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コロナ禍を経ての時代変化>バイデン米政権と国際課税の現状から

日本でのコロナ感染は英国型株「N501Y」が主流となり、厳しい状況が続いています。みなさま、どうぞお気をつけ願います。

 

●国際課税、グローバルタックス、国際連帯税などのキーワードでの問い合わせ

 

14世紀のペスト大流行以来、感染症のパンデミックの歴史を見るならば、時代の政治経済そして社会状況を大きく変えることになりました。2019年から顕在化した新型コロナウイルス危機もその例外でないようです。そのことを国際課税(デジタル課税)の状況から見てみますが、その変化をもたらしつつあるのが米国バイデン政権のデジタル課税(含む、法人税の世界共通「最低税率」)についての提案です。現在、トランプ前政権のため停滞していた同税の国際的合意が一気に進むような気運となっています。

 

このこともあり、実は上村雄彦横浜市大教授や当フォーラムに、国際課税、グローバルタックス、国際連帯税などのキーワードでの問い合わせ、原稿依頼が来るようになってきました。

 

●バイデン米政権の新自由主義政策からの転換>企業増税と大きな政府

 

米国バイデン政権の何が時代の変化をもたらそうとしているのでしょうか。それを簡潔に説明しているのがハーバード大教授のダニ・ロドリック氏です。「バイデン米政権(の)企業増税を財源にインフラや研究開発などに2兆ドル(約217兆円)を投じる『米国雇用計画』は、同国経済の重要な転機になる公算が大きい。政府の関与を減らし、市場原理を重視する新自由主義の時代の終わりをします」(「米『雇用計画』、政府の役割変えるか」4/29付日経新聞)、と。

 

ここから2つのことが指摘できます。ひとつは、財源を企業への増税によって賄おうとしており、これまでの世界の企業減税競争という流れからの大転換を意味します(英国も企業増税を提案)。もうひとつは、「大きな政府」の復権です。新自由主義は政府の福祉・公共サービスの縮小(小さな政府)を図るものですが、バイデン政権はそれを逆転しようとしています。

 

デジタル課税については、これまでOECD/G20で、①巨大IT企業等への「デジタル課税」、②法人税に対する世界共通の「最低税率」を議論してきて、昨年合意手前まできましたが、トランプ前米政権の反対でとん挫していました。ところが、バイデン政権になってから、とくに①につき、世界で100社程度の大企業を対象に各国で課税権を分かち合うという米国案が提示され、本年半ばの合意を目指し各国の協議が進む事態となっています。

 

もっとも金融政策の面では規制が弱い、また法人税増だけで大規模な政府支出が賄えるのかとの懸念はあり、後者では金融取引税まで踏み込むことが期待されます。

 

●ネット企業の勃興とGAFAの税金逃れ

 

グローバリゼーションは、IT(ネット)企業の勃興をもたらし、GAFA(アルファベット=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)等が今日のデジタル化した新経済を独占的に支配するようになってきました。これらGAFA等は独占の問題もさることながら、「悪質な課税逃れ」という問題も生じてきました。

 

課税逃れの手法は次のようなものです。まず特許やブランド等の知的財産をタックスヘイブンなどの低税率国に設立した子会社で所有し、その子会社にライセンス料などの形で各国から利益を集め、全体的に税負担を減らす、というもの。既存の法人税では、国内に支店とか工場とかの「恒久的施設(PE)」がないと課税することができません。ですから、ネット企業は各国で巨大な収益を上げながら、どの国からも課税されないのです。これが既存の国際課税ルールの限界でした。

 

その結果GAFAがいかに税金逃れしてきたかを見てみましょう。5月9日付の日経新聞で報じています。

 

・GAFAの税負担率:15.4%(世界5万社超の平均:25.1%)

・日本企業の平均:28.3% トヨタ自動車:24.8%

・主要国の法人税率(地方法人税を含む実効税率):日本29.7%、米国25.8%、英国19.0%、フランス32.0%、ドイツ29.9%

 

※グラフは同日付日経新聞・電子版より

 

GAFAの税率と世界の税率

 

「持続可能な開発に関するHLPF」関係会合で国際連帯税を提案

アフリカ・ワクチン接種2%

4月23日「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)」に関する市民社会と関係府省庁の意見交換会」が行われました。市民社会側はSDGs市民社会ネットワークに参加している団体など、省庁側は外務省地球規模課題総括課を窓口に関係省庁など、総勢73人が参加しました。

 

HLPFとは、持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)の取組み状況に関して、毎年希望する国が「自発的国家レビュー(VNRs)」を行う場です(首脳級会合は4年に1回)。今年日本政府が2度目のVNRsを発表するので、その前段に市民社会からの意見を聞くということで「意見交換会」がもたれました。

 

会合では市民側から次の14項目についてインプットし、それに対して関係省庁から答えをもらうという形式で行われました。「1教育、2防災・減災、3環境、4社会的責任、5ビジネスと人権、6開発、7保健、8財源・連帯税、9国際貿易、10ジェンダー、11地域、12ユース、13障害、14働き方」。それで私(田中)は「8財源・連帯税」について述べました。

 

【田中の「財源・連帯税」に関するインプットは次の2点】

 

1、目標17「パートナーシップ」の17.2の遵守

・神棚に祭るのではなく、先進国の責務であることの確認

・ODAのGNI比0.7%、LDCへのGNI比0.15~0.20%拠出

・各国は2030年に向けてロードマップを提示すべき

 

2、第二の公的資金、国際連帯税の実現

・コロナ禍にあって、一挙にODA増は困難。民間資金をあてにするのではなく、第二の国際的な公的資金を探るべき

・グローバル化から多大に受益している金融セクターやIT情報セクター等から、その取引等に課税し、グローバルイシュー対策のための資金とする(金融取引税やデジタルサービス税など)

・コロナワクチン問題で高所得国と低所得国との格差が露骨に現れ、「一人も取り残さない」 SDGs理念がズタズタにされた(*)。各国で連帯税を探るとともに、今こそ主権国家の枠を超えた共同の「地球規模課題のための資金創出」を構想し、実施すべき。

 

【外務省地球規模課題総括課の吉田課長からの答弁】

 

・SDGsの資金ギャップは大きいが、ODAは伸び悩んでおり、何らかの資金調達は必要だ。国際連帯税については議員立法で行おうという動きもあり、私たちも出来るだけ支援したい。

 

(*)テドロスWHO事務局長

「ワクチンの供給に『衝撃的な不均衡』が生じている。世界の大半の国が医療関係者や高リスクの人々の接種に必要なワクチンの入手さえ不可能な状況だ」(4月12日付ロイター通信)

「世界で約9億本近いワクチンが接種されているが、高・中所得国がその81%を占める一方、低所得国はわずか0.3%にとどまっている」(4月23日付ロイター通信)

アワー・ワールド・イン・データ

「世界人口の2割弱を占めるアフリカ大陸でのワクチン接種回数は約1500万回と世界の2%にとどまる」(4月22日付日経新聞) ※グラフは同新聞より

欧州金融取引税にフランシスコ・ローマ教皇が関与

教皇

 

今月、フランシスコ・ローマ教皇は、ヘルス・雇用・気候変動対策のために500億ユーロのロビンフッド税(金融取引税)を求めるフランスの活動家たちと会われました。教皇は、従来から金融システムが地球を破壊していると考えており、社会のために働くようにすべきだ、と主張してきました。昨年10月に発表した回勅でも、「新型コロナウイルス禍における資本主義は失敗に終わったとの見解を示し、自由市場政策では人道上最も差し迫った課題全てを解決できないことが、今回のパンデミックで示されたと指摘」(CNN)していました。

 

今後ローマ教皇は欧州金融取引税について、様々な場で関与してくれるのではないでしょうか。

 

今回の活動家たちと教皇との謁見を仲立ちしたのはジャン=クロード・ホレリッチ(Jean-Claude Hollerich)大司教ですが、同大司教は日本での長い宣教経験を持ち、上智大学の元副学長を務めていたとのことです(バチカン・ニュースより)。

 

●宗教家と金融取引税・国際連帯税

 

ところで、金融取引税や国際連帯税に関し、倫理と正義を重んじる宗教家も格差・不平等解消のツールとしてこれを支持してきました。バチカン(ローマ教皇庁)はベネデクト16世前教皇の時から金融取引税への支持を表明していましたし、欧州10か国金融取引税問題が浮上した2014年には欧州カトリック指導者がいっせいにこれを支持。また、ローワン・ウィリアムズ(当時)カンタベリー大主教、デズモンド・ツツ元南部アフリカ聖公会ケープタウン名誉大主教(ノーベル平和賞受賞者)も支持を表明。日本では池田大作・創価学会インタナショナル会長が従来より国際連帯税推進を呼びかけています(*)。

 

(*)金融取引税(FTT)に関する欧州カトリック指導者の声明

 

以下、教皇との謁見の経緯・意義についての報道をお知らせします。

 

 

        欧州金融取引税:ローマ教皇関わる

 

【archyde】European tax on financial transactions: the Pope gets involved

 

欧州(議会)の予算担当の審査官は強力な態度に出ました。L’obs Sundayが伝えるところによると、昨年10月に金融取引税を擁護するためにハンガーストライキを行った欧州議会議員のピエール・ラルトゥロウ(Pierre Larrouturou)氏が、今度は3月15日月曜日に教皇に謁見する予定である。共存運動(Coexist movement)の創始者であるサミュエル・グジボフスキー(Samuel Grzybowski)氏、市民気候会議(Citizen’s Climate Convention)の後見人のシリル・ディオン(Cyril Dion)氏、そして起業家のエヴァ・サドゥン(Eva Sadoun)氏を伴い、エコロジー社会への移行に向けた資金調達を話し合うために会いに行くのである。

 

この会談は、ルクセンブルク大公国の大司教であるジャン=クロード・ホレリッチ(Jean-Claude Hollerich)氏の助力によって実現した。去年1月、ピエール・ラルトゥロウ(Pierre Larrouturou)氏は、財務大臣と会うためルクセンブルクに訪問した期間中、気候擁護に熱心で知られる氏をバチカンに訪ねた。欧州連合司教会議委員会の会長であるジャン=クロード・ホレリッチ(Jean-Claude Hollerich)氏はこの話し合いの内容に賛同を示し、これを発展させる為、教皇に謁見を願い出、教皇はこれに快く応じました。

 

毎年500億ユーロの収入をもたらす税

 

この欧州金融取引税は、年間500億ユーロをもたらすと、広く欧州議会議員や環境活動家から評価されている。しかしながら、このプロジェクトは多くの反対、とりわけフランスからの反対に直面している(注)。

 

教皇はこの大義の為に彼の影響力を行使する用意があるようだが、ポルトガルも「強化された協力 (Enhanced Cooperation)」のために関係国を一つにまとめようとしている。ポルトガルは現在EU理事会の議長を務めており、この教皇の協力により、全会一致を待たずに欧州金融取引税を前に進めることを希望している(注)。

 

(翻訳者:注)本年1月からポルトガルがEU理事会の議長を務めているが、ポルトガルは10か国主導の金融取引税をまず実現しようと株取引と株関連デリバティブ取引への課税を提案しているが、フランスが反対している(デリバティブ取引を含むことに否定的)。

 

 

 

 

 

「国際連帯税が必要です」:逢沢一郎衆議院議員のメルマガより

いつも国際連帯税創設を求める議員連盟の総会に参加され、積極的に発言されているのが逢沢一郎衆議院議員です。逢沢先生の3月11日付メールマガジンに「国際連帯税が必要です」と題した報告が載っていましたので、お知らせします。

 

逢沢先生は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)国会議員連盟や日本・アフリカ連合(AU)友好議員連盟の会長も務められていますように、根っからの国際派、途上国・貧困者支援波です。以下、メルマガ全文です。

 

 

◆◇「国際連帯税が必要です」◆◇

 

 SDGsとはご承知の通り「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」などの2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標です。各国政府や企業、市民団体、大学などがみんなで協力してこの目標を達成しようということです。SDGsの目標が達成されれば、それは本当に素晴らしい地球の実現です。また人類が自然と共生しながら、全ての人がより豊かで人間らしい生活をすることが可能となります。

 

 しかしSDGsの目標達成には、引き続き大きな努力が必要です。まず資金の確保です。UNCTAD世界投資報告書によると、途上国においてSDGsを達成するには年間約3.9兆ドルの資金が必要で、現在の投資額約1.4兆ドルとの間には2.5兆ドルの資金ギャップがあると分析されています。

 

 資金ギャップは後発開発途上国や脆弱な経済の国々においてより大きくなることが予想されます。政府の公的資金だけでなく民間資金も上手に活用していきたいと思います。たとえば電力、交通、水と衛生などの分野には特に民間資金の活用に期待が寄せられます。しかしいずれにしても全てのSDGs関連セクターで投資資金が大きく不足しています。

 

 また新型コロナウイルス感染拡大が、SDGsの達成をさらに困難にしています。今日ワクチン接種が世界中で始まりましたが、やはり問題は発展途上国です。ACTアクセラレータはコロナ感染症のワクチン・治療・診断・保健システムを開発して公平なアクセスを実施する国際的枠組みですが、このACTアクセラレータの枠組みも圧倒的資金不足に陥っています。

 

 コロナを抑え込むには、先進国だけが安全になったとしても不十分です。地球規模で、途上国も含め全ての国と地域で成果を上げなければコロナとの闘いに勝利することは出来ません。

 

 そこで私たちが真剣に考え、実現する必要があるのが「国際連帯税」です。コロナのような感染症との戦いは、まさにボーダレス、グローバルな戦いです。将来、また新たな感染症が人類を脅かす可能性も否定できません。

 

 グローバル化の恩恵を受けている金融セクターやIT情報セクターの取引きやオペレーションに、ごくごく薄く広く負担を求めるのです。スマホや携帯の通話やメールなども候補に挙げてもいいと思います。とにかく世界の人々が皆でごく少額を負担してこの地球を人類を救うための財源づくりです。是非関心を持っていただき、ご理解を頂戴したいと思います。

 

 今後、折に触れて「国際連帯税」に関する考え方や制度設計についてレポート致します。全人類は、一人一人は地球市民です。

 

【E-mail】ask-aisawa@aisawa.net 

 

★写真は、2019年6月、Gaviワクチンアライアンス 理事長のオコンジョイウェアラさんとともに(逢沢先生のTwitterより)。彼女は本年3月WTO(世界貿易機関)の新事務局長に就任された。

 

【資料】3.9国際連帯税議連総会に関するマスコミ報道

東京新聞3月9日東京新聞3月10日

 

3月9日に開催された国際連帯税創設を求める議員連盟の本年第1回総会のもようがマスコミで報道されましたので、お知らせします。東京新聞(新聞紙記事で9日と10日付)と日本経済新聞(電子版9日付、紙記事で10日付)が報道してくれました。

 

なお、「具体的税目として株や為替の取引に課税する金融取引税や航空券連帯税をあげた」(10日付東京新聞)とありますが、航空関係は当面当てにできない中で、金融取引税については現在米国でも活発に議論されている最中です(その最新情報は別項でお知らせします)。

 

 

【日本経済新聞】
国際連帯税、23年に導入を 超党派議連が議員立法めざす
ワクチン確保など途上国支援の財源に

2021年3月9日

 

超党派の「国際連帯税の創設を求める議員連盟」(衛藤征士郎会長)は9日、国会内で会合を開き、政府に2023年度に同税を導入するよう促す議員立法をまとめると決めた。発展途上国のワクチン確保などを支援する財源にする。

 

議員立法は夏までに詳細を詰める。秋にも国会に提出する日程を描く。

 

衛藤氏は日本の制度導入が国際的な取り組みの拡大に結びつくと強調する。「日本が主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)、経済協力開発機構(OECD)などで提起し、国際的な議論を喚起すべきだ」と主張した。

 

一般的に国際連帯税は飛行機の利用、金融資産の売買など国境を越えた経済取引に課税する。集めた税金は新興国の貧困や感染症の対策に充てる。国連が00年に採択したミレニアム開発目標(MDGs)を契機に先進国で導入機運が高まった。

 

国民民主党の古川元久国会対策委員長は「コロナ禍での世界的な金融緩和の拡大で資産家の富裕層が恩恵を受け低所得者との格差が広がっている」と話した。「先進国と新興国の資金差を埋めるため金融取引への課税が今こそ必要だ」と語った。

 

外務省は10年度から11年連続で税制改正要望に国際連帯税の導入を盛り込んだが、21年度は明記を見送った。外務省の担当者は9日の議連会合で、コロナ禍での税負担の増加に航空業界や与党税制調査会の理解が得られなかったと説明した。

 

議連の事務局長を務める立憲民主党の石橋通宏参院議員は、税制改正要望からの削除について「甚だ遺憾だ」と主張した。古川氏は河野太郎前外相が外相在任時に国際連帯税の創設に前向きな発言を繰り返していたと指摘した。

 

外務省の資料によると…以下、省略

国際連帯税議連総会報告:議員立法で実現めざすことを確認

21.3.9議連総会

 

3月9日、国際連帯税創設を求める議員連盟(会長:衛藤征士郎衆議院議員)の本年第1回総会は、リアル(議員会館会議室)とWebの両方で、国会議員21人プラス秘書の方々、外務省や法制局の方々、市民24人が参加し、開催されました。簡単に報告します。その前に総会のもようが下記のメディアで報道されました(次回報告)。

 

*【日経新聞】

国際連帯税、23年に導入を 超党派議連が議員立法めざす(3月10日付)

ワクチン確保など途上国支援の財源に

*【東京新聞】

国際連帯税の導入 議員立法提出確認(3月10日付) 

「国際連帯税の導入を」SDGs資金源で注目 超党派 法案提出へ(3月9日付) 

       

●外務省とグローバル連帯税フォーラムからの報告

 

司会は石橋通宏事務局長(参議院議員)で、衛藤会長あいさつの後、早速議題に入りました。外務省が次年度税制改正要望から国際連帯税を降ろしてしまったことに対し、「誠に残念というか、むしろ遺憾である」との議連の立場から説明を求めました。

 

外務省・国際協力局の高杉審議官(地球規模課題担当)が、税制による資金調達はコロナ危機のため新税の導入が困難であり、新しい資金源として民間資金利用を考えていく、という説明でした(SDGs達成のための新しい資金を考える有識者懇談会・最終報告書)。このことにつき、懇談会委員でもあった田中から、そもそも懇談会は「①税制、②その他での資金を考える」ということではじまったが、途中でその他=民間資金利用の方が主体となってしまった、と経緯を説明。

 

その後、高杉審議官からワクチンの平等なアクセスを確保するための国際的枠組みであるCOVAX(コバックス)等の説明があり、さらにSDGs達成のための途上国の資金ギャップは従来2.5兆ドルと言われてきたが、それに加えて今回の感染症では0.7兆ドルのギャップがあると指摘されていることを報告(UNCTAD)。次に、田中からワクチン接種における高所得国と貧困・低所得国とのとてつもない格差とそれをもたらしている圧倒的な資金不足を指摘し、今や国際連帯税の出番ではないかと報告。加えて谷本より国際連帯税としては今日、河野太郎前外務相が言っていたように為替取引への課税が有望であること等を報告。

 

●議員の意見:大臣や総理の言葉は重い、にも拘わらず…/国際連帯税にとって大きな機会、日本の大方針を

 

これらの報告を踏まえ、出席した議員から意見が出されました。まず古川元久衆議院議員(国民民主党)から次のような意見。「河野前外務大臣はあれほど国際会議の場で国際連帯税のことを訴えていたが、それにも拘わらず今回外務省が税制改正から国際連帯税を外したのは大きな問題だ。大臣や総理の言葉は重いのだ。河野氏が単に個人の思いとして語っていたのか。外務省は検証すべきだ」。

 

次に逢沢一郎衆議院議員(自民党)から次のような意見。「自民党税調の限界を突破しないといけない。この10年河野大臣は熱意があったが他の大臣は熱量が足りなかった。今日コロナ禍という情勢にあってある意味国際連帯税にとっては大きな機会だ。総理も外務大臣も日本としての大方針を持たなければならない」。

 

●議員立法をめざして、衛藤会長のまとめ

 

次に、石橋事務局長から「国際連帯税制度の創設のための立法について(案)」、つまり議員立法の骨子が提案されました。「SDGsや新型コロナなど、我が国を含む国際社会が地球規模課題による脅威に対応することが求められ、そのための安定した財源を国際連帯税でもって確保する」(要旨)という立法の趣旨にもとづき、国際連帯税創設のため「2年以内に必要な法制上の措置を講ずることを政府に義務付ける」と謳うもの(案文の全文については別に報告します)。

 

これについて1、2質問があり(暗号通貨取引も金融取引税に含めるのかなど)、その後事務局長提案が全体で確認されました。

 

最後に、衛藤会長が「まず河野前外相については必ず当議連に入ってもらうようにしたい。その上で日本での取組みが国際的な取組みの拡大に資すること、そのためにG20やG7、OECDで訴えていくことが求められている。私たちは議員立法の動きを加速化させ、ぜひとも国際連帯税を実現していきたい。外務省とも市民団体とも一緒になって、何としても実現にむけて頑張っていこう」とまとめ、第1回総会を終了しました。

 

※左上の写真は、日経新聞(3月9日付)より。立って話しているのは衛藤会長です。

【ご案内】国際連帯税議員連盟の総会>Zoom傍聴できます

国際連帯税創設を求める議員連盟(会長:衛藤征士郎衆議院議員)の2021年度第1回総会が下記の通り開催されます。市民はZoom傍聴できますので、ご案内します。

 

◎日 時:2021年3月9日(火)9:00~10:00

◎議 題:

 ・令和2年度税制改正要望における国際連帯税の扱いについて(外務省より説明)

 ・新型コロナ・感染症のワクチン確保のための国際協力メカニズムとその現状、及び、SDGsの推進に必要な資金の欠乏状況について(政府担当者から説明、グローバル連帯税フォーラムから報告)

・国際連帯税の導入実現に向けたアクションについての提案 など

 

◎Zoom傍聴

 ・会場は参議院議員会館の会議室ですが、議員を含め極力Zoom視聴で開催するとのことですので、市民側傍聴もZoom視聴となります。

*傍聴ご希望者は、gtaxftt@gmail.comまでお名前(あれば所属)をお書きの上連絡ください。締め切りは3月5日です。

 

<議連総会開催を巡る背景の簡単な説明>

 

・2009年より毎年度外務省は税制改正要望で国際連帯税新設を要望してきましたが、21年度にその要望を取り下げてしまいました。今こそ国際連帯税の出番という状況において旗を降ろしてしまい、誠に遺憾なことであります。

 

・実際、今日新型コロナや気候変動など地球規模課題がいっそう浮上してきています。とくに昨年来のコロナ禍において、切り札の一つであるワクチン接種で貧困国・途上国が置き去りにされている現状があります。その要因の一つが途上国にワクチンや治療薬を公平にアクセスする「ACTアクセラレータ」という国際的な機関の圧倒的な資金不足にあります。

 

・この機関を支援している日本を含むドナー国も国内のコロナ対策のためばく大な借金政策を取っており、ODA(政府開発援助)資金に余裕はありません。そういう状況で、期待される資金調達の方法が国際連帯税です。グローバル化で恩恵を受けている経済セクターに広く薄く課税し、その税収を国際公共財として使うというもので、具体的には為替取引(金融取引)やデジタルサービス取引等への課税です。

 

・「ワクチン等は『国際公共財』である」とは先のG7首脳会議での議論です。であれば、「ワクチン格差」を認めるわけにはいかず、ドナー国は国際的に共同して新しい資金を創出し途上国へのいっそうの支援を行うことが望まれます。日本政府がその先頭に立つことが求められています。残念ながら外務省が新税要望を断念している中で、議員連盟が議員立法という形で国際連帯税創設を求めていくことを期待します。

 

※写真はWHOのHPより

 

G7首脳会合振り返り:資金不足、新ワクチン債と国際連帯税で

2月19日世界的なコロナ対策を主要議題にしてG7首脳会議が開催されました。成果としては、米国がWHO(国際保健機関)に復帰し、コロナ対策の国際的枠組みであるACTアクセラレータ等にも参加したことです。

 

課題は、ワクチンを含む国際的なコロナ対策費用がG7ではとうてい賄いきれないことです。首脳会議声明ではACTアクセラレータ(含むワクチン支援)にG7全体で総額75億ドル(約7900億円)拠出するとさらっと述べていますが、これではACTアクセラレータが求めている必要資金には遠く及びません。

 

●首脳会議声明とACTアクセラレータの資金不足は270億ドル

 

声明をまとめると以下の2点。

①ワクチン・治療・診断への安価かつ公平なアクセスを促す「ACTアクセラレータ」、ならびにワクチン共有の国際的枠組みCOVAX(コバックス)を支持し、G7全体で総額75億ドル(約7900億円)拠出

②将来のパンデミックに対する強力な防衛のために、財源の確保や迅速に対応できるメカニズムなどの国際的な保健条約が必要

 

ところで、WHOはACTアクセラレータ(含む、ワクチン)の予算につき、270億ドル(約2兆9000億円)不足と試算していますので、75億ドル程度ではまったく足りないのは明白です。そのためでもしょうか、COVAXは昨年の段階でワクチン接種20億回分をめざすとしていましたが、それが今年に入り1月段階では18億回分が目標となり、今回13億回分と縮小されました。

 

18億回分目標時は、92カ国の貧困国・低所得国に供給すると言っていました。これだけですと対象国の総人口の約27%への接種にしかなりません。それが今回さらに減ってしまいます。そもそも当初の目標の20億回分が少なすぎではないでしょうか。1人1回としても80億回分くらいは必要なはずです。

 

●中国とG7の「国際公共財」、同じ言葉を使っても…

 

G7会合の2日前の17日、国連安全保障理事会が開かれ、ここで国連事務総長のグテーレス氏は「世界全体でこれまでに実施されたワクチン接種のうち75%は、わずか10カ国で実施されたに過ぎない、130カ国ではまだまったく接種が行われていない」と述べ、「ワクチンの公平性は、国際社会のモラルが試される最大の課題だ」と訴えました。今日では中国製のワクチンが途上国にも入りつつあるので、接種国は数としては増えているようです。

 

その中国ですが、53の途上国・地域にワクチンを「無償で」援助を実施し始めました。習近平国家主席は中国ワクチンを「国際公共財」とすると宣言しています(2月21日付毎日新聞)。ロシアも独自に動き始めています。中国ワクチンは情報公開の面で課題があると言われ、またワクチン提供が外交政策として使われているという問題点があります。が、G7も先の首脳声明でワクチン等を「国際公共財」と言いながら、各国はワクチンナショナリズムに陥っています。その結果、COVAX等への支援は十分ではなく、従ってまだワクチンを途上国に届けていないからです。

 

ジョンソン英首相に至っては「余剰ワクチンの大半を貧困国に寄付する」(2月20日付BBC放送)と言っています。つまり自国で接種し終わって余ったら途上国に寄付する、と言っているに等しい言い方です。これは途上国を侮辱していることにならないでしょうか。

 

●どう資金不足を解消するか?新コロナワクチン債と国際連帯税で

 

もとよりワクチンはきちっと情報公開され安全性が担保され、しかも外交の道具に使わない方がずっとよいと思います。もともとACTアクセラレータとCOVAXはWHO主導により国際保健機関、そして先進国(EU、欧州6か国、日本が提案国)によって設立されたもので、この点を払しょくしているはずでした。しかし、当初米国が参加していないこともあり、先進国が十分に資金を拠出しないこと、そして各国ともワクチン争奪戦に血道をあげていたことから、大幅に遅れをとったと言えます。

 

ともあれ、G7はじめ先進国が極力早めにワクチンを貧困国・途上国に提供することですが、WHOも言うように、まず医療従事者や高齢疾患者に届けることが必要です。そのためには、高所得国の健康な若者たちへの接種分を回すことが考えられます。とくに1人当り9回分を確保しているカナダ、同7回分を確保している英国は大幅にCOVAXに提供すべきです。

 

資金不足を大急ぎで解消するには、コロナ対策でばく大な借金を負っている先進国のODA(政府開発援助)はそうそう期待できません。従って、G7は共同して10年物の2兆円規模の新(コロナ)ワクチン債(*)を金融市場で発行し、その償還について共同の国際連帯税を実施し(金融取引税やデジタルサービス税等)、それによる税収で賄う、というものです。つまり、1年以内に債券で資金を作り、2~3年以内に共同で実施する国際連帯税の税目を決定し、10年目に償還するというプロセスです。

 

先の首脳会議の声明で、「将来のパンデミックに対して財源の確保などの国際的な保健条約の必要」を謳っていますが、将来ではなく、今すぐ上記スキームを実施しつつ、共通の課税ベースを有した税制として条約化していくことが望ましいと言えます。例えば、外国為替取引に0.005%課税するとか。

 

他に問題は、ワクチンや治療薬等の特許権保護規定の問題があります。その規定の適用を除外するよう途上国やNGOは求めていますが、WTOでは結論が出ていません。ワクチン等が「国際公共財」であるとするなら、各製薬会社は極力価格を下げること(原価近くまで)が求められると思います。

 

(*)すでに「予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm)」がワクチン債を発行しており、ワクチン開発資金として「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」に供給されています。従って、G7が新たに債券を発行するとすれば、ACTアクセラレータに向けてのものとなりますが、分かりやすい形で「新コロナワクチン債」と名付けることにします。

 

 

コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?

ワクチン接種回数 

ワクチン接種回数(貧困国・高所得国)

 

新型コロナウイルスの猛威は未だ衰えず、感染抑止の切り札として期待されるのがワクチンです。が、現実は高所得国によるワクチンの争奪戦となっており、貧困・低所得国は置き去り状態にされています。重要なことは、貧困国の人々を取り残さない政治的なリーダーシップと資金不足の解消です。

 

G7首脳会議が19日「ワクチンの公平な分配」などを議題として開催されるようですが、菅首相をはじめ日本政府がそのような国際政治の場で積極的発言を行ってもらうために、そして何よりも日本の全国会議員にこの「命の格差」とも言える不条理な問題を認識してもらうために、問題提起をしていきたいと思います。

 

以下、「コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?」と題した拙文を書きましたのでご笑覧ください。

 

 

コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?

 

新型コロナウイルス(以下、コロナと略)のワクチン接種が世界的にはじまっていますが、「命の格差」とも言える人道的・道義的な問題が出てきています。それは接種が行われているのは、富裕国などほんの一部の国であり、大部分の国ではいぜんとして接種のメドが立っていないことです。

 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長によれば、前者は10か国で接種の4分の3を占め、後者は130か国にも上っているとのことです。この結果、同事務局長は「(各地の)高リスクの人々への接種に時間がかかるほど、ウイルスが変異したりワクチンが効かなくなったりする恐れが高まる。…すべての場所でウイルスを抑えないと(ウイルスとの闘いは)振り出しに戻る」と警告しました(2月6日付朝日新聞)。

 

実際、ブラジル北部アマゾナス州の州都マナウスで最近見つかったコロナの変異ウイルスが世界的な脅威になるかもしれないと懸念されています。「科学者は、ブラジルで確認された変異ウイルスに既存のワクチンが効かいない可能性を考える」2月11日付日経新聞 シンクタンク・ブリューゲルのジャン・ピサニフェリー氏)という事態が起きています。

 

1、貧困・低所得国と富裕国(高所得国)のワクチン確保の割合

 

ご承知のように、国際的にはWHOの呼びかけで、コロナのワクチン・治療薬・診断の開発、生産、公平なアクセスを加速させるため「ACTアクセラレータ」という国際的枠組みを作られ(日本も共同提案国)、その下にワクチンを共同購入し、途上国にも配布するために「コバックス(COVAX)」ができました。ここにはワクチン供給に期待して約190か国が参加しています(当初、米国と中国が不参加でしたが、その後両国とも参加)。

 

ところが、まだワクチンの供給が十分ではないのに争奪戦となり、上述のように富裕国がほとんどを確保してしまう有様となっています。コバックスが提供を予定している貧困・低所得国と富裕国(高所得国)のワクチン確保の割合を見てみましょう。

 

          接種総回数   1人当りの回数     備考

・貧困・低所得国   18億回    3分の1回?   92か国の人口の27%    

・欧州連合(EU)  15.9億回     3.5回

・米 国       12.1億回     3.7回

・カナダ       3.4億回     9.0回

・イギリス      3.7億回     5.5回

・日 本       3.14億回     2.5回

 

コバックス概念図

      コバックスの概念図

 

コバックスは21年中にワクチン18億回分確保を目指し、92か国(総人口の27%)の貧困・低所得国に供給する予定でいますが、これだけですと大雑把に言って3人に1人しか接種できない計算となります。一方、富裕国は日本を除いてどの国も1人当たり3回分以上で、カナダとなると9回分も確保しています。ということは、貧困・低所得国の人の「命の価値」はカナダの人の27分の1と見られても仕方がないと思います。

 

ちなみに、アフリカ連合(AU)は総人口13億人の6割に2回ずつ接種できる15億回を取得を目指していますが、メドが付いたのは2.7億回分だけのようで、コバックスを通じ6億回供給してもらう予定ですが、こちらもメドが立っていません。そういう中で、アフリカだけではありませんが、中国が53の途上国・地域に向けワクチンの無償援助を始めたとのことです(2月9日付読売新聞)。

 

2、「ACTアクセラレータ」と「コバックス」の圧倒的な資金不足

 

考えてみますと、貧困・低所得国(92か国)にとって命綱ともいえるコバックスが3人に1人にしか接種するワクチンを確保できないというのも最初から力不足を自ら露呈してしまっている、と言えます。要は圧倒的に資金がないからだ、ということだと思います。

 

WHOによればACTアクセラレータは約270億ドル(約2兆8千億円)の資金不足となっています。これに対し、国際協力の枠組みに復帰した米国が40億ドル(約4200億円)、日本が2億ドル(約208億円)拠出を決めました。EU並びに各国の動向は分かりませんが、多分合計しても100億ドルに届くかどうかでとても資金不足を解消するには程遠いと言えましょう。とするならば、コバックスの資金調達も厳しいことが予想され、貧困・低所得国でのワクチン接種3人に1人ベースが改善される見込みはありません。

 

別の方法としては、ワクチンを「国際公共財」という観点から、各メーカーに価格をぐっと安くしてもらうことです(できれば原価近くまで)。価格はいくらかと言いますと、1回分で、英アストラゼネカが1.78ユーロ(約225円)と最安で、米モデルナが18ドル(約1860円)と最も高く、いち早く販売された米ファイザーは12ユーロ(約1520円)と言われています(12月19日付時事通信)。当面利益を得ようとしない方針ということでアストラゼネカが一番安いようですので、他のメーカーもこれに合わせてくれれば、コバックスがより多くワクチン購入ができるでしょう。ただし、守秘義務が課せられているので、これが正しい価格かどうかは確証を得ることができません(ベルギーの高官が情報を漏らした)。

 

とはいえ、このまま推移するなら、貧困・低所得国は中国やインドのワクチンを頼るほか道はなくなります(中国シノバックは治験の透明性に対する懸念があると言われているが)。コバックスならびにWHOは中国などとの調整が必要と思われますが、どうなっているでしょうか。

 

3、先進国(ドナー国)は借金まみれ、今こそ国際連帯税の出番

 

先進国(ドナー国)が途上国支援を行うには国家予算からODA(政府開発援助)を通じて行いますが、2019年のODA実績合計は1,528億ドル(約16.7兆円)でした。ですから、感染症対策だけに特化すればACTアクセラレータなどの資金不足を解消することは可能です。しかし、途上国支援は医療・保健のみならず多岐に渡りますので、これまでのODA規模では限度があります。そもそもSDGs達成のための費用は途上国で2.5兆ドルが不足していると言われています。

 

一方、先進国は自国のコロナ対策でばく大な借金による財政政策を推し進め、今や昨年末時点で総額13兆8750億ドル(約1445兆円)にも達し(IMF報告)、ODAを飛躍的に増加させる余裕はないと言えます。日本も20年度の財政は総予算175.7兆円のうち新規国債が112.6兆円も占めて、借金依存度は65.1%にも及んでいます。

 

それではどうするか? コロナ禍による経済危機にもかかわらず相当の利益を上げている経済セクターが存在します。それは金融セクターとIT関連セクターです。この両セクターに、国境を超える経済活動に広く薄く課税するという国際連帯税を課して、ある意味グローバリゼーションの使用料(fee)を支払ってもらうのです。

 

具体的には、金融取引税、デジタル課税。前者は、外国為替取引、外国為替証拠金取引、株式取引、債券取引、デリバティブ取引など課税対象はいくつもあります。後者は、現在OECD/G20で議論中ですが、IT関連のみならず製薬会社等多国籍企業の利益に対する課税が対象になっています。金融取引税関係については、G20首脳会議レベルで国際公共財の創出として合意し、国際共通税として実施することが望ましいと言えます。

 

かつてフランスのシラク大統領(当時)が、最近では河野太郎外務大臣(当時)が国連や国際会議の場で倦まずたゆまず、前者はMDGs(ミレニアム開発目標)の資金として、後者はSDGs(持続可能な開発目標)のための資金として、国際連帯税の創設を主張してきました。今コロナ・パンデミックを前にしてその必要性がいっそう高まっていると言えるでしょう。

 

※写真は、ファイザー社のHPより

コロナワクチン:「蜘蛛の糸」に我先にとぶら下がる先進国

今週の日曜日(1/31)のTBSサンデーモーニングで、新型コロナウイルス(以下、コロナと略)のワクチン問題を特集として放映していましたが、コメンテーターの松原耕二氏が「ワクチンの(世界的な)争奪戦を見ていると、芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』(*)を思い出す。まず豊かな国々が我先にと糸にぶら下がり、でも貧しい国は糸につかまることすらできていない」、と。テレビでは、イスラエルがどんどんワクチン接種をしているのに、すぐ隣のパレスチナ系住民は一人も接種していない模様も放映されてました。

 

(*)超大まかあらすじ:お釈迦様が地獄にいる亡者の一人を助けようと極楽から糸を降ろすと、その亡者がその糸を手繰って上ってきたが、ふと下を見ると多くの亡者がその糸にしがみつき上ってきている。そこでくだんの亡者が亡者たちを振り落とそうとし、「これは俺のものだ」と叫んだとたん、ぷっつりと糸が切れて亡者は真っ逆さまに地獄に落ちていった。

 

●コロナワクチンを富裕国が囲い込む

 

コロナがパンデミックとなってから1年が過ぎ、世界で感染者がついに1億人を超え、死者も200万人を超える事態となっていますが、その脅威は未だ衰えるところを知りません。コロナ感染を防止するための強力なツールのひとつがワクチンです。これが異例のスピードで開発され、各国で接種がはじまりつつあります。

 

ところが、まだワクチンの供給が十分ではないのに争奪戦となり、富裕国がほとんどを確保してしまう有様となっています。国際NGOオックスファムによると「人口の約5倍のワクチンを調達するカナダを筆頭に先進国の多くが人口の約3倍の確保を予定し、低・中所得国では2021年末までに人口の10%未満しかワクチンを接種できない可能性となっている」と報告しています。また、英誌エコノミスト系の調査部門の報道によりますと、途上国にワクチンが行き渡るのは2023年以降にずれ込む見通し、とも報じられています(1月31日付日経新聞)。

 

●本来COVAX(コバックス)が富裕国・貧困国別なく公平に配布するはずが

 

国際社会は、昨年WHO(世界保健機関)の呼びかけで、医療体制が脆弱な低所得国等を支援するために「ACTアクセラレーター(Access to COVID-19 Tools Accelerator)」を設立し、ワクチン・治療・診断・保健システムという4つの柱を軸に対策を進めています。そのうちのワクチン関係を担っているのが「COVAX(COVID-19 Vaccines Global Access)ファシリティー」です。

 

COVAXは富裕国の資金でワクチンを共同購入し、途上国にも公平に配布しようというファシリティで、現在190か国が参加しています。が、当初ワクチン大国の米国、中国、ロシアが不参加でしたので、最初から資金不足に見舞われ、目標も2021年末までに途上国に20億回分のワクチン供給を目指すというものでした(その後米国、中国が参加することに)。

 

今年に入り、COVAXは92カ国に供給し、対象国の総人口の約27%への接種が可能という見込みを立てました。しかし、先進国を先頭に多くの国がワクチン保有国や製薬会社と個別に交渉し、ワクチン確保に躍起となってしまいました。このためCOVAXに参加している多くの途上国ではワクチンの確保や接種開始のめどが立たない状態となっています。

 

●国際社会が共同して拠出する国際連帯税方式で支援を

 

こうした憂うべき状況をもたらしている要因として、1)国際的な政治的リーダーの不在、2)COVAXを含むACTアクセラレーターへの資金の圧倒的不足、ということが挙げられます。

 

その資金不足ですが、ACTアクセラレーターの第3回会合で、「(昨年)12月14日時点で、今後数か月の緊急需要のための資金ギャップは43億ドルであり、2021年には追加で239億ドル(約2.6兆円)が必要」と試算されました。ところで、資金調達のためには、(いぜんとして)各国のODA予算からの拠出が主力となりますが、そろそろ国際社会は国単位でのバラバラな資金拠出方式から、共同して資金調達を行う仕組みを構築することが必要ではないでしょうか。

 

その理由の一つは、ドナー国となる各国も国内のコロナ対策のために多大な借金政策をしており、ODAを増加させる余力がまったくなくなっていること、もう一つはグローバル化によってばく大に儲かっている経済セクターから税またはフィー(料金)を徴収する仕組みを考える時期に来ていること、です。後者についてですが、国境を超える活動に対して税を課す国際連帯税方式で、外国為替取引やデジタル商取引等に適用できるでしょう。ちなみに、世界の為替取引量は2019年で年間約1647.5兆ドル(18.1 京円)にも上っています。ここに薄い税、例えば0.005%をかけるのです。すると9兆円の税収を得ることでき、ACTアクセラレーターの必要資金を優に賄うことができます。

 

政治的リーダーで言えば、かつて2004年当時シラク仏大統領がルーラ伯大統領とともに国際連帯税創設を国際社会に訴え、近年で言えばつい一昨年まで河野太郎外務相が国際連帯税の共同実施を国際会議の場で提案していました。現在どの国の政治リーダーも国内のコロナ対策で手一杯という状況にありますが、国連ならびにG7やG20サミットの場で、どこかの首脳が国際連帯税を提案することを期待します。そのような結束と資金提供がなければ、ワクチンを外交の道具に使おうという大国の跳梁を許すことになります。

 

●途上国を取り残してのコロナ対策は次のパンデミックを招くだけ

 

コロナ禍が「経済格差」をいっそう浮き彫りにしたと言われますが、このワクチン争奪戦での富裕国の一方的なワクチン確保状況を見ますと、グローバルな規模での「格差」を示していると言えます。こうした状況は「誰一人取り残さない」というSDGs理念に真っ向から反するものです。

 

そして、何よりも途上国を取り残してのコロナ対策は、グローバル化が進んだ今日、再びパンデミックを招くことになり、先進国の努力も水泡に帰する可能性が大きいと言えます。あらためて先進国の政治リーダーは目先の、足元だけの対策だけではなく、並行して中長期の、地球規模の対策を考えていただきたいと思います。

 

ところで、日本政府の態度はいかなるものでしょうか。昨年12月に行われた国連新型コロナ特別総会にで菅首相は次のように述べています。「日本は、その(ACTアクセラレータの)共同提案国として、ワクチンの公平なアクセスのためにCOVAXファシリティに、いち早く拠出するとともに、特許プールを通じた治療薬の供給などに取り組んでいきます」。

 

その言や良しですが、現実は日本もやはり外国産ワクチン確保の争奪戦にのめり込んでおり、途上国に対しての思いやりは二の次となっています。国際的な発言ができる首相はじめ、外務相や財務相が国連、そしてG’7やG20サミットの場において、ワクチンの公平な流通とACTアクセラレータへの資金調達のため共同して国際連帯税を創設しようと呼びかけることが期待されます。