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オリガルヒ制裁にはタックスヘイブン対策、金融資本台帳が必要

日本ではまったく報道されませんでしたが、4月20日に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会合に向け、「国際法人課税改革のための独立委員会(ICRICT)」が公開書簡を公開しました。ICRICTとはノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツや著書『21世紀の資本』のトマ・ピケティ、タックスヘイブン研究のガブリエル・ズックマンたちによって創設された公正なグローバル税制を求める非政府組織です。

 

そのICRICTが公表した書簡は「隠された富を対象としたグローバルな資産登録が必要な時だ」というもの(注1)。この書簡につき、4月19日付の英ガーディアン紙が「G20閣僚はオリガルヒへの取り締まりをタックスヘイブン対策に活用するよう促された」と題して報道していますので、紹介します。本文の前に、2,3の背景説明を行います。

 

1、オリガルヒと「ロンドングラード」

 

オリガルヒ(新興財閥)とはプーチン政権と癒着して財を成している者たちのことですが、その財(資産)たるやロシアGDPの21%に達すると言われています(米経済誌「フォーブス」)。その莫大な資産の相当部分が海外に移されていますが、最大の受け皿となったのが英国ロンドンで、その実態をNHKテレビが伝えていました(注2)。

 

英国には『ゴールデン・ビザ』という制度があり、投資額に応じて居住権、永住権が与えられる投資家用のビザ制度で、どんなに汚い金やマネーロンダリング用の金であろうと、金さえ払えば匿名でビザを取得できるというもの。オリガルヒはこれを使ったのですが、「英ロンドンは、ロシア語で都市を意味する“グラード”にかけて“ロンドングラード”と揶揄されるほどロシアマネーで潤った」とのこと。

 

現在、イギリス政府はオリガルヒ51人に制裁を科すことになっていますが、その資産の総額は1000億ポンド(15兆6000億円)。しかし、オリガルヒたちは「資産凍結はある程度見込んでいたのではないか かなりの資金をタックスへイブン(租税回避地)に、名義を別にしてきれいにして、すでに移している」とNHKは報じています(注2)。

 

2、タックスヘイブン対策、金融資産台帳作成が必須

 

それでオリガルヒへの制裁を有効裡に進めるにはタックスヘイブン対策が必要となります。多国籍企業に対しては先のデジタル課税(新多国籍企業税+世界共通最低法人税率)で網をかけることができますが、中小企業・ペーパーカンパニーや個人資産には網をかけることができていません。真の所有者と金融資産の中身が分からないからです。それでピケティやズックマンはグローバルな金融資産台帳を作成し、資産そのものへの課税を行うべき、と提案しています(注3)。

 

金融取引税でも難しいのに、金融資産税となるともっと難しいのではと思われますが、一つには有価証券については有力国ではほとんど電子化されていること(日本は証券保管振替機構)、二つにマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止が目的ですが、正・準会員併せて200以上の国・地域が参加する金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)が活動中であり、匿名のペーパーカンパニーに対する透明性確保を目指しています。これらが金融資産台帳作成のツールとして利用できるでしょう。

 

3、日本ではまず預金通帳の名寄せを行い、マイナンバーとリンクさせ金融資産台帳作成へ

 

ところで、金融資産は有価証券だけではなく、預金もあり、暗号通貨もあり、絵画や宝石もあるでしょう。これらすべてをカウントしなければなりませんが、日本では何よりも個人・法人の預金口座を正確に把握することが大事です。10億冊あると言われている預金通帳の名寄せを行い、預金口座とマイナンバーとをリンクさせることが必要です(プライバシー保護を前提として)。

 

ともあれ、ずタックスヘイブンの存在は税の公正さを著しく歪め、同時にグローバルな格差是正を台無しにさせるものです。例え国際連帯税が世界で実行され、途上国への支援が一層活発となっても、その支援以上ものリソースがタックスヘイブンへと流出するであろう構造を何としても解体していかなければなりません。

 

4、ガーディアン紙の報道

 

G20閣僚はオリガルヒへの取り締まりをタックスヘイブン対策に活用するよう促された
G20 ministers urged to use oligarch crackdown to tackle tax havens

重鎮エコノミストが、富裕層が国に支払うべきものを奪うのを阻止するための世界的な登録を要求

 

G20諸国は、著名な経済学者のグループから、ウクライナ制裁の中でのオリガルヒの富の取り締まりを、タックスヘイブン対策に大いに利用するようにと促されている。

 

火曜日に開催される20カ国の財務相会議に送られた公開書簡では、資産、会社、建物を所有者に関連付ける世界的な登録制度を導入し、彼らが国に支払うべきものを奪うことができなくなるようにすることが求められた。

 

この公開書簡には、経済学者のガブリエル・ザックマン、ジョセフ・スティグリッツ、トマ・ピケティや、フランスの捜査判事エヴァ・ジョリなど、租税回避防止団体「国際法人課税改革のための独立委員会(ICRICT)」の委員14名が署名している。

 

彼らは、タックスヘイブンに隠された極端な富の集中が不平等を拡大し、社会の最貧層を貧困化させていると主張し、「富裕層の税金悪用で歪んだ」国際金融システムの改革を要求しているのです。

 

パンデミック発生以来、世界の富裕層の富は2倍の150億ドル(1.01兆ポンド)に達したが、ICRICTの委員は、その間、貧富の差は広がるばかりで、ウクライナ紛争で悪化した状況は、多くの貧困層を生活危機とエネルギーや食料の高騰に直面させていることを明らかにした。

 

彼らは、グローバルエリートのメンバーは、しばしば「税金の支払いを避けるためだけでなく、汚職や違法行為によって生じたお金を隠すために精巧な構造を通し…グローバル金融は、税の悪用、汚職、マネーロンダリングを繁栄させることができ」その富を隠していると書いている。

 

ウラジーミル・プーチンの侵攻後、ロシアのオリガルヒに属する資産を制裁しようとする試みは、彼らの富の保有場所について署名者たちが「不透明性の壁」と呼ばれる壁によって、クレムリンとつながりを持つ人々に刑罰を課そうとする国々を困難にしていた。

 

書簡にはこうある。「ウクライナ戦争は、タックスヘイブンに正面から取り組み、緊急に透明化対策を実施する必要があることを示している。それは、すべてのオリガルヒ、そして税務当局や一般市民から隠され、金融の不透明性が高い国・地域に隠されているあらゆる富をターゲットにすることである」、と。

 

同グループによると、金融口座情報の自動交換や受益者登録の導入など、富とその真の所有者を結びつける上で、近年いくつかの進展が見られたという。しかし、これまでの進展は「政治的な意思」を欠いていたとし、G20諸国にさらなる努力をするよう促している。

 

「パナマ文書」、「パラダイス文書」、そして最近では「スイス・シークレット」など、大量の文書がリークされ、富裕層や企業の活動、そしてオフショアのタックスヘイブンの利用が浮き彫りになっている。しかし、その結果、各国政府に対してより厳しい税制上の措置を取るよう圧力がかかったにもかかわらず、活動家は、オフショア租税回避地の利用を取り締まることにほとんど進展がないと述べている。

 

ICRICTのエコノミストは、不動産、ヨット、ジェット機、宝石などの資産から、銀行口座、暗号通貨資産、貸金庫、信託などの法的手続き、さらには知的財産や商標などの無形資産まで、あらゆる形態の富を登録した資産登録の国際ネットワークの導入を提案した。

 

これらの資産は、法的な所有者とは異なる実際の受益者にリンクされることになる。経済学者らは、何がどこに、誰によって所有されているかを詳細に示すグローバル資産登録によって、各国が富と不平等を記録・分析できるようになり、税法の執行強化につながると同時に、不正な活動を行おうとする人々の防止になると述べています。

 

委員は、G20首脳に対し、このようなシステムを導入し、オフショア富とタックスヘイブンを議論するための緊急国際サミットを開催するよう促しています。「もう言い訳はいらない、パンデミックもいらない、戦争もいらない、行動しないことを正当化できない」と彼らは署名し、そのような行動は「民主主義を守り、一層進行する不平等を終わらせ、社会契約を再構築するために」必須だと結論づけた。

 

(注1)
https://www.icrict.com/press-release/2022/4/19/icrict-open-letter-to-g20-leaders-its-time-for-a-global-asset-register-to-target-hidden-wealth 
(注2)
https://www.nhk.jp/p/nw9/ts/V94JP16WGN/blog/bl/pKzjVzogRK/bp/pQ8JrVgMyX/ 
(注3)
https://toyokeizai.net/articles/-/74897 

【ご案内】5.25コロナ禍における在日外国人の健康問題を考える

グローバル連帯税フォーラムも参加しているNGO労働組合国際協働フォーラムの感染症グループが下記のようなウェビナーを開催しますので、関心のある方はふるってご参加ください。

 

NGO労働組合国際協働フォーラム:HIV/エイズ等感染症グループ ウェビナー
   コロナ禍における在日外国人の健康問題を考える
    =NGOと労働組合が協力してできること=

 

◎日時:2022年5月25日(水) 午後3時~4時30分
◎形式:ズームによるオンライン会議
・参加費:無料 参加申込をお願いします。
◎申込:以下のリンクから登録フォームにアクセスし、必要事項を記入して送信をお願いします。
 URL: https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf3_u33ZDU_27nc6O0m-yN_rOSPcF8KXWKqHJQnub2ltQ2-Zw/viewform
◎主催:NGO・労働組合国際協働フォーラム HIV/エイズ等感染症グループ

 

◎問合せ:HIV/エイズ等感染症グループ事務局
 (特活)アフリカ日本協議会 国際保健部門
 担当:稲場・廣内・小泉 
 メールアドレス:ajf.globalhealth@gmail.com

 

<プログラム>全体90分
・開会挨拶・趣旨説明:NGO労組協働フォーラム 感染症グループ
・外国人労働者の受け入れに関する連合の考え方:連合 労働法制局 菅村裕子さん
・労働組合の取り組み事例:UAゼンセン 外国人相談担当 エスター・スイバンモイさん(ミャンマー)
・NGOの取り組み事例1:シェア=国際保健協力市民の会 副代表理事 沢田貴志さん
・NGOの取り組み事例2:移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)運営委員 旗手明さん
・コメント:JETROアジア経済研究所 佐藤寛さん
・パネル・ディスカッション、質疑応答
・閉会挨拶:NGO労組協働フォーラム 感染症グループ

 

<開催の趣旨>
◎現在の日本では、少子高齢化などによる労働力不足を解消するために、外国人労働者の受入れが拡大しています。その中で、メディアでもよく取り上げられているように、外国人労働者をめぐる労働問題、人権問題が頻繁に生じています。

 

◎特に技能実習制度では、「国際協力の一環」という制度の目的とは裏腹に、実習生は過酷な労働環境で働いていたり、職を失うなど様々な困難に直面しています。また、外国人労働者がHIV/AIDSや結核、新型コロナなどの感染症、勤務中のケガなど、健康状態が悪化した時には、言語や制度、医療費などが障害となって、十分に治療を受けられずに失職したり、帰国を促されるといったケースもあります。

 

◎NGOと労働組合が協働してSDGsの達成を目指すことを目的とする「NGO・労働組合国際協働フォーラム」のHIV/エイズ等感染症グループでは、これまで、外国人労働者への現場での課題や労働組合の取り組みについて、いくつかの労働組合との座談会を開催してきました。実際のところ、労働組合の取り組みや、NGOとの連携の事例はそれほど多くはないものの、共有し広げていくべき事例もあるということがわかりました。

 

◎今回のウェビナーでは、外国人労働者関連で実績のあるNGOと労働組合の方々の登壇をお願いし、それぞれの立場で具体的な取り組み事例をお話いただきます。外国人労働者の健康、労働権、人権について、NGO・労働組合としてできること、お互いに協力していけることは何かについて考える機会にしたいと考えております。ご関心のある多くの方々のご参加をお願いいたします。

【ご報告】5.12国際保健への取り組み強化を求める緊急院内集会

 A NEW WAY TO INVEST

        (OECD)Global Outlook on Financing for Sustainable Development 2021

 

オミクロン株の登場で、コロナウイルスもエンデミック状態へと転化していくのではと期待されましたが、中国や北朝鮮でも感染拡大が見られ、パンデミック状況は収まりそうもありません。

 

そういう中で我が国をはじめ各国のグローバルヘルスについての資金的貢献や取り組みを強化してもらうため、昨日(5月13日)参議院議員会館会議室において、『コロナ時代のグローバル・ヘルス(国際保健)への日本の取り組みに関する緊急院内集会』が超党派の国会議員とともに開催されました。主催は同集会実行委員会(注1)で、議員による呼びかけは7党派のみなさんから行われました(注2)。

 

◎集会プログラムと国際連帯税と資金調達に関する報告

 

集会は、議員呼びかけを代表して武見敬三参議院議員が行い、その後基調報告を國井修・GHITファンド(グローバルヘルス技術振興基金)最高経営責任者が行いました。國井さんは、高所得国と中・低所得国との桁違いともいえる医療格差の実態を明らかにしつつ、今日のグローバルヘルスの課題について述べました(詳細は後日報告)。参加した国会議員との質疑も活発に行われました。

 質問に答える國井

 国会議員の質問に答える國井氏(右から2人目)

 

その後、市民社会から3人、政府から2人がコメントを寄せました(注3)。私(田中)も『グロ-バルヘルスと資金調達――方法論としての国際連帯税』と題して報告を行いました。その骨子は次のようなものです。

 

 プレゼン・田中

   国際連帯税を報告する田中氏(右端)

 

◎国際連帯税報告の要旨

 

田中報告のパワーポイント資料はこちらを参照願います。

 

1)これまでSDGs達成のための資金ギャップは年間2.5兆ドルと言われてきたが、コロナ禍の発生でそれが4.2兆ドルと拡大した(OECD2021)。保健に限れば1兆ドル。

 

2)一方、公的な開発援助資金ODAはトータルで1789億ドルしかなく、保健すら賄えず。それでOECDは民間資金である金融資産378.9兆ドルに着目し、その1.1%を動員できればギャップは解消すると提言。

 

3)その民間資金(金融資産)を動員する方法として、①投融資によるやり方、②税制によるやり方という2つ。OECDは前者を提言しているが、私たちは後者の国際連帯税という方法を提案する。

 

4)国際連帯税の2つのスキーム。①新多国籍企業税、②外国為替(通貨)取引税だ。何よりも政治リーダーが国際会合で主張し、専門家をまきこみつつ、市民=世論がこれを支えること。そうすれば国際共同スキームとして、兆円単位の援助資金を創出することができる。

 

(注1)

参加団体(50音順):グローバル連帯税フォーラム、新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会、アジア太平洋資料センター(PARC)、アフリカ日本協議会、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、日本リザルツ

 

(注2)

自由民主党  衛藤征士郎 衆議院議員、武見 敬三 参議院議員

立憲民主党  西村智奈美 衆議院議員、田島麻衣子 参議院議員

公 明 党  古屋 範子 衆議院議員

日本維新の会 青柳 仁士 衆議院議員

国民民主党  古川 元久 衆議院議員

日本共産党  井上 哲士 参議院議員

社会民主党  福島 瑞穂 参議院議員

 

(注3)

田中徹二:グローバル連帯税フォーラム(開発資金等)

堀江由美子:セーブザチルドレンジャパン(保健システム等)

金杉詩子:国境なき医師団(公平な医薬品アクセス等)

赤堀 毅:外務省地球規模課題審議官

三村 淳:財務省国際局長

 

ウクライナ難民、SDGs(持続可能な開発目標)、国際連帯税

田島麻衣子

 

国際連帯税議員連盟でお世話になっている田島麻衣子参議院議員が、毎日新聞電子版の政治プレミアに「ウクライナ難民」問題について取材されていますので、紹介します。その前に若干思ったところを述べます。

 

1)日本政府は「避難民」受け入れと言っていますが、これは難民認定を極端に渋っている政府の政策によります。難民と避難民では、まるっきり保護待遇が違ってきます。その点をまず田島議員は指摘しています。

 

2)なお、この問題については4月10日TBS「サンデーモーニング」放送で分かりやすく解説していました(動画)。こちらと併せて読むことをお勧めします。

 

3)この難民問題は当然SDGs(持続可能な開発目標)の課題で、コロナ以前には貧困と保健関係の目標は相当改善されてきましたが、難民だけは2013年頃より急増し、2015年にはドイツがシリア難民等を100万人引き受けました。2020年で世界の難民数は8240万人にも上り、今日ウクライナから520万人の難民が生じていますので、全体で9000万人に上るのではないかと思われます(地球人口の約1.1%が故郷を追われている)。

 

4)ところで、河野太郎元外務大臣(17年8月-19年9月)はSDGs対策のため国際連帯税の必要性を国際的に提案していましたが、その事例として当時急増する難民の救済を挙げていました。日本政府は、国際的支援を実施することはもとより国内的にも「故郷を追われた人は世界中にいる…日本が国際社会の中で応分の責任を果たすならば、これからもっと難民を受け入れなければならない」と田島議員は訴えています。

 

<以下、記事です>

ウクライナ難民受け入れで豊かになる日本

田島麻衣子・参院議員

 

 英オックスフォード大学院で難民問題や人道支援を学び、国連の世界食糧計画(WFP)でコンゴ民主共和国から隣国のアンゴラに逃れてきた難民たちのキャンプに入るなど支援の現場に関わった。日本はこれまで難民政策と言えるものがなかった。今回のウクライナ難民の受け入れによってまず一歩を踏み出さなければならない。

 

 日本政府は、ウクライナからの「避難民」を受け入れたと言っているが国際的には通用しない。命を守るため、政治的な武力紛争から逃れ国境を越える人々は難民だ。岸田文雄首相が国際会議で「避難民」と発言した時にどう通訳するというのか。「難民ではなく、避難民だ」などと言えば、私が学んだ教授たちに怒られてしまう。

 

 日本政府は難民制度を本質的に変えていく気がない。ウクライナ難民への対応も場当たり的で、長期的な視点がない。

 

大量の難民が来たらどうするか

 

 国連の現場にいると、人道支援がいかに難しいかということを、身をもって体験する。難民キャンプに支援に入るとしても、受け入れ国の許可がなければ入っていけない。助けようと思っている難民が受け入れ国の政府から迫害されている場合、どうすればいいのか。人道支援の原則である中立的な支援ができるのか。

 

 そうした問題を抱えながら、それでも人道支援をしなければならないことを実地で学ぶ機会が、これまでの日本には欠けていた。……(以下、省略)

 

※写真は毎日新聞電子版より

 

 

 

 

【ご案内】コロナ時代の国際保健への日本の取り組みに関する院内集会

WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの緊急事態宣言を出してから本年1月で2年目を迎えましたが、いぜんとしてパンデミックは収まりそうにありません。

 

●WHOの活動予算は「先進国の中規模病院ほどの額」(テドロスWHO事務局長)

 

パンデミックが収まらない要因のひとつがグローバルヘルス(国際保健)への圧倒的資金不足です。感染症との戦いの中核を担うはずのWHOすら「予算は22~23年の2カ年に61億ドル(約7千億円)と『先進国の中規模病院ほどの額』(テドロス氏)」という有様。しかも「加盟国による拠出金は全体の2割弱にすぎず、残りは民間の慈善団体などからの寄付に頼る」(1月30日付日経新聞)という状況【注】。

 

このこと一つとっても5億人を超えて今なお拡大し続ける感染症を克服できないことは明らかです。資金の抜本的拡充、パンデミックへの途上国支援を含む公正なルールを求めて超党派の国会議員とともに緊急院内集会を開催します。

 

●基調講演は國井修さん(ローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)CEO)

國井修氏

 詳細は以下をご覧ください。前グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)戦略投資効果局長で現グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)CEOの國井修さんが基調講演を行います。

 

【注】WHO改革、資金不足が足かせ コロナ緊急事態2年

 

 

      (ご案内)2022年5月12日 午前10-11時

   コロナ時代のグローバル・ヘルス(国際保健)への    

     日本の取り組みに関する緊急院内集会

 

◎日時:2022年5月12日(木) 午前10時~11時
◎会場:参議院議員会館1階102会議室(オンラインでの中継実施)
◎主催:緊急院内集会 実行委員会
※参加団体(50音順):アジア太平洋資料センター(PARC)、アフリカ日本協議会、グローバル連帯税フォーラム、新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、日本リザルツ

 

◎定員:会場直接参加については、感染症対策上、15名とします。
    (※オンライン参加については、特段、定員は設けません)
◎申込:次のリンクからご登録ください。 http://ow.ly/3Ieo30sht1B 
◎問合せ:(特活)アフリカ日本協議会(担当:稲場・小泉)
     電話:03-3834-6902、Fax:03-3834-6903
     メール:ajf.globalhealth@gmail.com 

 

★新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)で、グローバル・ヘルス(国際保健)は新たな時代を迎えました。世界で、日本で、コロナはまだ終わっていません!

 

★パンデミックにより、グローバル・ヘルスは世界の安全保障上の重要課題となりました。また、富裕国と貧困国の「ワクチン・医薬品格差」が明らかになりました。格差を放置すれば、その悪影響が「変異株の蔓延」などの形で全世界に及ぶこともわかりました。

 

★パンデミックにより、エイズ・結核・マラリア、母子保健などへの取り組みが後退しています。パンデミック下で保健の取組が成果を上げるには、より多くの費用がかかることもわかりました。

 

★コロナの収束や新たなパンデミックへの備えに向けて、超党派にて、グローバル・ヘルスへの取り組みを強化し、資金を増やし、日本と世界で「いのちを大事にするしくみと文化」を育むため、院内集会を開催します。

 

★集会では、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)の戦略投資効果局長を務め、本年から日本の「グローバルヘルス技術振興基金」(GHITファンド)のCEOを務める國井修氏が基調講演を行います。

 

★本集会の開催にあたって、実行委員会に集まる市民社会は、コロナ時代のグローバルヘルスの重要性に鑑み、国際保健分野へのODAの増額や「国際連帯税」等の導入も含め、国際保健への資金を倍増すること、世界の医療アクセスの格差をなくし、途上国への技術移転の促進や緊急時の知的財産の共有をルール化して、世界全体で必要な医薬品を製造できるようにしていくこと、そのための世界のルール・メイキングに日本政府も積極的にかかわること、を求めます。

 

=============
◎集会呼びかけ人(4月14日現在)

  • 自由民主党  衛藤征士郎衆議院議員、武見敬三参議院議員
  • 立憲民主党  石橋通宏参議院議員、田島麻衣子参議院議員
  • 公 明 党  古屋範子衆議院議員
  • 国民民主党  古川元久衆議院議員

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◎プログラム
・基調講演:國井修 GHITファンド(グローバルヘルス技術振興基金)最高経営責任者(元グローバルファンド戦略投資効果局長)
・国際保健に関わるNGO/NPOや政府からのコメント
・国会議員や参加者によるディスカッション等

※國井修さんの写真はGHITファンドのwebサイトより

 

毎日新聞『余録』で国際連帯税、「富の再分配と投機抑制」で連帯を

昨日(3月7日)の毎日新聞朝刊一面のコラム『余録』にトービン税や国際連帯税の記述がなされ、上村雄彦横浜市大教授のコメントも載っています【注】。タイトルが「所得税の確定申告手続きがたけなわだ…」となっているので、見逃された方も多いと思います。以下、簡単にまとめます。

 

▲効果が見えやすい税のアイデアが生まれたのは、今から50年前の1972年だった。外国為替市場の取引に各国が共同で課税し、投機マネーの流入を抑えるものだ。…ノーベル賞を受賞した経済学者トービンが唱えた。

 

▲この案をベースにした「国際連帯税」構想がコロナ下で注目されている。株や為替などの取引に各国が課税し、税収を途上国支援に充てる。先進国の金融緩和でマネーゲームの様相が色濃くなった一方、途上国では貧困層の暮らしが悪化したためだ。

 

▲日本でも導入を求めて活動しているNGOがある。メンバーの横浜市立大教授、上村雄彦(うえむら・たけひこ)さん(56)は国連職員としてパキスタンの農村支援に携わった経験が忘れられない。…上村さんは「格差が広がる今こそ先進国は世界の富の再分配を主導すべきだ」と語る。

 

▲ロシアのウクライナ侵攻で原油価格が急騰し、途上国には物価高ものしかかる。世界が連帯する必要性は一段と高まっている

 

<原油価格急騰と投機マネー>

 

ところで、この原油価格の急騰ですが、本日1バレル140ドル近くまで急伸し、「2008年7月以来、約13年8カ月ぶりの高値を付け」(3月7日付日経新聞電子版)ました。その背景として欧米がロシアからの原油輸入の禁止を検討しているからとのことです。しかし、実際のところ投機マネーが少々の需給ひっ迫を最大限利用してどんどん原油先物市場に入り込んでいるからです。

 

かつて原油トレーダーでもあった豊島逸夫氏は次のように述べています。「市場が恐れていた事態が起こりつつある。百戦錬磨であるニューヨーク市場参加者の顔が昨晩は青ざめた。原油先物価格が1日で11%も暴騰し、もはや投機マネーの空中戦と化している」(3月2日付日経新聞電子版「核とスタグフレーション懸念の共振」豊島逸夫)。市場参加者が青ざめた3月1日のWTIでの原油先物価格は約109ドル。もはや原油先物市場は(小麦を含む他の国際商品も)ウクライナ危機を奇貨として投機筋のマネーゲームの修羅場(というより鉄火場)となっているのです。

 

マネーゲームを抑制するには、トービン税はじめさまざまな規制が必要となっています。他方そうした税制が実現されればばく大な税収をもたらします。これをコロナ・ワクチンほかの国際公共財のための資金調達として途上国支援を行うことができます。

 

【注】

(余録)所得税の確定申告手続きがたけなわだ…

https://mainichi.jp/articles/20220307/ddm/001/070/145000c 

 

J・トービン

経済学者のジェームズ・トービン(右)、岩井克人氏(左)と並ぶ宇沢弘文氏(1985年ころ、東京)
<2014年9月26日付 日経新聞電子版より>

寺島実郎氏「国際連帯税からグローバル・タックスへ」(『世界』誌より)

すでにお知らせしていますように、このところ著名な経済学者・専門家などが国際連帯税や金融取引税について発言するようになりました(以前はそうでもなかったのですが)。慶応大学・政府コロナ分科会の小林慶一郎氏、一橋大学・政府税調委員の佐藤主光氏、元日銀理事の早川英男氏、アライアンス・フォーラム財団・元内閣府参与の原丈人氏など。
 
 
そういう中で、いち早く(2008年G8洞爺湖サミットの頃から)国際連帯税に賛同し、これを広めてくれたのが(財)日本総合研究所会長の寺島実郎氏です。
 
 
●新局面の資本主義に新しいルールを
 
 
その寺島氏が、月刊誌『世界』3月号の連載コラム「脳力のレッスン」であらためて国際連帯税について発言しています。コラムのタイトルは「『新しい資本主義』への視界を拓く」。今月号はその4回目とのこと。内容を簡単に見てみましょう。
 
 
まず資本主義の歴史的な経緯について。寺島氏はこれまで「資本主義の歴史とその現代的変質を考察してきた」と述べ、冷戦の終焉を境に資本主義は次のように局面を転換した、と。それは「新自由主義」を通奏低音として情報技術革命と金融技術革命を経てきて、「途方もないエネルギーが蓄積しつつある」と見る。
 
 
金融の方は行き過ぎたマネーゲームを常態化し、情報の方はデジタル資本主義の様相を示し、しかし資本主義社会の光となるか影となるか分からない状況となっている、と。このことから、寺島氏は「新局面に入った資本主義には、新しいルールが必要なのである」と述べています。
 
 
●国際連帯税からグローバル・タックスへ
 
 
さて、金融の方のルールとしては、「国境を越えた金融取引の制御という」トービン税構想があり、これがさらに国際連帯税へと進化してきたこと。2008年には日本でも「国際連帯税創設を求める議員連盟」が設立され、その下に2回にわたり(2009年と2014年)有識者会議が設けられ、寺島氏が座長を務め報告書を作成し【注1】、国際連帯税実現に向け奮闘してきたことが述べられています。しかし、国際連帯税が日本で実現せず、世界的にも一部の国でしか実現してきませんでした。
 
 
ところが、寺島氏は今日「国際連帯税は『グローバル・タックス』というべき方向へ進化し始めている」と、つまり「国家間の連帯で実現する税制度という次元から一歩踏み出し、地球全体を一体として認識し、その秩序を制御するという視界が拓け始めてきた」と見ています。
 
 
実際、昨年10月、国際的な法人税の最低税率(並びにデジタル課税)という国際課税ルールについてG20で合意されましたが、これこそニュールールとしてのグローバル・タックスの姿である、と。従って、寺島氏は国際連帯税も「国民国家を超えた新しい資本主義のルールとして形成」する可能性が拓けてきたと見ています。
 
 
以下、「デジタル資本主義の制御」については省略。
 
 
【注1】
グローバル連帯税推進協議会「最終報告書」(2015年12月1日):
 
 
 
TOKYO MX1テレビ「寺島実郎の世界を知る力」は、毎週第3日曜日と第4日曜日(どちらも午前11時~ 第4日曜日は対談編)に放映  MX1は地上デジタル9ch
 
 
TOKYO-MX
 

「斎藤幸平&上村雄彦対談」をYouTubeにアップ!

 とびら

 

遅れましたが、1月28日に開催された「斎藤幸平&上村雄彦対談/『人新世』を生き延びるために何ができるのか~新しい資本主義とグローバルタックス~」の集いの全編を、YouTubeにアップしました。以下のリンクからご覧ください(ダイジェスト版は作成中)。

 

*斎藤幸平&上村雄彦対談  ⇒  こちらからご覧ください

 

お時間のない方は、国会議員のみなさんと議論をしている箇所(43分25秒あたり)からご覧いただくと、課題点がはっきりと見えてきて、よいのではないかと思います。

 

また、よろしくければ動画を視聴いただいて、その感想をお寄せくださればうれしいです。

 

なお、上村雄彦教授の当日のパワーポイント資料は、下記のグローバル連帯税フォーラムのwebサイトに掲載されていますのでご利用ください。

 

 *上村先生のパワーポイント資料 ⅰ)ⅱ)ⅲ)⇒  こちらからご覧ください

 

※対談の司会は、田島麻衣子参議院議員です

 

岸田首相の経済ブレインの原丈人氏、金融取引税を提言

岸田文雄首相の「新しい資本主義」など経済政策についてのブレインとなっているのが「公益資本主義」論で著名な原丈人氏(アライアンス・フォーラム財団代表理事、元内閣府参与)です。原氏がブルームバーグのインタビューを受け、その内容が2月10日付電子版に掲載されていますが、その中で氏が「金融取引税」について実施すべきと提案していますので、紹介します【注1】。

 

まず原氏は、以下の4項目につき詳しく述べています。

 

1)四半期開示の見直し

⇒短期経営になればなるほど投機的傾向を強め、ヘッジファンド等の餌食となる(注:田中まとめ、以下同じ)

2)自社株買い

⇒自社株買いは資本主義の大原則に反し、もっぱら株主と経営者が受益している

3)金融取引への課税

⇒有価証券取引税の復活

4)公益資本主義

⇒これまでの英米流の株主資本主義からの転換、ダボス会議でステークホルダー資本主義が提唱されるようになった

 

さて、金融取引への課税ですが、原氏は「(東京証券取引所でのHFT=高頻度取引)のようなものは、本来金融市場にとって良いのか…。(スーパーコンピューターを使っている人たちと普通の人たちの株取引につき)フェアという観点からは枠組みを変える必要がある」と述べています。金融取引への課税は金融規制ならびに税収増というふたつの面があると思いますが、原氏は主にHFTなど投機マネーの規制にあるようです。

 

ところで、原氏のこれまでの発言につき調べてみましたが(ネット上だけの検索)、とくに税財政や社会保障問題についての発言が見当たりません。もしこちらについても発言があれば、金融取引税が税収増という面からして重要な提案になると思います。

 

実際、欧州は8000億ユーロ(約100兆円)に上るコロナ復興基金の財源のひとつとして金融取引税を充てようとしています。日本でも莫大なコロナ対策資金を赤字国債で発行していますので、今後財政立て直しの重要な財源になると思われます。これに投機マネーの元になっている外国為替(通貨)取引に課税できれば、国際連帯税として実現できます。

 

ともあれ、首相の経済ブレインが金融取引税を提言していることは、今後の政治展開に一定の希望を持つことができます。

 

(追記)原氏は別のメディアで「小泉政権時代に構造改革が唱えられ、成長戦略がもてはやされて民営化も進みました。しかし、国民の所得は増えませんでした。増えたのは、配当と自社株買いによる株主還元だけです」【注2】と述べ、「(岸田氏に)方針を変えるべきです。国民が豊かにならなければ、市場が重要であるとする主張に意味はないでしょう」と伝えたとのことです。

 

インタビュアーは「(16年に公益資本主義が国会でも話題になったが脚光を浴びなかった。しかし)長引くコロナ禍により日本経済が打撃を受ける中、原氏の持論は政策を左右するほどになっている」と結んでいます。

 

【注1】

分配の次は財政出動強化、首相に助言の原氏が分析-新しい資本主義

四半期開示が企業の成長阻害、自社株買い規制の議論を-原氏一問一答

 

【注2】 

岸田版・新しい資本主義の元ネタ?「公益資本主義」提唱者が語る“分配の理想形”

 

株主の配当は顕著