(1)55.75億韓国ウォンのフォワードを、1米ドル=1115韓国ウォンで売却(500万米ドル相当)し、(2)6カ月後のスポット実勢価格(つまり「fixing date [訳注:決済日の決済レートが表示される日]」の価格)で55.75億韓国ウォンを購入する、という契約を結んだとする。もし韓国ウォンがその後ドルに対してウォン安となりfixing dateの時点で1米ドル=1130韓国ウォンとなり、55.75億韓国ウォンの価値が4,933,628米ドルに下がった場合、輸出業者は銀行から500万米ドルと4,933,628米ドルの差額である66,372米ドルを受け取ることになる[訳注:原文では「US$6,372」とあるが、計算では「66,372米ドル」となるためそのように訳出した]。「発生ルール」の下では、FTTの税基盤は500万米ドルとなる。「現金ルール」の下では、税基盤は66,372米ドルのみとなる。

[28] 課税対象となる出来事の定義に関しては他にも概念的問題がある。FTTは通貨のスワップ取引の両レッグ(両行程)に課税すべきかどうかという問題である。Section IIIで説明したような買戻し契約の場合、スワップが売却として扱われるか(その場合、両レッグに課税されるべきである)、金融取決めとして扱われるか(その場合、最初のレッグのみに課税されるべきである)によって異なると考えられる。

[29] 例えば、FX即日決済取引のスポット価格や、FXオプション取引の行使価格+プレミアムは、これらの取引に関する税負担を妥当に、また容易に計算する税基盤となる。

[30] 登録者は、顧客との取引の2倍の税を銀行間取引に課税するのを避けるため、登録者相手の取引については税の半分のみ請求する。徴税主体が登録者と非登録者を区別できるようにするために、税当局は徴税主体に登録者リストを提供するか、登録者情報をウェブサイト上で提供する。

[31] 非登録者間の取引は課税を免除されるが、これにより失われる税収はわずかだと考えられる。

[32] 国際銀行は、外国為替取引を様々な場所(例えば取引場所)にある子会社や支社から行う可能性がある。国際銀行は、コストを抑えるために、これらの取引の経理を一か所または少数箇所(帳簿記入場所)で集中的に行う可能性がある。

[33] 移動は様々な形で起きる可能性がある。Garber(1996)が指摘したのは、課税管轄区内の親会社が非課税管轄区内の子会社に貸し付けをし、その子会社が外国為替取引を行い、得られた外貨を親会社にまた貸し付けるという方法である。

[34] バックツーバック・ローンは、異なる国の二企業間のローンで、各企業がそれぞれの通貨で相手企業にローンを提供する。パラレルローンは、異なる国の二企業間のローンで、両企業とも相手企業の国に子会社を持つ。二企業は、互いの企業の子会社にローンを提供する。

[35] これらの条項または法的慣行は、納税者が税回避以外の事業目的を持たない非課税取引契約を結んだと税当局が判断した場合、その取引を課税対象として再定義する権限を、税当局に与えることになる。

7、金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

欧州委員会

2011年9月28日 ブリュッセル

COM(2011) 594 final

2011/0261 (CNS)

金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

{SEC(2011) 1102}

{SEC(2011) 1103}

解説的覚書

 

1.             提案の背景

1.1.           序文:金融・経済危機、政策目標、域内市場の適切な機能確保の必要性

近年の世界経済・金融危機は、我々の経済および財政に深刻な影響を与えた。金融セクターはこの経済危機の発生要因を作ったが、そのコストを負担したのは政府および欧州市民全般であった。この危機の処理費用および金融セクターに対する現在の課税の低さに鑑み、金融セクターによるより公平な負担が必要との強い合意が欧州内および国際的に形成されている。EU加盟国のうち数か国は既に金融セクターへの課税について異なる措置を取っている。この課題に対し域内市場と調和した欧州共通のアプローチを示すことが本提案の目的である。本提案は、過去の慣行を繰り返さぬよう金融市場の一部の区分における特にリスクのある行為に対処し、金融サービスの安全強化に関するEUの規制枠組みを補完することを目的とする。

欧州委員会は既に、金融セクターへの課税に関する2010年10月7日委員会報告書[1]においてFTT(金融取引税)実施の構想を検討している。委員会が実施した分析に照らし、また欧州理事会[2]、欧州議会[3]および理事会からの数多くの要請に応え、以下の目的達成に向けた第一歩として本提案を示す。

 

-             協調性のない国家レベルの課税策導入が増加している現状を念頭に置き、金融サービスの域内市場における分断化を回避する。

-             金融機関が近年の危機のコストを公平に負担し、金融セクターと他のセクターが課税の観点から[4]平等な競争条件の下に置かれることを確保する。

-             金融市場の効率性を高めない取引に対し適切な阻害要因を作ることで、将来の危機回避を目的とした規制措置を補強する。

 

課税対象となり得る取引のほとんどは極めて移動性が高いため、加盟国単独の着想による課税ルールが市場の歪みを生むのを回避することが重要である。事実、EUレベルで対策を実施することによってのみ、様々な活動に渡る国境を越えた金融市場の分断を回避し、EU内の金融機関の平等な待遇を確保し、最終的には域内市場の適切な機能を確保することが可能となる。

このため本提案は、EU単一市場の円滑な機能を確保するためにEU加盟国の金融取引税の整合化を規定している。

欧州連合の自己資金制度に関する2011年6月29日理事会決定の委員会提案[5]に従い、本提案はEU予算への各国の拠出金を徐々に置き換え国庫への負担を減らすために新たな収入源を創出することも目的としている。

 

1.2.           EU予算の資金調達

金融セクターへの課税に関してはEU予算見直しに関する2010年10月19日委員会報告書[6]でも取り上げられている。ここでは「各国の拠出金を徐々に置き換え国庫への負担を減らす方法の候補となり得るものとして、委員会は以下の資金調達方法に関する非排他的リストを検討している。- 金融セクターへのEU課税。」とある。これに続く欧州連合の自己資金制度に関する2011年6月29日理事会決定の委員会提案[7]では、FTTをEUの予算に含める新たな自己資金と見なしている。従って本提案は、FTTがEU予算の資金となる旨を委員会がどのように提案するかを提示した別途の自己資金提案により補完されることになる。

 

1.3.           規制上の背景

欧州連合は現在、金融サービスセクターにおいて野心的な規制改革プログラムを実施しているところである。委員会は、欧州の金融市場を規制・監督する方法を根本的に改善するために必要な主要素を今年末までに全て提案することとしている。このEU金融サービス改革は、金融セクターの監督改善、金融機関の強化および必要に応じその回復のための枠組みの提供、金融市場の安全性および透明性の向上、金融サービスの消費者保護の向上という、4つの戦略的目的を重視するものである。この広範囲に及ぶ改革により金融サービスセクターが再び実体経済に役立つもの、特に成長を助成するものとなることが期待される。FTT提案はこれらの規制改革を補完することを目的としている。

 

1.4.           国際的な背景

本提案はまた、現在進行中の金融セクターへの課税に関する国際的議論、特にグローバルレベルでのFTTの策定に大きく貢献するものである。効果的にリスクを最小限に抑えるには、国際レベルでの協調したアプローチが最良の策である。本提案では、効果的なFTTを設計・実施し相当な額の歳入を創出できる方法を明示している。このため本提案は最も重要な国際的パートナーとの協調したアプローチに向けた道を開くはずである。

 

2.             関係者との協議および影響評価の結果

2.1.           外部との協議および専門家の意見

本提案は広範な外部からの意見に基づき策定されている。これらの意見は、金融セクターへの課税に関する公聴の過程におけるフィードバック、EU加盟国、専門家、金融セクター関係者との協議、影響評価を目的として委託された3つの外部調査という形で提供されたものである。

協議プロセスの結果と外部の意見は影響評価に反映されている。

 

2.2.           影響評価

本提案に伴う影響評価では、(1) 金融セクターの財政への貢献を確保する、(2) 望ましくない市場行動を制限することで市場の安定化を図る、(3) 域内市場の歪みを回避するという目的に関して、金融セクターへの追加的課税の影響を分析している。影響評価では、金融取引税(FTT)と金融活動税(FAT)という2つの基本案およびこれらに関連する多数の設計案を分析し、FTTがより望ましい案であるとの結論に達した。

FTTは金融セクターから相当な額の税収を得られる可能性を持つようだが、FATと同様にGDPおよび市場の取引高の縮小という観点から悪影響を及ぼす恐れがある。取引の本来の場所からの移動を回避するには、EU単一市場の分断化を避けるためにEUレベルで、またG20間の協力という野心的目標に沿うために国際レベルで協調したアプローチが必要となる。

さらに、市場の反応および成長への影響に関するリスクに対応するため、FTTの設計には、経済効果、税負担、起こり得る租税回避に対する戦略、取引移転のリスクという観点から影響の軽減を目的とした具体的な設計上の特徴が組み込まれている。

 

・             商品、取引、取引・金融主体の種類、金融グループ内で実施される取引に関して税の範囲を広範に定義する。

・             居住地原則を適用し、取引場所に拘わらず金融主体が設立されたEU加盟国で課税する。本指令はまた、非EU金融機関がEU内の主体との金融取引に関与した場合と非EU金融機関のEU内の支店が金融取引に関与した場合のEU内での課税についても規定している。

・             金融投資以外を目的とする資本コストに結果的に与える影響をできるだけ抑えるために適切な税率を設定する。

・             有価証券(株式、債券)のプライマリー市場の取引(政府や企業による資本調達の阻害とならないようにするため)および通貨のプライマリー市場の取引をFTTの範囲から除外する。プライマリー市場の除外は指令2008/7/ECにも記されているように長年実施されているEU政策と一致する方針である。

・             一般世帯、企業、金融機関による賃借、その他の日常の金融活動(住宅ローンや支払取引など)を保護する。

・             本指令が金融機関の借り換えの可能性や金融政策手段に影響を与えないよう、例えば欧州中央銀行(ECB)や各国の中央銀行との金融取引をFTTの範囲から除外する。

 

実際に提案されたFTTの設計上の特徴による影響の軽減策を考慮に入れると、GDPレベルへの長期的な悪影響は基礎シナリオと比較し0.5%程度に止まると予想される。

影響評価によると、FTTは金融セクターの市場行動およびビジネスモデルに影響を与えることが分かった。金融市場での自動売買は、税を起因とする取引費用の増加の影響を受ける可能性がある。この費用により限界利益が浸食されるからである。これは、金融機関がおびただしい数の大量かつ薄利の取引を行う取引プラットフォームと物理的に密接に関わる高頻度取引のビジネスモデルについて特に当てはまる。これらについては、数はより少ないが(税引き前の)利幅がより高い取引を行わせるアルゴリズムに置き換えなければならない可能性がある。

また影響評価では、FTTが累進的な分配効果を持つ、つまり、高所得者層は金融セクターが提供するサービスからより多く恩恵を受けているためFTTの影響は所得に比例して増加することが分かった。これは、債券、株式およびそのデリバティブなどの金融商品取引に限定したFTTについて特に当てはまる。積極的に金融市場に投資していない一般世帯や中小企業は、FTTの設計に組み込まれた「保護」機能の結果、本提案の影響を受けることはほとんどない。

税収の地理的分布は税の技術的設計によって異なってくる。本指令では、地理的分布は金融商品の取引場所ではなく金融取引に関与する金融機関の設立場所によって決まる。この設計は税収の地理的集中の軽減につながる可能性が高い。これは、ある金融機関が他のEU加盟国に設立された金融機関に代わって取引プラットフォームに介在する場合に特に当てはまる。

また本指令では、委任法令を通して租税回避、脱税、税の乱用に対する具体的措置がEU加盟国レベルおよびEUレベルで規定されることを保証している。再検討条項では、実施から3年後に、金融セクターへの課税の国際的進展も考慮に入れつつ、FTTが域内市場の適切な機能、金融市場、実体経済に与える影響を検討することとしている。

 

3.             本提案の法的要素

3.1.           法的根拠

本指令案に最も関連の深い根拠法はTFEU(欧州連合の機能に関する条約)第113条である。本提案は域内市場の適切な機能を確保し競争の歪みを回避するために必要な、金融取引への間接課税に関する制定法の整合化を目的としている。

 

3.2.           補完性の原則と比例性の原則

EU内における取引・市場参加者の不適当な移動、および金融商品の置き換えを回避するためには、FTTの基本的特徴をEUレベルで一律に規定する必要がある。言い換えれば、域内市場の適切な機能を確保しEU内の競争の歪みを回避するには、EUレベルでの一律な規定が必要なのである。

同様にEUでの一律規定は、金融セクターにおいて近似の代替品となることの多い異種商品などの、現在存在する域内市場の分断化を低減するために重要な役割を果たす可能性がある。整合化されていないFTTは租税裁定行為につながり、加えて二重課税または課税の空白を引き起こす可能性もある。これは平等な競争条件下で金融取引が実施されるのを妨げるだけでなく、EU加盟国の歳入にも影響を与える。さらに、2つの異なる税制を順守する必要が出てくるため金融セクターのコンプライアンス費用が増加する。

これらは経験的証拠により裏付けられている。金融取引への国税はこれまでのところ、金融活動・金融機関が本来の場所から移動するか、それを避けるために比較的移動性の低い税基盤にのみ課税した結果、近似の代替品が課税対象外となる結果を招いている。このためEUレベルでの主要な考え方の整合化と実施の協調は、金融取引税の適用の成功と歪みの回避に必要不可欠な条件である。このようなEUによる措置は望ましいアプローチを促進することにもなる。

このため本提案の内容は、FTTの共通構造および課税可能性に関する共通条項の設定に集中したものとなっている。従って本提案は、実際の最低税率以上の税率の設定、会計・報告義務の詳述、脱税、租税回避、税の乱用の防止に関して、EU加盟国に十分な政策の余地を残している。

以上のことから、EUにおけるFTTの共通枠組みは、TEU(欧州連合条約)第5条に規定された補完性の原則および比例性の原則を順守している。EU加盟国では本提案の目的は十分に達成することはできない。本提案の目的は、域内市場の適切な機能の確保のためにはEUレベルにおいてより効果的に達成することができる。

この整合化案は規則ではなく指令という形で提案されており、我々が追い求める目的(何より域内市場の適切な機能)の達成に必要な措置の範囲を超えておらず、よって比例性の原則を満たしている。

 

3.3.           本提案の詳細な解説

3.3.1         1章(課税対象、範囲、定義)

この章ではEUにおけるFTT案の基本的枠組みを規定している。このFTTはネッティング以前のグロスの取引への課税を目的とする。

金融商品は互いに近似の代替品となることが多いことから、この税では全種類の金融商品に関わる取引を対象にすることを目指しているため、課税対象範囲は広範に渡る。このため対象範囲には、資本市場において譲渡可能な商品、短期金融市場の商品(支払手段を除く)、集団投資事業(UCITS(譲渡可能証券の集団投資事業)およびオルタナティブ投資ファンド[8]を含む)のユニットや株券、デリバティブ契約が含まれる。さらに、税の対象範囲は規制市場や多国間取引施設などの組織された市場に止まらず、他の種類の取引(店頭取引を含む)も対象となる。また対象範囲は所有権譲渡に限らず、関与する金融機関がその金融商品に含まれたリスクを負うか否かを反映し、締結された契約(「売買」)が対象となる。また、デリバティブ契約の結果金融商品が供給される場合、全ての課税条件が満たされれば、課税対象のデリバティブ契約に加えて金融商品の供給も課税対象となる。

ただし、金融機関の借り換えの可能性や金融政策全般に対する悪影響を回避するため、欧州中央銀行および各国の中央銀行との取引は対象範囲外とされる。

特に、金融商品のうち売買・譲渡が課税されるものおよびデリバティブ契約の締結・修正については、一般的に認められた明確で包括的な定義が当該のEUレベルの規制枠組みにおいて示されている[9]。より具体的にここで言及されるデリバティブ契約について言えば、ここで関係してくるのは投資目的のデリバティブである。これは、スポット通貨取引は課税対象外の金融取引であるが、通貨デリバティブ契約は課税対象となるという使用定義に基づくものである。またコモディティの現物取引は課税対象外であるが、コモディティに関わるデリバティブ契約は課税対象である。

また金融取引は、仕組み商品(証券化を通して提供される売買可能な証券またはその他の金融商品)の売買または譲渡から構成されることもある。このような商品は他の金融商品に類似しているため、本提案で使用する用語としての「金融商品」に含まれる必要がある。これらをFTTの対象外にすれば租税回避の機会を与えることとなる。この種の商品には、手形、ワラント、サーティフィケート、通例住宅ローンやその他のローンなどの資産に関わる信用リスクを市場に移転させるバンキング証券化、その他のリスク(保険の引受けなど)を市場に移転させる保険証券化が含まれる。

ただしこの税の対象範囲として焦点を合わせているのは金融機関による取引で、これには金融機関が自己勘定または他人勘定で取引の当事者として行う金融取引、および金融機関が取引当事者の名義で行う金融取引が含まれる。このアプローチを取ることによりFTTの包括的な適用が確保される。実際面でいえばこれらは帳簿の各記載によって通常明らかになる。

金融機関の定義は広範に渡り、基本的には投資会社、組織された市場、信用機関、保険会社、再保険会社、集団投資事業とその管理者、年金基金とその管理者、持株会社、リース会社、特別目的事業体を含む。また規制目的で採択された関連EU法で規定されている定義を可能な限り参照する。加えて、相当な額での金融活動を行う上記以外の者も金融機関と見なされるべきである。

本指令案ではさらなる詳細については権限の委譲が規定されている。

集中清算機関(CCP)、証券集中保管機関(CSD)、国際証券集中保管機関(ICSD)は、これらの機関が果たす機能自体は売買活動にあたらないため、金融機関とは見なされない。またこれらの機関は金融市場の機能の効率性と透明性の向上に重要な役割を担っている。

本提案のFTTの各国領域における適用とEU加盟国の課税権は、居住地原則に基づいて規定されている。EU内で金融取引が課税対象となるには、取引当事者の一方がEU加盟国の領域内に設立されている必要がある。金融機関が自己勘定または他人勘定で取引当事者として金融取引を行うか、または取引当事者の名義で金融取引を行う場合に、その金融機関の事業所が位置する領域を管轄するEU加盟国においてFTTが課税される。

取引当事者としてまたは取引当事者の名義で金融取引を行う金融機関の事業所が、それぞれ異なるEU加盟国の領域に位置していた場合、これらのEU加盟国は本提案に従って各国で設定した税率でこの取引に課税する権限を持つ。取引に関与する事業所が非EU国の領域内に位置する場合、取引当事者の一方がEU内に設立された機関でない限り、その取引はEU内のFTTの対象にはならない。取引当事者の一方がEU内に設立された機関である場合、第三国の金融機関も取引に関係するEU加盟国内に設立されたものと見なされ、そのEU加盟国での課税対象となる。取引がEU外の取引場所で行われた場合、取引を行う事業所または取引に介在する事業所のうち少なくとも一方がEU内に位置する場合はその取引は課税対象となる。

ただし、納税義務者が取引の経済的実質とEU加盟国の領域の間に関連性がないことを証明できた場合には、その金融機関は加盟国に設立されたものと見なされない。

さらに、売買が課税対象となる金融商品がグループ内の企業間での譲渡の対象を形成する場合、この譲渡は売買ではなくても課税対象となる。

以上のことから、上記の目的に従ったFTTの論理では、多くの金融活動が金融取引と見なされないこととなる。プライマリー市場の除外に加え、市民や企業に関係のある日々の金融活動のほとんどはFTTの範囲外となる。範囲外となるのは保険契約、住宅ローン、消費者信用、支払いサービスなどである(ただしその後の仕組み商品を通したこれらの取引は範囲内となる)。また、スポット市場での通貨取引をFTTの範囲外とすることで資本の自由な動きを確保している。ただし、通貨取引に基づくデリバティブ契約は、それ自体は通貨取引ではないためFTTの範囲内となる。

 

3.3.2.        2章(課税可能性、課税価額、税率)

課税の時点は金融取引の発生時点と規定されている。その後のキャンセルは、エラーの場合を除き課税除外の理由とはならない。

金融商品(デリバティブ以外)の売買または譲渡と、デリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正では、性質と特性が異なるため、これらの課税価額は異なるものでなければならない。

ある金融商品(デリバティブ以外)の売買については通常、価格またはその他の対価が特定される。論理的にはこれが課税価格と考えられる。しかし市場の歪みを回避するには、対価が市場価格より低い場合やグループ内の企業間で行われる「売買」の概念から外れる取引の場合には特別なルールが必要となる。これらの場合、FTTの課税時点における公正妥当に決定された市場価格が課税価額となる。

デリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正については、FTTの課税価額はそのデリバティブ契約が売買、譲渡、締結、修正された時点の想定元本とする。このアプローチによりデリバティブ契約へのFTTの適用が分かりやすく容易となり、またコンプライアンス費用および行政費用が低く抑えられる。またこのアプローチにより、例えば価格や価値の差のみに関する契約を締結する税制上のインセンティブは発生しないため、巧妙な設計によるデリバティブ契約を通して作為的に税負担を軽減することが難しくなる。またこのアプローチでは、契約のライフサイクルの異なる時点で発生するキャッシュフローに課税されるのではなく、契約の売買、譲渡、締結、修正の時点で課税されることになる。このため適正な税負担を規定するためには使用税率を低く抑える必要がある。

租税回避、脱税、税の乱用を防ぐためにはEU加盟国における特別条項が必要となる可能性がある(3.3.3も参照のこと)。例えば想定元本が作為的に除算されることが考えられる。例としてはスワップの想定元本が恣意的に高い数値で除算され、全ての支払額が同じ数値で乗算される可能性がある。この操作によりこの商品のキャッシュフローは変わらないが税基盤の規模が恣意的に縮小されることになる。

課税価額またはその一部が、査定を行うEU加盟国以外の国の通貨建てである場合についても、課税価額の確定のために特別条項が必要となる。

デリバティブ以外の金融商品の売買または譲渡と、デリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正では、性質が異なる。さらに、この2つのカテゴリーへの金融取引税に対し市場は異なる反応を示すと考えられる。これらの理由および広く均等な課税を確保する目的から、この2つのカテゴリーには異なる税率を適用すべきである。

また税率を決める際には課税価額の決定方法の違いも考慮すべきである。

概説すると、提案された最低税率(それ以上については各国に国内政策の余地が与えられている)は本指令の整合化目的を達成するのに十分な高さであると同時に、移転のリスクを最小化するのに十分な低さに抑えられている。

 

3.3.3.        3章(FTTの支払、関連義務、脱税・租税回避・税の乱用の防止)

本提案では、EU加盟国の領域内に設立された金融機関が(自己勘定または他人勘定で)当事者として行う金融取引またはその金融機関が当事者の名義で行う金融取引を参照することにより、FTTの対象範囲を規定している。実際、金融機関は金融市場での取引の大部分を実施しており、FTTは市民ではなく金融セクター自体に焦点を絞るべきである。従ってこれらの機関が税務当局に納税する義務を負うべきである。ただしEU加盟国は取引当事者の本社がEU外に位置する場合を含め、他者にもFTTの支払義務を連帯して負わせることができるべきである。

金融取引の多くは電子的に行われる。この場合FTTは課税時点で直ちに支払われるべきである。その他の場合、FTTは支払処理を手動で行うのに十分な時間を確保しつつ当該金融機関がキャッシュフローから不当な利益を得ることのない期間内に支払われるべきである。この意味で3営業日が適切な期間と見なすことができる。

EU加盟国はFTTが正確かつ適時に課税され、脱税、租税回避、税の乱用が防止されるよう適切な措置を取る義務を負わされるべきである。

これに関連してEU加盟国は、金融取引に関する報告・データ保守義務を含む既存および今後制定される金融関連EU法を活用すべきである。

同様にEU加盟国は、必要な場合は常に、税の査定・回収に関する既存の行政協力文書を活用すべきである。これには特に、課税における行政協力および指令77/799/EECの廃止に関する2月15日理事会指令2011/16/EU[10](2013年1月1月より適用)、および租税、関税、その他の措置に関する請求分の回収のための相互支援に関する2010年3月16日理事会指令2010/24/EC[11](2012年1月1日より適用)が含まれる。他の法律文書(例えば欧州評議会・OECD税務行政執行共助条約[12]など)も、関連性・適用性がある場合には使用すべきである。

本指令案ではさらなる詳細については権限の委譲が規定されている。

本FTTの基礎を成す概念的アプローチ(広い対象範囲、居住地原則、免除なし)に加え、上記で概説したルールにより、脱税、租税回避、税の乱用を最小限に抑えることができる。

 

3.3.4.        4章(最終条項)

整合化という本提案の目的から判断すると、EU加盟国はVATおよび本指令案が規定するFTT以外の金融取引税を維持・導入すべきでないことになる。VATについては、付加価値税の共通制度に関する2006年11月28日理事会指令2006/112/EC[13]の第137条1.(a)に規定された税の選択権は引き続き適用されるべきである。保険料に対する税などは当然性質が異なる。また金融取引の登録料も、それが純粋な費用の返済または提供されたサービスの対価に相当する場合は性質が異なる。従ってこのような税や手数料は本提案の影響を受けるものではない。

資本調達への間接税に関する2008年2月12日理事会指令2008/7/EC[14]の条項は原則として引き続き全面的に適用される。これにより例えば、指令2008/7/EC第5条(2)で言及されているように、株券または同種の有価証券もしくはそのような有価証券に基づくサーティフィケート、債券(国債を含む)、ローンに関わるその他の譲渡可能な有価証券のプライマリー市場での発行は、EUにおいてFTTの対象外となる。この2つの指令間に起こり得る対立を避けるため、ここで提案する指令は指令2008/7/EC条項に優先する旨を規定すべきである。

 

4.             予算への影響

仮見積もりによると、市場の反応によってはEU全体での税収は年間570億ユーロとなる可能性がある。

本質的に本提案は、欧州連合の自己資金制度に関する2011年6月29日理事会決定案に沿って、EU加盟国およびEU予算の新たな収入源を創出するものである。

EU内でFTTから創出された歳入は、EU予算の自己資金として全額または一部を使用できるため、加盟国の国家予算から支払われる既存の自己資金に取って代わることができる。これによりFTTの税収はEU加盟国における財政再建の取り組みに寄与することになる。委員会はどのようにFTTをEU予算の資金として使用できるかを示した必要な補完提案を別途提示する。

 

         2011/0261 (CNS)

金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

 

欧州連合理事会は、

欧州連合の機能に関する条約および特にその第113条を考慮し、

欧州委員会からの提案を考慮し、

立法機関制定法案の各国議会への伝達後に、

欧州議会の意見[15]を考慮し、

欧州経済社会評議会の意見[16]を考慮し、

特別立法手続きに従って行動し、

以下の事実に鑑みて、本指令を採択した。

(1)            近年の金融危機の結果、金融セクターへの追加的課税の可能性、特に金融取引税(FTT)の可能性についての議論が全てのレベルにおいてなされるようになった。この議論は、金融セクターによる危機の費用負担に対する貢献を確保すること、今後は他のセクターと同等の公平な課税が金融セクターに課されるようにすること、金融機関による過度のリスクを伴う活動を抑制すること、将来の危機の回避を目的として規制措置を補強すること、総予算または特定の政策目的のための追加的歳入を創出することを求める声から生じたものである。

(2)            当該の金融取引のほとんどは極めて移動性が高いことを念頭に置き、加盟国単独の措置による市場の歪みを防ぐことで域内市場の適切な機能を確保するためには、加盟国におけるFTTの基本的特徴は欧州連合レベルで整合化させることが重要である。これにより、欧州連合内での租税裁定行為に対するインセンティブの発生、欧州連合内の金融市場間の移転による歪みの発生、二重課税または課税の空白の発生を回避すべきである。

(3)            域内市場が適切に機能するためには、FTTは、組織された市場および「店頭」市場における仕組み商品、全てのデリバティブ契約の締結と修正を含む、幅広い金融商品に適用されるべきである。同じ理由から、FTTは広範に定義された金融機関に適用されるべきである。

(4)            「金融商品市場および理事会指令85/611/EEC、93/6/EEC、欧州議会および理事会指令2000/12/ECの修正、ならびに理事会指令93/22/EECの廃止に関する2004年4月21日欧州議会および理事会指令2004/39/EC」(MiFID)[17]の付属書Iに示された金融商品の定義には、集団投資事業のユニットも含まれる。これはつまり、譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)に関わる法律、規制および行政条項の協調に関する2009年7月13日欧州議会および理事会指令2009/65/EC[18]の第1条(2)に定義された、譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)の株券およびユニットも金融商品となることを意味する。また、オルタナティブ投資ファンド管理者および指令2003/41/EC、2009/65/EC、規則(EC) No 1060/2009、(EU) No 1095/2010の修正に関する2011年6月8日欧州議会および理事会指令2011/61/EU[19]の第4条(1)(a)に定義された、オルタナティブ投資ファンド(AIF)の株券およびユニットも金融商品となることを意味する。従って、これらの商品の引受けや償還はFTTの対象となるべき取引である。

(5)            金融市場の効率的で透明性ある機能を保つためには、それ自体が売買活動とは見なされずむしろ売買活動を促進する機能を果たしている、または加盟国を財政的に支援するために金融取引を行っているという理由から、一定の事業体を本指令の範囲から除外する必要がある。

(6)            金融機関の借り換えの可能性や金融政策全般に対する悪影響を回避するためには、欧州中央銀行との取引と同様に各国の中央銀行との取引もまたFTTの対象となるべきではない。

(7)            企業および政府による資本調達の阻害とならないように、また一般世帯への影響を回避するために、デリバティブ契約の締結または修正を除いて、プライマリー市場でのほとんどの取引および、保険契約の締結、住宅ローン、消費者信用、支払いサービスなどの市民・企業に関係のある取引は、FTTの範囲から除外されるべきである。

(8)            域内市場での歪みを回避するために、課税可能性および課税価額は整合化されるべきである。

(9)            課税時点は必要以上に遅延されるべきではなく、金融取引の発生時点と同時であるべきである。

(10)           企業および税務管理組織の費用を抑えられるよう課税価額の決定をできる限り容易にするためには、デリバティブ契約に関わるもの以外の金融取引については、通常は取引の中で与えられた対価を参照すべきである。対価が与えられていない、または与えられた対価が市場価格より低い場合、取引の価値を公正に反映したものとして市場価格が参照されるべきである。同様に計算を容易にするという理由から、デリバティブ契約が売買、譲渡、締結、修正された場合には想定元本が使用されるべきである。

(11)           無差別待遇の促進ために、取引の各カテゴリー(一方のカテゴリーはデリバティブ以外の金融商品の取引、他方のカテゴリーはデリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正)内では単一税率が適用されるべきである。

(12)           課税の焦点を市民ではなく金融セクター自体に合わせるために、また金融機関は金融市場での取引の圧倒的大部分を実施していることから、これらの機関が自己名義、他人名義、自己勘定、他人勘定のいずれで取引をした場合にも、本税はこれらの機関に適用されるべきである。

(13)           金融取引は移動性が高いことから、また租税回避の可能性を軽減するために、FTTは居住地原則に基づき適用されるべきである。

(14)           最低税率は本指令の整合化目的を達成するのに十分な高さに設定されるべきである。同時に、最低税率は移転のリスクを最小化するのに十分な低さでなければならない。

(15)           加盟国はFTTが正確かつ適時に課税されるために必要な措置を取る義務を負うべきである。脱税、租税回避、税の乱用を効率的に防止するために、加盟国は必要な場合は常に財政案件における相互支援に関する既存の法律文書を使用する義務を負うべきである。また該当する法規に従い金融セクターに義務付けられている報告・データ保守義務を活用する義務を負うべきである。

(16)           ある企業が本指令でいう金融機関と見なされる程度に一定の金融活動がその企業の活動のかなりの部分を占めているか否かを判断するための詳細ルールを採択できるよう、また脱税、租税回避、税の乱用からの保護に関する詳細ルールを採択できるよう、この目的の達成に必要な措置の指定について、欧州連合の機能に関する条約第290条に従い法令を採択する権限が委員会に委譲されるべきである。委員会が準備作業段階で専門家レベルの協議を含めた適切な協議を行うことが特に重要である。委任法令の作成準備および作成の際には、委員会は確実に理事会に対し関連文書を適切かつ適時に伝達すべきである。

(17)           本指令と資本調達への間接税に関する2008年2月12日理事会指令2008/7/EC[20]の間の対立を避けるため、その指令は適宜に修正されるべきである。

(18)           本指令の目的、すなわち欧州連合レベルにおけるFTTの基本的特徴の整合化は加盟国によって十分に達成することはできず、単一市場の適切な機能を確保するには欧州連合レベルにおいてより効果的に達成することができるため、欧州連合は欧州連合条約第5条に記載された補完性の原則に従い、措置を採択することができる。その条項に記載された比例性の原則に従い、本指令はこの目的の達成に必要な措置の範囲を超えていない。

 

1

課税対象、範囲、定義

 

1

課税対象、範囲

1.             本指令は金融取引税(FTT)の共通制度を制定するものである。

2.             本指令は、少なくとも取引の一方の当事者が加盟国に設立され、加盟国の領域内に設立された金融機関が自己勘定または他人勘定で取引当事者として関与するか、もしくは取引当事者の名義で関与した場合の、全ての金融取引に適用されるものとする。

3.             本指令は以下の主体には適用されないものとする:

(a)               欧州金融安定ファシリティ;

(b)              パラグラフ4ポイント(c)を条件として、2か国以上の加盟国により設立された国際金融機関で、深刻な資金問題に悩むかまたは脅かされている参加国のために財源を動員するまたは財政援助を行うことを目的としたもの;

(c)               集中清算機関(CCP)の機能を果たしている場合のCCP;

(d)              証券集中保管機関(CSD)、国際証券集中保管機関(ICSD)の機能を果たしている場合のCSDおよびICSD。

ただし、ある主体が第1サブパラグラフに準じて課税対象外となる場合、これはその取引相手に対する課税の可能性を除外するものではない。

4.             本指令は以下の取引には適用されないものとする:

                (a)             委員会規則 (EC) No 1287/2006[21]第5条ポイント(c)に定めるプライマリー市場取引。ただし、欧州議会および理事会指令2009/65/EC[22]第1条(2)に定義する譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)、ならびに欧州議会および理事会指令2011/61/EU[23]第4条(1)(a)に定義するオルタナティブ投資ファンド(AIF)の、株券およびユニットの発行および償還を除く;

                (b)            欧州連合、欧州原子力共同体、欧州中央銀行、欧州投資銀行との取引、および、欧州連合または欧州原子力共同体により設立された欧州連合の特権及び免除に関する議定書が適用される機関との取引。ただしこれは、その議定書およびその実施のための協定もしくはその本部協定の範囲内および条件下において、競争の歪みにつながらない範囲内に限定される;

                (c)             ポイント(b)に定めるもの以外の国際組織または機関で、その組織または機関のある国の公的機関にそのように認められている組織または機関との取引。ただしこれは、その機関を設立する国際条約または本部協定により規定された範囲内および条件下に限定される;

                (d)            加盟国の中央銀行との取引。

2

定義

1.             本指令では以下の定義が適用されるものとする:

(1)            「金融取引」とは、以下のいずれかをいう:

                (a)             レポ取引、リバースレポ取引、有価証券の貸借契約を含む、ネッティング、決済以前の金融商品の売買;

                (b)            ポイント(a)にあたる場合以外で、グループ内の企業間における、金融商品を所有者として処分する権利の譲渡、およびその金融商品に付随するリスクの移転を意味する同等の操作;

                (c)             デリバティブ契約の締結または修正;

(2)            「金融商品」とは、欧州議会および理事会指令2004/39/EC[24]の付属書IセクションCに定義する金融商品および、仕組み商品をいう;

(3)            「デリバティブ契約」とは、指令2004/39/ECの付属書IセクションCポイント(4)~(10)に定義する金融商品をいう;

(4)            「レポ取引」および「リバースレポ取引」とは、欧州議会および理事会指令2006/49/EC[25]第3条に定める取引をいう;

(5)            「有価証券貸付取引」および「有価証券借入取引」とは、欧州議会および理事会指令2006/49/EC第3条に定める契約をいう;

(6)            「仕組み商品」とは、欧州議会および理事会指令2006/48/EC[26]第4条(36)の意義の範囲内での、証券化を通して提供される売買可能な有価証券またはその他の金融商品、もしくは信用リスク以外のリスクの移転を伴う同等の取引をいう;

(7)            「金融機関」とは以下のいずれかをいう:

                (a)             指令2004/39/EC第4条に定義する投資会社;

                (b)            指令2004/39/EC第4条に定義する規制市場および、その他の組織された取引場所またはプラットフォーム;

                (c)             指令2006/48/EC第4条に定義する信用機関;

                (d)            欧州議会および理事会指令2009/138/EC[27]第13条に定義する保険、再保険事業;

                (e)             指令2009/65/EC第1条に定義する譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)および、指令2009/65/EC第2条に定義する管理会社;

                (f)             欧州議会および理事会指令2003/41/EC[28]第6条(a)に定義する年金基金または職域年金基金、そのような基金の投資顧問;

                (g)            指令2011/61/EU第4条に定義するオルタナティブ投資ファンド(AIF)およびオルタナティブ投資ファンドのマネージャー(AIFM);

                (h)            指令2006/48/EC第4条に定義する証券化特別目的事業体;

                (i)             指令2009/138/EC第13条(26)に定義する特別目的事業体;

                (j)             以下のうち1つ以上の活動を行うその他の企業。ただしこれらの活動が金融取引の量または額から見てその企業の活動全体のうちかなりの部分を占める場合に限る:

                                (i)             指令2006/48/EC付属書Iのポイント1、2、3、6に定める活動;

                                ii)             全ての金融商品について自己勘定または顧客の勘定による売買;

                                (iii)           事業における持株の取得;

                                (iv)           金融商品への参加または金融商品の発行;

                                (v)            ポイント(iv)に定める活動に関連するサービスの提供。

(8)            「集中清算機関」(CCP)とは、1つ以上の金融市場内での売買の取引当事者間に介入し、あらゆる売り手の買い手となり、あらゆる買い手に対する売り手となる法人をいう;

(9)            「ネッティング」とは、欧州議会および理事会指令98/26/EC[29]第2条に定義する意味を持つものとする;

(10)           「想定元本」とは、あるデリバティブ契約における支払金を計算する際に使用する、原資産の額面価額をいう。

2.             委員会は、第13条に従い、パラグラフ1(7)(j)に定める活動が企業の活動全体のうちかなりの部分を占めるか否かを判断するための詳細なルールを定める委任法令を採択するものとする。

3

設立

1.             本指令では、金融機関は以下の条件のいずれかが満たされた場合に、ある加盟国の領域内に設立されたと見なされるものとする:

                (a)             その加盟国の当局が所轄する取引については、その金融機関が金融機関として活動することをその当局が認可した場合;

                (b)            その金融機関がその加盟国で登記されている場合;

                (c)             その金融機関の定住所または常住地がその加盟国にある場合;

                (d)            その金融機関の支部が行う取引については、その加盟国内にその支部がある場合;

                (e)             その金融機関が、取引当事者として自己勘定または他人勘定で、もしくは取引当事者の名義で、ポイント(a)、(b)、(c)または(d)に準じてその加盟国で設立された金融機関、またはその加盟国の領域内で設立された金融機関以外の当事者と、金融取引を行う場合。

2.             パラグラフ1に記載されたリスト内の条件のうち2つ以上が満たされる場合、満たされた条件のうちリストの最も上位にある条件により設立加盟国が決定されるものとする。

3.             パラグラフ1の記述にかかわらず、FTTの納税義務者がその取引の経済的実質と加盟国の領域との間に関連性がないことを証明した場合には、金融機関はそのパラグラフの意義の範囲内においては設立されたと見なされないものとする。

4.             金融機関以外の者は、その者の登記された地位、または自然人の場合はその者の定住所もしくは常住地が加盟国にある場合、あるいはその者の支部が行う金融取引についてはその支部が加盟国にある場合に、その加盟国に設立されたと見なされるものとする。

2

課税可能性、課税価額、税率

 

4

FTTの課税可能性

1.             FTTは各金融取引が発生した時点で各取引に対し課税可能となるものとする。

 

2.            その後に生じた金融取引のキャンセルまたは修正は、エラーの場合以外は課税可能性に影響を与えないものとする。

 

5

デリバティブ契約に関連するもの以外の金融取引におけるFTTの課税価額

 

1.             第2条(2)のポイント1(c)に定めるもの以外の金融取引および、デリバティブ契約については第2条(1)のポイント1(a)および1(b)に定めるもの以外の金融取引では、課税価額は、譲渡と引き換えに取引相手または第三者から支払われた、または支払義務が生じた、対価を構成するもの全てとする。

 

2.             パラグラフ1の記述にかかわらず、そのパラグラフに定める場合で以下の条件下にある場合には、FTTが課税可能となった時点で決定される市場価格が課税価額となるものとする:

(a)             対価が市場価格より低い場合;

(b)            第2条(1)(b)に定める場合。

 

3.             パラグラフ2における市場価格とは、公正妥当な取引であった場合に関係する金融商品の対価として支払われるはずの価格全額をいうものとする。

6

デリバティブ契約に関連する金融取引における課税価額

 

第2条(1)のポイント1(c)に定める金融取引および、デリバティブ契約については第2条(1)のポイント1(a)および1(b)に定める金融取引では、FTTの課税価額は、金融取引の時点でのデリバティブ契約の想定元本とする。

 

1つ以上の想定元本が特定された場合、課税価額の決定には最も高い想定元本を使用するものとする。

 

7

課税価額に関する共通条項

 

第5条または第6条の下で、課税価額の決定に関連する価格の全額または一部が、課税する加盟国以外の通貨建てで表示されている場合に適用される為替相場は、FTTが課税可能となった時点で関係加盟国の最も代表的な為替市場で記録された最新の売り相場、またはその加盟国が規定したルールに従いその市場を参照することにより決定された為替相場とする。

 

8

適用、構造、税率

 

1.             加盟国はFTTが課税可能となった時点で有効な税率を適用するものとする。

 

2.             税率は課税価額に対するパーセンテージという形で各加盟国が定めるものとする。

 

これらの税率は以下の割合以上とする:

(a)               第5条に定める金融取引については0.1%;

(b)              第6条に定める金融取引については0.01%。

3.             加盟国はパラグラフ2(a)および(b)に準じて、同じカテゴリー内の金融取引全てに同じ税率を適用するものとする。

 

3

FTTの支払、関連義務、脱税、租税回避、税の乱用の防止

 

9

税務当局に対するFTT納税義務者

 

1.             各金融取引について、FTTは以下の条件のいずれかを満たす各金融機関により支払われるものとする:

(a)             その金融機関が取引当事者として自己勘定または他人勘定で活動する場合;

(b)            その金融機関が取引当事者の名義で活動する場合; または

(c)             取引がその金融機関の勘定で行われた場合。

2.             ある金融機関が他の金融機関の名義または勘定で活動する場合、後者の金融機関のみがFTT納税義務を負うものとする。

 

3.             取引で使用された勘定を持つ金融機関が、第10条(4)に記載された期限までにおさめるべき税金を支払わない場合、非金融機関を含む取引の各当事者は、その金融機関が納めるべき税金の支払いに対し連帯責任を負うものとする。

 

4.             加盟国は、本条項のパラグラフ1、2、3に定めるFTTの納税義務者以外の者をその税の支払いに対する連帯責任者として定めることができる。

 

10

FTTの納税期限、確実な納税のための義務、納税の確認に関する条項

 

1.             加盟国は、登録、会計、報告義務および、税務当局に納めるべきFTTの効率的な納税を確保することを目的としたその他の義務を規定するものとする。

 

2.             加盟国は、各税率で課税された取引の総額を含め、1か月間に課税可能となったFTTの計算に必要な情報すべてを記載した申告書を、FTTの納税義務者全員が税務当局に確実に提出するようにするための措置を導入するものとする。FTT申告書は、FTTが課税可能となった月の翌月10日までに提出するものとする。

 

3.             加盟国は、金融機関が指令2004/39/EC第25条(2)に当たらない場合、所管当局から提出を求められればすぐに提出できるよう、自己名義、他人名義、自己勘定、他人勘定を問わず金融機関が行った金融取引全てに関する関連データを、少なくとも5年間は確実に保管されるようにするものとする。

 

4.             加盟国は税務当局に納めるべきFTTが以下の時点で確実に支払われるようにするものとする:

(a)             取引が電子的に行われた場合は、課税可能となった時点;

(b)            その他の全ての場合、課税可能となった時点から3営業日以内。

 

5.             加盟国は、税が正しく支払われたか否かを所管当局が確実に確認するようにするものとする。

 

11

脱税、租税回避、税の乱用の防止に関する特定条項

 

1.             加盟国は脱税、租税回避、税の乱用を防止するための措置を導入するものとする。

 

2.             委員会は、第13条に従い、加盟国がパラグラフ1に準じて取るべき措置を特定する委任法令を採択することができる。

 

3.             加盟国は、必要な場合には常に、税務に関する行政協力について欧州連合により導入された条項、特に理事会指令2011/16/EUおよび2010/24/EUにより導入された条項を活用するものとする。また加盟国は、金融取引に関連する既存の報告義務およびデータ保守義務を活用するものとする。

 

4

最終条項

12

金融取引に対するその他の税

加盟国は、本指令のFTTおよび理事会指令2006/112/EC[30]に規定する付加価値税以外の金融取引に対する税を維持、導入しないものとする。

 

13

委任の行使

 

1.             本条項に規定された条件の下に委任法令を採択する権限が委員会に与えられる。

 

2.             第18条に定める日から不定期間に渡り、第2条(2)および第11条(2)に定める権限が委譲されるものとする。

 

3.             第2条(2)および第11条(2)に定める権限委譲は理事会によりいつでも取り消すことができる。取り消しの決定によりその決定に規定された権限委譲は終了するものとする。これは欧州連合官報(Official Journal of the European Union)で決定が公表された次の日、またはこの中で規定された後日に発効するものとする。これはその時点で既に実施されている委任法令の効力に影響を及ぼすものではない。

 

4.             委員会は、委任法令を採択し次第その旨を理事会に通知するものとする。

 

5.             第2条(2)および第11条(2)に準じて採択された委任法令は、理事会への法令の通知後2か月間に理事会からの異議申立てがない場合またはその期間の終了前に理事会が異議のない旨を委員会に通知した場合にのみ発効するものとする。その期間は理事会の主導により2か月間延長できるものとする。

 

14

欧州議会への情報

 

欧州議会は、委員会による委任法令の採択、これらに対する異議申立て、理事会による権限委譲の取り消しについて通知を受けるものとする。

 

15

指令2008/7/ECの修正

 

指令2008/7/ECを以下のように修正する:

(1)            第6条(1)のポイント(a)を削除する。

(2)            第6条の後に、以下の条項を挿入する:

6a

指令…/…/EUとの関係

本指令は理事会指令…/…/EU[31]を侵害するものではない。」

16

再検討条項

委員会は、5年ごと、最初については2016年12月31日までに、本指令の適用に関する報告および、適当な場合にはその修正に関する提案を、理事会に提出するものとする。

その報告の中で委員会は最低限、FTTが域内市場の適切な機能、金融市場、実体経済に与える影響を検討するものとし、金融セクターへの課税の国際的進展も考慮に入れるものとする。

17

移行措置

1.             加盟国は、遅くとも2013年12月31日までに、本指令の順守に必要な法律、規制および行政条項を採択、公布するものとする。加盟国は、それらの条項およびそれらの条項と本指令の相関表を直ちに委員会に伝達するものとする。

加盟国は、それらの条項を2014年1月1日から適用するものとする。

加盟国がそれらの条項を採択する際には、それらの条項に本指令が言及されるか、またはそれらの公布の際に本指令が言及されるものとする。その言及がどのようになされるかは加盟国が決定するものとする。

2.             加盟国は、本指令の適用を受ける分野について採択する国内法令の主要条項の条文を、委員会に伝達するものとする。

18

発効

本指令は、欧州連合官報(Official Journal of the European Union)での公布日の翌日から起算して20日目に発効するものとする。

19

発出先

本指令は加盟国に発出する。

ブリュッセルにて

理事会

議長

 

付属書

立法上、財政上の声明

 

1.             本提案・イニシアティブの枠組み

 

1.1.           本提案・イニシアティブの表題

 

金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令

1.2.           ABM/ABB構造に関係のある政策分野

 

14 05 課税政策

 

1.3.           本提案・イニシアティブの性格

 

新たな措置に関わる提案

1.4.           目的

1.4.1.        本提案により達成を目指す委員会の多年度戦略的目標

 

金融安定化

1.4.2.        具体的目標および関連するABM/ABB活動

 

具体的目標 No.3

EU政策目標を促進するために新たな課税イニシアティブ・措置を創り出す。

関連するABM/ABB活動

14章 税制・関税同盟; ABB 05 税制政策

1.4.3.        期待される成果

 

協調性のない国家レベルの課税策導入が増加している現状を念頭に置き、金融サービスの域内市場における分断化を回避する。

 

金融機関が近年の危機のコストを公平に負担し、金融セクターと他のセクターが同等に課税されることを確保する。

 

過度にリスクのある取引に対し適切な阻害要因を作り、将来の危機回避を目的とした規制措置を補強する。

1.5.           本提案・イニシアティブの根拠

1.5.1.        短期的、長期的に満たすべき要件

 

金融危機後のEUにおける安定化という全体目標への貢献

1.5.2.        EUの関与がもたらす付加価値

 

EUレベルで対策を実施することによってのみ、様々な活動に渡る国境を越えた金融市場の分断を回避し、EU内の金融機関の平等な待遇を確保し、最終的には域内市場の適切な機能を確保することが可能となる。

1.5.3.        過去の類似の経験から得た教訓

 

広範囲の税基盤を持つFTTを国レベルで導入することにより深刻な移転を招くことなく上記3つの目標を達成することは、ほとんど不可能であることが分かっている(スウェーデンの例)。

1.5.4.        他の関連法律文書との首尾一貫性および相乗効果の可能性

 

税はグローバルな解決の枠組みの一環である。さらに、委員会はFTTの税収を将来の自己資金として使用することを提案している。

1.6.           継続期間および財政的影響

 

無期限の提案

1.7.           想定される管理方法

 

本提案は行政費用の増加によりEUに財政的影響を与える。

 

委員会による集権的直接管理

 

以下の者への実施業務の委託を伴う集権的間接管理:

 

欧州連合条約第5章に準じて特定の活動の実施を委任され、財政規則第49条の意義の範囲内で関連基本法において認定された者。

 

加盟国との共有管理

 

第三国との分権的管理

 

国際機関(今後指定される予定)との共同管理

 

2.             管理方法

2.1.           監視、報告ルール

 

加盟国は、確認方法を含め、FTTが正確かつ適時に課税されるための適切な措置を取らなければならない。

 

納税を確保し正確な納税を監視、確認するための適切な措置の提供については、加盟国に任される。

2.2.           管理、抑制制度

2.2.1.        特定されたリスク

 

1. 本指令の加盟国レベルでの実施の遅延

2. 脱税、租税回避、税の乱用のリスク

3. 移転のリスク

2.2.2.                        想定される抑制方法

 

本指令第11条では、委任法令および税務に関する行政協力という、脱税、租税回避、税の乱用の防止に関する具体的な条項が記載されている。

 

移転のリスクには、適切な税率の選択および広範な課税基盤の規定により対処する。

2.3.           不正行為の防止対策

既存または想定される防止、保護措置を特定する。

 

3.             本提案・イニシアティブの財政に対する影響の概算

3.1.           影響を受ける多年度財政枠組みの見出しおよび歳出予算項目

Ÿ 既存の歳出予算項目

多年度財政枠組み見出し・予算項目順に記載

多年度財政枠組み見出し

予算項目

歳出の種類

拠出

番号

 

[種類………]差別化/非差別化1EFTA2加盟国より加盟準備国3より第三国より財政規則第18条(1)(aa)の意義の範囲内で[XX.YY.YY.YY]差別化/非差別化有/無有/無有/無有/無

Ÿ 新たに要求された予算項目

多年度財政枠組み見出し・予算項目順に記載

多年度財政枠組み見出し

予算項目

歳出の種類

拠出

番号

 

[見出し………]差別化/非差別化EFTA加盟国より加盟準備国より第三国より財政規則第18条(1)(aa)の意義の範囲内で[XX.YY.YY.YY] 有/無有/無有/無有/無

3.2.           支出に対する影響の概算

3.2.1.        支出に対する影響概算の概要

100万ユーロ(小数点第3位まで)

多年度財政枠組み見出し 番号 [見出し… … … … … … ]

 

総局: <… …> N4 N+1年 N+2年 N+3年 …影響の継続期間を示すために必要な年数を全て記入(ポイント1.6参照) 合計
Ÿ 運営予算
予算項目の番号 割当分 (1)
支払分 (2)
予算項目の番号 割当分 (1a)
支払分 (2a)
特定のプログラム用から供給された行政的性格の予算5
予算項目の番号 (3)
合計

総局<… …>用の予算割当分=1+1a

+3該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず支払分=2+2a

+3該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず

 

Ÿ 運営予算合計 割当分 (4) 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
支払分 (5) 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
Ÿ特定のプログラム用から供給された行政的性格の予算の合計 (6)
多年度財政枠組み見出し<….>の予算合計 割当分 = 4 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
支払分 = 5 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず

本提案・イニシアティブに1つ以上の見出しが影響を受けた場合:

Ÿ 運営予算合計 割当分 (4)
支払分 (5)
Ÿ特定のプログラム用から供給された行政的性格の予算の合計 (6)
多年度財政枠組み見出し14の予算合計(参照額) 割当分 = 4 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
支払分 = 5 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず

 

多年度財政枠組み見出し:

5

「行政支出」

100万ユーロ(小数点第3位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降
総局: 税制・関税同盟総局
Ÿ 人的資源 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762
Ÿ その他の行政支出 0.040 0.036 0.036 0.036 0.036
税制・関税同盟総局合計 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

 

多年度財政枠組み見出し5の予算合計 (割当分合計=支払分合計) 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

100万ユーロ(小数点第3位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降

多年度財政枠組み見出し15の予算合計

割当分 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798
支払分 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

 

3.2.2.        運営予算に対する影響の概算

                - X 本提案・イニシアティブは運営予算の使用を必要としない。

 

3.2.3.        行政的性格の予算に対する影響の概算

 

3.2.3.1.     概要

X 本提案・イニシアティブは以下の通り行政予算の使用を必要とする:

 

100万ユーロ(小数点第3位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降

 

多年度予算枠組み見出し5
人的資源 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762
その他の行政支出 0.040 0.036 0.036 0.036 0.036
多年度予算枠組み見出し5小計 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

 

多年度予算枠組み見出し5以外6  

 

 

人的資源     その他の行政的性格の支出     多年度予算枠組み見出し5以外の小計該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず

 

合計 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

3.2.3.2.     必要とされる人的資源の概算

X 本提案・イニシアティブは以下の通り人的資源の使用を必要とする:

概算は全額で表示(または小数点第1位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降
Ÿ 機関内計画ポスト(職員、臨時職員)
14 01 01 01 (本部および委員会代表事務所) 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762
14 01 01 02 (代表部) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
14 01 05 01 (間接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
10 01 05 01 (直接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
Ÿ 外部人員(単位:フルタイム当量(FTE))7
14 01 02 01 (「グローバル用」から、CA、INT、SNE) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
14 01 02 02 (CA、INT、JED、LA、代表部のSNE) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
XX 01 04 yy8 -本部9 p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
-代表部 p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
XX 01 05 02 (CA、INT、SNE - 間接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
10 01 05 02 (CA、INT、SNE - 直接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
その他の予算項目(特定する)
合計 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762

14は関係する政策分野、予算の章番号。

 

必要な人的資源は本措置の管理のために既に配置された総局のスタッフ、および/または総局内で再配置されたスタッフで賄われる。必要な場合は、年次配置手続きの下で予算上の制約に照らして管理担当総局に追加人員が配置される。

 

職務の内容:

職員、臨時職員 税制・関税同盟総局の現在のスタッフはFTT共通システムという課題を完全に考慮して配置されているとはいえず、内部での再配置が必要である。配置された職員の主な職務は、交渉プロセスを促進するための本税の実質的な機能に関する専門的事項の詳細策定、それに続く実施状況のモニタリング、法解釈および作業文書の作成、委任法令の租税回避・乱用対策条項への寄与、必要に応じて侵害調査手続きの作成などである。

3.2.4.        現在の多年度財政枠組みとの適合性

X 本提案・イニシアティブは現在の多年度財政枠組みと矛盾しない。

3.2.5.        第三機関による寄与

- 本提案・イニシアティブでは、第三機関による協調融資について規定していない。

 

3.3.           歳入に対する影響の概算

X 本提案・イニシアティブによる歳入への財政的影響はない。

 

*原文: http://ec.europa.eu/taxation_customs/resources/documents/taxation/other_taxes/financial_sector/com(2011)594_en.pdf


[1] COM(2010) 549 final

(http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2010:0549:FIN:EN:PDF)

[2] 特に、ユーロ圏の首脳・政府首班は2011年3月11日の欧州理事会で「ユーロ圏、EU、国際レベルにおいて金融取引税の導入をさらに検討し、発展させるべき」ことに合意した。これに続く2011年3月24、25日の欧州議会においても世界的な金融取引税の導入をさらに検討し発展させるべきとの結論が改めて表明された。

[3] 欧州議会は2010年3月10日、25日および2011年3月8日、FTTの長所と短所を検討する影響評価の実施を委員会に求める決議を採択した。欧州議会はさらに、EU予算への寄与、途上国における気候変動の適応策と緩和策に対する支援提供のための革新的資金調達メカニズムとしての活用、開発協力の資金調達という観点から、FTTの各種案の可能性を評価するよう要請した。

[4] 金融・保険サービスのほとんどはVAT(付加価値税)から免除されている。

[5] COM(2011) 510 final

http://ec.europa.eu/budget/library/biblio/documents/fin_fwk1420/proposal_council_own_resources_en.pdf

[6] COM(2010) 700 final

(http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2010:0700:FIN:EN:PDF)

[7] COM(2011) 510 final

(http://ec.europa.eu/budget/library/biblio/documents/fin_fwk1420/proposal_council_own_resources_en.pdf)

[8] この対象範囲は、「金融商品市場および理事会指令85/611/EEC、93/6/EEC、欧州議会および理事会指令2000/12/ECの修正、ならびに理事会指令93/22/EEC (OJ L 145, 30.4.2004, p. 1)の廃止に関する2004年4月21日欧州議会および理事会指令2004/39/EC」の付属書Iに示された金融商品の定義を参照している。この定義によると集団投資事業のユニットも金融商品に含まれている。従って、指令2009/65/EC (OJ L 302,17.11.2009, p. 32)の第1条(2)に定義された譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)の株券・ユニットおよび、指令2011/61/EU (OJ L 174, 1.7.2011, p. 1)の第4条(1)(a)に定義されたオルタナティブ投資ファンド(AIF)は金融商品である。このため、これらの商品の引受けや償還は本提案の意義の範囲内では金融取引と見なされる。

[9] 特に指令2004/39/EC(前脚注を参照)。

[10] OJ L 64, 11.3.2011, p. 1

[11] OJ L 84, 31.3.2010, p. 1

[12] http://www.oecdilibrary.org/docserver/download/fulltext/2311331e.pdf?expires=1309623132&id=id&accname=ocid194935&checksum=37A9732331E7939B3EE154BB7EC53C41

[13] OJ L 347, 11.12.2006, p. 1

[14] OJ L 46, 21.2.2008, p. 11

[15] OJ C …, …, p..

[16] OJ C …, …, p..

[17] OJ L 145, 30.4.2004, p. 1–44

[18] OJ L 302, 17.11.2009, p. 32–96

[19] OJ L 174, 1.7.2011, p. 1–73

[20] OJ L 46, 21.2.2008, p. 11

[21] OJ L 241, 2.9.2006, p. 1

[22] OJ L 302, 17.11.2009, p. 32

[23] OJ L 174, 1.7.2011, p. 1

[24] OJ L 145, 30.4.2004, p. 1

[25] OJ L 177, 30.6.2006, p. 201

[26] OJ L 177, 30.6.2006, p. 1

[27] OJ L 335, 17.12.2009, p. 1

[28] OJ L 235, 23.9.2003, p. 10

[29] OJ L 166, 11.6.1998, p. 45

[30] OJ L 347, 11.12.2006, p. 1–118

[31] OJ L ….., …., p

1 差別化=差別化された予算/非差別化=差別化されていない予算。

2 EFTA:欧州自由貿易連合。

3 加盟準備国および、該当する場合には西バルカン諸国の加盟準備国となる可能性のある国。

4 N年は本提案・イニシアティブの実施開始年。

5 EUのプログラム・措置を支援するための技術・行政支援および支出(元「BA」項目)、間接的研究、直接的研究

6 EUのプログラム・措置を支援するための技術・行政支援および支出(元「BA」項目)、間接的研究、直接的研究

7 CA=契約職員、INT=臨時スタッフ(「Intérimaire」)、JED=「Jeune Expert en Délégation」(代表部の若年層専門家)、LA=現地職員、SNE=補助的国家専門家。

8 運営予算(元「BA」項目)から外部人員用の上限以下で。

9 基本的には、構造基金、欧州農業農村振興基金(EAFRD)、および欧州漁業基金(EFF)用。

8、金融取引税を巡る12の誤解 Financial Transaction Tax: Myth-Busting

Financial Transaction Tax: Myth-Busting

March 2012

Stamp Out Poverty 編

 

金融取引税を巡る12の誤解

2012年3月(註1)

 

 

金融取引税(FTT)は、金融セクターからまとまった額の新たな税収を得ることができる政策オプションとして、現在、幅広い論議の対象となっている。金融危機への対処には膨大なコストがかかった。2009年12月末までにG20先進諸国が銀行救済のために使った費用の総額は、世界のGDPの6.2%、すなわち19760億ドルにのぼる(IMF、2010)。しかも欧米において、失業や公共サービスの切り詰めなどの形でこのコストを担うことになったのは、危機の招来に何ら責任をもたない一般市民だった。金融危機の原因とは何の関係もない発展途上諸国も、保健衛生、開発、インフラ整備、気候変動対策などに当てられるはずだった資金の切り詰め、もしくは支払い繰り延べという形で、大きなコスト負担を余儀なくされた。

 

FTTは、今も続くグローバルな経済危機に対処するコストの一部分を担えるだけの、有意な額の歳入を上げ得る数少ない政策オプションのひとつである。FTTを導入することで、現在あきらかに課税過少の状態にある金融セクターから、自らの行動の結果である危機に対処するコストを、より多く徴収することができるだろう(これはより公正なことでもある)。重要なのは、FTTが同時に市場を規制し、市場における投機的行為と短期収益主義を減らし、代わりにより持続可能で合理的かつ公正な長期的な経済発展を奨励することだ。

 

にもかかわらず、また、国際的に見てもFTTへの支持が広がっているのに、反対論者たちはいまだにFTTが経済に与える影響に関する「神話」を広めようとしている。だが、こうした「神話」は事実無根だ。この論文の目的は、こうした「神話」を一掃することである。

 

金融取引税(FTT)とは何か?

 

FTTとは、四種類の主要な金融資産の購入、販売、もしくは移転に課せられる小額の税金のことである。ここでいう四種類とは、株式、債券、外国為替、それに各々のデリバティブ(金融派生商品)である。欧州委員会は、株式と債券の取引に0.1パーセント、デリバティブの取引に0.01パーセントの課税を提案している(2011)。また、リーディング・グループ(註2)は2010年、外国為替の取引に0.005パーセントの課税を行うことを提唱して

いる。FTTは、まとまった額の新たな税収源になり得る。EU圏内全域に(通貨に関わる部分は除いて)FTTを課せば、年間570億ユーロの歳入を得ることができる(欧州委員会、2011)。さらに、広範囲にわたるFTT(通貨に関わる部分を含む)をすべての先進諸国で課せば、年間3000億ドル近い歳入を得ることができるだろう(Spratt&Ashford, 2011)。

 

手始めに、FTTをほかの貿易関連のコストとの関連というコンテクストから見てみよう。FTTの税率0.1パーセントとする場合、これは取引にかかるコストの総額の10パーセント未満に過ぎない。たしかに、それ以外のコスト、「たとえば各種手数料、スプレッド、マーケット・インパクト・コスト、手形交換高、清算費、手数料のやり取り、経営コストなど(Persaud, 2012, p2)」に比べて、とりわけ大きいとは言えない。実際、この程度のFTTを課しても、単に取引関連コストが10年前の水準に戻るだけだ。加えて、10年前の市場が今よりずっと健全であったことは、十分論証可能である。

 

「神話」その1:FTTは世界一律に実施しないと意味がない?

 

これは全くのでたらめである。これまで世界で実際に導入されたFTTの例を見てみれば、上記の主張とは正反対に、いくつもの国が一国単位でFTTの導入・活用に成功しているのがわかるだろう(付録1参照)。「FTTは別に珍しいものではない。過去何十年にもわたって40以上の国で恒久的もしくは一時的に導入されている。」(Beitler, 2010)(註3)イギリスで株式取引に課されたFTTが、よい例だ。この税は、有意なほど大きなビジネスの流出を招くことなく、イギリス国内で毎年50億ドルもの歳入を財務省にもたらしている。韓国、南アフリカ、インド、香港、イギリス、ブラジルをはじめとする多くの国々が、FTTでかなりの税収を上げている。たとえばブラジルは、各種資産の取引に様々な税率のFTTを課すことで、2010年一年間で150億ドルの税収を得ている(ブラジル財務省、2011)。こうした現在進行中の成功例を見れば、FTTは必ずしも全世界で一律に実施する必要はないことはあきらかだ。世界中で一律に実施しなければ、金融機関は単に税金逃れのために取引の場を海外へ移すだけだ、というのもまた、妥当性のない「神話」である。IMFも認めているとおり、FTTは「必ずしも、容認できないほどの規模で金融活動を国外に流出させるものではない。」(IMF、2011)FTTがどの程度成功するかは、どれだけうまく税制をデザインするかにかかっている。

 

「神話」その2:FTTは簡単に脱税できる?

 

実のところ、税制をうまくデザインすれば、脱税を最小限にするのは簡単だ。つまり、脱税という行為がロー・リスク、ハイ・リターンではなくて、ハイ・リスク、ロー・リターンになるようにすればいいのだ。言い換えれば、税率を低く設定し、脱税を行った場合の罰則を重くすればいいのである。そうすれば、脱税を行うインセンティブは大幅に低くなる。税制の施行を成功させるためには、税金の収納率を上げるという観点から、よいシステムをデザインすることが不可欠だ。以下に述べる二つのデザイン上の原則を守れば、脱税を最小限にとどめることができるだろう。この場合、取引がどこで行われるかは関係ないので、取引の場所を移すことによって脱税を図ることはできないからだ。

 

欧州委員会が提唱する「居住地原則」(2011)

FTTの徴収は、税を支払う金融機関、もしくは取引の主体がどこにあるか、またはいるか、という居住地原則にのっとって行う。徴収の際に注目すべきは、だれが取引主体かということで、どこで取引が行なわれたか、ではない。たとえば、欧州圏内の一国、フランスがFTTの徴収を決めたとする。その場合、フランスの納税義務者として登録されているすべての企業、もしくは個人が、フランス国内に在住しているか否かを問わず、納税を義務づけられる。対象となる金融資産の取引が世界のどこで行なわれようと関係はない。

 

「法的所有権移転の原則」(印紙税、と称されることもある)

金融資産の取引があった場合、法的な所有権の移転は、FTTが徴税当局に支払われないかぎり行えないものとする。課税されていない(もしくは印紙が添付されていない)金融取引は、法的な効力を持たない。FTTを支払わなければ契約の結果に法的な拘束力がない、となると、脱税をした当事者は大きな不利益をこうむることになる。法的な所有権がなければ、株の配当を受け取ることもできないし、資産を担保にすることもできないからだ。

 

「課税を受けていない、すなわち法的な拘束力を持たない証券類は、クリアリングハウスによる公的な決済の対象とされない。この事実は、今日では決定的な重要性を持つ。こうした意味で、FTTはデリバティブのような金融商品に対しても以前に増してふさわしい対策である・・・公的な決済を経ていない証券類を保有していると、自己資本比率規制に抵触するなどして、FTTを支払うよりもはるかに高いコストがかかるのである」(Griffith-Jones and Persaud, 2012, p.9)

 

こうした要素を勘案すれば、(脱税は)投資家にとってリスクが高すぎる―すなわち、脱税のインセンティブは相当低くなる。

 

最後に付け加えておきたいのだが、FTT反対論者はFTTに対してほかの税金の場合と比べて「はるかに厳しい基準」を適用している―あらゆる税金は、一定限度は脱税可能なのだ。税の収納率が100パーセント、ということはあり得ない。アメリカ政府の主要な財源となっている所得税を例にとってみよう。内国歳入庁(IRS)による最近の調査によると、脱税率は約19パーセント、金額にして年間3450億ドルという膨大な額にのぼる。しかしながら、1年間に収納される所得税の総額は2兆ドルだ。さすがに、本来入るべき税収の五分の一近くが収納されていないのだから、所得税には価値がない、という人はいないだろう(前出.2012)。課税方法について検討する場合、目標とするのは脱税を最小限にとどめることだ。それは上記の二つの原則を守れば達成できる。だが、脱税をゼロにすることはできない。

 

「神話」その3:FTTのコストは結局一般庶民が負うことになる?

 

そんなことはない。FTTを負担するのは、誰よりもまず、金融資産の主たる買い手と売り手である。実際、課税対象となる取引の85パーセント(註4)は銀行その他の金融機関によって行なわれている。その他のなかには、ヘッジファンドのように富裕層の個人を主な顧客とする機関も含まれる。一般庶民は、概して債券やデリバティブなどの金融資産の取引を行わない。FTTは結局誰が負担することになるのかを検証したIMFは、FTTが「きわめて累進的な」税制になるだろうと結論づけている(IMF, 2011, p.35)。すなわち、FTTを負担するのは、キャピタルゲイン課税の場合と同じく、社会でもっとも富裕な企業および個人になるだろう、ということだ。もっとも貧しい人々が不釣合いなほど多額の負担を強いられる付加価値税(VAT)と、好対照であるといえる。

 

何より重要なのは、投資の対象として1回だけ金融資産を買うのではなく、四六時中金融資産の取引を行い、結果として一番多額のFTTを支払うことになるのは、個人ではなく企業だ、という点である。取引を頻繁に行えば行うほど、多額の税金を納めなくてはならないからだ。FTTはとりわけ、高頻度取引(HFT)(註5)に大きな影響を与えるだろう。HFTを市場の崩壊をもたらす危険な取引で、規制対象とされるか大幅に縮小されるべきだ、と考える多くのエコノミストは、予測される結果を歓迎している。

 

金融機関、とりわけ銀行は、ATMの利用や住宅ローンをはじめとする各種ローンといった通常の金融サービスの手数料を上げることによって、FTTのコストを間接的に一般顧客に転嫁しようとするのではないか?

こうした事態が生じるとは考えがたい。第一に、立法府は金融機関がそうした方法でコストを利用者に転嫁することを禁じる法律を作ることで、そうした行為を規制できる。第二に、金融セクターはきわめて競争が激しいので、金融機関がコストを利用者に転嫁する可能性は低いだろう―そんなことをすれば、顧客を競争相手に取られてしまうからだ。たとえば、ライバルに比してはるかに多額のFTTを支払わざるを得ないような金融活動を行っている銀行があるとしよう。そうした銀行が、たとえばATMの利用手数料を新たに徴収したり、住宅ローンの金利を上げたりして、顧客にFTTのコストを転嫁し、一方、ライバル銀行はそうしたことを行わなかった場合、コスト転嫁を行った銀行は競争上不利な立場に立たされ、結果として市場におけるシェアを失う危険を冒すことになる。FTT反対論者はお題目を唱えるように、「銀行はいつだってコストを顧客に転嫁しようとする」と言って、われわれを脅かそうとする。しかし競争が激しい市場においては、話は見かけほど、もしくは金融セクターが主張するほど、単純ではない。

 

「神話」その4:年金生活者が損をさせられる?

 

年金生活者がFTTのコストを負担させられることはない。ほかの種類の投資家(たとえばヘッジファンドやHFTを行なう機関投資家)に比べて、年金基金は(世界中どこでも)長期的な投資を行なう傾向にあり、買った金融商品を保有しつづけるという戦略をとりがちだ。年金基金の資本のほとんどは長期的視野に立って運用されるので、市場参入時と撤退時に課せられるごく低率の税金は、ほかのコストや利得に比すれば無視してもよいほど小さな要因なのだ。

 

FTTの影響について語る際に主として考慮しなくてはならないのは、金融商品の保有期間である。FTTの導入によって、短期取引(証券を毎時、取引日であれば一年中毎日、売買すること)を行なうものは、不釣合いに大きなコストを負わされる。中期取引(買った証券を一年以上保持すること)を行なうものにとっては、FTTのコストは最小限であり、長期取引(たとえば10年物の国債を買って、満期まで持ちつづけること)をおこなうものにとっては、無視できるほど小さい。

 

年金基金がポートフォリオを見直すのは、せいぜい2年に一回程度だ。一方、HFTを行なう投資家は、一日でポートフォリオを丸ごと入れ替えるほど煩瑣に売買を繰り返す―したがって彼らは平均的な年金基金の1666倍のものFTTを支払うことになる (Persaud, 2012)。

 

さらに重要な違いについても、説明しておかなくてはならない。年金制度は、大きく二つに分けることができる―公的資金を財源とするもの(賦課方式のものや税金によってまかなわれるもの)と、事前積立された資本を運用することから出ているもの(すなわち年金基金)である。FTTの影響を受けるのは、後者のみだ。公的資金は金融市場で運用されることはなく、したがって課税の対象とならないからである。

 

すべてのヨーロッパ諸国において、年金生活者の収入の優に50パーセント以上は公的資金に由来するものである(オランダ、イギリス、フィンランドの三カ国は、特別な例外だが)。一方、EUに属する11カ国(フランス、ギリシャ、ベルギー、スペイン、ポルトガル、イタリア、ハンガリー、オーストリア、ポーランド、スロバキアそれにチェコ共和国)では、賦課方式の年金の割合は10パーセント未満である。ドイツでは賦課方式は15パーセント。賦課方式の年金が退職者の収入のかなりの部分(20パーセント以上)を占めているのは、6カ国(フィンランド、オランダ、イギリス、デンマーク、アイルランド、スウェーデン)だ。企業サイドや金融ロビーからFTTの影響を心配する声が上がっているのは、これら6カ国においてであり、それはある意味当然だろう。

 

最後にもうひとつ。FTTは、HFTにともなう構造的なリスクを減らすことで市場の安定に貢献し、長期的な年金の価値を上昇させる。銀行やヘッジファンドは、複雑かつ変動の激しい市場で大量の取引を行なうことで利益を得る傾向がある。取引手数料や営業利益をかすめとり、コンピューターの多用や技術的なアドバンテージを生かしつつ、リスクの大半、場合によっては全部を顧客に負わせるのだ。FTTを導入すれば、銀行がこのように預金者を食い物にして利益を上げる度合を減じることができる。

 

「神話」その5:FTTは経済成長を阻害し、失業者を増やし、経済に害を与える?

 

事実はその正反対だ。FTTは経済成長を促進し、雇用を生み出す一助となる。イギリスで(ECが提案しているように)外国為替を含む幅広い金融取引にFTTを課せば、年間84億ポンドの税収を上げると同時にGDPを0.25パーセント押し上げることができる―これは75,000の新たな雇用の創出と同等の効果がある(Persaud, 2012)

加えて、現在FTT課税を行なっている多くの国々の経済が大きく成長しているという事実もある。韓国、香港、インド、ブラジル、台湾、南アフリカ、スイスなどの国々だ。実際、これらの国々の経済は世界的に見てもかなりの急成長を遂げている。

 

長期的な経済成長の最大の脅威はFTTではなく、金融セクターの暴走である。2009年末時点でのG20先進諸国における金融危機の損害額は、GPD総額の6.2パーセント、すなわち1兆9760億ドルにのぼっている(IMF, 2010)。FTT反対論者は、最近、欧州委員会が公表したインパクト・アセスメント(IA)に掲載された数字を、文脈を無視して取り出し、それを引用してFTTを攻撃している。IAに掲載された数字は、GDPの伸び率がマイナス1.76パーセントになる、というものだ。まず、この数字は「予想できる最悪の事態」がおきた場合にはこうなる、という仮定の上に立ったもので、最終的に確定したものではない。IAの主張は、ECが提唱しているような形でデザインされたFTTが導入されれば、長期的に見て0.53パーセントのGDPの減少が予測される、というものだ。この長期的に見て0.53パーセントという数字は、年率に換算すればほんのわずかに過ぎない。にもかかわらず、反対論者はこのマイナス1.76パーセントという数字を、誤解を招くようなやり方で使い、FTTの影響に関する誤った推論を展開、膨大な数の職が失われるかのように言い立てているのだ。

 

マイナス0.53パーセントという数字ですら、減少幅を大きく見積もりすぎている。欧州委員会が使用したモデルには、最近、最初のモデルを開発したのと同じメンバーによって改定が加えられている(Lendvai and Raciborki, 2011)。最新版のモデルは、投資に回される資金がどのように調達されるかをより現実を反映する形でシミュレートしている。このモデルを使った予測では、FTTがGDPに与える悪影響は大幅に縮小され、マイナス0.2パーセントに過ぎなくなる。

 

しかしながら欧州委員会による予測は、改定版でさえ完璧とはいえないモデルに基づいて算出されている。IAはFTT導入によるマイナスの影響だけを計算に入れ、プラスの影響を少しも考慮していないからだ。とりわけ、FTTによって得られた歳入を経済成長をうながすような政策、たとえば雇用の創出やインフラ整備、貧困の緩和などに投資した場合のプラスの効果を無視しているのは問題である。分析を行なうに際して、税の導入によって経済にかかるコストのみを考慮し、税の導入がもたらしうる利益を一切考慮しないというのは、きわめて不誠実な態度だ。欧州委員会税制・関税同盟総局のシェメタ局長も、IAが正確性を欠くことを認めている。局長は、これは世界のひとつの地域全体に幅広いFTTを課した場合、どのような影響があるかをモデル化する初めての試みであり、未完成のプログラムなのだ、と述べている。欧州委員会はこの問題に関する分析をさらに進めて、FTTの歳入を使った政策による経済成長へのプラスの影響も考慮にいれた報告書を近々発表する予定だ。

 

Griffith-JonesとPersaud(2012)の最近の研究は、経済危機の可能性を減じるというFTT導入のプラスの影響を特に取り上げて論じている。二人の論文は、FTTの導入がGDPに与える影響は、差し引きでプラスになる―(最低でも)約0.25パーセントのプラスになるだろう、と結論している。FTT導入で得られた歳入をうまく累進的に使えば、こうしたプラスの影響をさらに拡大することができる―失業率を下げ、経済を調整して、より持続的かつ公正な成長を可能ならしめることもできるのだ。

 

より生産性の高いセクターへの人的資源の再分配

金融セクターの異常に高い報酬が、そうでなければ工業、商業、研究などの分野に行く可能性がある、最高の頭脳を持った新卒の学生を金融分野にひきつけている。FTTの導入にともなって金融セクターでも最高額の報酬を得ている人々の収入レベルが下がれば、最高の頭脳を持つ学生が工業技術や製造業にも目を向ける一助となるだろう。そうすれば、より根本的かつ長期的な成長を目指すよう、経済全体を調整しなおす役にも立つはずだ。

 

より公正な成長

FTTはほかの多くの税金よりも累進的なものになるだろう。これには(ECのImpact Assessmentをはじめとする)十分な証拠がある。したがって、もしほかの税金を廃して(もしくは軽減して)代わりにFTTを課すならば、言い換えると財政の中立性を保つならば、総家計収入のより高い割合が消費に回されるようになるだろう。比較的貧しい世帯の場合、比較的裕福な世帯にくらべると、そのわずかな所得のうち消費に廻す割合が大きいからである。 つまり、もしFTTから得られる歳入の分、所得税かVATの税率を下げることが可能であれば、総需要と成長を伸ばすことができるのである。この効果は、総需要の不足こそが成長率の低迷、もしくは景気後退の重要な要因であると大多数のエコノミストがみなしている現在の状況下では、とりわけ価値があるとみなせるだろう。

 

「神話」その6:FTTは結果的に雇用を減らす?

 

そんなことはない。上述したように、FTTの導入はイギリス国内だけでも75,000の新たな雇用を生むだろう(Persaud, 2012)。FTT導入によって得られた歳入の増加分を、上手に累進的に活用すれば、労働市場を刺激し、製造業をはじめとする特定分野での雇用を増加させることができるはずだ。そうすれば、とりわけイギリスでは金融セクターへの依存が過度に高くなっている経済全体のバランスの再調整に貢献することができる。FTTの導入は、ごく特殊な分野、すなわちHFTで働く人々にとっては、比較的少量の雇用の減少を招くかもしれない。しかし経済のほかの諸分野での雇用の上昇は、特定分野での減少を補ってあまりあるので、全体としてみれば雇用は増加するだろう。

 

「神話」その7:FTTは確かによい政策のようだが、本気でそんなものを導入しようと考えている者などいない?

 

実際、FTTはこの二年間で多くの人からかなりの支持を集めている。マイクロソフトの創始者で慈善家としても有名なビル・ゲイツをはじめとする、きわめつきの著名人もFTT支持を表明している。ゲイツは2011年11月、G20首脳たちに提出したリポートの中で、特にFTTの導入を勧奨している(註6)ほかにもジョージ・ソロス、アル・ゴア、バン・キムン、コフィー・アナンなどの錚々たる面々がFTTを支持している。2011年には、ノーベル賞を受賞したジョセフ・スティグリッツやポール・クルーグマンをはじめとする一流エコノミスト千人がFTT支持を表明している。また、世界三十カ国の国会議員千人も支持を表明した。2011年を通じて、FTT支持の動きは拡大しつづけた。G20サミットでは、アルゼンチン、ブラジル、フランス、ドイツ、南アフリカの各国がFTT支持を表明した。

 

今現在、ヨーロッパではFTT導入に向けた強い機運がある。欧州委員会は現在、FTT法案を審議中であり、EU域内の9カ国(フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャ、オーストリア、ベルギー、フィンランド)がこの議案を優先的に審議するよう要請している。フランスは口先だけでなく、FTT導入を実行に移した。2012年2月にフランス議会は、イギリスの株式に対する印紙税をモデルにした自国内限定のFTT法案を承認したのである。

 

最後に、FTTがすでにどれほど世界各国で導入されているかについては、世界FTT地図(補遺1)を参照してもらいたい。

 

「神話」その8:FTTは市場の流動性を低下させ、資本コストを上昇させて、広義の経済活動に悪影響を与える?

 

EUが現在検討している規模でFTTを導入すると、取引コストが上昇し、その結果、出来高が減少して流動性が低下し、資本コストが上昇して、ついには投資が減少して経済成長率が鈍り、結局のところ、たいした税収は上げられないだろう、とする論者もいる(Rogoff, 2011)。だが、この議論は多くの事実をあえて隠している。

 

ここで上述の議論に対して懐疑論を述べる一番わかりやすい理由は、FTT導入によって取引コストが上昇しても、取引コストはせいぜい十年前のレベルに戻るだけだからだ。十年前の市場は、現在の市場よりもずっと健全だった。流動性の問題など、当時はあきらかに存在しなかった(Persaud, 2012年3月)。

 

次に資本コストの問題に目を向けよう。もし取引コストのわずかな増加が資本コストに有意なほどの影響を与えるというRogoffの論が正しければ、取引コストの急激な下落(コンピューター技術の進歩と規制緩和に由来する)の結果、経済はこの二、三十年で大きく成長していなくてはならないはずだ。しかし、データはこの仮説を支持しない。成長はむしろ取引コストがもっと高かった、市場暴落以前の時期のほうが大きかったのである(Baker, 2011)。

 

最後に、先にも述べたとおり、FTT導入でもっとも影響を受けるのは、HFTに従事している人々である。HFT従事者は、自分たちが市場に不可欠な流動性を供給していると主張する。だが、その主張はあてにならない。市場がすでに流動的である平常時には、HFTは確かに市場に流動性を供給する。だが、市場が危機に陥ると、HFT従事者はトレンドを先取りしようとして、一番流動性が必要なまさにその時に流動性を極端に低下させてしまうのだ―2010年5月のニューヨーク市場における瞬間暴落のときのように。FTTがHFTを減少させることができるのなら、FTTの導入には市場の構造弾性を向上させるというおまけまでついてくるのだ(Persaud, 2012)。Kapoor(2012)が述べているとおり、それならば、より低い出来高でも、より健全な流動性が供給されるほうがずっといいということだ。FTTの導入は市場から経済上何の目的も果たさない過剰な取引を除く一助となり、結果としてより基本的な経済的動機に基づく取引が残るようにするのだ。

 

「神話」その9:スウェーデンにおけるFTTの失敗は、FTTが機能しないことの証拠である?

 

FTT反対論者はしばしば、1984年から1991年にかけて施行されたスウェーデンの株式取引税の失敗を例にとって、FTTが機能しないことの証拠であると論じる。しかしながら、ほかの多くの諸国でFTTが導入され、成功しているのを見れば、スウェーデンの事例はむしろ例外であり、これを一般法則とみなすことはできないのがわかるだろう。スウェーデンのFTTの問題点はデザイン上の欠陥であり、FTTという一般的コンセプトそのものではなかったことは、今では広く知られている。

 

2010年9月にIMFがG20に提出したリポートは、主な問題点として以下の二つを挙げている。

1.      株式取引税は、登録されたスウェーデンのブローカーを通じておこなわれる取引のみに課されたので、スウェーデン以外のブローカーを通じて取引することで簡単に課税を逃れることができた。その結果、スウェーデン株の取引のかなりの部分が、イギリスのブローカーが扱うところとなった。一方、イギリスの印紙税の場合、イギリスで登録されている企業による株式取引に課税するもので、その取引が世界中どこで行われようと関係ない。さらに印紙税を支払わなければ正式な所有権の譲渡が認められないために、取引の当事者は税金逃れができない。たいていの投資家は、資産の正式な所有権を確定させるためなら、少しくらいの税金は進んで支払うものだ。

2.      1989年から1990年にかけて実施された確定利付債券の取引への課税は、企業ローンやスワップなどの課税対象とならない金融商品への資本のシフトを招いた。

 

スウェーデンの事例に対するIMFの結論は、FTTを導入すべきではなかった、というものではない。むしろ課税対象を「可能なかぎり拡大すべきだった。課税逃れを防止しするためにはそのほうが望ましい。また、司法・行政の名の下に・・・確実に税が取り立てられるようにすべきだった」(註7)

 

「神話」その10:FTTはブリュッセルの欧州委員会がEUの財政状態を改善するために導入しようとしているものである?

 

そうではない。ほかのすべての税金と同じく、FTTも一国単位で徴収される。したがって、その税収を何に使うかは個々の国の政府が決めることだ。FTT導入にもっとも熱心なフランスとドイツは、FTTによる歳入をEUの予算に充てることに反対している。労働組合およびNGOから構成される市民社会は、FTTの税収は欧州委員会に送るよりも、それぞれの国で優先順位の高い課題、たとえば公共サービスの維持や国際公約とした成長目標の達成、気候変動対策などに使うべきだ、としている。
補遺1を見ればわかるとおり、FTTは異常でも何でもない、ごくありふれたものであり、かつ、一国レベルで導入されるものである。しかしながら、複数の国家が協調して課税を行い、合意した共通の目的のために税収を振り向けた例もある。航空券連帯税の税収が、ユニットエイド(UNITAID)という国際機関がエイズや結核、マラリアなどの治療薬を購入する資金に充てられているのがよい例である。税金の徴収は各国政府が行うが、たまった資金はジュネーブにある世界保健機関(WHO)にプールされ、主として発展途上国などで支出されて、大きな成功を収めている。同じように、いくつかの国で徴収されたFTTを共同で使うことも考えられる。新たに得られる税収の一定割合を、保健・衛生分野での国際的な義務を果たすために、たとえば世界基金(Global Fund)(註8)に支出する、もしくは気候変動に対処するために、グリーン気候基金(Green Climate Fund)に支出するなどの例が考えられる。

 

「神話」その11:FTTが導入されても、政治家たちはその税収を最貧国の開発や気候変動対策に使おうとはしないだろう?

 

現在の経済状況の下では、FTTによる税収を、国内の必要を満たすためではなく、国際公約を果たすために使わせるのは、実際、難しいだろう。だが、税収の使途をこうした目的に限るという提案が出されたのも、市民団体とその活動が十分考慮に値する政策オプションとなったおかげである。2011年1月に発表された世論調査の結果によると、ヨーロッパでFTT導入を支持する人の割合は61パーセントであるのに対して、不支持の割合は26パーセント。イギリスでのFTTへの支持は65パーセントである。以前発表された別な調査によると、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアの5カ国では、五人に四人の人が、経済危機が原因で起きた様々な問題は、金融セクターが責任を持って解決すべきだ、と考えている。(註9)

 

ヨーロッパは金融危機で深刻な影響をこうむったが、発展途上国における危機の影響はよりいっそう深刻なものだった。経済のメルトダウンは貧しい国々に650億ドルもの歳入不足を生じさせた。世界銀行の推計では、このために全世界で新たに6400万人の人々が、一日当たり1.25ドル以下で生活しなくてはならなくなった。外国からの援助額は過去15年間で最大の下げ幅を記録し、出稼ぎ労働者からの送金は激減し、さらに気候変動の影響が加わって、何百万人もが家を失ったり、飢餓に陥ったりする危険にさらされている。世界エイズ・結核・マラリア対策基金は昨年、発展途上国への資金の提供を一時中断せざるを得なかった。生きのびるためには一生涯治療を受けつづけるしかない人々にとって、破滅的な結末を招きかねない事態だ。FTTの導入によって、金融危機の原因を作った人々の資金を、金融危機の原因にはほとんど関係ないにもかかわらず、結果として一番深刻な影響をこうむっている人々に再分配することこそが、公正ではないだろうか。

FTT賛成論者は、導入によって新たに得られた税収のうち一定部分は国内的な必要に応じて使われるべきだが、残りの部分は開発と気候変動への対応という二つの目的のために国際的に使用されるべきだ、と一貫して政府に要請してきた。これまでのところ、政治家たちの反応は好意的だ。フランス、ドイツ両国はともに、FTTの税収の一部は発展途上国の開発と気候変動対策に充てるべきだとの声明を出している。2011年11月のG20サミットでのスピーチの中で、サルコジ大統領は以下のように述べている。「フランスはFTT導入によって上げられる税収の一部、より詳しく言うなら、そのかなりの部分、大半、もしくはそのすべてを、開発の目的に充てるべきだと考える」同様に、ドイツのアンジェラ・メルケル首相は2011年11月、ドイツ議会の開発委員会への声明で、以下のように述べている。「FTTの導入によって上げられる税収の一部分を、開発や気候変動への対応に充てることを議論するべきだろう。」

 

「神話」その12:FTTよりも金融サービスを対象とするVAT、もしくは金融活動税(FAT)(註10)を課すほうが望ましい?

 

そんなことはない。FTTが最高の選択であることを示す理由は、いくつもある。第一に、FATやVAT(註11)と違って、FTTには何より金融危機の原因となった有害な経済活動を減少させる効果がある。FTTは金融市場での取引のコストを上げることによってHFTを抑制し、経済の過剰な活性化や構造的なリスクを減じる一助となる。一方、ほかの選択肢によっても税収を上げることはできるが、金融市場における取引行為に直接的に影響を与えることはできず、したがってFTTのような規制効果によるメリットは望めない。

 

第二に、税収を上げるという観点から見ると、FTTはほかの選択肢よりも大きな歳入の源になり得る可能性を秘めている。もし外国為替市場(FX、金銭自体を取引対象とする)をも対象とする広範な課税が実現すれば、とりわけそうである。欧州委員会は、EUに加盟する27カ国全域でFXを除く範囲でのFTTを導入した場合、570億ユーロの税収が見込まれる、としている。さらに導入先をすべての先進国に広げ、FXも含めて課税を行った場合、3000億ドルに近い歳入が得られるだろう、としている(Spratt and Ashford, 2011)。

 

第三に、取引清算時に自動的に課税されるFTTは、FATに比べてきわめて税金逃れが難しい。追加的な法人所得税の一種といってもよいFATについては、税金対策戦略を使っていくらでも脱税工作が行える。たとえば、資金をオフショアへ移す、という方法は、これまでにもしばしば大企業や高額所得者である個人が税金逃れのために使っている。

第四は、政治的な次元の問題だ。FTTがよりよい選択肢なのは、それがすでにドイツ、フランス、オーストリア、ベルギーなどの各国、および欧州委員会の支持を得ているからだ。金融セクターへの課税にはいくつもの方法があるが、どれをとっても完璧ではない。この件に関してコンセンサスを得るのは(たとえばEU27カ国内でも)きわめて難しい。であるから、完璧でないからといってよい選択肢を葬り去らないように気をつけることが重要だ。諸政府が、後始末に今現在、多額のコストがかかっている金融危機を引き起こした金融セクターに、少しでも自分の不始末の穴埋めをさせるためにより多額の税金を払わせたい、と考えているならば、とにかくひとつの選択肢を選び、それの導入を徹底して進めることが大切だ。FTTがかくも多くの支持を集めていることが重要なのは、FATやVATもふくめた金融セクターへの課税方法の選択肢で、コンセンサスを得ることができるものは存在しないだろうからだ。だからこそ、FTTひとつを選び出し、その導入に力を集中することが重要なのだ。FTTは潜在的な税収の額という点から見ても、経済を安定させる効果という点から見ても、一番の有力候補だからである。ほかの選択肢に気を散らされ、判断を遅らせてはならない。FTTの支持者は、可能かもしれないほかの選択肢に関わるいつ終わるとも知れない議論に引き込まれないようにすることが大切である。FTT反対論者はこの戦術を使って税制導入を遅らせ、可能ならば永遠に先送りにしようとしている。このシナリオにのせられたら、銀行とヘッジファンドが勝者となり、FTTがもたらす経済の安定化から利益を得るすべての人々、およびFTTがもたらす税収、先進国においては雇用を守り、発展途上国においては命を救うためにどうしても必要な税収から利益を得るはずの人々が敗者となるだろう。

 


補遺1:世界各国におけるFTTの導入例

 

 

世界の金融取引税

 

 

青:FTTを導入していたが、その後廃止した国

黄緑:FTTを導入して10億ドル未満の税収をあげている国

オレンジ:FTTを導入して10億ドル以上の税収をあげている国

 

国名

FTTのタイプ

歴史

年間の税収額(億ドル)

税収額の年度

税収額の出典

アルゼンチン 株式、社債、国債および先物取引に0.6%の課税 現行 39 2001 Beitler(2010)
オーストラリア 株式に0.3%、社債と国債に0.6% 現行
オーストリア 株式と社債に0.15% 現行 1.07 2005 Schulmeister et al.(2008)
ベルギー 株式に0.17%、社債と国債に0.07% 現行 0.49
ブラジル 外国株に1.5%、債券に1.5%、外国為替に0.38%、株式および債券市場への資本の流入に2% 現行 150 2010 ブラジル財務省(2008)
チリ 株式および社債の取引コストに18%のVAT 現行 15~20 1992~1996 Beitler(2010)
中国 債券に0.5または0.8% 現行
コロンビア 株式、社債および国債に1.5% 現行 13.7 2004 Beitler(2010)
デンマーク 株式と社債に0.5% 1999年に廃止
エクアドル 株式に0.1%、社債に1% 現行
フィンランド 株式に1.6%(HEX電子市場においてのみ)、不動産取引に4%、株式持分に1.6% 現行 3~6 2010 フィンランド財務省(2011)
フランス 株式に0.1% 2012年に導入予定 13 Guardian(2012)
ドイツ 株式に0.5% 1999年に廃止 9.3 Matheson, 2011
ギリシャ 株式と社債に0.6% 現行 23.35 2005 Schulmeister et al.(2008)
グアテマラ 株式と社債に3% 現行
香港 株式に0.3%+5ドルの印紙税 現行 27.9 2009 Persaud(2012)
インドネシア 株式に0.1% 現行
インド 株式と社債に0.5% 現行 12.2 2008 Persaud(2012)
アイルランド 株式に1% 現行 5.5 2009 Darvas and von Weizsacker(2010)
イタリア 株式に1.12% 1998年に廃止 13.5
日本 株式に0.1~0.3%、社債に0.08~0.16% 1999年に廃止 120 1980年代 Beitler(2010)
マレーシア 株式と社債に0.5%、国債に0.015%、先物取引に0.0005% 現行
モロッコ 株式に0.14%(+7%のVAT)、社債と国債の取引コストに7%のVAT 現行
オランダ 株式と社債に0.12% 1990年に廃止
パキスタン 株式と社債に0.15% 現行
ペルー 株式、社債および国債に0.008%(+取引コストに18%のVAT) 現行 1.1 2004 Beitler(2010)
フィリピン 株式の取引コストに10%のVAT 現行
ポルトガル 株式に0.08%、社債に0.04%、国債に0.008% 1996年に廃止 0.15 Schulmeister et al.(2008)
ロシア 新たに発行された株式と債券の価値の0.2% 現行
シンガポール 株式に0.2% 現行
南アフリカ 株式に0.25% 現行 14.1 2008 Persaud(2012)
韓国 株式と社債に0.3% 現行 60.8 2007 Persaud(2012)
スウェーデン 株式に1% 1991年に廃止 0.5 1992 Beitler(2010)
スイス 株式、社債および国債に0.15% 現行 20 2007 Persaud(2012)
台湾 株式に0.3%、社債に0.1%、先物取引に0.05% 現行 33 2009 Persaud(2012)
トルコ 株式に0.2%、債券発行に0.6~0.75%の発行手数料 現行
イギリス 株式に0.5% 現行 58.6 2008 Persaud(2012)
アメリカ 株式に0.0013% 現行 10.9 2000 Beitler(2010)
ベネズエラ 株式に0.5% 現行
ジンバブエ 株式に0.5% 現行

 

注釈:いくつかの国については、税収はGDPの何パーセント、という形で提示された。こうした国に関しては、IMF Economic Outlook Data所載の該当国のGDPの値から推算して税収の額を出した。税収の額に関するデータが得られなかった国々については、仮に税収10億ドル未満のグループに含めた。

 

 

補遺2:年金に関する補足

 

年金基金は一度の取引で資産運用担当者(アセット・マネージャー)に資金を全額任せるだけだから、FTTのコストはあまりかからない

 

投資家は、大雑把に言って二つの種類に分けられる。一つ目は資産オーナーで、年金基金に加えて、保険会社や政府系ファンドもこれに含まれる。二つ目は資産運用担当者(もしくはファンド・マネージャー)で、銀行の資産運用部門、外貨市場のファンド、ヘッジファンド、それにプライベート・エクイティ・ファンド(企業再生ファンド、ベンチャー・キャピタルなどとも称される)などが含まれる。

 

資産運用担当者は(ここでは仮にヘッジファンドであるとしよう)、資産オーナー(仮に年金基金としよう)の代わりに取引を行う。年金基金は、資金の運用を資産運用担当者に委託する際に、一度だけ取引を行い、資金を担当者のところへ動かす。委託期間は一年以上、時に数年に及ぶ。委託する期間が長いため、年金基金サイドにとっては、取引コストの上昇はわずかである。

 

FTTの大半を支払うのは、資産運用担当者の側だ。上述したとおり、担当者がどれだけのコストを支払わなくてはならないかは、その投資戦略によって違ってくる。保有期間が短ければ多額のコストを支払わねばならないし、保有期間が長ければ、コストは少額ですむ。FTT反対論者は、資産運用担当者は自分が支払ったコストの90パーセントから100パーセントを年金基金に移転させるだろう、と主張する。だが、この主張が正しいという証拠はどこにもない。むしろコストの上昇分は投資の各段階で分散して負担されるのではないだろうか。市場には競争がつきものであり、資産運用担当者も自分の顧客を失いたくはないだろうからだ。

 

 

年金基金は年金が債務過剰になるのを防ぐためにデリバティブを多用しているので、FTTによる税収のかなりの部分を年金基金が負担することになるだろう

 

年金基金がUSD+450tr(米ドルとNASDAQの主要450銘柄の)利率関連デリバティブ市場における主要な投資家なのは事実である。だが、問題は保有期間である。本質的に相対取引のデリバティブは(リスクヘッジのための)保険の一種だ。年金基金がデリバティブを買うのは、予想したほど利益が上がらなかった場合に備えてポートフォリオに保険をかけるというもっともな必要性があるからだ。そのポートフォリオが十分な利益を上げなくても、デリバティブが不足分を補ってくれるというわけだ。つまりこの場合、デリバティブが買われたのはリスクを回避するためであって、投機目的のためではない。したがって、年金基金は相対取引のデリバティブを満期まで、時には数年間も保有する。その結果、年金基金が支払う少額のFTTは、デリバティブのコストをほんのわずかに押し上げるだけで、長期的なビジネス戦略には何ら影響を与えない。

 

FTTは年金基金が投資で得る利益を減少させ、年金基金の市場における危機管理能力を削いでしまうだろう

 

FTTが年金基金のポートフォリオの構成や危機管理戦略に一定の影響を与えるであろうことは、否定できない。だが、それはむしろ目的にかなったことなのだ。年金基金による「忍耐強く」「生産性の高い」資本(たとえばインフラ、環境保護関連、中小企業への融資など)への投資が少なすぎる、年金基金は短期主義的な外部の資本運用担当者に頼りすぎている、というのはだれもが認める事実だ。FTTは年金基金が短期的な取引を減らし、長期的な投資に資金を回す誘因となるだろう。

 

ポスト金融危機の時代において、金融市場の過度の活性化を十分抑制し、構造的なリスクを大幅に軽減する改革案の一環として、FTTを取り入れるべきだ。年金基金のような長期投資家は、リスク過剰の市場では敗者となってしまう。一方で銀行やヘッジファンドは、カジノのように資本の回転率ばかりを上げて利益を得る。FTTの導入は、不透明で不安定な市場のリスクを引き下げる一助となるだろう。

 

FTTは実のところ長期的に見れば年金生活者に利益をもたらす

 

2008年の金融危機で、世界11カ国の主要年金市場における年金基金の資産は、5兆ドルも目減りした。これは資産が19パーセント減少したのと同じことで、総資産は2005年の水準以下にまで減少したことになる(Reuters, 2009)。FTTを導入すれば、HFTにともなう構造的リスクが軽減するので、市場は安定性を増し、ひいては長期的に見た年金の価値が上昇して、年金基金が実質的な損失を受ける将来的なリスクは小さくなるだろう。

 

最後に、FTTの税収は、年金生活者が頼りにしている医療をはじめとする主要な公共サービスに投資されることを付け加えておこう。

 

●翻訳: 国際公務労連加盟組合日本協議会(PSI-JC)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(註1) この論文に寄与してくださったことを、以下の方々に感謝したい:David HillmanとChristina Ashford(Stamp Out Poverty)、Hernan Cortes(Ubuntu)、Sarah Anderson (Institute for Policy Studies=米シンクタンク)、Pierre Habbard (TUAC=OECDに対する労働組合諮問委員会)、Cecilia Gondard(欧州議会における社会民主進歩同盟

(註2)革新的な開発資金調達に関するリーディング・グループは、60以上の国からなるグループで、専門家会議を通じてFTTの可能性(中でも最大の市場である外国為替市場を規制下におくことに関する可能性)を幅広く研究している

(註3)それらの国々とは、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、デンマーク、エクアドル、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、グアテマラ、香港、インド、インドネシア、アイルランド、イタリア、日本、マレーシア、モロッコ、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、パナマ、ペルー、フィリピン、ポルトガル、ロシア、シンガポール、韓国、スウェーデン、スイス、台湾、イギリス、アメリカ、ベネズエラ、ジンバブエ、である。

(註4)欧州委員会税制・関税同盟総局、Algirdas Semeta局長

(註5)高頻度取引(HFT)とはハイテク機器を使って株式やオプションのような証券の取引を行うことである。きわめて多量の証券をあつかい、コンピューター化されたアルゴリズムを使って入ってくる市場情報を分析し、自己が所有する金融資産の取引戦略を実行に移す。投資のポジションは、ごく短期間、ときには数秒単位で、めまぐるしく変化する。すばやい売り買いが何度も、ときに一日あたり何千、何万回も繰り返される。2010年には、HFTは米国内で行なわれる株式取引の70パーセント以上を占めており、ヨーロッパやアジアでも急速に広がりつつある(ウィキペディアによる)。金融専門家のなかには、HFTの広がりは不健全であり、将来的に市場の不安定化を招く、と考える者もいる。「HFTの急速な広がりは、コンピューターを駆使し、危険なほど安定性を欠く、世界の株式市場をつなぐ取引ネットワークを現出させた。世界の市場は、システム横断的な「瞬間暴落(flash crash)」の危機にさらされている」“Financial Crisis 2: The Rise of the Machines”(R. Gower, 2011)参照

(註6)「FTTはすでに多くの国々で導入され、かなりの税収をあげている。つまり、FTTの導入は技術的に見てあきらかに実現可能であるということだ」2011年11月にG20首脳会議に提出されたビル・ゲイツのリポート、p13

(註7)オーストリアのエコノミストStephan Schulmeisterは、はるかに効果的に設計されたイギリスのFTTと対比させながら、スウェーデンの事例を詳しく分析している。全文は以下のサイトで見ることができる。http://www.wifo.ac.at/wwa/servlet/wwa.upload.DownloadServlet/bdoc/S_2008_FINANCIAL_TRANSACTION_TAX_31819$.PDF

(註8)世界エイズ・結核・マラリア対策基金

(註9)ユーロバロメーター(Eurobarometer)とユーガブ(YouGov)の共同調査、ウィキペディアより

(註10)金融活動税(FAT)は、過剰な利益と報酬に対する課税である。

(註11)金融セクターが現時点ではVATの課税対象となっていないことは、特筆に値する。欧州委員会によると、これによって金融セクターが得ている税制上の優遇は、年間180億ユーロにのぼる。こうした税制上の優遇を受けているのだから、金融セクターはもっと課税されるべきだし、また、より多くの税金を支払う余裕もあるはずだ、と言う論者もある。

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