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「パラダイス文書」:三木義一・青山学院大学長のコメント

先月末に第2のパナマ文書が出るかもしれないという報道が一部にありましたが、予想を超えて「パラダイス文書」として公表されたものは電子ファイル1340万件(パナマ文書は1150万件)に上るというぼう大な資料のようです。

 

また、パナマ文書の出所はパナマのモサック・フォンセカ社で、ほとんど米国の会社や個人の名前は出てきませんでした(なのでCIA説が流れた)。が、今回のパラダイス文書の出所の法律事務所「アップルビー」は主に米英系の会社・個人を顧客に持っているようです。従って、とくに米国の権力中枢やグローバル企業の実態が明らかにされてきています。ロシアとの<秘匿されていた資金の>繋がりがこれほどあるとは!驚いてしまいます。

 

さて、昨日(6日)の朝日新聞の「パラダイス文書」の記事につき、三木義一先生のコメントが載っていましたので紹介します。

 

 

●高い「守秘性」の闇に光あてた意義大きい 《三木義一・青山学院大学長(租税法)の話》 

 

 タックスヘイブンの利用について、日本企業では、租税回避を目的としているのは一部で、(税制や規制などで有利な国に船籍を置く)便宜置籍船や海外の企業の買収などが多いと言われている。一方で、日本で納税されるべきお金がタックスヘイブンに流れているのも事実だ。タックスヘイブンは「守秘性」が高く、通常はその利用法が適切かどうか、一般市民が知るすべさえない。その闇に光をあてる意味でも、秘密文書がその一部をつまびらかにする意義は大きい。本来であれば、企業が積極的に開示していくのが望ましいだろう。

 

朝日新聞】商社・損保・海運…日本企業も「パラダイス文書」に続々

 

 

財務省、外資系企業への課税強化>が、アマゾンは日本で法人税を払わず

財務省は日本で営業している外資系企業への課税対象を広げるため、来年の通常国会で法改正するとのことです(下記参照)。が、日本で営業しているなら、日本国に法人税やら一般消費税を払うのが当然でしょう、財務省は何を今さら寝ぼけたことを言っているのか、とお思いでしょうが、実は税を払っていない外資系企業があるのです。

 

その筆頭が、みなさんもよく利用するアマゾン・ドット・コム社(以下、アマゾン)です。アマゾンは法人税を払っていません(一般消費税は2015年10月から課税されることに)。アマゾンは千葉県などに100%子会社のアマゾンジャパン合同会社という巨大な配送センターを持ち、日本人を顧客として大規模なネット販売ビジネスを展開し、その売り上げは、何と!昨年で1兆1千億円もあったのにもかかわらず、です(純利益は分かりませんが数百億円に上るでしょう)。

 

(法人税を払わないなんて)そんな馬鹿な、と思いますが、外国企業(非居住者等)に関しては日本国内に支店や支社などのなどの拠点がなければ法人税をかけられないというのです。それは「恒久的施設(PE)」と言い、「PEなければ課税なし」というのがこれまでの原則でした。でも、アマゾンには巨大な配送センターがあるではないか、これはPEそのものではないか、と誰でも思うでしょう。ところが、「『倉庫はPEには当たらない』(正確には、『倉庫の様々な機能を活用した活動の全体が、準備的・補助的なものである場合にはPEに当たらない』)」という規則ゆえに(森信茂樹・東京財団上席研究員/税・社会保障調査会座長)、配送センター等はPEではないと言うのです。

 

そんな馬鹿な!(これで馬鹿を二回使いました-失礼)ということで、実はOECDがこのような規定は租税回避に繋がるのではないかということで、「グローバル企業は払うべき(価値が創造される)ところで税金を払うべきとの観点」に立って、BEPS(税源侵食・利益移転)プロジェクトをスタートさせたのです。そこでは「人為的にPEの認定を逃れることを防止するために、租税条約のPEの定義を変更する」(行動7)とされたのです。

 

が、BEPSプロジェクトは勧告であり法的な拘束力がありませんので、行動7につき行動15(多国間協定の開発)で対応するとしたのです。そしてついに、2016年11月24日100を超える国・地域が多国間協定の交渉妥結に至ったのです。これを受けて、日本の財務省も、冒頭に述べたように、「現在は支店や支社などの拠点がなければ法人税をかけられないが、大型の配送用倉庫などがあれば課税できるようにする」として外国企業の課税対象の拡大を企図し、国内法を改正する段取りへと進んだのです。

 

これで、ようやくアマゾンからも法人税を取れる!と思ったのですが、何と先の多国間協定につき米国が署名していないことと、(古いPE規定のままの)日米租税条約があるため、いぜんとしてアマゾン等米系グローバル企業からは法人税を取れないまま推移しそうです。同じ悩みを抱えるEUは国際的に決まらなければ(米系企業に適用できなければ)、EU独自策を取ると言っています。日本もぜひそうすべきではないでしょうか。

 

追記. では日本での売り上げは、(日本にあるアマゾンジャパン合同会社ではなく)米国のワシントン州法人である Amazon.com Int’l Sales, Inc. に入り、同社が米国に法人税を払っているという形となっている。すると、ものすごく円安(ドル高)になったら、米国のアマゾンはすごく損をすることになると思うのだが…? (逆に、円高・ドル安になれば為替差益=不労所得そのもの=が生じますが)

 

 

【日本経済新聞】財務省 外資への法人税課税の対象拡大

 

 財務省は日本で営業する外資企業の課税対象を広げる。現在は支店や支社などの拠点がなければ法人税をかけられないが、大型の配送用倉庫などがあれば課税できるようにする。ネット通販企業などにも法人税を課せるようにする。日本、欧州、中国などが参加する多国間協定に対応して、2018年の通常国会で関連法を改正する見込みだ。

 一方で米アマゾン・ドット・コムのような米国企業の場合は見直しの対象外だ。米国はOECDの多国間協定に署名しておらず、日米間の租税条約が適用されるため課税されない。

 

 グローバルに展開するIT企業のなかにも認定できるPEがなく、国内で事業展開していても課税対象外となる企業がある。欧州委員会は「国際的な進展が乏しければ、EU独自策を導入すべきだ」と主張しているが、日本はグローバルに協調すべきだとの立場だ。

 

図は、「アマゾン日本事業の売上はほぼアメリカへ ~自国の税金をどう確保していくか~」よりお借りした。
https://manetatsu.com/2016/06/66812/

出国税:貴重な税収を一国の一部セクターに使用すべきではない

各メディアからの報道によれば、観光資源の財源確保のための「出国税」が2018年度税制改正大綱に盛り込まれる方向性となったようです。訪日外国人ならびに出国日本人など国際線航空機利用者やクルーズ船利用者から「1人1000円の徴収」が有力案のようです。そもそもこの税制は「政府内などで制度の是非を巡る十分な議論も経ないまま唐突に浮上した」(1027日付日本経済新聞)という経緯がありますが、航空券連帯税との関係で問題点・今後の対応などを探ります。

 

領土外の消費行為への課税は地球規模課題の対策に(グローバル化の負の影響も考慮し)

 

私たちは航空券連帯税を求めていますが、もし国際線航空機利用を含む出国税を実施するなら、その税収を観光資源の確保(だけ)に使用するのではなく、世界の貧困や気候変動等のグローバルな課題に使用すべきと提言してきました。

 

というのは、これまで国際線利用者に消費税が免除されてきたのは、自国の領土外の消費行為であるためであり、その性格からして税収を自国の課題のみの使うべきではないのです。こうした考えは租税法のオーソリティーである金子宏東京大学名誉教授が1990年代から提唱していたものです(『人道支援の税制創設を 国際運輸に定率で』日経新聞 200686日)。

 

それだけでなく、今日国際的な航空網の発達というグローバル化に伴って負の影響が生じており、航空機利用者は一定コストを負担する必要性があります。負の影響とは感染症の地球規模の拡大や温室効果ガスの排出増などで、その対策費用の一部を払っていただくことです。

 

ともあれ、新しい税収による貴重な財源は、一国の観光という一部セクターのみに使うことは避けるべきと考えます。

 

●観光のための財源は実は余っている!?

 

ところで、今回の出国税構想は観光資源のための財源を確保することですが、実はその財源は十分に足りているという指摘があちこちからなされています。

 

「観光庁を所管する国土交通省は、18年度の公共事業の関連予算で前年度比16%増の6兆円強を要求。北海道局だけでも空港予算は160億円に上り、訪日客の受け入れ整備に使う。観光目的とあらば仏像修繕から国立公園の整備、税関強化などあらゆる分野に適用が可能で水ぶくれの恐れが高い」(1027日付日経新聞)

 

17年度観光庁予算210憶円、出国税税収予測410億円という金額を前提にして)「国家全体の観光関連予算は約3200億円ある。観光政策を推進する観光庁がこれら全体を統括できなければ、機能は発揮できない」と日本観光ホスピタリティ教育学会の鈴木勝会長が言っていますが、実は観光関係予算は観光庁を含む国土交通省や農林水産省、経済産業省関連にもあるというのです。

 

問題は観光行政の司令塔である観光庁のマネジメントがうまく発揮できていないところにありそうです。

 

実際、税収の主たる使途先となる地方の観光地の関係者は、「…中部地方の観光地の自治体関係者は『もともと外国人観光客を受け入れるノウハウや人材が足りない市町村は、予算を有効に使えないのではないか』と話す」(916日付東京新聞)という状況です。

 

また、東北インアウトバウンド連合(仙台市)の西谷雷佐理事長は、「財源は必要なので否定はしないが、もっと有効な手法を探ってみるべきだ。世界的には行政に観光課がないのが一般的で、民間に委託されている。新しい税を徴収する前に、整理すべき予算や団体があるのではないか」(1018日付河北新報)。

 

こうしたことから、「観光目的とあらば仏像修繕から国立公園の整備、税関強化などあらゆる分野に適用が可能で水ぶくれの恐れが高い」(同上日経新聞)とか「『観光立国』を名目に集めた税金が、地方の効果の薄い施策や公共事業に投じられる懸念も残っている」(同上東京新聞)という懸念が指摘されています。

 

●受益と負担の関係が大きく乖離:出国日本人1700万人に受益なし

 

1013菅義偉官房長官は記者会見で、出国税につき「受益と負担の適正なあり方を勘案し、増加する観光需要に高次元の対応を行う観点から具体的な検討を深めていく」と述べました。この税制で受益するのは主に観光を目当てとした訪日外国人客で、出国日本人はほとんど受益しません。ところが、この出国税は、訪日外国人はもとより出国日本人からも徴収することになります。出国する両者のうち、日本人は約42%を占めます(訪日外国人2400万人、出国日本人1710万人、2016年)。

 

また、訪日外国人のうちビジネス客は約20%を占めます(2015年)。したがって、400500万のビジネス客にも受益はありません。

 

これでは「受益と負担の適正なあり方」とは程遠いと言えるでしょう。

 

●地球規模の課題の財源も射程に、引き続き航空券連帯税も要求

 

繰り返しますが、私たちは貴重な出国税からの税収につき、一国の観光という一部セクターのみに使うことは避けるべきと考えます。そもそも観光資源のための財源は十分にあるようです(どうしてそれが有効に使われていないかの検証も必要でしょう)。従って、観光庁が観光地の地元・関係者ならびに他省庁と協働・協議を行いつつ、ありうべき観光インフラの整備等についてマネジメントしていくことが先決であるように思われます。

 

ところで、出国税が18年度税制改正大綱に盛られたとしても、実施するのは19年度のようです。したがって、私たちはその間、1)いぜんとしてその税金が公共事業の水ぶくれ・無駄遣いになるという懸念が強く出されていることに対し、観光庁の検討委員会は真摯に検討すべきである、2)出国税を実施するとしてもその税収を観光資源の財源にのみ使用すべきではなく、グローバルな課題についても使用すべき、3)(地球規模の課題に使用しないとすれば、引き続き)パンデミック等が心配される感染症対策等を目的とする航空券連帯税を実施すべき、ということを要求していきます。

 

3)につき、韓国では、観光目的のための出国税も航空券連帯税も実施していますので、十分実施が可能です。

 

<資料>

日経新聞】出国税構想、見切り発車 受益・負担に見えづらさ

 

【日経新聞】「出国税」は本当に要るのか 

 

【朝日新聞】「出国税」千円、日本人も対象 政府方針、19年度から

 

【税制調査会・参考資料】人道支援の税制創設を 国際運輸に定率で

 

【訪日ビジネスアイ】観光庁の出国税「財源確保としては疑問」×「予算整理や法の整備を」

 

【河北新報】<衆院選 東北・経済人に聞く>論点(5完)観光 人材育成 時間も必要

 

【東京新聞】「出国税」新設を検討 外国人誘客、日本人も負担?

 

 

 

シンポジウム「税と正義/パラダイス文書、グローバル・タックス、税制改正」

定数に達したため、申込み受付を終了させていただきます!】

 

シンポジウム「税と正義/パラダイス文書、グローバル・タックス、税制改正」

 

・講演1:伊藤 恭彦(名古屋市立大学人文社会学部教授/副学長)

・講演2:津田久美子(北海道大学法学研究科博士課程 日本学術振興会特別研員DC1)

・講演3:三木 義一(青山学院大学法学部教授/学長)

 

◎日 時:2017年12月3日(日) 13時00分~16時50分  
◎会 場:青山学院大学渋谷キャンパス 14号館(総研ビル)5階14509教室
     キャンパスマップ
◎共 催:グローバル連帯税フォーラム、民間税制調査会
◎資料代:500円
◎申込み:info@isl-forum.jp から、お名前、所属(あれば)ならびに「12.3シ

     ンポ参加希望」とお書きの上、お申込みください。

 

●パラダイス文書と「税の正義(タックス・ジャスティス)」を考える

 今日、国内的にも世界的にも格差・不平等が拡大していますが、昨年のパナマ文書に続き、今回のパラダイス文書で暴露されたように各国の著名な政治家や富豪そしてグローバル企業のタックスヘイブンを利用した税金逃れの横行は、これに大いに拍車をかけています。こうした格差や不公正を背景として、各国で排外主義的なポピュリズムが吹き荒れています。

 

 格差拡大をもたらしているのは、度を越した金融緩和やグローバル企業が優位となる経済・税政策(含むタックスヘイブンの存在)によりグローバル企業と富裕層が肥大化してきたからです。その結果、「世界の富豪トップの8人の資産と世界人口の下位半分の36億人の資産が同じ」(国際NGOオックスファム、2017年)という異様な事態が出現しているのです。

 

 ひるがえって、経済のグローバル化の土台である市場社会は競争社会でもあり、それが行き過ぎると人間の尊厳を奪う可能性を内包します。格差と貧困の拡大はその典型的事例です。従って、市場社会で人間の尊厳を確保するには、政治分野での民主主義とともに、税・財政分野での再分配を軸とする「税の正義」が求められています。

 

 今日、タックスヘイブンの存在とそこへのグローバル企業や富裕層の利益(資金)移転の増加はあまりにも不条理であり、(たとえ合法であっても)許されることではありません。また政治社会的に野蛮なポピュリズムが台頭する時代にあって、あらためて「税を人間の尊厳を維持するためのシステム」へと変えるにはいかにすべきか、を考えていきます。

 

●タックス・ジャスティスからグローバル・タックスへ--その原点と欧州FTTの課題

 とはいえ、経済がグローバル化した社会にあっては、一国内でのタックス・ジャスティスの追求には限界があること、また世界の貧困や地球環境問題、さらに加えてタックスヘイブン(グローバル企業等の税金逃れ)など地球規模課題に取り組まなければならないこと等から、今やグローバルなジャスティス、とくにグローバルな分配的正義に関する議論と実践が必要となってきています。タックス・ジャスティスからグローバル・タックスへ--その原点と可能性を探っていきます。

 

 グローバル・タックスのひとつが、金融取引税(FTT)です。2008年リーマンショック後の国際的な金融危機の後、2011年欧州委員会は欧州連合(EU)規模の金融取引税を2014年1月に導入する指令案を提示しました。しかし、議論の進展とともに規模が縮小し、現在はユーロ圏10か国での先行導入が計画されていますが、これも遅々として進まない状況となっています。ところが、今年9月マクロン仏大統領は「欧州改革」の一環として、FTTを国際協力のための資金として英国を含めて全欧州で導入すべき、という新たな提案を行いました。EU-FTTの最新情報と課題について報告していただきます。とりわけ、FTTは金融機関の資金の流れを透明にする役割を負っており、この面から不正な資金の流れを押しとどめることができます。

 

●2018年度税制改正を軸にタックス・ジャスティスを探る

 12月は次年度の税制改正について確定するときです。日本の税制がタックス・ジャスティスとしての役割を果たしていないこと、別に言えば、再分配機能がきわめて弱いこと、このことがとみに指摘されてきました。実際、子どもの貧困率をはじめひとり親世帯や高齢者世帯の貧困率が高まっています。また、非正規雇用が全雇用者の40%近くを占め、社会全体としての貧困化は改善されずじまいです。一方、家計金融資産は過去最高の1800兆円まで膨らみ、富裕層は年々増加しています。日本社会でも確実に格差が拡大しています。

 

 格差拡大を是正する手段の一つが税制改革です。しかし、政府与党がこの数年課題としてきた所得税改革は鳴りを潜めてしまい、さらにあまりにも突然行われた衆議院選挙のため税制改革の議論は大幅に後退しています。あらためて「格差を是正し、分厚い中間層を形成する税制と財務支出」(民間税制調査会設立宣言)をめざす立場から、18年度税制改正を軸にタックス・ジャスティスの在り方、ならびにタックスヘイブン問題を日本でどうするか、を探っていただきます。

 

<プログラム>

・講演(1)「税の正義とグローバル・タックス~パラダイス文書からひも解く」  13時05分~14時05分(60分) 

   講師:伊藤 恭彦(名古屋市立大学人文社会学部教授/副学長)

・講演(2)「EU金融取引税:現状と課題」 14時05分~14時35分(30分)                                  

   講師:津田久美子(北海道大学法学研究科博士課程 日本学術振興会特別研究員DC1)

・講演(3)「2018年度税制改正の課題:格差是正は可能か?」  14時50分~15時30分(40分)

   講師:三木 義一(青山学院大学法学部教授/学長)

◎パネル討論  15時30分~16時40分(70分)

 

<講師プロフィール:敬称略>
■伊藤 恭彦(いとう・やすひこ)
 1961年生まれ。大阪市立大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得。博士(法学)。静岡大学人文学部教授を経て、名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授。主要著書に『貧困の放置は罪なのか―グローバルな正義とコスモポリタニズム』(人文書院、2010年、2011年日本公共政策学会著作賞受賞)、『タックス・ジャスティス―税の政治哲学』(風行社、2017年)など多数。

 

■津田 久美子(つだ・くみこ)
 1986年生まれ。北海道大学法学研究科博士課程、日本学術振興会特別研究員(DC)。2008年、中央大学総合政策学部を卒業。日本アイ・ビー・エム株式会社にて3年半の勤務を経て、2013年に北海道大学法学研究科修士課程入学、15年修了。著作に「『車輪に砂』―EU金融取引税の政治過程:2009-2013年(1)/(2・完)」『北大法学論集』66巻6号/67巻1号。

 

■三木 義一(みき・よしかず)
 1950年生まれ。一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。立命館大学法科大学院教授を経て青山学院大学法学部教授。専門は租税法、弁護士。2015年12月より青山学院大学学長。主要著書に『日本の納税者』(岩波新書、2015)、『日本の税金 新版』(岩波新書、2012)、『よくわかる税法入門(第9版)』(有斐閣、2015)、『よくわかる法人税法入門(第2版)』(編著、有斐閣、2015)など多数。

 

◆写真は、2015年11月のシンポジウム「ピケティ『21世紀の資本』とグローバル・タックス」のもようです。

 

【報告】10.4サンタマンOECD租税センター局長講演会

写真:サンタマン講演会①

 

(サンタマン局長は、2日に来日して経団連、浅川財務官等との会合等をこなし、4日午前私たちへの講演を行い、午後にはニューヨークへ飛び立ちました。超過密スケジュールの中での講演でした。以下、報告です)

 

104日水曜日、参議院議員会館にて、パスカル・サンタマン(Pascal Saint=AmansOECD租税センター局長に「BEPSプロジェクト――進捗と課題」と題した市民向け講演を行っていただきました。BEPSとは「税源浸食と利益移転」の略で、国際的な租税回避行動への包括的な対抗策を講じるために、OECD/G20で進められてきたプロジェクトです。

 

講演の後には参加者からの質問にも答えていただき、盛況のうちに閉会しました(この質問への回答には興味深い内容がありましたので別稿で報告します)。また最後に司会者から、BEPSプロジェクトでは今も検討課題に関する市民からの意見公募を行っていることが紹介され、日本の市民社会からも積極的な参加が呼びかけられました。平日日中の開催にもかかわらず、当日は30名の皆さんにご参集いただきました。ありがとうございました。

 

●以下、報告の続きはこちらをご覧ください   PDF

 

 

マクロン大統領、金融取引税に向け再起動>公的援助資金として

フランスのマクロン大統領は、9月26日パリのソルボンヌ大学で「主権を有する、結束した、民主的なヨーロッパのためのイニシアティブ」と題する「欧州改革プロジェクト」を発表しました。

 

そのプロジェクトのひとつとして、欧州金融取引税(FTT)を再起動させたいと言明。しかも、これまで(欧州全体での導入が無理だったため「強化された協力」という手続きで)有志国10カ国の先行導入を目指して協議してきましたが、今回のマクロン提案はBrexitした英国を含む28カ国での導入を目指す、というものです。

 

その目的については、アフリカ開発支援など“European public aid”(欧州公的援助)のためとしています。ご承知のように、2011年の欧州委員会指令案ならびにその後の10カ国導入案での目的は、財政を増やすためでした(前者は欧州全体の財政、後者は各国財政)。

 

詳細は、EURACTIVの記事をご覧ください。同案は、しかし前途が厳しいこと(総選挙後のドイツ・メルケル政権の右傾化の可能性などから)なども書かれています。

 

【EURACTIV】Macron relaunches financial transaction tax project, including the UK

 

 

サンタマンOECD局長講演会「BEPSプロジェクト- 進捗と課題」

OECDやG20はアップルなど多国籍企業の税逃れを防止すべくBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを開始しています。進捗状況と今後の課題について、その中心的役割を果たしているサンタマンOECD租税センター局長からじっくりお話を聞きたいと思います。

 

 

        「BEPSプロジェクト - 進捗と課題」

       講師:パスカル・サンタマン氏(OECD租税センター局長)

 

 日頃のご活躍に心より敬意を表します。パナマ文書が公開されて約1年半が経過しましたが、大企業や富裕者によるタックスヘイブン(租税回避地)を利用した税逃れの仕組みはいまも変りません。

 

 一部の大企業や富裕層が税逃れを図れば、もっぱら課税が一般市民に押し付けられることになり、公正であるべき税制を歪めてしまいます。また社会保障や教育など公共支出に必要な財源を奪い、財政の基盤を危うくしています。

 

 OECD(経済協力開発機構)やG20諸国は、アップルやスターバックスなど多国籍企業による税逃れに歯止めをかけるために、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを開始し、一昨年秋に最終報告書を発表しました。現在、各国はその内容に沿って、国内法の改正や租税条約の改定に取り組んでいるところです。

 

 BEPS報告書の内容はあまり知られていませんが、私たちの生活に密接なかかわりのある問題であり、政府や企業任せにするのではなく、私たち市民がその内容や意義を理解し、監視していく必要があります。

 

 この度、講師としてお招きしたパスカル・サンタマンさんは、OECDの租税センター局長で、BEPSプロジェクトを推進してきた中心人物です。サンタマンさんはこのプロジェクトを成功させるためには市民運動の支えが不可欠と考えています。この機会にBEPSプロジェクトについて学び、ともに考えましょう。ご多忙とは存じますがぜひご参加くださるよう願います。

 

                                                  記
◎日 時: 2017年10月4日(水) 午前10時~11時30分
◎場 所: 参議院議員会館  B104会議室
◎主 催: タックス・ジャスティス・ネットワーク・ジャパン(TJN―Japan)
◎後 援: グローバル連帯税フォーラム、公正な税制を求める市民連絡会、民間税制調査会

◎申込み: info@isl-forum.jp から、お名前、所属(あれば)、ならびに「サンタマン氏講演会参加希望」とお書きの上、お申込みください。

  ※参加希望者は午前9時50分までに参議院会館ロビーにお集まり下さい。
  ※会場で通訳代として500円を徴収させていただきます(逐次通訳が入ります)。

【連絡先】 携帯電話 090-3598-3251 (田中)

 

◆講師紹介:
Pascal Saint-Amans(パスカル・サンタマン)
1996年からフランス財務省で税務畑を歩む。2007年からOECDで租税回避対策などに携わる。12年から現職、48歳。

 

◆チラシもご利用ください ⇒ PDF

15日観光庁検討委員会>出国税と航空券連帯税の「受益と負担」

観光庁(国土交通省)は15日、国内の地方の観光施設整備などに使う財源を確保するための有識者検討委員会を開催しました。検討委員会には、次の3案が提示されたようです。「▽出入国者(出国税など)▽航空機利用者(航空旅客税など)▽宿泊施設の利用者(宿泊税など)」(毎日新聞)。が、観光庁側の本心は出国税であることは間違いありません。

 

●国土交通省の二枚舌

 

これまで国交省は、外務省から新設要望として9年間出し続けている航空券連帯税(以下、連帯税)につき「観光客の減少が予想される」などとして反対してきました。出国する国際線航空から徴税するという仕組みにおいては、連帯税も出国税も変わりません(当然使い道が違ってきます)。連帯税で客が減少するなら、出国税でも減少するはずですが、そのことは不問にしています。これこそ二枚舌ではないでしょうか。

 

●出国税は受益と負担の乖離が大きすぎる

 

以前にも書きましたように、一応観光庁側は「受益と負担」との関係を気にしているようですが、受益する外国人観光客だけに課税すれば「内外無差別原則」(WTOサービス貿易など)に反しますし、出国する日本人にも課税するとすれば受益はなく負担だけとなってしまいます。また、訪日外国人もすべて観光客ではなくビジネス客もいますが、こちらも受益なしです。

 

また東京新聞では次のような指摘がなされています。

 

検討会で座長の山内弘隆・一橋大大学院教授は「財源的な裏付けが観光の持続的な発展につながる」と述べた。ただ、使途は明確に示されておらず、中部地方の観光地の自治体関係者は「もともと外国人観光客を受け入れるノウハウや人材が足りない市町村は、予算を有効に使えないのではないか」と話す。「観光立国」を名目に集めた税金が、地方の効果の薄い施策や公共事業に投じられる懸念も残っている。

 

ところで、座長の山内教授ですが、20109月に開催された政府税制調査会の国際課税小委員会において有識者として出席し、「航空券連帯税により、航空利用者の負担とすることについては、受益と負担の関係が不明確」として批判的見解を述べていました。出国税は「受益と負担の関係が明確だ」とぜひ証明していただきたいですね。

【山内教授】航空券連帯税について

 

●航空券連帯税に関する受益と負担の関係について

 

航空券連帯税に関する受益と負担の関係は、ちょうどODAのそれと同じです。ODA資金は国民からの税金から拠出されますので、負担者は日本の国民です。一方、ODA資金を受け取りそれを貧困対策や基礎教育関係などに使うのは途上国です。つまり、受益者は途上国の国民ということになります。

 

え? ではODAも受益と負担との関係が乖離しているではないか、と思われるかもしれません。しかし、「情けは人のためならず」ということわざにもあるように、それなりに裕福な国民が困窮する国民を助けることは、まわりまわってやがて逆の関係になることもあるのです。実際、先の東日本大震災で、ハイチはじめ世界の最も貧しい国々からも支援の申し込みが寄せられました。それはともかく、困っている隣人を助けることは、それが国同士の関係においても必要なことであり、(貧困国で多発している)民族対立や地域紛争を未然に防ぐことができるのです。そういう意味で、ODAは直接的には受益と負担との関係は薄いものの、間接的にその関係は濃いものとなっていきます。

 

話を航空券連帯税に戻しまして、負担するのは飛行機の国際線を利用する客で(以下、利用者と略)、受益するのは途上国の国民です。利用者には直接受益はないものの、途上国の貧困や感染症対策などグローバルな課題の解決に資することになり、上記のODAのように間接的ながら利用者にも受益が及びます。

 

さらに航空券連帯税はそれにとどまりません。利用客は地球規模の航空網の発達というグローバル化の恩恵を受けていますが、反面、航空網の発達は感染症(デング熱やジカ熱など)のパンデミック的な拡大、温室効果ガスの大量排出という負の影響をもたらしています。これを改善するにはコストがかかりますが、今日利用者はそのコストを支払っていません。この負のコストを支払ってもらうことは実に理にかなっていると思います。

 

ところで、グローバル化の恩恵を受けているのは、国境を超えて経済活動を行っている航空、船舶、電子、金融、貿易などです。ですから、国際(グローバル)連帯税は航空券のみならず、輸送税、電子商取引税、金融取引税、多国籍企業税などを射程に入れて導入を図っていきたいと考えています。

18年度税制改正要望での「出国税」と「航空券連帯税」

(1)国交省、18年度税制改正(新設)でいわゆる「出国税」を要望

 

先に外務省が18年(平成30年)度税制改正(新設)で引き続き「国際連帯(貢献)税」を要望したことをお知らせしましたが、国土交通省は『次世代の観光立国実現のための財源の検討』というきわめて漠然とした税制を要望しています(下記参照)。この財源ですが、マスコミでも報道されていますように、いわゆる「出国税」であることは間違いありません。

 

「出国税」とすれば、日本から飛行機や船舶で出国する人たちの運賃(航空券や船舶券)に税を課すことになります。飛行機ですと国際線を利用する人が税を払うことになりますが、この仕組みは航空券連帯税と同じです。

 

(2)国交省は航空券連帯税に反対していながら、出国税を要望するのはおかしくないか?

 

国交省は航空業界とともに、この間ずっと航空券連帯税に反対してきました。その理由は、「観光立国として頑張ろうとしているのに、航空券に税がかかると観光客が減少してしまう」というものでした。ところが、出国税もやはり航空券に税がかかることになりますので、本来なら反対となるはずですが。航空券連帯税だと観光客は減るが、出国税だと観光客は減らないとでもいうのでしょうか。まったくのご都合主義といえるでしょう。

 

(3)出国税は誰に課税するのか? 受益と負担の関係は?

 

この国交省の要望は、漠としていて具体的な税目も課税方法も税収もいっさい書かれていませんが、メディア報道等によれば、航空機や船で出国する旅行者をターゲットにした出国税を想定しています。

 

そこでまず課税対象の問題が起きますが、要望では「観光立国の受益者の負担による」と書かれています。しかし、「観光立国の受益者」とは誰なのか? よく分からない定義ですが、報道などを読むとどうやら訪日する外国人観光客のようです。したがって、課税対象は外国人観光客となります。

 

するといろいろな問題が起きます。ひとつは、出国日本人の扱いです。受益者定義からすれば、出国日本人は課税対象にはならないはずですが、そうなれば、①徴税システムが煩雑になる、②WTOサービス貿易に違反する、という問題が起きそうです。①ですと、例えば同じJALの飛行機に乗っても、税を払う人(外国人)と払わない人(日本人)が出てきますので、JAL側は分けて税務当局に報告し、徴税をして納入しなければなりません。また、②のWTO違反とは「運送サービスの越境取引での差別」の問題(注)につながってくると思います。したがって、外国(の政府や航空会社・旅行会社・旅行客)から相当反発されるのではないでしょうか。

 

(注)「サービスの貿易」とは何か 

 

実際、出国税のある香港やオーストラリアでは「課税対象:香港(オーストラリア)から出発する旅客」となっており、外国人と内国人を区別していません。

 

さらに、要望内容では「受益と負担の適正なあり方…を勘案しつつ」と言っていますが、次のようなフリーライダーが現われてきます。つまり、負担しないが受益する人たちです。国内の日本人旅行者や日本人相手の国内旅行業者、それと観光地の地元の土産物屋やホテル業など、です。

 

(4)観光資源だけでなく、地球規模課題を包含した「出国税」を

 

国交省が出国税を要望するということは、これまで「航空券税のような税制は観光立国を目指すという政策に逆行する、観光客が減少する」と言ってきたことを翻した、というように解釈してもよいでしょう。しかし。観光資源の財政のための出国税というだけでは、上記のような受益と負担問題もあり、きわめて課税根拠が弱いと言えます。

 

本来、出国税であろうが航空券連帯税であろうが、日本政府の課税権が及ばない(したがって、一般消費税が課せられない)国際線航空へ課税することになり、その行為は日本政府が超国家の肩代わりとして行うことになるという性格を持ちます。それ故に、税収も日本国内の政策の財源にするのではなく、超国家的(グローバルな)課題の財源にすべき、というのが「航空運賃への国際人道税」を提唱した金子宏・東京大学名誉教授でした(注)。

 

(注)「人道支援の税制創設を 国際運輸に定率で」(日本経済新聞)

 

実際、グローバルな課題は、貧困・飢餓、感染症、テロや難民、気候変動等枚挙にいとまがなく、したがってその財源もいくらあってもありすぎることはありません(というか、圧倒的に不足している)。

 

以上から、出国税もグローバルな課題の財源とすることも内包しつつ(とくに航空網など国際交通の発達は感染症のパンデミック的拡大の危険性がありそれへの対処が求められている)、観光資源のための財源としても考慮する、ということも考えられるのではないでしょうか。これを一言でいえば、「国際貢献と日本文化・観光に関する出国税」の創出となりましょうか。

 

「国際航空運賃に対する課税は国家の領土主権の外で行われる消費行為に対する課税であるから、その税収はこれを徴収した国家の歳入とされるべきではなく、国際社会のために使うべきである」(金子宏 同上)。

 

 

 

平成30年度税制改正要望(国土交通省)

 

◎制度名:次世代の観光立国実現のための財源の検討 (新設)

 

◎要望の内容:
増加する観光需要に対して高次元で観光施策を実行するために必要となる国の財源の確保策について、受益と負担の適正なあり方や訪日旅行需要への影響を勘案しつつ、諸外国の取組も参考に検討を行う。
 

以下、省略

 

18年度税制改正要望>外務省、9年連続「国際連帯税」を新設要望

2018年度(平成30年度)税制改正要望が8月31日締め切られましたが、外務省は9年連続して「国際連帯税(国際貢献税)」を新設要望しました(下記、外務省要望事項参照)。今回の特徴としては、持続可能な開発目標(SDGs)の推進という文脈の中から革新的資金メカニズムの必要が語られ、国際連帯税(国際貢献税)を要望するというもので、これまでの要望内容に太い線が入ったということで評価することができます。

 

しかし、問題は国際連帯税の中のどの税制を要求するか、です。が、外務省は事例として航空券連帯税と金融取引税を挙げているだけで、この税を新設したいという具体性に欠けており、その分迫力不足であることは否めません。

 

ともあれ、私たちは具体的に航空券連帯税の実現を第一義に(次のステップは金融取引税)、次の舞台は与党税制調査会での議論の場となりますので、ここをターゲットにロビングを強化していきます。同時に、国際連帯税創設を求める議員連盟とともに、官邸に向けての申し入れ等を行っていきたいと考えています。どうぞご支援、ご協力をお願いいたします。

 

 

◆外務省 平成 30年度税制改正 要望事項

 

[制度名]:国際協力を使途とする資金を調達するための税制度の新設
[税 目]:国際連帯税(国際貢献税)
[要望内容]:…前・中略… 以上を踏まえて,以下のとおり要望する。①と②は省略。
③ 課税方法として,我が国としてどのような方式を導入することが適当かについては,【持続可能な開発目標(SDGs)の推進等に係る我が国の取組や開発アジェンダを巡る国際潮流及び国際連帯税(国際貢献税に係る】国際的な取組の進展状況を踏まえつつ検討する。
 ※【 】内は、昨年度の要望書に加えられた文章

 

外務省「平成 30年度税制改正 要望事項」の全文

 

 

◎写真は、主に航空券連帯税からの収入で感染症の治療薬を提供しているユニットエイド(国際医薬品購入ファシリティ)による、サヘル地域での子供たちのマラリア対策への支援の動画の一部です。
……
サヘル地域では2500万人の子供たちが暮らしています。ここは季節ともなればマラリアの恐怖が押し寄せます。 世界保健機関(WHO)は効果的マラリア対策として「季節性マラリアの科学的予防(SMC)」を推奨しています。2016年には約1200万人の子供たちがSMCで守られました。そのうち640万人はユニットエイド出資のACCESS-SMCプロジェクトによるもの。プロジェクトの実施は マラリア・コンソーシアムが カトリック・リリーフ・サービスと共に担当しています。

 

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https://youtu.be/IWnOeK2-DKA