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「国際連帯税が必要です」:逢沢一郎衆議院議員のメルマガより

いつも国際連帯税創設を求める議員連盟の総会に参加され、積極的に発言されているのが逢沢一郎衆議院議員です。逢沢先生の3月11日付メールマガジンに「国際連帯税が必要です」と題した報告が載っていましたので、お知らせします。

 

逢沢先生は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)国会議員連盟や日本・アフリカ連合(AU)友好議員連盟の会長も務められていますように、根っからの国際派、途上国・貧困者支援波です。以下、メルマガ全文です。

 

 

◆◇「国際連帯税が必要です」◆◇

 

 SDGsとはご承知の通り「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」などの2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標です。各国政府や企業、市民団体、大学などがみんなで協力してこの目標を達成しようということです。SDGsの目標が達成されれば、それは本当に素晴らしい地球の実現です。また人類が自然と共生しながら、全ての人がより豊かで人間らしい生活をすることが可能となります。

 

 しかしSDGsの目標達成には、引き続き大きな努力が必要です。まず資金の確保です。UNCTAD世界投資報告書によると、途上国においてSDGsを達成するには年間約3.9兆ドルの資金が必要で、現在の投資額約1.4兆ドルとの間には2.5兆ドルの資金ギャップがあると分析されています。

 

 資金ギャップは後発開発途上国や脆弱な経済の国々においてより大きくなることが予想されます。政府の公的資金だけでなく民間資金も上手に活用していきたいと思います。たとえば電力、交通、水と衛生などの分野には特に民間資金の活用に期待が寄せられます。しかしいずれにしても全てのSDGs関連セクターで投資資金が大きく不足しています。

 

 また新型コロナウイルス感染拡大が、SDGsの達成をさらに困難にしています。今日ワクチン接種が世界中で始まりましたが、やはり問題は発展途上国です。ACTアクセラレータはコロナ感染症のワクチン・治療・診断・保健システムを開発して公平なアクセスを実施する国際的枠組みですが、このACTアクセラレータの枠組みも圧倒的資金不足に陥っています。

 

 コロナを抑え込むには、先進国だけが安全になったとしても不十分です。地球規模で、途上国も含め全ての国と地域で成果を上げなければコロナとの闘いに勝利することは出来ません。

 

 そこで私たちが真剣に考え、実現する必要があるのが「国際連帯税」です。コロナのような感染症との戦いは、まさにボーダレス、グローバルな戦いです。将来、また新たな感染症が人類を脅かす可能性も否定できません。

 

 グローバル化の恩恵を受けている金融セクターやIT情報セクターの取引きやオペレーションに、ごくごく薄く広く負担を求めるのです。スマホや携帯の通話やメールなども候補に挙げてもいいと思います。とにかく世界の人々が皆でごく少額を負担してこの地球を人類を救うための財源づくりです。是非関心を持っていただき、ご理解を頂戴したいと思います。

 

 今後、折に触れて「国際連帯税」に関する考え方や制度設計についてレポート致します。全人類は、一人一人は地球市民です。

 

【E-mail】ask-aisawa@aisawa.net 

 

★写真は、2019年6月、Gaviワクチンアライアンス 理事長のオコンジョイウェアラさんとともに(逢沢先生のTwitterより)。彼女は本年3月WTO(世界貿易機関)の新事務局長に就任された。

 

【資料】3.9国際連帯税議連総会に関するマスコミ報道

東京新聞3月9日東京新聞3月10日

 

3月9日に開催された国際連帯税創設を求める議員連盟の本年第1回総会のもようがマスコミで報道されましたので、お知らせします。東京新聞(新聞紙記事で9日と10日付)と日本経済新聞(電子版9日付、紙記事で10日付)が報道してくれました。

 

なお、「具体的税目として株や為替の取引に課税する金融取引税や航空券連帯税をあげた」(10日付東京新聞)とありますが、航空関係は当面当てにできない中で、金融取引税については現在米国でも活発に議論されている最中です(その最新情報は別項でお知らせします)。

 

 

【日本経済新聞】
国際連帯税、23年に導入を 超党派議連が議員立法めざす
ワクチン確保など途上国支援の財源に

2021年3月9日

 

超党派の「国際連帯税の創設を求める議員連盟」(衛藤征士郎会長)は9日、国会内で会合を開き、政府に2023年度に同税を導入するよう促す議員立法をまとめると決めた。発展途上国のワクチン確保などを支援する財源にする。

 

議員立法は夏までに詳細を詰める。秋にも国会に提出する日程を描く。

 

衛藤氏は日本の制度導入が国際的な取り組みの拡大に結びつくと強調する。「日本が主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)、経済協力開発機構(OECD)などで提起し、国際的な議論を喚起すべきだ」と主張した。

 

一般的に国際連帯税は飛行機の利用、金融資産の売買など国境を越えた経済取引に課税する。集めた税金は新興国の貧困や感染症の対策に充てる。国連が00年に採択したミレニアム開発目標(MDGs)を契機に先進国で導入機運が高まった。

 

国民民主党の古川元久国会対策委員長は「コロナ禍での世界的な金融緩和の拡大で資産家の富裕層が恩恵を受け低所得者との格差が広がっている」と話した。「先進国と新興国の資金差を埋めるため金融取引への課税が今こそ必要だ」と語った。

 

外務省は10年度から11年連続で税制改正要望に国際連帯税の導入を盛り込んだが、21年度は明記を見送った。外務省の担当者は9日の議連会合で、コロナ禍での税負担の増加に航空業界や与党税制調査会の理解が得られなかったと説明した。

 

議連の事務局長を務める立憲民主党の石橋通宏参院議員は、税制改正要望からの削除について「甚だ遺憾だ」と主張した。古川氏は河野太郎前外相が外相在任時に国際連帯税の創設に前向きな発言を繰り返していたと指摘した。

 

外務省の資料によると…以下、省略

国際連帯税議連総会報告:議員立法で実現めざすことを確認

21.3.9議連総会

 

3月9日、国際連帯税創設を求める議員連盟(会長:衛藤征士郎衆議院議員)の本年第1回総会は、リアル(議員会館会議室)とWebの両方で、国会議員21人プラス秘書の方々、外務省や法制局の方々、市民24人が参加し、開催されました。簡単に報告します。その前に総会のもようが下記のメディアで報道されました(次回報告)。

 

*【日経新聞】

国際連帯税、23年に導入を 超党派議連が議員立法めざす(3月10日付)

ワクチン確保など途上国支援の財源に

*【東京新聞】

国際連帯税の導入 議員立法提出確認(3月10日付) 

「国際連帯税の導入を」SDGs資金源で注目 超党派 法案提出へ(3月9日付) 

       

●外務省とグローバル連帯税フォーラムからの報告

 

司会は石橋通宏事務局長(参議院議員)で、衛藤会長あいさつの後、早速議題に入りました。外務省が次年度税制改正要望から国際連帯税を降ろしてしまったことに対し、「誠に残念というか、むしろ遺憾である」との議連の立場から説明を求めました。

 

外務省・国際協力局の高杉審議官(地球規模課題担当)が、税制による資金調達はコロナ危機のため新税の導入が困難であり、新しい資金源として民間資金利用を考えていく、という説明でした(SDGs達成のための新しい資金を考える有識者懇談会・最終報告書)。このことにつき、懇談会委員でもあった田中から、そもそも懇談会は「①税制、②その他での資金を考える」ということではじまったが、途中でその他=民間資金利用の方が主体となってしまった、と経緯を説明。

 

その後、高杉審議官からワクチンの平等なアクセスを確保するための国際的枠組みであるCOVAX(コバックス)等の説明があり、さらにSDGs達成のための途上国の資金ギャップは従来2.5兆ドルと言われてきたが、それに加えて今回の感染症では0.7兆ドルのギャップがあると指摘されていることを報告(UNCTAD)。次に、田中からワクチン接種における高所得国と貧困・低所得国とのとてつもない格差とそれをもたらしている圧倒的な資金不足を指摘し、今や国際連帯税の出番ではないかと報告。加えて谷本より国際連帯税としては今日、河野太郎前外務相が言っていたように為替取引への課税が有望であること等を報告。

 

●議員の意見:大臣や総理の言葉は重い、にも拘わらず…/国際連帯税にとって大きな機会、日本の大方針を

 

これらの報告を踏まえ、出席した議員から意見が出されました。まず古川元久衆議院議員(国民民主党)から次のような意見。「河野前外務大臣はあれほど国際会議の場で国際連帯税のことを訴えていたが、それにも拘わらず今回外務省が税制改正から国際連帯税を外したのは大きな問題だ。大臣や総理の言葉は重いのだ。河野氏が単に個人の思いとして語っていたのか。外務省は検証すべきだ」。

 

次に逢沢一郎衆議院議員(自民党)から次のような意見。「自民党税調の限界を突破しないといけない。この10年河野大臣は熱意があったが他の大臣は熱量が足りなかった。今日コロナ禍という情勢にあってある意味国際連帯税にとっては大きな機会だ。総理も外務大臣も日本としての大方針を持たなければならない」。

 

●議員立法をめざして、衛藤会長のまとめ

 

次に、石橋事務局長から「国際連帯税制度の創設のための立法について(案)」、つまり議員立法の骨子が提案されました。「SDGsや新型コロナなど、我が国を含む国際社会が地球規模課題による脅威に対応することが求められ、そのための安定した財源を国際連帯税でもって確保する」(要旨)という立法の趣旨にもとづき、国際連帯税創設のため「2年以内に必要な法制上の措置を講ずることを政府に義務付ける」と謳うもの(案文の全文については別に報告します)。

 

これについて1、2質問があり(暗号通貨取引も金融取引税に含めるのかなど)、その後事務局長提案が全体で確認されました。

 

最後に、衛藤会長が「まず河野前外相については必ず当議連に入ってもらうようにしたい。その上で日本での取組みが国際的な取組みの拡大に資すること、そのためにG20やG7、OECDで訴えていくことが求められている。私たちは議員立法の動きを加速化させ、ぜひとも国際連帯税を実現していきたい。外務省とも市民団体とも一緒になって、何としても実現にむけて頑張っていこう」とまとめ、第1回総会を終了しました。

 

※左上の写真は、日経新聞(3月9日付)より。立って話しているのは衛藤会長です。

【ご案内】国際連帯税議員連盟の総会>Zoom傍聴できます

国際連帯税創設を求める議員連盟(会長:衛藤征士郎衆議院議員)の2021年度第1回総会が下記の通り開催されます。市民はZoom傍聴できますので、ご案内します。

 

◎日 時:2021年3月9日(火)9:00~10:00

◎議 題:

 ・令和2年度税制改正要望における国際連帯税の扱いについて(外務省より説明)

 ・新型コロナ・感染症のワクチン確保のための国際協力メカニズムとその現状、及び、SDGsの推進に必要な資金の欠乏状況について(政府担当者から説明、グローバル連帯税フォーラムから報告)

・国際連帯税の導入実現に向けたアクションについての提案 など

 

◎Zoom傍聴

 ・会場は参議院議員会館の会議室ですが、議員を含め極力Zoom視聴で開催するとのことですので、市民側傍聴もZoom視聴となります。

*傍聴ご希望者は、gtaxftt@gmail.comまでお名前(あれば所属)をお書きの上連絡ください。締め切りは3月5日です。

 

<議連総会開催を巡る背景の簡単な説明>

 

・2009年より毎年度外務省は税制改正要望で国際連帯税新設を要望してきましたが、21年度にその要望を取り下げてしまいました。今こそ国際連帯税の出番という状況において旗を降ろしてしまい、誠に遺憾なことであります。

 

・実際、今日新型コロナや気候変動など地球規模課題がいっそう浮上してきています。とくに昨年来のコロナ禍において、切り札の一つであるワクチン接種で貧困国・途上国が置き去りにされている現状があります。その要因の一つが途上国にワクチンや治療薬を公平にアクセスする「ACTアクセラレータ」という国際的な機関の圧倒的な資金不足にあります。

 

・この機関を支援している日本を含むドナー国も国内のコロナ対策のためばく大な借金政策を取っており、ODA(政府開発援助)資金に余裕はありません。そういう状況で、期待される資金調達の方法が国際連帯税です。グローバル化で恩恵を受けている経済セクターに広く薄く課税し、その税収を国際公共財として使うというもので、具体的には為替取引(金融取引)やデジタルサービス取引等への課税です。

 

・「ワクチン等は『国際公共財』である」とは先のG7首脳会議での議論です。であれば、「ワクチン格差」を認めるわけにはいかず、ドナー国は国際的に共同して新しい資金を創出し途上国へのいっそうの支援を行うことが望まれます。日本政府がその先頭に立つことが求められています。残念ながら外務省が新税要望を断念している中で、議員連盟が議員立法という形で国際連帯税創設を求めていくことを期待します。

 

※写真はWHOのHPより

 

G7首脳会合振り返り:資金不足、新ワクチン債と国際連帯税で

2月19日世界的なコロナ対策を主要議題にしてG7首脳会議が開催されました。成果としては、米国がWHO(国際保健機関)に復帰し、コロナ対策の国際的枠組みであるACTアクセラレータ等にも参加したことです。

 

課題は、ワクチンを含む国際的なコロナ対策費用がG7ではとうてい賄いきれないことです。首脳会議声明ではACTアクセラレータ(含むワクチン支援)にG7全体で総額75億ドル(約7900億円)拠出するとさらっと述べていますが、これではACTアクセラレータが求めている必要資金には遠く及びません。

 

●首脳会議声明とACTアクセラレータの資金不足は270億ドル

 

声明をまとめると以下の2点。

①ワクチン・治療・診断への安価かつ公平なアクセスを促す「ACTアクセラレータ」、ならびにワクチン共有の国際的枠組みCOVAX(コバックス)を支持し、G7全体で総額75億ドル(約7900億円)拠出

②将来のパンデミックに対する強力な防衛のために、財源の確保や迅速に対応できるメカニズムなどの国際的な保健条約が必要

 

ところで、WHOはACTアクセラレータ(含む、ワクチン)の予算につき、270億ドル(約2兆9000億円)不足と試算していますので、75億ドル程度ではまったく足りないのは明白です。そのためでもしょうか、COVAXは昨年の段階でワクチン接種20億回分をめざすとしていましたが、それが今年に入り1月段階では18億回分が目標となり、今回13億回分と縮小されました。

 

18億回分目標時は、92カ国の貧困国・低所得国に供給すると言っていました。これだけですと対象国の総人口の約27%への接種にしかなりません。それが今回さらに減ってしまいます。そもそも当初の目標の20億回分が少なすぎではないでしょうか。1人1回としても80億回分くらいは必要なはずです。

 

●中国とG7の「国際公共財」、同じ言葉を使っても…

 

G7会合の2日前の17日、国連安全保障理事会が開かれ、ここで国連事務総長のグテーレス氏は「世界全体でこれまでに実施されたワクチン接種のうち75%は、わずか10カ国で実施されたに過ぎない、130カ国ではまだまったく接種が行われていない」と述べ、「ワクチンの公平性は、国際社会のモラルが試される最大の課題だ」と訴えました。今日では中国製のワクチンが途上国にも入りつつあるので、接種国は数としては増えているようです。

 

その中国ですが、53の途上国・地域にワクチンを「無償で」援助を実施し始めました。習近平国家主席は中国ワクチンを「国際公共財」とすると宣言しています(2月21日付毎日新聞)。ロシアも独自に動き始めています。中国ワクチンは情報公開の面で課題があると言われ、またワクチン提供が外交政策として使われているという問題点があります。が、G7も先の首脳声明でワクチン等を「国際公共財」と言いながら、各国はワクチンナショナリズムに陥っています。その結果、COVAX等への支援は十分ではなく、従ってまだワクチンを途上国に届けていないからです。

 

ジョンソン英首相に至っては「余剰ワクチンの大半を貧困国に寄付する」(2月20日付BBC放送)と言っています。つまり自国で接種し終わって余ったら途上国に寄付する、と言っているに等しい言い方です。これは途上国を侮辱していることにならないでしょうか。

 

●どう資金不足を解消するか?新コロナワクチン債と国際連帯税で

 

もとよりワクチンはきちっと情報公開され安全性が担保され、しかも外交の道具に使わない方がずっとよいと思います。もともとACTアクセラレータとCOVAXはWHO主導により国際保健機関、そして先進国(EU、欧州6か国、日本が提案国)によって設立されたもので、この点を払しょくしているはずでした。しかし、当初米国が参加していないこともあり、先進国が十分に資金を拠出しないこと、そして各国ともワクチン争奪戦に血道をあげていたことから、大幅に遅れをとったと言えます。

 

ともあれ、G7はじめ先進国が極力早めにワクチンを貧困国・途上国に提供することですが、WHOも言うように、まず医療従事者や高齢疾患者に届けることが必要です。そのためには、高所得国の健康な若者たちへの接種分を回すことが考えられます。とくに1人当り9回分を確保しているカナダ、同7回分を確保している英国は大幅にCOVAXに提供すべきです。

 

資金不足を大急ぎで解消するには、コロナ対策でばく大な借金を負っている先進国のODA(政府開発援助)はそうそう期待できません。従って、G7は共同して10年物の2兆円規模の新(コロナ)ワクチン債(*)を金融市場で発行し、その償還について共同の国際連帯税を実施し(金融取引税やデジタルサービス税等)、それによる税収で賄う、というものです。つまり、1年以内に債券で資金を作り、2~3年以内に共同で実施する国際連帯税の税目を決定し、10年目に償還するというプロセスです。

 

先の首脳会議の声明で、「将来のパンデミックに対して財源の確保などの国際的な保健条約の必要」を謳っていますが、将来ではなく、今すぐ上記スキームを実施しつつ、共通の課税ベースを有した税制として条約化していくことが望ましいと言えます。例えば、外国為替取引に0.005%課税するとか。

 

他に問題は、ワクチンや治療薬等の特許権保護規定の問題があります。その規定の適用を除外するよう途上国やNGOは求めていますが、WTOでは結論が出ていません。ワクチン等が「国際公共財」であるとするなら、各製薬会社は極力価格を下げること(原価近くまで)が求められると思います。

 

(*)すでに「予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm)」がワクチン債を発行しており、ワクチン開発資金として「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」に供給されています。従って、G7が新たに債券を発行するとすれば、ACTアクセラレータに向けてのものとなりますが、分かりやすい形で「新コロナワクチン債」と名付けることにします。

 

 

コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?

ワクチン接種回数 

ワクチン接種回数(貧困国・高所得国)

 

新型コロナウイルスの猛威は未だ衰えず、感染抑止の切り札として期待されるのがワクチンです。が、現実は高所得国によるワクチンの争奪戦となっており、貧困・低所得国は置き去り状態にされています。重要なことは、貧困国の人々を取り残さない政治的なリーダーシップと資金不足の解消です。

 

G7首脳会議が19日「ワクチンの公平な分配」などを議題として開催されるようですが、菅首相をはじめ日本政府がそのような国際政治の場で積極的発言を行ってもらうために、そして何よりも日本の全国会議員にこの「命の格差」とも言える不条理な問題を認識してもらうために、問題提起をしていきたいと思います。

 

以下、「コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?」と題した拙文を書きましたのでご笑覧ください。

 

 

コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?

 

新型コロナウイルス(以下、コロナと略)のワクチン接種が世界的にはじまっていますが、「命の格差」とも言える人道的・道義的な問題が出てきています。それは接種が行われているのは、富裕国などほんの一部の国であり、大部分の国ではいぜんとして接種のメドが立っていないことです。

 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長によれば、前者は10か国で接種の4分の3を占め、後者は130か国にも上っているとのことです。この結果、同事務局長は「(各地の)高リスクの人々への接種に時間がかかるほど、ウイルスが変異したりワクチンが効かなくなったりする恐れが高まる。…すべての場所でウイルスを抑えないと(ウイルスとの闘いは)振り出しに戻る」と警告しました(2月6日付朝日新聞)。

 

実際、ブラジル北部アマゾナス州の州都マナウスで最近見つかったコロナの変異ウイルスが世界的な脅威になるかもしれないと懸念されています。「科学者は、ブラジルで確認された変異ウイルスに既存のワクチンが効かいない可能性を考える」2月11日付日経新聞 シンクタンク・ブリューゲルのジャン・ピサニフェリー氏)という事態が起きています。

 

1、貧困・低所得国と富裕国(高所得国)のワクチン確保の割合

 

ご承知のように、国際的にはWHOの呼びかけで、コロナのワクチン・治療薬・診断の開発、生産、公平なアクセスを加速させるため「ACTアクセラレータ」という国際的枠組みを作られ(日本も共同提案国)、その下にワクチンを共同購入し、途上国にも配布するために「コバックス(COVAX)」ができました。ここにはワクチン供給に期待して約190か国が参加しています(当初、米国と中国が不参加でしたが、その後両国とも参加)。

 

ところが、まだワクチンの供給が十分ではないのに争奪戦となり、上述のように富裕国がほとんどを確保してしまう有様となっています。コバックスが提供を予定している貧困・低所得国と富裕国(高所得国)のワクチン確保の割合を見てみましょう。

 

          接種総回数   1人当りの回数     備考

・貧困・低所得国   18億回    3分の1回?   92か国の人口の27%    

・欧州連合(EU)  15.9億回     3.5回

・米 国       12.1億回     3.7回

・カナダ       3.4億回     9.0回

・イギリス      3.7億回     5.5回

・日 本       3.14億回     2.5回

 

コバックス概念図

      コバックスの概念図

 

コバックスは21年中にワクチン18億回分確保を目指し、92か国(総人口の27%)の貧困・低所得国に供給する予定でいますが、これだけですと大雑把に言って3人に1人しか接種できない計算となります。一方、富裕国は日本を除いてどの国も1人当たり3回分以上で、カナダとなると9回分も確保しています。ということは、貧困・低所得国の人の「命の価値」はカナダの人の27分の1と見られても仕方がないと思います。

 

ちなみに、アフリカ連合(AU)は総人口13億人の6割に2回ずつ接種できる15億回を取得を目指していますが、メドが付いたのは2.7億回分だけのようで、コバックスを通じ6億回供給してもらう予定ですが、こちらもメドが立っていません。そういう中で、アフリカだけではありませんが、中国が53の途上国・地域に向けワクチンの無償援助を始めたとのことです(2月9日付読売新聞)。

 

2、「ACTアクセラレータ」と「コバックス」の圧倒的な資金不足

 

考えてみますと、貧困・低所得国(92か国)にとって命綱ともいえるコバックスが3人に1人にしか接種するワクチンを確保できないというのも最初から力不足を自ら露呈してしまっている、と言えます。要は圧倒的に資金がないからだ、ということだと思います。

 

WHOによればACTアクセラレータは約270億ドル(約2兆8千億円)の資金不足となっています。これに対し、国際協力の枠組みに復帰した米国が40億ドル(約4200億円)、日本が2億ドル(約208億円)拠出を決めました。EU並びに各国の動向は分かりませんが、多分合計しても100億ドルに届くかどうかでとても資金不足を解消するには程遠いと言えましょう。とするならば、コバックスの資金調達も厳しいことが予想され、貧困・低所得国でのワクチン接種3人に1人ベースが改善される見込みはありません。

 

別の方法としては、ワクチンを「国際公共財」という観点から、各メーカーに価格をぐっと安くしてもらうことです(できれば原価近くまで)。価格はいくらかと言いますと、1回分で、英アストラゼネカが1.78ユーロ(約225円)と最安で、米モデルナが18ドル(約1860円)と最も高く、いち早く販売された米ファイザーは12ユーロ(約1520円)と言われています(12月19日付時事通信)。当面利益を得ようとしない方針ということでアストラゼネカが一番安いようですので、他のメーカーもこれに合わせてくれれば、コバックスがより多くワクチン購入ができるでしょう。ただし、守秘義務が課せられているので、これが正しい価格かどうかは確証を得ることができません(ベルギーの高官が情報を漏らした)。

 

とはいえ、このまま推移するなら、貧困・低所得国は中国やインドのワクチンを頼るほか道はなくなります(中国シノバックは治験の透明性に対する懸念があると言われているが)。コバックスならびにWHOは中国などとの調整が必要と思われますが、どうなっているでしょうか。

 

3、先進国(ドナー国)は借金まみれ、今こそ国際連帯税の出番

 

先進国(ドナー国)が途上国支援を行うには国家予算からODA(政府開発援助)を通じて行いますが、2019年のODA実績合計は1,528億ドル(約16.7兆円)でした。ですから、感染症対策だけに特化すればACTアクセラレータなどの資金不足を解消することは可能です。しかし、途上国支援は医療・保健のみならず多岐に渡りますので、これまでのODA規模では限度があります。そもそもSDGs達成のための費用は途上国で2.5兆ドルが不足していると言われています。

 

一方、先進国は自国のコロナ対策でばく大な借金による財政政策を推し進め、今や昨年末時点で総額13兆8750億ドル(約1445兆円)にも達し(IMF報告)、ODAを飛躍的に増加させる余裕はないと言えます。日本も20年度の財政は総予算175.7兆円のうち新規国債が112.6兆円も占めて、借金依存度は65.1%にも及んでいます。

 

それではどうするか? コロナ禍による経済危機にもかかわらず相当の利益を上げている経済セクターが存在します。それは金融セクターとIT関連セクターです。この両セクターに、国境を超える経済活動に広く薄く課税するという国際連帯税を課して、ある意味グローバリゼーションの使用料(fee)を支払ってもらうのです。

 

具体的には、金融取引税、デジタル課税。前者は、外国為替取引、外国為替証拠金取引、株式取引、債券取引、デリバティブ取引など課税対象はいくつもあります。後者は、現在OECD/G20で議論中ですが、IT関連のみならず製薬会社等多国籍企業の利益に対する課税が対象になっています。金融取引税関係については、G20首脳会議レベルで国際公共財の創出として合意し、国際共通税として実施することが望ましいと言えます。

 

かつてフランスのシラク大統領(当時)が、最近では河野太郎外務大臣(当時)が国連や国際会議の場で倦まずたゆまず、前者はMDGs(ミレニアム開発目標)の資金として、後者はSDGs(持続可能な開発目標)のための資金として、国際連帯税の創設を主張してきました。今コロナ・パンデミックを前にしてその必要性がいっそう高まっていると言えるでしょう。

 

※写真は、ファイザー社のHPより

コロナワクチン:「蜘蛛の糸」に我先にとぶら下がる先進国

今週の日曜日(1/31)のTBSサンデーモーニングで、新型コロナウイルス(以下、コロナと略)のワクチン問題を特集として放映していましたが、コメンテーターの松原耕二氏が「ワクチンの(世界的な)争奪戦を見ていると、芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』(*)を思い出す。まず豊かな国々が我先にと糸にぶら下がり、でも貧しい国は糸につかまることすらできていない」、と。テレビでは、イスラエルがどんどんワクチン接種をしているのに、すぐ隣のパレスチナ系住民は一人も接種していない模様も放映されてました。

 

(*)超大まかあらすじ:お釈迦様が地獄にいる亡者の一人を助けようと極楽から糸を降ろすと、その亡者がその糸を手繰って上ってきたが、ふと下を見ると多くの亡者がその糸にしがみつき上ってきている。そこでくだんの亡者が亡者たちを振り落とそうとし、「これは俺のものだ」と叫んだとたん、ぷっつりと糸が切れて亡者は真っ逆さまに地獄に落ちていった。

 

●コロナワクチンを富裕国が囲い込む

 

コロナがパンデミックとなってから1年が過ぎ、世界で感染者がついに1億人を超え、死者も200万人を超える事態となっていますが、その脅威は未だ衰えるところを知りません。コロナ感染を防止するための強力なツールのひとつがワクチンです。これが異例のスピードで開発され、各国で接種がはじまりつつあります。

 

ところが、まだワクチンの供給が十分ではないのに争奪戦となり、富裕国がほとんどを確保してしまう有様となっています。国際NGOオックスファムによると「人口の約5倍のワクチンを調達するカナダを筆頭に先進国の多くが人口の約3倍の確保を予定し、低・中所得国では2021年末までに人口の10%未満しかワクチンを接種できない可能性となっている」と報告しています。また、英誌エコノミスト系の調査部門の報道によりますと、途上国にワクチンが行き渡るのは2023年以降にずれ込む見通し、とも報じられています(1月31日付日経新聞)。

 

●本来COVAX(コバックス)が富裕国・貧困国別なく公平に配布するはずが

 

国際社会は、昨年WHO(世界保健機関)の呼びかけで、医療体制が脆弱な低所得国等を支援するために「ACTアクセラレーター(Access to COVID-19 Tools Accelerator)」を設立し、ワクチン・治療・診断・保健システムという4つの柱を軸に対策を進めています。そのうちのワクチン関係を担っているのが「COVAX(COVID-19 Vaccines Global Access)ファシリティー」です。

 

COVAXは富裕国の資金でワクチンを共同購入し、途上国にも公平に配布しようというファシリティで、現在190か国が参加しています。が、当初ワクチン大国の米国、中国、ロシアが不参加でしたので、最初から資金不足に見舞われ、目標も2021年末までに途上国に20億回分のワクチン供給を目指すというものでした(その後米国、中国が参加することに)。

 

今年に入り、COVAXは92カ国に供給し、対象国の総人口の約27%への接種が可能という見込みを立てました。しかし、先進国を先頭に多くの国がワクチン保有国や製薬会社と個別に交渉し、ワクチン確保に躍起となってしまいました。このためCOVAXに参加している多くの途上国ではワクチンの確保や接種開始のめどが立たない状態となっています。

 

●国際社会が共同して拠出する国際連帯税方式で支援を

 

こうした憂うべき状況をもたらしている要因として、1)国際的な政治的リーダーの不在、2)COVAXを含むACTアクセラレーターへの資金の圧倒的不足、ということが挙げられます。

 

その資金不足ですが、ACTアクセラレーターの第3回会合で、「(昨年)12月14日時点で、今後数か月の緊急需要のための資金ギャップは43億ドルであり、2021年には追加で239億ドル(約2.6兆円)が必要」と試算されました。ところで、資金調達のためには、(いぜんとして)各国のODA予算からの拠出が主力となりますが、そろそろ国際社会は国単位でのバラバラな資金拠出方式から、共同して資金調達を行う仕組みを構築することが必要ではないでしょうか。

 

その理由の一つは、ドナー国となる各国も国内のコロナ対策のために多大な借金政策をしており、ODAを増加させる余力がまったくなくなっていること、もう一つはグローバル化によってばく大に儲かっている経済セクターから税またはフィー(料金)を徴収する仕組みを考える時期に来ていること、です。後者についてですが、国境を超える活動に対して税を課す国際連帯税方式で、外国為替取引やデジタル商取引等に適用できるでしょう。ちなみに、世界の為替取引量は2019年で年間約1647.5兆ドル(18.1 京円)にも上っています。ここに薄い税、例えば0.005%をかけるのです。すると9兆円の税収を得ることでき、ACTアクセラレーターの必要資金を優に賄うことができます。

 

政治的リーダーで言えば、かつて2004年当時シラク仏大統領がルーラ伯大統領とともに国際連帯税創設を国際社会に訴え、近年で言えばつい一昨年まで河野太郎外務相が国際連帯税の共同実施を国際会議の場で提案していました。現在どの国の政治リーダーも国内のコロナ対策で手一杯という状況にありますが、国連ならびにG7やG20サミットの場で、どこかの首脳が国際連帯税を提案することを期待します。そのような結束と資金提供がなければ、ワクチンを外交の道具に使おうという大国の跳梁を許すことになります。

 

●途上国を取り残してのコロナ対策は次のパンデミックを招くだけ

 

コロナ禍が「経済格差」をいっそう浮き彫りにしたと言われますが、このワクチン争奪戦での富裕国の一方的なワクチン確保状況を見ますと、グローバルな規模での「格差」を示していると言えます。こうした状況は「誰一人取り残さない」というSDGs理念に真っ向から反するものです。

 

そして、何よりも途上国を取り残してのコロナ対策は、グローバル化が進んだ今日、再びパンデミックを招くことになり、先進国の努力も水泡に帰する可能性が大きいと言えます。あらためて先進国の政治リーダーは目先の、足元だけの対策だけではなく、並行して中長期の、地球規模の対策を考えていただきたいと思います。

 

ところで、日本政府の態度はいかなるものでしょうか。昨年12月に行われた国連新型コロナ特別総会にで菅首相は次のように述べています。「日本は、その(ACTアクセラレータの)共同提案国として、ワクチンの公平なアクセスのためにCOVAXファシリティに、いち早く拠出するとともに、特許プールを通じた治療薬の供給などに取り組んでいきます」。

 

その言や良しですが、現実は日本もやはり外国産ワクチン確保の争奪戦にのめり込んでおり、途上国に対しての思いやりは二の次となっています。国際的な発言ができる首相はじめ、外務相や財務相が国連、そしてG’7やG20サミットの場において、ワクチンの公平な流通とACTアクセラレータへの資金調達のため共同して国際連帯税を創設しようと呼びかけることが期待されます。

 

バイデン大統領誕生への希望>民主党政権と金融取引税

2021年世界はコロナ禍でたいへん厳しい状況ですが、希望と言えば、米国でトランプ政権が終わりバイデン大統領が誕生したことです。ようやく米国は国内外で対立と憎悪をもたらすトランプ流米国第一主義から決別し、国際協調・協力へと舵を切りました。

 

●大統領令で「COVAX(コバックス)」への参加に注目を

 

早速バイデン大統領は、コロナ対策のため1.9兆ドル(約200兆円)規模の追加経済対策案をまとめるとともに、矢継ぎ早に大統領令を発しました。その中で、国際協力関係を見ますと、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」への復帰、世界保健機関(WHO)の脱退撤回があり、そしてワクチン開発に各国が共同出資・購入する枠組み「COVAX(コバックス)」への参加もあります。コロナ対策において途上国と共にあることを宣言したと言えます。

 

●バイデン政権の財政政策

 

ところで、同政権の財政政策を見ますと、「グリーン・ニューディール」実現のための環境インフラ投資、雇用拡大や経済格差の解決など10年間で11兆ドル(約1140兆円)と試算される大型財政政策を掲げています。問題はその財源です。同政権は、「フェアな税制」をということで基本的に富裕層や企業への増税、つまり法人税、所得税、金融資産税のアップによって賄うとしています。しかし、民間シンクタンクの試算によれば(*)、増税での収入は4兆3000億ドルであり、とうてい財政政策を賄いきれません。

 

(*)米債務590兆円拡大 「バイデン政権」なら―民間試算

 

 もちろん、税収全般が上がれば賄いきれないことはないと思いますが、コロナ禍による経済活動の落ち込みからしてかなり困難だと思われます。そこでもう一つの税収の選択肢として金融取引税(FTT)がいずれ浮上してくると思われます。というのは、バイデン政権内部にも、民主党の有力議員の中にもFTTを支持する勢力が存在しているからです。それを見てみましょう。

 

●政権&民主党内の金融取引税推進派

 

<政権内部でのFTT推進者>

 何よりも副大統領のカマラ・ハリス氏が筆頭です。また、閣僚級の行政管理予算局(OMB)局長のニーラ・タンデン氏。彼女はリベラルなシンクタンクである「アメリカ進歩センター」の所長です。さらに、大統領経済諮問委員会(CEA)の委員に、FTT支持のオバマ前政権でバイデン氏の首席経済顧問ジャレド・バーンスタイン氏、ワシントン公平成長センター所長のヘザー・ブシェイ氏が入っています(米国シンクタンクIPSの情報より)。

 

<有力な国会議員でのFTT推進者>

 これはいうまでもなくバーニー・サンダース上院議員であり、彼は今回上院予算委員会の委員長に任命されましたので、予算審議で辣腕を発揮するのではないかと思います。大統領予備選挙に出たニューヨーク州のカーステン・ギリブランド上院議員も強く主張しています。古くからがんばっているのは、2008年からFTTを提案してきたオレゴン州のピーター・デファジオ下院議員です。

 

そのピーター・デファジオ下院議員は、一昨年に引き続きウォール・ストリート法を今月15日提出しました。それは株式、債券、デリバティブの販売に0.1%(10ベーシス・ポイント)を課税し、10年間で推定7770億ドルを調達しようというものです。この法案にはジェイムズ・クライバーン下院院内幹事も含め、総勢15人が共同提案者になっています。(**)

 

(**)Tackle injustice, tax Wall Stree

 

●米国が金融取引税実現の先陣を切るか?

 

コロナ禍による未曾有の経済危機に対して、世界各国は莫大な財政赤字によって対策を立てています。この赤字はいずれ増税によって賄うしかなく、その増税につき国民への直接負担を最小限に抑えるとすれば、莫大な利益を上げているセクターへの増税こそが求められています。それは金融セクターとデジタルITセクターと言ってよいでしょう。

 

欧州連合はFTTにつきタイムテーブルを決めており、2024年までに実施成案を得る予定ですが、ルクセンブルグ他反対する国も多く予断が許されません。他方、米国はFTTが正式に政府案として浮上していませんが、今後の情勢で浮上してくる可能性は大きいでしょう。ただし、国会勢力の現状から、とくに上院では共和党が半数を占めていることから、この2年間のうちに実施というのは厳しいと言えます(下院も安定多数ではない)。ありうるのは2022年の中間選挙で民主党が上院でも安定多数を占めてからかもしれません。

 

ところで、欧州連合も米国も金融取引税と言いながら、外国為替取引税にはアウトリーチしていません。その理由は、金融セクターの強い反発があることもさることながら、取引場が基本的に国内にあり金融当局の監視も及び、それだけ徴税しやすいからでしょう。いずれにせよ外国為替取引税にまで課税対象を広げることができれば、税収が格段にアップするとともに、国境を超えた取引という性格から国際連帯税としてふさわしいと言えます。(了)

SDGs3(健康)ギャップ40兆円>リーディング・グループの報告書公表

 1)「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」公表される

 

「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」(常設事務局:フランス外務省)が11月末に報告書「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」を公表しました。(報告書はフランス外務省のHPに掲載されていますが、URLは下記参照)

 

報告書では、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、途上国が危機によって増大した巨大な開発資金ギャップを満たすための追加的な資金源の必要性が述べられ、それが先進国のODA予算や途上国の国内資源に加えて、開発のための革新的な資金調達の可能性に光を当てています。コロナが発生する前、SDG3「健康と福祉=保健」を達成するための年間資金ギャップは、すでに低・中所得国(LMIC)で3,710億ドルと見積もられていましたが、パンデミックによりそのギャップがさらに広がっていることが予想されています。

 

報告書は、保健に関するSDG3に対応する42の主要な革新的資金調達イニシアチブを次の5つのカテゴリーに分けて分析しています。

 

 1、結果ベースとした資金調達
 2、触媒的資金調達
 3、インパクト投資
 4、社会的責任投資
 5、課税の新しいチャネル

 

2)「課税の新しいチャネル」の位置づけ弱く

 

さて5番目の“NEW TAXATION CHANNELS”を見てみますと、冒頭「今後、国際課税と国内課税は、保健のための資金源として急速に拡大していく可能性があります」と述べられていますので期待してみました。“Domestic health taxs”(国内課税)ではタバコ税、アルコール税、砂糖税を挙げ、“International Solidarity Taxs”(国際課税)では航空券税、金融取引税、炭素税、超富裕税が挙げられています。

 

しかし、後者では航空券税が9か国でしか実施されていないこと、また金融取引税(FTT)については2013年に欧州11か国が実施しようとしたが議論が長期化し、合意を難しくしている、という現状が報告され、何とも国際課税の打ち出しが弱い記述になっています。

 

その上で、報告書は「国際連帯税は、SDG3のための資金調達を増やすことができますが、その実施には世界的なリーダーシップと国際的な調整が必要であり、それを達成するのは難しい場合が多いため手間がかかる」と述べています。一方で、「国際連帯税の可能性は運用面や政治面での大きな障壁を克服する必要があるが、ODAを強力に補完できる大きなチャンスでもあります」、と。何か煮え切らない書き方をしています。

 

ちょっと疑問なのは、FTTに関して最新情報が述べられていないことです。それは、①欧州における94兆円にも上る復興基金の(償還に充てる)原資としてFTT実施が企図されていること(2024年から、まだ具体化はされてない)、②米国ではバイデン新大統領が誕生することになりますが、副大統領のカマラ・ハリス氏や米行政管理予算局(OMB)局長のニーラ・タンデン氏など有力指導者がFTT推進派であり、早晩新政府の経済政策にFTT実施が上ってくる可能性があること、です。

 

ともあれ、民間セクターの資金の利用は、どうしてもリターン問題がネックであり、採算を度外視して援助しなければならないプロジェクト等(ワクチン開発や難民救援など)に対しては、公的資金となる国際課税の方が有効であることは間違いがありません。

 

3)国際連帯税を放棄した日本外務省

 

リーディング・グループの一員でもある日本政府(外務省)は実に困ったことに11年連続して新設要望していた国際連帯税要求を断念してしまいました。これはコロナ禍にあって感染症対策で困難に陥っている途上国への支援のための大きなリソースを放棄することに等しいといえます。

 

まして昨年夏まで前外務大臣が国際会議の場で散々国際連帯税の必要性を訴えてきたという経緯にもかかわらず、一方的に放棄してしまうということでは、国際社会にどのように言い訳をするのでしょうか。外務省は改めて国際連帯税の旗を掲げ直すべきでしょう。

 

■「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」
“Innovative financing mechanisms for Health: Mapping and Recommendations”

 

国際ウェビナー「コロナ回復のために最富裕層に費用負担を」J・スティグリッツ/予定

 S&G

 

金融取引税(FTT)を求める世界のNGO、シンクタンクが、「コロナ回復のために最富裕層に費用負担を」という国際ウェビナーを準備しています。メインスピーカーとして、ジョセフ・スティグリッツ:コロンビア大学教授、ジャヤティ・ゴーシュ:ジャワハルラール・ネルー大学(インド)教授の出演を要請しています。

 

この会合の主旨は次の通りです。「コロナ危機下にあって、緊縮財政に代わる経済的な代替策を探るため、または莫大な赤字財政を立て直すために、『手つかずの実質的な収入を生み出すであろう3つの強力な対処政策に焦点』をあてる」というものです。コロナ禍にあって、実体経済が大きく毀損し失業者が巷にあふれているにもかかわらず、世界の株価は高値を更新し、富裕層にばく大な収益をもたらしています。一方、GAFAなど巨大IT企業も満足に法人税を払わず独占的利潤をあげています。

 

コロナ危機にあって、国内での経済格差、先進国と途上国との経済格差がいっそう露わになってきています。経済格差は、教育格差に医療格差をもたらし、それは命の格差となって現れてきています。

 

さて、3つの「手付かず」の強力な対処政策とは以下の通りです。

 

1)最も裕福な企業と富裕層へ、特にコロナ危機で過剰な利益を上げたものへの課税を増やす。

 

2)金融取引税(FTT)を導入し、市場の自動化を利用して毎年数百億ドルの収益を上げる。

 

3)不正な金融フロー、特に富裕層の企業や個人による積極的な租税回避を取り締まる。これらのフローを捕捉することは、政府にとっても数百億ドルの追加資金を生み出すことになるだろう。

 

【日程】11月下旬を予定

【形式】zoomウェビナー形式

【主催/共催】Oxfam、Stamp Out Poverty(英国)、Public Citizen(米国)、Institute for Policy Studies(米国)

 

※会合の詳細が送られてきましたら、お知らせします。

 

◎ジョセフ・スティグリッツ

コロンビア大学教授、2001年「情報の経済学」に関する研究でノーベル経済学賞を受賞

 

◎ジャヤティ・ゴーシュ

ニューデリーのジャワハルラル・ネルー大学経済学教授、経済研究・計画センター所長

 

 

【 Having the wealthiest pay for Covid recover】

 

This international webinar concentrates on three strong policy prescriptions that would generate substantial, currently untapped, revenues, to underpin an economic alternative to austerity:

 

1. Firstly, increase taxation of wealthiest corporations and high net worth individuals, especially those who have made excessive profits from the Covid crisis.

 

2. Secondly, introduce Financial Transactions Taxes (FTTs) to generate tens of billions every year, utilising the automation of markets, which makes avoidance near impossible. All necessary technical work to implement FTTs was carried out following the last financial crisis.

 

3. Thirdly, clamp down on illicit financial flows, particularly aggressive tax avoidance by richest corporations and individuals. Capturing these flows would also result in tens of billions in additional funds for governments.