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G7首脳会合振り返り:資金不足、新ワクチン債と国際連帯税で

2月19日世界的なコロナ対策を主要議題にしてG7首脳会議が開催されました。成果としては、米国がWHO(国際保健機関)に復帰し、コロナ対策の国際的枠組みであるACTアクセラレータ等にも参加したことです。

 

課題は、ワクチンを含む国際的なコロナ対策費用がG7ではとうてい賄いきれないことです。首脳会議声明ではACTアクセラレータ(含むワクチン支援)にG7全体で総額75億ドル(約7900億円)拠出するとさらっと述べていますが、これではACTアクセラレータが求めている必要資金には遠く及びません。

 

●首脳会議声明とACTアクセラレータの資金不足は270億ドル

 

声明をまとめると以下の2点。

①ワクチン・治療・診断への安価かつ公平なアクセスを促す「ACTアクセラレータ」、ならびにワクチン共有の国際的枠組みCOVAX(コバックス)を支持し、G7全体で総額75億ドル(約7900億円)拠出

②将来のパンデミックに対する強力な防衛のために、財源の確保や迅速に対応できるメカニズムなどの国際的な保健条約が必要

 

ところで、WHOはACTアクセラレータ(含む、ワクチン)の予算につき、270億ドル(約2兆9000億円)不足と試算していますので、75億ドル程度ではまったく足りないのは明白です。そのためでもしょうか、COVAXは昨年の段階でワクチン接種20億回分をめざすとしていましたが、それが今年に入り1月段階では18億回分が目標となり、今回13億回分と縮小されました。

 

18億回分目標時は、92カ国の貧困国・低所得国に供給すると言っていました。これだけですと対象国の総人口の約27%への接種にしかなりません。それが今回さらに減ってしまいます。そもそも当初の目標の20億回分が少なすぎではないでしょうか。1人1回としても80億回分くらいは必要なはずです。

 

●中国とG7の「国際公共財」、同じ言葉を使っても…

 

G7会合の2日前の17日、国連安全保障理事会が開かれ、ここで国連事務総長のグテーレス氏は「世界全体でこれまでに実施されたワクチン接種のうち75%は、わずか10カ国で実施されたに過ぎない、130カ国ではまだまったく接種が行われていない」と述べ、「ワクチンの公平性は、国際社会のモラルが試される最大の課題だ」と訴えました。今日では中国製のワクチンが途上国にも入りつつあるので、接種国は数としては増えているようです。

 

その中国ですが、53の途上国・地域にワクチンを「無償で」援助を実施し始めました。習近平国家主席は中国ワクチンを「国際公共財」とすると宣言しています(2月21日付毎日新聞)。ロシアも独自に動き始めています。中国ワクチンは情報公開の面で課題があると言われ、またワクチン提供が外交政策として使われているという問題点があります。が、G7も先の首脳声明でワクチン等を「国際公共財」と言いながら、各国はワクチンナショナリズムに陥っています。その結果、COVAX等への支援は十分ではなく、従ってまだワクチンを途上国に届けていないからです。

 

ジョンソン英首相に至っては「余剰ワクチンの大半を貧困国に寄付する」(2月20日付BBC放送)と言っています。つまり自国で接種し終わって余ったら途上国に寄付する、と言っているに等しい言い方です。これは途上国を侮辱していることにならないでしょうか。

 

●どう資金不足を解消するか?新コロナワクチン債と国際連帯税で

 

もとよりワクチンはきちっと情報公開され安全性が担保され、しかも外交の道具に使わない方がずっとよいと思います。もともとACTアクセラレータとCOVAXはWHO主導により国際保健機関、そして先進国(EU、欧州6か国、日本が提案国)によって設立されたもので、この点を払しょくしているはずでした。しかし、当初米国が参加していないこともあり、先進国が十分に資金を拠出しないこと、そして各国ともワクチン争奪戦に血道をあげていたことから、大幅に遅れをとったと言えます。

 

ともあれ、G7はじめ先進国が極力早めにワクチンを貧困国・途上国に提供することですが、WHOも言うように、まず医療従事者や高齢疾患者に届けることが必要です。そのためには、高所得国の健康な若者たちへの接種分を回すことが考えられます。とくに1人当り9回分を確保しているカナダ、同7回分を確保している英国は大幅にCOVAXに提供すべきです。

 

資金不足を大急ぎで解消するには、コロナ対策でばく大な借金を負っている先進国のODA(政府開発援助)はそうそう期待できません。従って、G7は共同して10年物の2兆円規模の新(コロナ)ワクチン債(*)を金融市場で発行し、その償還について共同の国際連帯税を実施し(金融取引税やデジタルサービス税等)、それによる税収で賄う、というものです。つまり、1年以内に債券で資金を作り、2~3年以内に共同で実施する国際連帯税の税目を決定し、10年目に償還するというプロセスです。

 

先の首脳会議の声明で、「将来のパンデミックに対して財源の確保などの国際的な保健条約の必要」を謳っていますが、将来ではなく、今すぐ上記スキームを実施しつつ、共通の課税ベースを有した税制として条約化していくことが望ましいと言えます。例えば、外国為替取引に0.005%課税するとか。

 

他に問題は、ワクチンや治療薬等の特許権保護規定の問題があります。その規定の適用を除外するよう途上国やNGOは求めていますが、WTOでは結論が出ていません。ワクチン等が「国際公共財」であるとするなら、各製薬会社は極力価格を下げること(原価近くまで)が求められると思います。

 

(*)すでに「予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm)」がワクチン債を発行しており、ワクチン開発資金として「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」に供給されています。従って、G7が新たに債券を発行するとすれば、ACTアクセラレータに向けてのものとなりますが、分かりやすい形で「新コロナワクチン債」と名付けることにします。

 

 

コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?

ワクチン接種回数 

ワクチン接種回数(貧困国・高所得国)

 

新型コロナウイルスの猛威は未だ衰えず、感染抑止の切り札として期待されるのがワクチンです。が、現実は高所得国によるワクチンの争奪戦となっており、貧困・低所得国は置き去り状態にされています。重要なことは、貧困国の人々を取り残さない政治的なリーダーシップと資金不足の解消です。

 

G7首脳会議が19日「ワクチンの公平な分配」などを議題として開催されるようですが、菅首相をはじめ日本政府がそのような国際政治の場で積極的発言を行ってもらうために、そして何よりも日本の全国会議員にこの「命の格差」とも言える不条理な問題を認識してもらうために、問題提起をしていきたいと思います。

 

以下、「コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?」と題した拙文を書きましたのでご笑覧ください。

 

 

コロナ・ワクチン>貧困国の命はカナダの27分の1か!?

 

新型コロナウイルス(以下、コロナと略)のワクチン接種が世界的にはじまっていますが、「命の格差」とも言える人道的・道義的な問題が出てきています。それは接種が行われているのは、富裕国などほんの一部の国であり、大部分の国ではいぜんとして接種のメドが立っていないことです。

 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長によれば、前者は10か国で接種の4分の3を占め、後者は130か国にも上っているとのことです。この結果、同事務局長は「(各地の)高リスクの人々への接種に時間がかかるほど、ウイルスが変異したりワクチンが効かなくなったりする恐れが高まる。…すべての場所でウイルスを抑えないと(ウイルスとの闘いは)振り出しに戻る」と警告しました(2月6日付朝日新聞)。

 

実際、ブラジル北部アマゾナス州の州都マナウスで最近見つかったコロナの変異ウイルスが世界的な脅威になるかもしれないと懸念されています。「科学者は、ブラジルで確認された変異ウイルスに既存のワクチンが効かいない可能性を考える」2月11日付日経新聞 シンクタンク・ブリューゲルのジャン・ピサニフェリー氏)という事態が起きています。

 

1、貧困・低所得国と富裕国(高所得国)のワクチン確保の割合

 

ご承知のように、国際的にはWHOの呼びかけで、コロナのワクチン・治療薬・診断の開発、生産、公平なアクセスを加速させるため「ACTアクセラレータ」という国際的枠組みを作られ(日本も共同提案国)、その下にワクチンを共同購入し、途上国にも配布するために「コバックス(COVAX)」ができました。ここにはワクチン供給に期待して約190か国が参加しています(当初、米国と中国が不参加でしたが、その後両国とも参加)。

 

ところが、まだワクチンの供給が十分ではないのに争奪戦となり、上述のように富裕国がほとんどを確保してしまう有様となっています。コバックスが提供を予定している貧困・低所得国と富裕国(高所得国)のワクチン確保の割合を見てみましょう。

 

          接種総回数   1人当りの回数     備考

・貧困・低所得国   18億回    3分の1回?   92か国の人口の27%    

・欧州連合(EU)  15.9億回     3.5回

・米 国       12.1億回     3.7回

・カナダ       3.4億回     9.0回

・イギリス      3.7億回     5.5回

・日 本       3.14億回     2.5回

 

コバックス概念図

      コバックスの概念図

 

コバックスは21年中にワクチン18億回分確保を目指し、92か国(総人口の27%)の貧困・低所得国に供給する予定でいますが、これだけですと大雑把に言って3人に1人しか接種できない計算となります。一方、富裕国は日本を除いてどの国も1人当たり3回分以上で、カナダとなると9回分も確保しています。ということは、貧困・低所得国の人の「命の価値」はカナダの人の27分の1と見られても仕方がないと思います。

 

ちなみに、アフリカ連合(AU)は総人口13億人の6割に2回ずつ接種できる15億回を取得を目指していますが、メドが付いたのは2.7億回分だけのようで、コバックスを通じ6億回供給してもらう予定ですが、こちらもメドが立っていません。そういう中で、アフリカだけではありませんが、中国が53の途上国・地域に向けワクチンの無償援助を始めたとのことです(2月9日付読売新聞)。

 

2、「ACTアクセラレータ」と「コバックス」の圧倒的な資金不足

 

考えてみますと、貧困・低所得国(92か国)にとって命綱ともいえるコバックスが3人に1人にしか接種するワクチンを確保できないというのも最初から力不足を自ら露呈してしまっている、と言えます。要は圧倒的に資金がないからだ、ということだと思います。

 

WHOによればACTアクセラレータは約270億ドル(約2兆8千億円)の資金不足となっています。これに対し、国際協力の枠組みに復帰した米国が40億ドル(約4200億円)、日本が2億ドル(約208億円)拠出を決めました。EU並びに各国の動向は分かりませんが、多分合計しても100億ドルに届くかどうかでとても資金不足を解消するには程遠いと言えましょう。とするならば、コバックスの資金調達も厳しいことが予想され、貧困・低所得国でのワクチン接種3人に1人ベースが改善される見込みはありません。

 

別の方法としては、ワクチンを「国際公共財」という観点から、各メーカーに価格をぐっと安くしてもらうことです(できれば原価近くまで)。価格はいくらかと言いますと、1回分で、英アストラゼネカが1.78ユーロ(約225円)と最安で、米モデルナが18ドル(約1860円)と最も高く、いち早く販売された米ファイザーは12ユーロ(約1520円)と言われています(12月19日付時事通信)。当面利益を得ようとしない方針ということでアストラゼネカが一番安いようですので、他のメーカーもこれに合わせてくれれば、コバックスがより多くワクチン購入ができるでしょう。ただし、守秘義務が課せられているので、これが正しい価格かどうかは確証を得ることができません(ベルギーの高官が情報を漏らした)。

 

とはいえ、このまま推移するなら、貧困・低所得国は中国やインドのワクチンを頼るほか道はなくなります(中国シノバックは治験の透明性に対する懸念があると言われているが)。コバックスならびにWHOは中国などとの調整が必要と思われますが、どうなっているでしょうか。

 

3、先進国(ドナー国)は借金まみれ、今こそ国際連帯税の出番

 

先進国(ドナー国)が途上国支援を行うには国家予算からODA(政府開発援助)を通じて行いますが、2019年のODA実績合計は1,528億ドル(約16.7兆円)でした。ですから、感染症対策だけに特化すればACTアクセラレータなどの資金不足を解消することは可能です。しかし、途上国支援は医療・保健のみならず多岐に渡りますので、これまでのODA規模では限度があります。そもそもSDGs達成のための費用は途上国で2.5兆ドルが不足していると言われています。

 

一方、先進国は自国のコロナ対策でばく大な借金による財政政策を推し進め、今や昨年末時点で総額13兆8750億ドル(約1445兆円)にも達し(IMF報告)、ODAを飛躍的に増加させる余裕はないと言えます。日本も20年度の財政は総予算175.7兆円のうち新規国債が112.6兆円も占めて、借金依存度は65.1%にも及んでいます。

 

それではどうするか? コロナ禍による経済危機にもかかわらず相当の利益を上げている経済セクターが存在します。それは金融セクターとIT関連セクターです。この両セクターに、国境を超える経済活動に広く薄く課税するという国際連帯税を課して、ある意味グローバリゼーションの使用料(fee)を支払ってもらうのです。

 

具体的には、金融取引税、デジタル課税。前者は、外国為替取引、外国為替証拠金取引、株式取引、債券取引、デリバティブ取引など課税対象はいくつもあります。後者は、現在OECD/G20で議論中ですが、IT関連のみならず製薬会社等多国籍企業の利益に対する課税が対象になっています。金融取引税関係については、G20首脳会議レベルで国際公共財の創出として合意し、国際共通税として実施することが望ましいと言えます。

 

かつてフランスのシラク大統領(当時)が、最近では河野太郎外務大臣(当時)が国連や国際会議の場で倦まずたゆまず、前者はMDGs(ミレニアム開発目標)の資金として、後者はSDGs(持続可能な開発目標)のための資金として、国際連帯税の創設を主張してきました。今コロナ・パンデミックを前にしてその必要性がいっそう高まっていると言えるでしょう。

 

※写真は、ファイザー社のHPより

コロナワクチン:「蜘蛛の糸」に我先にとぶら下がる先進国

今週の日曜日(1/31)のTBSサンデーモーニングで、新型コロナウイルス(以下、コロナと略)のワクチン問題を特集として放映していましたが、コメンテーターの松原耕二氏が「ワクチンの(世界的な)争奪戦を見ていると、芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』(*)を思い出す。まず豊かな国々が我先にと糸にぶら下がり、でも貧しい国は糸につかまることすらできていない」、と。テレビでは、イスラエルがどんどんワクチン接種をしているのに、すぐ隣のパレスチナ系住民は一人も接種していない模様も放映されてました。

 

(*)超大まかあらすじ:お釈迦様が地獄にいる亡者の一人を助けようと極楽から糸を降ろすと、その亡者がその糸を手繰って上ってきたが、ふと下を見ると多くの亡者がその糸にしがみつき上ってきている。そこでくだんの亡者が亡者たちを振り落とそうとし、「これは俺のものだ」と叫んだとたん、ぷっつりと糸が切れて亡者は真っ逆さまに地獄に落ちていった。

 

●コロナワクチンを富裕国が囲い込む

 

コロナがパンデミックとなってから1年が過ぎ、世界で感染者がついに1億人を超え、死者も200万人を超える事態となっていますが、その脅威は未だ衰えるところを知りません。コロナ感染を防止するための強力なツールのひとつがワクチンです。これが異例のスピードで開発され、各国で接種がはじまりつつあります。

 

ところが、まだワクチンの供給が十分ではないのに争奪戦となり、富裕国がほとんどを確保してしまう有様となっています。国際NGOオックスファムによると「人口の約5倍のワクチンを調達するカナダを筆頭に先進国の多くが人口の約3倍の確保を予定し、低・中所得国では2021年末までに人口の10%未満しかワクチンを接種できない可能性となっている」と報告しています。また、英誌エコノミスト系の調査部門の報道によりますと、途上国にワクチンが行き渡るのは2023年以降にずれ込む見通し、とも報じられています(1月31日付日経新聞)。

 

●本来COVAX(コバックス)が富裕国・貧困国別なく公平に配布するはずが

 

国際社会は、昨年WHO(世界保健機関)の呼びかけで、医療体制が脆弱な低所得国等を支援するために「ACTアクセラレーター(Access to COVID-19 Tools Accelerator)」を設立し、ワクチン・治療・診断・保健システムという4つの柱を軸に対策を進めています。そのうちのワクチン関係を担っているのが「COVAX(COVID-19 Vaccines Global Access)ファシリティー」です。

 

COVAXは富裕国の資金でワクチンを共同購入し、途上国にも公平に配布しようというファシリティで、現在190か国が参加しています。が、当初ワクチン大国の米国、中国、ロシアが不参加でしたので、最初から資金不足に見舞われ、目標も2021年末までに途上国に20億回分のワクチン供給を目指すというものでした(その後米国、中国が参加することに)。

 

今年に入り、COVAXは92カ国に供給し、対象国の総人口の約27%への接種が可能という見込みを立てました。しかし、先進国を先頭に多くの国がワクチン保有国や製薬会社と個別に交渉し、ワクチン確保に躍起となってしまいました。このためCOVAXに参加している多くの途上国ではワクチンの確保や接種開始のめどが立たない状態となっています。

 

●国際社会が共同して拠出する国際連帯税方式で支援を

 

こうした憂うべき状況をもたらしている要因として、1)国際的な政治的リーダーの不在、2)COVAXを含むACTアクセラレーターへの資金の圧倒的不足、ということが挙げられます。

 

その資金不足ですが、ACTアクセラレーターの第3回会合で、「(昨年)12月14日時点で、今後数か月の緊急需要のための資金ギャップは43億ドルであり、2021年には追加で239億ドル(約2.6兆円)が必要」と試算されました。ところで、資金調達のためには、(いぜんとして)各国のODA予算からの拠出が主力となりますが、そろそろ国際社会は国単位でのバラバラな資金拠出方式から、共同して資金調達を行う仕組みを構築することが必要ではないでしょうか。

 

その理由の一つは、ドナー国となる各国も国内のコロナ対策のために多大な借金政策をしており、ODAを増加させる余力がまったくなくなっていること、もう一つはグローバル化によってばく大に儲かっている経済セクターから税またはフィー(料金)を徴収する仕組みを考える時期に来ていること、です。後者についてですが、国境を超える活動に対して税を課す国際連帯税方式で、外国為替取引やデジタル商取引等に適用できるでしょう。ちなみに、世界の為替取引量は2019年で年間約1647.5兆ドル(18.1 京円)にも上っています。ここに薄い税、例えば0.005%をかけるのです。すると9兆円の税収を得ることでき、ACTアクセラレーターの必要資金を優に賄うことができます。

 

政治的リーダーで言えば、かつて2004年当時シラク仏大統領がルーラ伯大統領とともに国際連帯税創設を国際社会に訴え、近年で言えばつい一昨年まで河野太郎外務相が国際連帯税の共同実施を国際会議の場で提案していました。現在どの国の政治リーダーも国内のコロナ対策で手一杯という状況にありますが、国連ならびにG7やG20サミットの場で、どこかの首脳が国際連帯税を提案することを期待します。そのような結束と資金提供がなければ、ワクチンを外交の道具に使おうという大国の跳梁を許すことになります。

 

●途上国を取り残してのコロナ対策は次のパンデミックを招くだけ

 

コロナ禍が「経済格差」をいっそう浮き彫りにしたと言われますが、このワクチン争奪戦での富裕国の一方的なワクチン確保状況を見ますと、グローバルな規模での「格差」を示していると言えます。こうした状況は「誰一人取り残さない」というSDGs理念に真っ向から反するものです。

 

そして、何よりも途上国を取り残してのコロナ対策は、グローバル化が進んだ今日、再びパンデミックを招くことになり、先進国の努力も水泡に帰する可能性が大きいと言えます。あらためて先進国の政治リーダーは目先の、足元だけの対策だけではなく、並行して中長期の、地球規模の対策を考えていただきたいと思います。

 

ところで、日本政府の態度はいかなるものでしょうか。昨年12月に行われた国連新型コロナ特別総会にで菅首相は次のように述べています。「日本は、その(ACTアクセラレータの)共同提案国として、ワクチンの公平なアクセスのためにCOVAXファシリティに、いち早く拠出するとともに、特許プールを通じた治療薬の供給などに取り組んでいきます」。

 

その言や良しですが、現実は日本もやはり外国産ワクチン確保の争奪戦にのめり込んでおり、途上国に対しての思いやりは二の次となっています。国際的な発言ができる首相はじめ、外務相や財務相が国連、そしてG’7やG20サミットの場において、ワクチンの公平な流通とACTアクセラレータへの資金調達のため共同して国際連帯税を創設しようと呼びかけることが期待されます。

 

バイデン大統領誕生への希望>民主党政権と金融取引税

2021年世界はコロナ禍でたいへん厳しい状況ですが、希望と言えば、米国でトランプ政権が終わりバイデン大統領が誕生したことです。ようやく米国は国内外で対立と憎悪をもたらすトランプ流米国第一主義から決別し、国際協調・協力へと舵を切りました。

 

●大統領令で「COVAX(コバックス)」への参加に注目を

 

早速バイデン大統領は、コロナ対策のため1.9兆ドル(約200兆円)規模の追加経済対策案をまとめるとともに、矢継ぎ早に大統領令を発しました。その中で、国際協力関係を見ますと、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」への復帰、世界保健機関(WHO)の脱退撤回があり、そしてワクチン開発に各国が共同出資・購入する枠組み「COVAX(コバックス)」への参加もあります。コロナ対策において途上国と共にあることを宣言したと言えます。

 

●バイデン政権の財政政策

 

ところで、同政権の財政政策を見ますと、「グリーン・ニューディール」実現のための環境インフラ投資、雇用拡大や経済格差の解決など10年間で11兆ドル(約1140兆円)と試算される大型財政政策を掲げています。問題はその財源です。同政権は、「フェアな税制」をということで基本的に富裕層や企業への増税、つまり法人税、所得税、金融資産税のアップによって賄うとしています。しかし、民間シンクタンクの試算によれば(*)、増税での収入は4兆3000億ドルであり、とうてい財政政策を賄いきれません。

 

(*)米債務590兆円拡大 「バイデン政権」なら―民間試算

 

 もちろん、税収全般が上がれば賄いきれないことはないと思いますが、コロナ禍による経済活動の落ち込みからしてかなり困難だと思われます。そこでもう一つの税収の選択肢として金融取引税(FTT)がいずれ浮上してくると思われます。というのは、バイデン政権内部にも、民主党の有力議員の中にもFTTを支持する勢力が存在しているからです。それを見てみましょう。

 

●政権&民主党内の金融取引税推進派

 

<政権内部でのFTT推進者>

 何よりも副大統領のカマラ・ハリス氏が筆頭です。また、閣僚級の行政管理予算局(OMB)局長のニーラ・タンデン氏。彼女はリベラルなシンクタンクである「アメリカ進歩センター」の所長です。さらに、大統領経済諮問委員会(CEA)の委員に、FTT支持のオバマ前政権でバイデン氏の首席経済顧問ジャレド・バーンスタイン氏、ワシントン公平成長センター所長のヘザー・ブシェイ氏が入っています(米国シンクタンクIPSの情報より)。

 

<有力な国会議員でのFTT推進者>

 これはいうまでもなくバーニー・サンダース上院議員であり、彼は今回上院予算委員会の委員長に任命されましたので、予算審議で辣腕を発揮するのではないかと思います。大統領予備選挙に出たニューヨーク州のカーステン・ギリブランド上院議員も強く主張しています。古くからがんばっているのは、2008年からFTTを提案してきたオレゴン州のピーター・デファジオ下院議員です。

 

そのピーター・デファジオ下院議員は、一昨年に引き続きウォール・ストリート法を今月15日提出しました。それは株式、債券、デリバティブの販売に0.1%(10ベーシス・ポイント)を課税し、10年間で推定7770億ドルを調達しようというものです。この法案にはジェイムズ・クライバーン下院院内幹事も含め、総勢15人が共同提案者になっています。(**)

 

(**)Tackle injustice, tax Wall Stree

 

●米国が金融取引税実現の先陣を切るか?

 

コロナ禍による未曾有の経済危機に対して、世界各国は莫大な財政赤字によって対策を立てています。この赤字はいずれ増税によって賄うしかなく、その増税につき国民への直接負担を最小限に抑えるとすれば、莫大な利益を上げているセクターへの増税こそが求められています。それは金融セクターとデジタルITセクターと言ってよいでしょう。

 

欧州連合はFTTにつきタイムテーブルを決めており、2024年までに実施成案を得る予定ですが、ルクセンブルグ他反対する国も多く予断が許されません。他方、米国はFTTが正式に政府案として浮上していませんが、今後の情勢で浮上してくる可能性は大きいでしょう。ただし、国会勢力の現状から、とくに上院では共和党が半数を占めていることから、この2年間のうちに実施というのは厳しいと言えます(下院も安定多数ではない)。ありうるのは2022年の中間選挙で民主党が上院でも安定多数を占めてからかもしれません。

 

ところで、欧州連合も米国も金融取引税と言いながら、外国為替取引税にはアウトリーチしていません。その理由は、金融セクターの強い反発があることもさることながら、取引場が基本的に国内にあり金融当局の監視も及び、それだけ徴税しやすいからでしょう。いずれにせよ外国為替取引税にまで課税対象を広げることができれば、税収が格段にアップするとともに、国境を超えた取引という性格から国際連帯税としてふさわしいと言えます。(了)

SDGs3(健康)ギャップ40兆円>リーディング・グループの報告書公表

 1)「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」公表される

 

「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」(常設事務局:フランス外務省)が11月末に報告書「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」を公表しました。(報告書はフランス外務省のHPに掲載されていますが、URLは下記参照)

 

報告書では、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、途上国が危機によって増大した巨大な開発資金ギャップを満たすための追加的な資金源の必要性が述べられ、それが先進国のODA予算や途上国の国内資源に加えて、開発のための革新的な資金調達の可能性に光を当てています。コロナが発生する前、SDG3「健康と福祉=保健」を達成するための年間資金ギャップは、すでに低・中所得国(LMIC)で3,710億ドルと見積もられていましたが、パンデミックによりそのギャップがさらに広がっていることが予想されています。

 

報告書は、保健に関するSDG3に対応する42の主要な革新的資金調達イニシアチブを次の5つのカテゴリーに分けて分析しています。

 

 1、結果ベースとした資金調達
 2、触媒的資金調達
 3、インパクト投資
 4、社会的責任投資
 5、課税の新しいチャネル

 

2)「課税の新しいチャネル」の位置づけ弱く

 

さて5番目の“NEW TAXATION CHANNELS”を見てみますと、冒頭「今後、国際課税と国内課税は、保健のための資金源として急速に拡大していく可能性があります」と述べられていますので期待してみました。“Domestic health taxs”(国内課税)ではタバコ税、アルコール税、砂糖税を挙げ、“International Solidarity Taxs”(国際課税)では航空券税、金融取引税、炭素税、超富裕税が挙げられています。

 

しかし、後者では航空券税が9か国でしか実施されていないこと、また金融取引税(FTT)については2013年に欧州11か国が実施しようとしたが議論が長期化し、合意を難しくしている、という現状が報告され、何とも国際課税の打ち出しが弱い記述になっています。

 

その上で、報告書は「国際連帯税は、SDG3のための資金調達を増やすことができますが、その実施には世界的なリーダーシップと国際的な調整が必要であり、それを達成するのは難しい場合が多いため手間がかかる」と述べています。一方で、「国際連帯税の可能性は運用面や政治面での大きな障壁を克服する必要があるが、ODAを強力に補完できる大きなチャンスでもあります」、と。何か煮え切らない書き方をしています。

 

ちょっと疑問なのは、FTTに関して最新情報が述べられていないことです。それは、①欧州における94兆円にも上る復興基金の(償還に充てる)原資としてFTT実施が企図されていること(2024年から、まだ具体化はされてない)、②米国ではバイデン新大統領が誕生することになりますが、副大統領のカマラ・ハリス氏や米行政管理予算局(OMB)局長のニーラ・タンデン氏など有力指導者がFTT推進派であり、早晩新政府の経済政策にFTT実施が上ってくる可能性があること、です。

 

ともあれ、民間セクターの資金の利用は、どうしてもリターン問題がネックであり、採算を度外視して援助しなければならないプロジェクト等(ワクチン開発や難民救援など)に対しては、公的資金となる国際課税の方が有効であることは間違いがありません。

 

3)国際連帯税を放棄した日本外務省

 

リーディング・グループの一員でもある日本政府(外務省)は実に困ったことに11年連続して新設要望していた国際連帯税要求を断念してしまいました。これはコロナ禍にあって感染症対策で困難に陥っている途上国への支援のための大きなリソースを放棄することに等しいといえます。

 

まして昨年夏まで前外務大臣が国際会議の場で散々国際連帯税の必要性を訴えてきたという経緯にもかかわらず、一方的に放棄してしまうということでは、国際社会にどのように言い訳をするのでしょうか。外務省は改めて国際連帯税の旗を掲げ直すべきでしょう。

 

■「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」
“Innovative financing mechanisms for Health: Mapping and Recommendations”

 

国際ウェビナー「コロナ回復のために最富裕層に費用負担を」J・スティグリッツ/予定

 S&G

 

金融取引税(FTT)を求める世界のNGO、シンクタンクが、「コロナ回復のために最富裕層に費用負担を」という国際ウェビナーを準備しています。メインスピーカーとして、ジョセフ・スティグリッツ:コロンビア大学教授、ジャヤティ・ゴーシュ:ジャワハルラール・ネルー大学(インド)教授の出演を要請しています。

 

この会合の主旨は次の通りです。「コロナ危機下にあって、緊縮財政に代わる経済的な代替策を探るため、または莫大な赤字財政を立て直すために、『手つかずの実質的な収入を生み出すであろう3つの強力な対処政策に焦点』をあてる」というものです。コロナ禍にあって、実体経済が大きく毀損し失業者が巷にあふれているにもかかわらず、世界の株価は高値を更新し、富裕層にばく大な収益をもたらしています。一方、GAFAなど巨大IT企業も満足に法人税を払わず独占的利潤をあげています。

 

コロナ危機にあって、国内での経済格差、先進国と途上国との経済格差がいっそう露わになってきています。経済格差は、教育格差に医療格差をもたらし、それは命の格差となって現れてきています。

 

さて、3つの「手付かず」の強力な対処政策とは以下の通りです。

 

1)最も裕福な企業と富裕層へ、特にコロナ危機で過剰な利益を上げたものへの課税を増やす。

 

2)金融取引税(FTT)を導入し、市場の自動化を利用して毎年数百億ドルの収益を上げる。

 

3)不正な金融フロー、特に富裕層の企業や個人による積極的な租税回避を取り締まる。これらのフローを捕捉することは、政府にとっても数百億ドルの追加資金を生み出すことになるだろう。

 

【日程】11月下旬を予定

【形式】zoomウェビナー形式

【主催/共催】Oxfam、Stamp Out Poverty(英国)、Public Citizen(米国)、Institute for Policy Studies(米国)

 

※会合の詳細が送られてきましたら、お知らせします。

 

◎ジョセフ・スティグリッツ

コロンビア大学教授、2001年「情報の経済学」に関する研究でノーベル経済学賞を受賞

 

◎ジャヤティ・ゴーシュ

ニューデリーのジャワハルラル・ネルー大学経済学教授、経済研究・計画センター所長

 

 

【 Having the wealthiest pay for Covid recover】

 

This international webinar concentrates on three strong policy prescriptions that would generate substantial, currently untapped, revenues, to underpin an economic alternative to austerity:

 

1. Firstly, increase taxation of wealthiest corporations and high net worth individuals, especially those who have made excessive profits from the Covid crisis.

 

2. Secondly, introduce Financial Transactions Taxes (FTTs) to generate tens of billions every year, utilising the automation of markets, which makes avoidance near impossible. All necessary technical work to implement FTTs was carried out following the last financial crisis.

 

3. Thirdly, clamp down on illicit financial flows, particularly aggressive tax avoidance by richest corporations and individuals. Capturing these flows would also result in tens of billions in additional funds for governments.

 

 

 

東京都税調答申、金融取引税、デジタル税も将来的課題に

あまりなじみのない東京都の税制調査会ですが、2020年度答申がまとめられました。新型コロナウイルスによる社会の激変に対応した税制への見直しを行う、ということがメイン理念のようです。以下、日経新聞が報じていますのでお知らせします。

 

ところで、小池都知事はかつて衆議院議員の時代、国際連帯税創設を求める議員連盟の(やや)熱心な会員でしたので、金融取引税などの意義は理解されていると思います。

 

◎金融取引税関連の部分
「将来の感染症対策に向けた財源確保の必要性も指摘した。国から地方への交付金の継続・拡充のほか、各国で協調してデジタル税や金融商品の取引税などで税収を確保し、世界保健機関など感染症対策を担う国際的枠組みへの資金拠出も検討すべきだとした」

 

 

【日経新聞】東京都税調が答申、給付付き税額控除の検討求める

 

東京都税制調査会(会長・池上岳彦立教大教授)は17日、2020年度答申をまとめた。新型コロナウイルスによる社会の激変に対応した税制への見直しを提言した。所得が大きく目減りした人も支援できるよう、減税と現金給付を組み合わせる給付付き税額控除を検討すべきだとした。

 

小池百合子知事に同日、答申を提出した。答申は総務省や財務省などにも送付する。

 

テレワーク環境を整備した企業への税制優遇のほか、税務手続きのデジタル化に向けて「業務プロセス自体を抜本的に見直す必要がある」とした。

 

将来の感染症対策に向けた財源確保の必要性も指摘した。国から地方への交付金の継続・拡充のほか、各国で協調してデジタル税や金融商品の取引税などで税収を確保し、世界保健機関など感染症対策を担う国際的枠組みへの資金拠出も検討すべきだとした。

 

なお、答申そのものは、こちらから読めます。

 

※写真は日経新聞より

21年税制改正要望で、外務省国際連帯税要望を断念

毎年各省庁の税制改正要望は8月末締切りで、内容は財務省のHPに一覧の形で掲載されます。今年はコロナ禍のため9月末締切りでした。外務省は11年連続して国際連帯税を要望してきましたが、今回財務省のHPを見ると、一覧に外務省の名がありません。何も要望していない、つまり国際連帯税要望を取り下げてしまいました。このことは外務省がSDGsなど地球益のための(同時に外交益のために)資金づくりを断念したことを意味し、誠に遺憾であると言わざるを得ません。

 

●河野太郎前外相で盛り上がった国際連帯税議論と外務省のとん挫

 

ご承知のように、一昨年(2018年)5月のG20ブエノスアイレス外相会合で河野太郎外相(当時)がSDGs達成のための資金として国際連帯税を提案して以降、出席する国際会議の場で、また国会においても国際連帯税の必要性を訴えてきました。同外相は19年7月『SDGs達成のための新たな資金を考える有識者懇談会』を設置しました。その問題意識は「日本の税制ということだけでなく、国際的にできればいろんな議論を経て統一した課税ルールというのを作っていきたい」と、いうものでした。

 

グローバル連帯税フォーラムは、日本リザルツや世界連邦運動協会などとともに、また河野外相の出席も得て、18年と19年のそれぞれ7月に「SDGs達成のための国際連帯税を実現するシンポジウム」を開催してきました。とくに後者のシンポジウムには大学生等若者たちが200人近くも参加するなど大いに盛り上がりました。また、懇談会にはグローバル連帯税フォーラムの田中徹二もメンバーとして参加することになりました。

 

その懇談会ですが、新たな資金として、「国際連帯税+民間資金の活用」として議論を進めることでしたが、途中から後者の議論が主となってしまい、「課税方式には(元々)様々な問題があり、コロナ禍により日本経済が厳しい中で新税導入は現実的ではない」という結論に落ち着けようという流れになってきました。こういう中で、田中(委員)としては連帯税につき河野外相の問題提起に答えていないこと等から、最終報告書の提言には同意できないこと、従って委員を辞退することになりました。

 

率直に言って、9月に外務大臣が変わる前後から懇談会の性格もがらっと変わったと言えます。また、これはコロナ禍の前ですが、自民党税制調査会の幹部から税制に対する圧力もあり、外務省がこれに抵抗できない面もありました。

 

●今後の国際連帯税実現に向けての展望>連帯税議連とともに

 

以上の経過からして、外務省を通しての国際連帯税実現の道は、当分閉ざされたと言えます。これに対して、国際連帯税創設を求める議員連盟は外務省に対して遺憾の意を表するとともに、議員立法による国際連帯税実現の道を切り開くべく、次の臨時国会が開催されてから総会を開催することになりました。まず国際連帯税を取りまく状況について勉強会を持つとともに、議員立法に向けてなど具体的な活動について議論していく予定です。

 

この勉強会ですが、次の先生方にもご協力を得られるようにしていきたい、としています。それは小林慶一郎・東京財団政策研究所主幹や佐藤主光・一橋大学教授です。お二人とも国際連帯税についてとくに関心を寄せていませんでしたが、コロナ禍を経ることにより国際連帯税について発言するようになりました。それは「コロナ禍による国家財政の大幅悪化に対処するための新しい税として金融取引税等々を実現すべき」とし、その中で「新税の一部を(途上国支援のための)国際連帯税とすべき」と提案*しています。

 

*「ポストコロナの政策構想:税制の国際協調による財政再建を(下)」 

 

さらに、国際連帯税を取りまく状況で言えば、欧州連合(EU)のコロナ対策基金での金融取引税等の新税論議、また米国の(政権を取る可能性がある)民主党有力者での金融取引税論議なども注目していく必要があります。

 

ともあれ、グローバル連帯税フォーラムは引き続き国際連帯税実現を議員連盟とともに図っていく所存です。近々あらためて外務省の国際連帯税要望の断念を受けて声明を出す予定ですので、注目くださるよう願います。

米国での金融取引税に関する最新の議論>11月大統領選・連邦議会両院選に注目を!

米大統領選挙が近づいてきましたが、副大統領候補のカマラ・ハリス氏はじめ民主党の有力者に金融取引税(FTT)の導入論者が多いということもあり、メディアにFTTを巡る論争等がよく紹介されるようになってきてます。先日も米資産運用会社バンガード(Vanguard)によるFTT反対論に関して、それを批判する記事がありました。

 

●バンガードは創設者に背いてFTT反対、しかし論拠は薄弱

 

バンガードは、ご承知のように運用資産が約600兆円にも上る世界最大級の運用会社で、世界初のインデックスファンドを開発しました。この会社の創業者はジョン・ボーグルという人で、インデックスファンドの父とも言われていますが、実は金融取引税(FTT)の熱心な支持者でした(昨年1月、89歳で逝去)。

 

さて、『バンガードは創設者のジョン・ボーグルが好んだウォール街への課税に反対し、その理由はあなたを驚かせるかもしれません』と題したオピニオン記事を紹介します(*)。現在のバンガードは多くの金融業界企業やロビー団体と連携して、FTTについて「一般投資家(メインストリート)がそのコストを負担することになる」と主張し反対したというのです。これに対し、筆者のMichael Edesess氏(モバイル財務計画ソフトウェア会社Plyntyのチーフ投資ストラテジスト)は、このような主張はジョン・ボーグルが生きていれば決して許さなかっただろう、と述べています。

 

実際、バンガードは平均的な投資家にとってのFTTの年間コストを15倍も多く見積もっていたことが明らかとなりました。「FTTの実質的な負担は、マイクロ秒単位で取引を行うことが多いプロのトレーダー、つまりアルゴリズム・トレーダーや高頻度取引を行うトレーダーにかかることになり」、一般投資家には害を及ぼさない、と筆者は述べています。

 

●米国での財界人、経済学者、著名人等によるFTT賛同者

 

昨年3月『2019年ウォール・ストリート税を支持する61団体からの書簡』(**)が議会のすべての上下両院議員へ配布されました。その主はブライアン・シャッツ上院議員(民主・ハワイ州)とピーター・デファジオ下院議員(民主・オレゴン州)で、共同提案者になってもらうための呼びかけでした。

 

ウォール・ストリート税法とは、FTTのことで、株式、債券、デリバティブの取引に0.1%(100ドルあたり10セント)という低率の税を課し、10年で7770億ドルの税収を得ようとするものです。その使途は「退職プログラムを保護・強化し、教育、医療、育児、住宅、環境保護、インフラの再建など、働く家族の優先事項に投資する」としていました。

 

賛同していた61団体は、財団・シンクタンク、労働組合、NGO・慈善団体、宗教団体等ですが、書簡では次のような著名な人々もFTTアイデアを支持していると伝えていました。

 

「このアイデアは、ノーベル賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ、ポール・クルーグマン、ジェームズ・トービンなどの著名な経済学者、シーラ・ベア、ラリー・サマーズ、ポール・ボルカーなどの(民主・共和)両党の元財務長官、連邦準備制度理事会、CEA(大統領経済諮問委員会)、FDIC(連邦預金保険公社)、CFTC(商品先物取引委員会)、OMB(行政管理予算局)のトップ、そしてクリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事、ジョージ・ソロス、バンガードの創設者ジョン・ボーグルなどの金融の専門家…ビル・ゲイツ、マーク・キューバン、ウォーレン・バフェットのような億万長者の経営者でさえも、この提案を支持している。」

 

このウォール・ストリート税法は実現しませんでしたが、その後民主党下院議員のボニー・ワトソン・コールマン(ニュージャージー州)とイルハン・オマル(ミネソタ州)は、この6月「労働力推進アクセス法(The Workforce Promotion and Access Act)」案を提出しました(***)。コロナ禍で失業した1500万人近くの労働者に対し、時給15ドル以上での手当がつく雇用を保障し、子どもや高齢者のケアそしてインフラといった地域のニーズに対応するものとして構想され、その財源としてFTTを充てようというものです(0.1%課税、10年間で7770億ドルの税収)。

 

もとより、FTT導入につき議会に提案しているのは民主党議員ばかりですので共和党が下院、または上院で多数を取っている限り実現は不可能です。しかし、11月の大統領選挙ならびに上下連邦議会選挙で民主党が勝つことになれば、党の有力者にFTT賛同者が多いこともあり、その導入の可能性が高まってきます。

 

(*)Opinion: Vanguard opposes a tax on Wall Street its founder John Bogle favored ? and the reason may surprise you
(**)Letter to Congress: Letter from 61 Groups in Support of the Wall Street Tax Act of 2019 
(***)Shrink Wall Street to Guarantee Good Jobs

米民主党副大統領候補 カマラ・ハリス氏も金融取引税を主張

8月19日、カマラ・ハリス上院議員は2020年大統領選の民主党副大統領候補の正式指名を受諾しました。政治的スタンスとして、同氏はバイデン氏と同じく中道派と目されているようで、その点からウォール街の民主党支持者は歓迎しているようです。

 

●米民主党政策綱領案と金融取引税

 

しかし、こうした思惑は甘いというのが下記ブルームバーグの記事です。もともと加州司法長官として金融機関の不正には厳しく当たってきましたし、何よりも同氏は大統領候補選挙で金融取引税を提案していました(*)。記事では次のように書かれています。

 

「ハリス氏はヘルスケア財源として、株やデリバティブ(金融派生商品)など金融取引への課税を支持。取引税にはバイデン氏も一定の支持を表明しているが、提案にはまだ含まれていない」

 

従って、全国大会で採択する予定の政策綱領案には金融取引税は取り上げられていません。しかし、金融取引税に関してはいわゆる民主党左派(サンダース氏やウォーレン氏など)が強く主張している政策でもあり、ハリス氏の役割のひとつが左派との架け橋になることが期待されているところから、ハリス氏が副大統領となり、米経済や財政等の動向如何により、金融取引税が具体的に俎上に乗ってくるかもしれません。

 

(*)ハリス氏の金融取引税:株取引0.2%、債券取引0.1%、デリバティブ取引0.002%課税し、10年間で約3兆ドルの税収を得ることができる。

 

●政策綱領案における主要な税制

 

なお、政策綱領案での主な税制に関しては次の通りです(8月18日付日経新聞より)。

 

○富裕層に恩恵を与え、米雇用を海外に流出させる企業を利するトランプ政権の減税政策を覆すために行動する。

○富裕層に相応の税金を払わせ、投資家が労働者と同じ税率を支払うようにする。共和党が大きく引き下げた法人税率を引き上げる。

 

 

【Bloomberg】「それでもハリス氏は革新派」-ウォール街に厳しく、取引税も支持

 

―加州司法長官として住宅金融大手との金融危機後の協議で強い姿勢
―ウェルズFの無断口座開設スキャンダルの捜査指揮でも重要な役割

 

2020年米大統領選の民主党候補となるバイデン前副大統領が、カマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に選んだことをウォール街の民主党支持者は歓迎した。

 

ハリス氏の起用は、より強硬な銀行規制を支持する党の革新勢力が抑えられた兆しと受け止められた。しかし、同氏の州政府と上院での実績を見ると、金融業界は戸惑うかもしれない。

 

カルフォルニア州司法長官として、住宅金融大手との金融危機後の協議で示した断固とした姿勢が、ハリス氏の政治的躍進の下地をつくった。バンク・オブ・アメリカ(BofA)やウェルズ・ファーゴ、JPモルガン・チェースを含む金融機関は、借り手に対し抵当権を不適切に行使したとされる問題の決着のため、180億ドル(約1兆9000億円)の支払いを余儀なくされた。

 

米財務省の元当局者で、現在はビーコン・ポリシー・アドバイザーズ(ワシントン)のマネジングパートナーを務めるスティーブン・マイロー氏は「はっきり分かる革新派でないかもしれないが、それでもハリス氏は革新派だ」と指摘する。

 

ハリス氏は加州司法長官在任中、ウェルズ・ファーゴの行員が顧客に無断で無数の口座を開設したスキャンダルの捜査指揮でも重要な役割を果たした。

 

民主党大統領候補の指名争いを通じて、ハリス氏はヘルスケア財源として、株やデリバティブ(金融派生商品)など金融取引への課税を支持。取引税にはバイデン氏も一定の支持を表明しているが、提案にはまだ含まれていない。

 

ハリス氏台頭の意味はウォール街にとって単純でないかもしれない。ビーコンのマイロー氏は、銀行業界にどう影響するかの判断は時期尚早だと話す。バイデン氏の政策と主要な金融規制・監督機関の人事にどこまで影響力を行使できるかにかかっているが、マイロー氏によれば、消費者金融保護局(CFPB)の再活性化に一定の役割を見いだすことも考えられる。(了)