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国際デジタル課税ルール改革で1兆円弱の税収>一部を国際連帯税へ!

コロナ・オミクロン株があっという間に欧米で吹き荒れ、グローバリゼーションという現実からして、もはや自国だけ安全な国はどこにもありません。途上国・貧困国等のコロナ対策が急がれていますが、圧倒的に資金が不足しています。今般の新たな国際デジタル課税による税収の一部をグローバル公共財として使用すべきです。

 

●まったく新しい税収、約9000億円が2023年より国庫に入ります

 

ご承知のように、国際的な法人税改革であるデジタル課税について、本年10月国際ルールが合意されました。合意内容は、(1)巨大IT企業など消費国での税金逃れを防ぐためのルール、(2)最低法人税率(15%)、の二本柱。

 

この二つの改革により、国際社会は、(1)で250億ドル(約2.7兆円)、(2)で1500億ドル(約16.5兆円)の税収を得ることができます(OECD調査)。各国別では、カリフォルニア大学バークレー校のズックマン准教授らが(2)について調査されています【注1】。

 

日本の場合は、15%最低税率で59億ユーロ(約7380億円)の税収増となります。この最低税率からの税収と(1)での税収を加えると、年間9000億円前後の税収増になるのではないかと思われます。

 

今後のプロセスですが、(1)については2022年中に多国間条約を締結し、2023年から制度実施、(2)については各国が国内法を改正し、2023年から実施、という目標になっています。つまり、早ければ2023年からまったく新しく約9000億円の税収が国庫に入ることになります。

 

●新しい税収であるデジタル課税の一部を国際連帯税または連帯課徴金として徴収を

 

そこで提案です。この9000億円はグローバルに事業を展開し利益を上げている多国籍(グローバル)企業が法人税として納税するものですが、その一部を国際連帯税として規定して徴収すべきである、というものです。例えば、上記(1)+(2)のうちの日本分税収に5%を連帯税として徴収するとすれば450億円の税収となり、国際観光旅客税並みとなります(2019年度の同税の税収は444億円)。

 

ただし、法人税として徴収された税金の一部を国際連帯税として規定するというのは税法上成り立ちうるのかどうか分かりません。このこともあり「税(tax)」という名称はやめて、「課徴金(levy)」として規定し直すということも考えられます。というのは、多国籍企業はその名の通りグローバリゼーションの下に経済活動をしており、今般のコロナ等の感染症パンデミックや気候変動、貧困・飢餓など地球規模課題が厳しくなればなるほど活動基盤そのものが失われてしまうことになります。つまり、この基盤を維持し保護するための課徴金(グローバル公共財)として払うということです。

 

従って、徴収された法人税の一部を「(仮称)グローバル連帯課徴金(Global Solidarity Levy)」と位置づけ【注2】、そこからの税収を地球規模課題に拠出するというものです。

 

●欧州でのデジタル課税の使途>域内財源(復興基金の原資)の一部

 

欧州委員会は今月22日、7500億ユーロに上るコロナ復興基金の資金調達(債券の償還資金)について3つの財源案を発表しました【注3】。そのうちのひとつが、多国籍企業への課税ということで、今般のデジタル課税による(各国に入る予定の)税収の15%を欧州連合(EU)に拠出すべき、というものです。

 

もしEUがデジタル課税による税収の一部をGlobal Solidarity Levyとして徴収するというようになれば、グローバル公共財のための資金調達について各国が個別に拠出するのではなく、「((1)+(2))×5%(例)=9800億ドル(約1兆円)」というように自動的に国際社会に拠出されるという気運が高まり、資金調達システムとして確立する可能性も出てくるのですが。

 

ところで、この欧州委提案は概ね欧州議会で賛同を得ているようですが、ドイツ社会民主党などのS&D・社会民主進歩同盟グループは「復興計画の財源案はまだ不十分。金融取引税(FTT)と企業部門に関連する独自財源も必要。大企業と金融投資家はEU経済の回復に貢献しなければならない!」とのコメントを出しました。これに対し、担当のハーン欧州委員は「FTTが含まれる可能性のある第2次提案に取り組んでいる最中」と明言しました【注4】。

 

●多国籍企業はタックスヘイブン(租税回避地)で100兆円の利益を上げている

 

ズックマン准教授によると、多国籍企業はタックスヘイブンで利益を8000億ユーロ(約100兆円)も上げており、これは何と!多国籍企業の総利益の40%にも及ぶと報告しています。そういう中で、最低法人税率が15%というのはあまりにも低すぎます。ちなみに日本の法人税は23.4%ですが、これに地方法人税、法人住民税、法人事業税(実効法人税)と27.94%になります。とすると15%以下であるアイルランドやその他のタックスヘイブンに本社等を置いておくインセンティブはまだまだありそうです。

 

とはいえ、ズックマン准教授は「多くの人々が21世紀には法人税率の引き下げ競争は不可避だと考えてきた。だが、今回の合意がまだ不十分なものであるとしても、われわれはこの合意により多くの具体的な選択肢を得た」と述べています。つまり、国際的合意があれば、最低税率を段階的に上げていくことができるからでしょう。強い国際的世論と政治的なリーダーシップの登場が望まれます。

 

【注1】(日経新聞)最低税率、格差是正に寄与 法人課税、国際合意の意義

【注2】「連帯のグローバル化:金融課税のための論拠 『国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース』専門家委員会報告書2010」

【注3】(日経新聞)欧州委、新型コロナ復興基金の「財源」に炭素税など3案

【注4】MEPs welcome European Commission proposals on establishing EU’s own resources

 

・ズックマン氏の写真は、クーリエ・ジャポンより
・最低税率設定による税収増効果は、12月21日付日経新聞より
・世界のワクチン格差は、12月26日付朝日新聞より
 
 
最低税率ワクチン格差
 

ACT-A資金ギャップ解消へ!コロナ対策のための資金調達を国際連帯税で  

 ●オミクロン型の出現>ワクチン格差(アパルトヘイト)状況に警鐘

 

1)新型コロナウイルスの新たな変異種であるオミクロン型の出現は、途上国・貧困国でのワクチン接種が進まないままでは高所得国も決してコロナ禍から自由ではありえない、ということを明らかにしました。

 

2)世界ではいぜんとしてグローバルなワクチン格差の解消が進んでいません。「アフリカでワクチンを2回接種した人は8%程度と、世界平均の45%を大きく下回る。アフリカの中では接種率が高いとされる南アフリカでも25%とされ、日本(77%)や英国(69%)、米国(59%)との差が歴然だ」(12月11日付日経新聞「進まぬ接種、止まらぬ変異 オミクロン型、アフリカで猛威 ワクチン格差の解消急務」)。さらに、このような事態を抜本的に改善しないまま高所得国が3回目のワクチン接種を行おうとしており、いっそう格差が広がりそうになっています。アフリカの政治指導者は国連総会で「ワクチンのアパルトヘイト(人種隔離)」と批判しました。

 

高所得国が追加接種を優先している

 (図表は、12月11日付日経新聞より)

 

●途上国へのコロナ対策機関=ACTアクセラレータ、十分に機能を発揮できず

 

3)途上国・貧困国へのコロナ対策のため、ワクチン、検査、治療、保健システムなど公平なアクセスを実現させるための国際ファシリティが「ACTアクセラレータ」(以下ACT-A)です。ACT-Aは年内に20億回分のワクチンを提供する予定でしたが、12月上旬で6億回程度に留まり、多くの貧困国等へのワクチン接種が遅れたのです。この要因は、①G7など政治的なリーダーの不在、②圧倒的な資金不足が挙げられます。

 

4)ACT-Aは10月に評議会を開催し、①ワクチン、検査、治療、個人用防護具のアクセス格差や重大な障壁ついて全体的に把握すること、また②ワクチンについては2022年内に世界人口の70%のワクチン接種目標に向けた進展を加速させること、等を軸に向こう1年間の活動計画を決めました。またこれらの目標を実施するために必要な予算額を234億ドル(約2.64兆円)と算出しました。しかし、2021年でも資金不足に見舞われているという現状にあって、上記予算額を調達し、資金ギャップを埋めることは容易ではありません。

 

●従来の各国ODAなどによる資金調達ではとうてい資金ギャップを解消できず、国際連帯税を

 

5)一方、パンデミック危機に国際社会が立ち向かうために、WHOならびにG20がそれぞれ独立パネルを設置しました。後者は「パンデミックへの備えと対応のための国際公共財への資金調達に関するG20ハイレベル独立パネル(HLIP)」で、向こう5年間、年間100億ドル(約10兆円)規模の「世界保健脅威基金」設立を提案しています(*)。しかし、この基金に向けての資金調達方法は「事前に合意された拠出額に基づいて各国が資金を供給し、緊急時には債券発行(各国拠出誓約に基づく債券発行)を実施」との提案で、各国が自国の財政(主にODA)からの拠出で賄うという従来の方法のままです。

 

6)コロナ対策のみならず気候変動関係の途上国支援1000億ドル問題はじめ飢餓や難民問題など地球規模課題での資金需要は多額に上り(そもそもコロナ以前のSDGs資金ギャップでも2.5兆ドルに上っている)、とうてい先進国等のODAでは賄いきれるものではありません。そこでインパクト投資やブレンデッド・ファイナンスなど民間資金を利用してとなるのですが、公的資金ではありませんので、地球規模課題解決のために動員するには限界があります。

 

7)そこで第二の公的資金となりうる国際連帯税の必要性が浮上してきます。それはグローバル化によって利益を上げている経済セクターに広く薄く課税し、その税収を地球規模課題に充てる、というものです。国際金融や巨大IT企業などグローバル企業への課税が対象となります。詳細は後日。

 

(*)G20独立パネル報告書 ”A Global Deal for Our Pandemic Age”

 

#MakeAmazonPay キャンペーン!開始 署名にご協力を!

当フォーラムの正会員でもあるUNI-LCJapan(世界150か国以上2000万人の商業・サービス・技能労働者を組織する国際組合の日本加盟組織連絡協議会)が#MakeAmazonPay キャンペーンを提案しています。

 

「11月26日ブラックフライデーに世界中のアマゾン労働者が一斉に連帯行動し、アマゾンによる労働者、地域社会、そして地球への搾取に立ち向かいます。私たちは今、この瞬間も莫大な荷物と格闘している労働者に正当な賃金、人間らしい労働条件を要求します」ということで、このキャンペーンへの賛同署名を求めています。

 

キャンペーンの署名は以下のURLからお願いします。
https://makeamazonpay.com/ja/

 

なお、アマゾンは(他のGAFAも)つい2年ほど前までは法人税をほとんど払っていませんでした。それは外国企業が日本に何らかの課税の根拠(恒久的施設、PE)を持っていなければ税を払わなくても済むからです。ようやくアマゾン日本法人が一定法人税を払うようになりましたが、まだまだ過少納税と言われています。

 

ところで、新デジタル課税ともいうべき法人税改革が、この10月にG20で合意されましたが、2023年から適用されるということで、アマゾンの納税がどうなるか注目していきたいと思います。

 

国際連帯税に関するアンケート(第二弾)への協力願い

日頃よりお世話になっています。グローバル連帯税フォーラム事務局です。

 

今回は先日行ったアンケート第一弾の結果報告及びアンケート第二弾の実施のお知らせ、最後に著名研究者による国際連帯税関連の論文の紹介をさせて頂きます。

 

【アンケート第一弾結果概要】

 

まずはアンケートにご回答頂いた方々、本当にありがとうございました。頂いたご意見は今後のフォーラムの運営にしっかり活かさせて頂きます。

 

まず、最初にあった「国際連帯税に賛成ですか?」という質問に対しては……

 

賛成:80.0% 反対:6.7% どちらでもない:13.3%でした。

 

以下は頂いた主な賛成/反対理由及び国際連帯税に関するアイデア・ご意見です。(読み易くする為、一部編集しています。)

 

主な賛成理由

 

 ・グローバルな問題を解決する上で、ODA資金では国の意向が強く働き過ぎるし、約束した拠出を守らない政府も多数存在するので、資金規模不安定となる。民間資金では利益に直結しにくい分野への投資は期待できない。したがって、従来の公私の資金に依存しない新しい資金メカニズムが必要であり、国際連帯税はその可能性を有している。

 

 ・気候危機にせよパンデミックにせよ、先進国だけで解決できる問題ではありません。先進国の資金援助だけではなく、フラットな関係で共に問題に取り組むためには国際連帯税のフレームがいいのではないかと考えました。

 

・グローバルな課題の解決において、先進国のその時々の思惑に左右されることなく、持続的に資金が確保できる方策が必要であるため。

 

 ・各国の拠出金だけでは不測の事態に対応できない。実際、コロナ対応ですら失敗の連続だった。近代的な国民国家の枠組みにもそろそろ限界が来たのではないか、と改めて考えさせられた。今こそ、世界的な視野を持ち、国際的な税の導入をすべきだと思う。

 

・パンデミック対応など国際感染症対策は我が国にとって喫緊の課題であり、その財源の一部負担を感染媒体の可能性がある旅行者に求めることは理があると考えます。また、国際的な感染制御対策の財源にもなります。

 

 ・暴走するマネーをコントロールし、国際的な課題に対応する費用を賄うため。

 

主な反対理由(どちらでも無いを含む)

 

 ・意図は賛成できますが,徴収手段の構築が難しいと思います。

 

・原則賛成。しかし、各国事情、国連の現状を見れば連帯性のなさに実現性はない。

 

・課税側・課税される側、徴収した税を分配する側・受け取る側、その税の執行について管理・監督・監査する側、各プレイヤーのメリット・デメリットが整理出来れば不可能な仕組みではないと思いますので、よりよい仕組みの実現に期待します。

 

主なアイデア・意見

 

・賛同するNGO・NPOの世界的合流を通じ、国際連帯税の根拠となる国際条約成立の実現を目指す。

 

・炭素税、武器取引税、感染予防協力税、児童労働税など、SDGs問題解決のための課税を検討する。

 

・核兵器開発を止める平和分担税など、無駄な軍事費を地球環境問題などに活かしていく。

 

・若者に訴え、国際連帯税についてYouTubeなどに投稿する。

 

・反対の立場に立ち得るステークホルダーの中から理解者や協力者を得て、捲き込んでいくことが、強硬な反対意見へのプレッシャーになっていく。

 

・地方自治体からの請願を組織的に行う。国際的なネットワークを強化し、G7やG20の議題に取り上げるように働きかける。ダボス会議の活用も考慮する。

 

・大企業のトップに理解を求めるような働きかけをしていき、そういった層から発信ができたら、社会へのインパクトになるのではないでしょうか。

 

【アンケート第二弾の実施】

 

第一弾の結果も踏まえて、以下の課題を設定しました。

 

1:一つはそもそも「国際連帯税」という名称が「固すぎる」などの意見があり、名称を変えた方が良いということ。

 

・ただし、「国際連帯税」という名称は法律で定まっており(2012年「社会保障と税の一体的改革」法の第7条)、正式名称は変えられないので、あくまで通称という形です。

 

・私たちは仮称として「SDGs税」というのを考案したのですが、これについてご意見を伺いたいと思います。

(ちなみに我々の方でも「税」という名称を何とかしたいという意見などが出ました。)

 

2:もう一つは「国際連帯税」の認知度と理解を何とか広めたいということです。

 

・SDGsも少し前まで日本では1割ぐらいの人しか知りませんでした。「国際連帯税」もSDGsのようなブレイクスルーを狙っています。

 

第二弾アンケートはこちらから!!

https://questant.jp/q/VAEYW4R6

 

 

 

【経済学者等による国際連帯税に関する最近の論文】

 

最後に国際連帯税の理論的な拠り所となる最近の論文を紹介します。

 

著者は佐藤主光・一橋大学教授と小林慶一郎・慶応大学教授で、下記の論文の中でポストコロナの税制・財政政策として、環境税、財産税、金融取引税(トービン税)を挙げ、その財源の使途として、今回のコロナ禍に係る財政赤字の償還財源に充当するとともに、将来の天災・災害への備え、及び新たな「国際連帯」として発展途上国への支援に充てる、と提案しています。

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3514

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3515

 

 

 

 

金子文夫氏『格差是正は世界的潮流だが・・・』を転載

「経済分析研究会」のメルマガに掲載された金子文夫・横浜市大名誉教授の『格差是正は世界的潮流だが・・・』を転載します。一点付け加え。ドイツの総選挙で第一党になった社会民主党はコロナ禍で拡大した格差是正のため、最低賃金のUP、高額所得者への所得税の増税、富裕税の再導入、金融取引税等を掲げていました。以下、本文です。

 

 

格差是正は世界的潮流だが・・・

 

 コロナ禍で世界的に格差是正・分配重視の政策潮流が浮上している。米国のバイデン政権は富裕層・大企業増税による子育て・教育等支援策を提起、ドイツは社民党が第1党となり最低賃金引上げ・富裕層増税を主張、中国は習近平政権が「共同富裕」を提唱、日本では岸田政権が分配重視の「新しい資本主義」を表明している。こうした新政策はどれほどの現実性をもつのか、米中日の順にみていこう。

 

薄れるバイデン政権の野心的な政策

 

 バイデン政権は発足早々、二つの大規模な中長期経済政策を打ち出した。一つはインフラ整備を中心とする「米国雇用計画」(8年2.3兆ドル)、もう一つは子育て・教育支援を核とする「米国家族計画」(10年1.8兆ドル)であり、財源は大企業・富裕層増税、金融所得課税強化によるとした。このような大きな政府への路線転換の背景には、米国の貧富の格差がますます拡大し、社会の分断が深まっている現実がある。

 

 しかし、大型計画の議会通過は容易でなく、妥協策の模索が続く。「米国雇用計画」は1兆ドルのインフラ投資法案に縮小され、企業増税の見送りで超党派の合意が成立した。一方「米国家族計画」は雇用計画で残された分野を組み込む形で総額3.5兆ドルの社会福祉投資法案へと再編され、民主党単独で下院の予算決議を通過させた。ただし、それを実施するには歳出・歳入法案を通さねばならないが、下院通過は民主党内の保守派の抵抗により本稿執筆時点で決着していない。

 

 総額の2兆ドルへの削減、法人税率引上げ目標の28%から26.5%への引き下げなど、妥協策が取り沙汰されている。

 

 バイデン政権の野心的な経済政策は次第に薄められており、22年中間選挙に向けてさらに譲歩が繰り返されるだろう。格差是正は一朝一夕にはいかない難題であることがうかがえる。

 

習近平政権の「共同富裕」は掛け声ばかり!?

 

 8月に習近平政権は「共同富裕」新政策を発表した。格差是正のために所得再分配を図るとして、労働政策、税制、寄付奨励の3項目をあげた。労働政策では、インターネットを介して仕事を請け負う配達員など新種の労働者の待遇改善、税制では所得税の累進税率の引き上げのほか、固定資産税、相続税の導入を検討するという。また、経済活動による富の第一次分配、税などの権力による第二次分配のほかに、寄付による第三次分配を設定する考え方が示された。

 

 本気で格差是正を図るのであれば、戸籍制度の改革と税制改革に進むはずだが、実際には第三次分配が焦点化している。寄付要請への大企業・富裕層の反応は素早く、テンセントが農村振興・低所得層支援の基金8500億円設立、アリババが1兆7000億円の拠出を表明、その他大手デジタル企業と経営者の寄付申し出が相次いだ。デジタル企業の迅速な対応は、独占禁止法違反等による企業制裁強化に対する防衛策の意味がある。「共同富裕」は、かつての「先富論」の結果、経済成長が実現して「小康社会」に到達した次の段階の政策とされるが、同時に習近平政権の体制引き締めの意味合いも強い。

 

 2021年になり、ビデオゲームの時間規制、学習塾の規制と閉鎖、高所得芸能人の脱税摘発など、一連の引締め政策が打ち出された。これらは22年秋の第20回共産党大会における習近平長期政権確立を意図した措置だろう。学校教育では「習近平思想」が必修科目となった。そうした権力強化策が真の狙いであるならば、格差是正は掛け声ばかりが目立つ実効性のないものに終わるかもしれない。

 

岸田政権の「成長も分配も」は虻蜂取らず!?

 

 岸田政権は新自由主義からの転換、中間層に手厚い分配政策の重視など、一見するとバイデン政権に似た大きな政府路線に踏み込んだようだ。国会の所信表明演説では、分配戦略として下請け取引監視・賃上げ企業への税制支援、教育費等支援、介護職等の収入引上げなど4項目をあげた。一方それに先立って成長戦略として大学ファンド10兆円、デジタル田園都市国家構想など4項目をあげ、「成長と分配の好循環」と述べている。

 

 「成長と分配の好循環」はアベノミクスで繰り返し言われてきたことで、新しい資本主義でも何でもない。なぜそれが実現できないのかの究明が先ではないか。新自由主義からの転換、格差是正を主張するならば、バイデン政権のように大企業・富裕層増税を打ち出すべきであるが、総裁選で提起した金融所得課税は簡単に引っ込めてしまった。本格的に格差是正に取り組むのであれば、非正規雇用の地位向上、最低賃金の引上げを掲げるべきであるが、その姿勢はみえない。数値目標は成長戦略に示される一方、分配戦略には登場していない。

 

 おそらく「聞く力」を売りにする岸田首相は、各方面からの要請を並べあげるだけで、深く切り込めないのではないか。これでは成長も分配もと言いながら、虻蜂取らずになりかねない。

 

 こうみてくると、米中日3政権の位置する歴史的文脈は異なるが、格差是正を打ち出さざるをえない状況、そしてそれが成功する見通しがない点は共通しているように思われる。

                           (2021年10月16日   記)

早川元日銀理事「為替取引への課税が望ましい」と発言=ブルームバーグ

元日本銀行理事の早川英男東京財団政策研究所主席研究員は、14日のインタビューで、(1)日銀の金融政策、(2)日本経済の現状、(3) 岸田政権の経済政策について発言しています。そのうちの、(3)で「(岸田首相が提起していた)金融所得課税に関して」と思われるところで、以下のように発言しています。

 

● 金融取引への課税は、バブルの発生を抑制する観点を含めてトービン税(為替取引への課税)が望ましいが、金融所得課税の見直しは必要だ

 

なお、「岸田政権の経済政策に関する発言」は次の3点ですが、要旨のみの記述となっています。

 

1)新自由主義の限界が見えていた中で、分配を重視するのは当然。安倍晋三元首相の影響力の下で自身の主張ができず、アベノミクスとの違いがよく分からない

 

2)介護福祉士や保育士らの所得引き上げも、増税で対応するべきだ。そうした支出と財源の捻出が成長にマイナスだとは思わない

 

3)金融取引への課税…必要だ(上記参照)

 

●全文は、ブルームバーグ『2%目標ますます影薄く、「ワン・オブ・ゼムに」-早川元日銀理事』

タックスヘイブン利用実態の第3弾=パンドラ文書暴露さる

またまたタックスヘイブン(租税回避地)の実態が、パナマ文書(16年)やパラダイス文書(17年)に続いて明らかになりました。その名もパンドラ文書。文書の内容に入る前に、タックスヘイブンを巡る状況について。

 

1)タックスヘイブンを利用して税金逃れを行う富裕層や企業によって、世界では年間4270億ドル(約45兆円)もの税収を失っています。

 

2)途上国は先進国よりも失う税金は少ないが、公共支出に与える影響ははるかに大きい(先進国の税損失は公衆衛生予算の8%相当程度だが、途上国は50%以上に相当)。以上、(*)参照。

 

3)ですから、国際連帯税で途上国の保健衛生支援を行っても、タックスヘイブンへの資金流出を抑えることができなければ、まるで火事を消すのに穴の開いたバケツで水をかけるに等しい。

 

4)なお、この「パンドラ文書」には1000人ほどの日本人・企業が記載されているようですが政治家の名前はないとのこと。ただ、著名人と「孫正義氏や平田竹男氏、原丈人氏」の名前が挙がっているとのこと(以上、10月4日付朝日新聞)。

 

以下、パンドラ文書に関する朝日新聞の記事から。

 

 

【朝日新聞】租税回避は不公平の象徴、対策進む 「5年前のパナマと全く異なる」パンドラ文書

 

タックスヘイブン(租税回避地)の実態が「パナマ文書」で報じられてから5年。今回の「パンドラ文書」で、タックスヘイブンとのつながりが判明した世界の政治家や高官は330人を超え、パナマ文書の倍以上だ。ただし、日本からは政治家は見つかっていない。

 

(中略)

 

…大企業や富裕層だけが(引用者注:タックスヘイブンを利用し)税負担を減らして恩恵を受ける一方、しわ寄せは市民が負う。これは不公平の象徴となっている。

 

このため、国際社会は法制度の不備を塞ぐための仕組みを次々と設けてきた。法人の実質的支配者を透明化する制度や、非居住者の銀行口座の情報を国同士で交換する制度などだ。7月には、主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が、法人課税の最低税率を世界的に15%以上とする方針で合意した。

 

(中略)

 

各国で財政悪化や格差の拡大があっても、国際世論の圧力がないとタックスヘイブン対策は進まない。対策を決める立場の政治家たち自身が利用者であることが背景にあるのだろう。その点、これまでの文書が明らかにした限りでは、日本の政治家は比較的、タックスヘイブン利用を控えているようだ。

 

日本は国際社会で対策の仕組みづくりを主導すべきだ。(編集委員・奥山俊宏)

 

(*)タックス・ジャスティス・ネットワークの報告書によると、世界は富裕層や企業の租税回避で年間4270億ドル(約45兆円)の税収を失っているという。このうち2450億ドルは、企業の税金逃れ、1820億ドルは富裕な個人の税金逃れ。

 

【TJN】The State of Tax Justice 2020

ドイツ総選挙にみる金融取引税の位置、世界的な“カネ余り”と投機マネー

今秋G7諸国は、日本を含めドイツ、カナダで総選挙が行われます。その総選挙の大きなテーマの一つがコロナ禍でさらに拡大した格差問題です。一方、コロナ禍は超金融緩和政策を長引かせ、これが世界的な“カネ余り”をもたらし投機マネーとなって世界を駆け巡り、バブル経済状況にもなっています。

 

●9.26ドイツ総選挙>SPDとGREENSが金融取引税を掲げて

 

いち早く今月26日に投票が行われるドイツは有力三党がしのぎを削ってきましたが、やや地殻変動が起こり、この間与党の一角でありながらずっと低迷を続けてきた社会民主党(SPD)が世論調査で突然と言っていいくらいにトップに躍り出ています。

 

ドイツはもともと環境・気候変動対策の先進国で、極右政党以外どの政党もこの課題に力を入れていますが、さえなかったSPDがトップにいる理由の一つが粘り強く「格差是正」を訴えてきたことにあるようです【A】。

 

「社民党は最低賃金を時給12ユーロ(約1500円)に引き上げることや富裕層への課税強化などを公約に…」【A】しているとのことです。また、ロイター通信は同党が「国家の収入源となる富裕税や、他の欧州連合(EU)諸国と同様の金融取引税の導入を望んで」いると報じています【B】。

 

また、世論調査で一時トップに躍り出ましたが、現在第3位になっている緑の党(GREENS)も格差是正を訴えるとともに、選挙公約で「私たちは、広範な課税基盤を持つEU全体の金融取引税を導入するなどして、投機や短期主義を魅力のないものにします。金融市場の安定性と予測可能性を高めるために、有害な高頻度取引を抑制します」と訴えています【C】。

 

●メルケル首相のCDU・CSUはやや企業や富裕層に優しく

 

一方、今期で引退するメルケル首相を擁する最大政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は今年に入り急速に支持率を低下させ、ついにSPDに抜かれるまでになりました。富裕層への増税には繁栄の妨げになるとして反対し、「経済成長こそが税収にもつながる」としています【A】【B】。さらに、同党は低・中所得者への減税を言いつつも、企業減税(約30%から25%へ)も掲げています。総じて、格差是正政策に弱点があるようです【D】。

 

●財政立て直し&グローバル・イシューのための金融取引税

 

欧州における金融取引税については、すでにコロナ復興基金7500億ユーロ(約95兆円)債券の返済のための原資のひとつとして挙げられています。ただ、実施予定はかなり遅く2024年までにその制度設計など成案を得て、2026年実施というタイムテーブルとなっています。また、ここでの金融取引税はEU財政のためのもので国際連帯税的な内容ではありません。

 

こうした事態に対し、欧州のNGOや欧州議会議員などが、1)金融取引税を株取引に限定せずデリバティブ取引や為替取引を含む幅広い税制とし、かつ実施を早めること、2)税収を域内だけに使用するのではなく地球規模課題のために使用すること、などを要求して活動しています。

 

●世界的な“カネ余り”と投機マネー、通貨取引税こそ求められています

 

現在、巨大IT企業等を対象とした国際課税(法人税)ルールがOECD/G20の場で(1国課税主義を超えて)共通ルールとして確定しようという動きとなっています。これと同じく感染症パンデミック、難民、飢餓問題等の地球規模課題解決のための資金調達を国際連帯税として共通ルール化すべきです。その税制の中身は、今日通貨(為替)取引税がもっともふさわしいと考えます。

 

というのは、「コロナ対策として各国が大規模な金融・財政政策を打ち出した結果、世界的な“カネ余り”が生じている」【E】という現状があり、このカネが投機マネーとなって株式からビットコイン市場へ、そして原油や鉱物資源などの商品市場に流れ込み、世界的な株高や商品高をもたらしています。通貨取引税はこの動きのブレーキをかけることもできますし、法外に利益を上げているところから税として取り戻すべきです。

 

翻って、日本でも遅くとも11月までには総選挙が行われます。右派であれ、左派であれ、金融取引税を軸とした国際連帯税を国連、G7やG20などの国際会議の場で提案することのできる日本の政治リーダーが求められています。

 

【A】独総選挙大詰め、社民党がリード 格差是正訴え
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75713220T10C21A9EA1000/

 
【B】Factbox: Germany’s election and the finance industry
https://www.reuters.com/world/europe/germanys-election-finance-industry-2021-09-07/

 
【C】Deutschland. Alles ist drin. Bundestagswahlprogramm 2021
https://cms.gruene.de/uploads/documents/Wahlprogramm-DIE-GRUENEN-Bundestagswahl-2021_barrierefrei.pdf

 
【D】Germans ponder ‘sea change’ on tax, spending policies ahead of election
https://www.politico.eu/article/germans-ponder-sea-change-taxes-spending-policies-ahead-election/

 
【E】世界のマネーは米国株に向かう
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB077Q50X00C21A9000000/?unlock=1

 

※写真は、SPDの首相候補のショルツ氏(現財務大臣)

『世界』10月号に上村雄彦横浜市大教授の論文が掲載されました

雑誌・世界

 

雑誌『世界』10月号が本日発売となりましたが、その「脱成長――コロナ時代の変革構想」という特集で、上村雄彦・横浜市大教授の論文が掲載されていますので紹介します。この論文を読んで議論などができるとよいですね。

 

【世界 2021年10月号】

 

●特集1:脱成長――コロナ時代の変革構想
 いま、私たちは “右肩上がり” の状況を生きている――グローバル経済の指標と地球の平均気温、あるいは二酸化炭素の累積排出量と異常気象の発生確率。
 新型コロナウイルスによるパンデミックは、この急激な右上方への上昇曲線を、多少、緩和した。だが、そこには多くの人命の犠牲と生活上の困難、生きがいや働きがいの喪失がともなっている。
(中略)
 ”右肩上がり” は、歴史的役割を終えた。
 地球と我々の生活を壊さないオルタナティブが必要だ。
 新たな時代への政治的想像力を磨くために、特集する。

 

【目次】
〈変革に向けて〉
気候崩壊と脱成長コミュニズム――ポスト資本主義への政治的想像力
斎藤幸平(大阪市立大学)

 

〈アメリカの新しい潮流〉
アメリカ あらたな労働運動の波――パンデミックという危機をチャンスに変える
佐久間裕美子(文筆家)

 

〈日本への提起〉
社会的連帯経済 それは世界を変えつつある
廣田裕之(スペイン社会的通貨研究所)

 

〈地方から変革は起きる〉
ニュー・ローカルの設計思想と変化の胎動
山本達也(清泉女子大学)

 

〈地球規模の転換〉
グローバル・タックス、GBI、世界政府
上村雄彦(横浜市立大学)

 

●特集2:東京オリンピック 失敗の本質 <省略>

 

なお、特集とは別の「注目記事」でフォーラムのセミナーで講師を務めていただいた稲場雅紀さんも執筆していますので紹介します(勝俣先生も)。

 

《パンデミックとアフリカ》
 ○ポスト・コロナを切り拓くアフリカの肖像
 稲場雅紀(アフリカ日本協議会)
 ○新しい南北問題の中のアフリカ――パンデミック、武力紛争、気候変動
 勝俣 誠(明治学院大学名誉教授)

河野太郎議員、新刊『日本を前に進める』で「国際連帯税」を記述

 河野本

 

河野太郎議員の最新本、『日本を前に進める』(PHP新書)が27日に発売されました。この本の出版の意図は、今後の彼の政治活動の指針とするためのものではありますが、時期的に自民党の総裁選挙と衆議院選挙が近づいていることから、彼が総理になるための政治信条のための書とも言えるようです。

 

ところで、この本に対する当方の関心は、河野氏が外務大臣時代(2017年8月~19年9月)の後半に彼の政策の目玉としていた国際連帯税について、現在どのように考え記述しているかでした。

 

それは期待に反せずしっかりと述べられていました。「第三章 新しい国際秩序にどう対処するのか――安全保障・外交戦略」の「何のためのODAか」という箇所で(P104~105)。その記述要旨を挙げてみます。

 

【記述の要旨】

 

SDGsを達成するためには年間2.5兆ドルもの資金が不足している。ODAだけではとうていギャップを埋められない。グローバリゼーションの光が当たっている場所から手を差し伸べるべき。例えば、世界中の莫大な為替取引に0.0001%くらいの「国際連帯税」をかけ、その税収を直接国際機関に入れ、その国際機関が緊急の人道支援を行う。

 

外務大臣時代この課題を議論してもらうための有識者会議を立ち上げた。また国際的に議論するため「開発のための革新的資金資金調達リーディング・グループ」の議長国に就任し、国際社会における議論をリードした。

 

このように記述内容は外務大臣時代に主張していたこととまったく同じと言えます。当方としては国際連帯税を実現するための具体的方策などについて、じっくりと河野氏と話し合いところですが、自民党総裁選挙後の内閣改造が行われてからでしょうか。ひょっとして彼が総裁に立候補するかもしれず、そうすれば「次の総理にふさわしい人」という世論調査で1位になっている人ですから、総理になっているかもしれません。もっともその後になるであろう衆議院選挙で現与党が過半数を失うことも考えられますが、その時は国際連帯税創設を求める議員連盟の重要役員に就いていただきましょう。

 

以下、河野本の目次の紹介です。

 

【日本を前に進める】(PHP新書)

目次

第一章 政治家・河野太郎の原点

第二章 父と私――生体肝移植をめぐって

第三章 新しい国際秩序にどう対処するのか――安全保障・外交戦略

第四章 防災4.0

第五章 エネルギー革命を起爆剤に

第六章 国民にわかる社会保障

第七章 必要とされる教育を

第八章 温もりを大切にするデジタル化

 

※左上写真は、「国際連帯税シンポジウム2019」(2019年7月)で学生から要請文を受け取る河野太郎外務大臣(当時)