isl-forum-wp-author のすべての投稿

金子文夫氏『格差是正は世界的潮流だが・・・』を転載

「経済分析研究会」のメルマガに掲載された金子文夫・横浜市大名誉教授の『格差是正は世界的潮流だが・・・』を転載します。一点付け加え。ドイツの総選挙で第一党になった社会民主党はコロナ禍で拡大した格差是正のため、最低賃金のUP、高額所得者への所得税の増税、富裕税の再導入、金融取引税等を掲げていました。以下、本文です。

 

 

格差是正は世界的潮流だが・・・

 

 コロナ禍で世界的に格差是正・分配重視の政策潮流が浮上している。米国のバイデン政権は富裕層・大企業増税による子育て・教育等支援策を提起、ドイツは社民党が第1党となり最低賃金引上げ・富裕層増税を主張、中国は習近平政権が「共同富裕」を提唱、日本では岸田政権が分配重視の「新しい資本主義」を表明している。こうした新政策はどれほどの現実性をもつのか、米中日の順にみていこう。

 

薄れるバイデン政権の野心的な政策

 

 バイデン政権は発足早々、二つの大規模な中長期経済政策を打ち出した。一つはインフラ整備を中心とする「米国雇用計画」(8年2.3兆ドル)、もう一つは子育て・教育支援を核とする「米国家族計画」(10年1.8兆ドル)であり、財源は大企業・富裕層増税、金融所得課税強化によるとした。このような大きな政府への路線転換の背景には、米国の貧富の格差がますます拡大し、社会の分断が深まっている現実がある。

 

 しかし、大型計画の議会通過は容易でなく、妥協策の模索が続く。「米国雇用計画」は1兆ドルのインフラ投資法案に縮小され、企業増税の見送りで超党派の合意が成立した。一方「米国家族計画」は雇用計画で残された分野を組み込む形で総額3.5兆ドルの社会福祉投資法案へと再編され、民主党単独で下院の予算決議を通過させた。ただし、それを実施するには歳出・歳入法案を通さねばならないが、下院通過は民主党内の保守派の抵抗により本稿執筆時点で決着していない。

 

 総額の2兆ドルへの削減、法人税率引上げ目標の28%から26.5%への引き下げなど、妥協策が取り沙汰されている。

 

 バイデン政権の野心的な経済政策は次第に薄められており、22年中間選挙に向けてさらに譲歩が繰り返されるだろう。格差是正は一朝一夕にはいかない難題であることがうかがえる。

 

習近平政権の「共同富裕」は掛け声ばかり!?

 

 8月に習近平政権は「共同富裕」新政策を発表した。格差是正のために所得再分配を図るとして、労働政策、税制、寄付奨励の3項目をあげた。労働政策では、インターネットを介して仕事を請け負う配達員など新種の労働者の待遇改善、税制では所得税の累進税率の引き上げのほか、固定資産税、相続税の導入を検討するという。また、経済活動による富の第一次分配、税などの権力による第二次分配のほかに、寄付による第三次分配を設定する考え方が示された。

 

 本気で格差是正を図るのであれば、戸籍制度の改革と税制改革に進むはずだが、実際には第三次分配が焦点化している。寄付要請への大企業・富裕層の反応は素早く、テンセントが農村振興・低所得層支援の基金8500億円設立、アリババが1兆7000億円の拠出を表明、その他大手デジタル企業と経営者の寄付申し出が相次いだ。デジタル企業の迅速な対応は、独占禁止法違反等による企業制裁強化に対する防衛策の意味がある。「共同富裕」は、かつての「先富論」の結果、経済成長が実現して「小康社会」に到達した次の段階の政策とされるが、同時に習近平政権の体制引き締めの意味合いも強い。

 

 2021年になり、ビデオゲームの時間規制、学習塾の規制と閉鎖、高所得芸能人の脱税摘発など、一連の引締め政策が打ち出された。これらは22年秋の第20回共産党大会における習近平長期政権確立を意図した措置だろう。学校教育では「習近平思想」が必修科目となった。そうした権力強化策が真の狙いであるならば、格差是正は掛け声ばかりが目立つ実効性のないものに終わるかもしれない。

 

岸田政権の「成長も分配も」は虻蜂取らず!?

 

 岸田政権は新自由主義からの転換、中間層に手厚い分配政策の重視など、一見するとバイデン政権に似た大きな政府路線に踏み込んだようだ。国会の所信表明演説では、分配戦略として下請け取引監視・賃上げ企業への税制支援、教育費等支援、介護職等の収入引上げなど4項目をあげた。一方それに先立って成長戦略として大学ファンド10兆円、デジタル田園都市国家構想など4項目をあげ、「成長と分配の好循環」と述べている。

 

 「成長と分配の好循環」はアベノミクスで繰り返し言われてきたことで、新しい資本主義でも何でもない。なぜそれが実現できないのかの究明が先ではないか。新自由主義からの転換、格差是正を主張するならば、バイデン政権のように大企業・富裕層増税を打ち出すべきであるが、総裁選で提起した金融所得課税は簡単に引っ込めてしまった。本格的に格差是正に取り組むのであれば、非正規雇用の地位向上、最低賃金の引上げを掲げるべきであるが、その姿勢はみえない。数値目標は成長戦略に示される一方、分配戦略には登場していない。

 

 おそらく「聞く力」を売りにする岸田首相は、各方面からの要請を並べあげるだけで、深く切り込めないのではないか。これでは成長も分配もと言いながら、虻蜂取らずになりかねない。

 

 こうみてくると、米中日3政権の位置する歴史的文脈は異なるが、格差是正を打ち出さざるをえない状況、そしてそれが成功する見通しがない点は共通しているように思われる。

                           (2021年10月16日   記)

早川元日銀理事「為替取引への課税が望ましい」と発言=ブルームバーグ

元日本銀行理事の早川英男東京財団政策研究所主席研究員は、14日のインタビューで、(1)日銀の金融政策、(2)日本経済の現状、(3) 岸田政権の経済政策について発言しています。そのうちの、(3)で「(岸田首相が提起していた)金融所得課税に関して」と思われるところで、以下のように発言しています。

 

● 金融取引への課税は、バブルの発生を抑制する観点を含めてトービン税(為替取引への課税)が望ましいが、金融所得課税の見直しは必要だ

 

なお、「岸田政権の経済政策に関する発言」は次の3点ですが、要旨のみの記述となっています。

 

1)新自由主義の限界が見えていた中で、分配を重視するのは当然。安倍晋三元首相の影響力の下で自身の主張ができず、アベノミクスとの違いがよく分からない

 

2)介護福祉士や保育士らの所得引き上げも、増税で対応するべきだ。そうした支出と財源の捻出が成長にマイナスだとは思わない

 

3)金融取引への課税…必要だ(上記参照)

 

●全文は、ブルームバーグ『2%目標ますます影薄く、「ワン・オブ・ゼムに」-早川元日銀理事』

タックスヘイブン利用実態の第3弾=パンドラ文書暴露さる

またまたタックスヘイブン(租税回避地)の実態が、パナマ文書(16年)やパラダイス文書(17年)に続いて明らかになりました。その名もパンドラ文書。文書の内容に入る前に、タックスヘイブンを巡る状況について。

 

1)タックスヘイブンを利用して税金逃れを行う富裕層や企業によって、世界では年間4270億ドル(約45兆円)もの税収を失っています。

 

2)途上国は先進国よりも失う税金は少ないが、公共支出に与える影響ははるかに大きい(先進国の税損失は公衆衛生予算の8%相当程度だが、途上国は50%以上に相当)。以上、(*)参照。

 

3)ですから、国際連帯税で途上国の保健衛生支援を行っても、タックスヘイブンへの資金流出を抑えることができなければ、まるで火事を消すのに穴の開いたバケツで水をかけるに等しい。

 

4)なお、この「パンドラ文書」には1000人ほどの日本人・企業が記載されているようですが政治家の名前はないとのこと。ただ、著名人と「孫正義氏や平田竹男氏、原丈人氏」の名前が挙がっているとのこと(以上、10月4日付朝日新聞)。

 

以下、パンドラ文書に関する朝日新聞の記事から。

 

 

【朝日新聞】租税回避は不公平の象徴、対策進む 「5年前のパナマと全く異なる」パンドラ文書

 

タックスヘイブン(租税回避地)の実態が「パナマ文書」で報じられてから5年。今回の「パンドラ文書」で、タックスヘイブンとのつながりが判明した世界の政治家や高官は330人を超え、パナマ文書の倍以上だ。ただし、日本からは政治家は見つかっていない。

 

(中略)

 

…大企業や富裕層だけが(引用者注:タックスヘイブンを利用し)税負担を減らして恩恵を受ける一方、しわ寄せは市民が負う。これは不公平の象徴となっている。

 

このため、国際社会は法制度の不備を塞ぐための仕組みを次々と設けてきた。法人の実質的支配者を透明化する制度や、非居住者の銀行口座の情報を国同士で交換する制度などだ。7月には、主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が、法人課税の最低税率を世界的に15%以上とする方針で合意した。

 

(中略)

 

各国で財政悪化や格差の拡大があっても、国際世論の圧力がないとタックスヘイブン対策は進まない。対策を決める立場の政治家たち自身が利用者であることが背景にあるのだろう。その点、これまでの文書が明らかにした限りでは、日本の政治家は比較的、タックスヘイブン利用を控えているようだ。

 

日本は国際社会で対策の仕組みづくりを主導すべきだ。(編集委員・奥山俊宏)

 

(*)タックス・ジャスティス・ネットワークの報告書によると、世界は富裕層や企業の租税回避で年間4270億ドル(約45兆円)の税収を失っているという。このうち2450億ドルは、企業の税金逃れ、1820億ドルは富裕な個人の税金逃れ。

 

【TJN】The State of Tax Justice 2020

ドイツ総選挙にみる金融取引税の位置、世界的な“カネ余り”と投機マネー

今秋G7諸国は、日本を含めドイツ、カナダで総選挙が行われます。その総選挙の大きなテーマの一つがコロナ禍でさらに拡大した格差問題です。一方、コロナ禍は超金融緩和政策を長引かせ、これが世界的な“カネ余り”をもたらし投機マネーとなって世界を駆け巡り、バブル経済状況にもなっています。

 

●9.26ドイツ総選挙>SPDとGREENSが金融取引税を掲げて

 

いち早く今月26日に投票が行われるドイツは有力三党がしのぎを削ってきましたが、やや地殻変動が起こり、この間与党の一角でありながらずっと低迷を続けてきた社会民主党(SPD)が世論調査で突然と言っていいくらいにトップに躍り出ています。

 

ドイツはもともと環境・気候変動対策の先進国で、極右政党以外どの政党もこの課題に力を入れていますが、さえなかったSPDがトップにいる理由の一つが粘り強く「格差是正」を訴えてきたことにあるようです【A】。

 

「社民党は最低賃金を時給12ユーロ(約1500円)に引き上げることや富裕層への課税強化などを公約に…」【A】しているとのことです。また、ロイター通信は同党が「国家の収入源となる富裕税や、他の欧州連合(EU)諸国と同様の金融取引税の導入を望んで」いると報じています【B】。

 

また、世論調査で一時トップに躍り出ましたが、現在第3位になっている緑の党(GREENS)も格差是正を訴えるとともに、選挙公約で「私たちは、広範な課税基盤を持つEU全体の金融取引税を導入するなどして、投機や短期主義を魅力のないものにします。金融市場の安定性と予測可能性を高めるために、有害な高頻度取引を抑制します」と訴えています【C】。

 

●メルケル首相のCDU・CSUはやや企業や富裕層に優しく

 

一方、今期で引退するメルケル首相を擁する最大政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は今年に入り急速に支持率を低下させ、ついにSPDに抜かれるまでになりました。富裕層への増税には繁栄の妨げになるとして反対し、「経済成長こそが税収にもつながる」としています【A】【B】。さらに、同党は低・中所得者への減税を言いつつも、企業減税(約30%から25%へ)も掲げています。総じて、格差是正政策に弱点があるようです【D】。

 

●財政立て直し&グローバル・イシューのための金融取引税

 

欧州における金融取引税については、すでにコロナ復興基金7500億ユーロ(約95兆円)債券の返済のための原資のひとつとして挙げられています。ただ、実施予定はかなり遅く2024年までにその制度設計など成案を得て、2026年実施というタイムテーブルとなっています。また、ここでの金融取引税はEU財政のためのもので国際連帯税的な内容ではありません。

 

こうした事態に対し、欧州のNGOや欧州議会議員などが、1)金融取引税を株取引に限定せずデリバティブ取引や為替取引を含む幅広い税制とし、かつ実施を早めること、2)税収を域内だけに使用するのではなく地球規模課題のために使用すること、などを要求して活動しています。

 

●世界的な“カネ余り”と投機マネー、通貨取引税こそ求められています

 

現在、巨大IT企業等を対象とした国際課税(法人税)ルールがOECD/G20の場で(1国課税主義を超えて)共通ルールとして確定しようという動きとなっています。これと同じく感染症パンデミック、難民、飢餓問題等の地球規模課題解決のための資金調達を国際連帯税として共通ルール化すべきです。その税制の中身は、今日通貨(為替)取引税がもっともふさわしいと考えます。

 

というのは、「コロナ対策として各国が大規模な金融・財政政策を打ち出した結果、世界的な“カネ余り”が生じている」【E】という現状があり、このカネが投機マネーとなって株式からビットコイン市場へ、そして原油や鉱物資源などの商品市場に流れ込み、世界的な株高や商品高をもたらしています。通貨取引税はこの動きのブレーキをかけることもできますし、法外に利益を上げているところから税として取り戻すべきです。

 

翻って、日本でも遅くとも11月までには総選挙が行われます。右派であれ、左派であれ、金融取引税を軸とした国際連帯税を国連、G7やG20などの国際会議の場で提案することのできる日本の政治リーダーが求められています。

 

【A】独総選挙大詰め、社民党がリード 格差是正訴え
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75713220T10C21A9EA1000/

 
【B】Factbox: Germany’s election and the finance industry
https://www.reuters.com/world/europe/germanys-election-finance-industry-2021-09-07/

 
【C】Deutschland. Alles ist drin. Bundestagswahlprogramm 2021
https://cms.gruene.de/uploads/documents/Wahlprogramm-DIE-GRUENEN-Bundestagswahl-2021_barrierefrei.pdf

 
【D】Germans ponder ‘sea change’ on tax, spending policies ahead of election
https://www.politico.eu/article/germans-ponder-sea-change-taxes-spending-policies-ahead-election/

 
【E】世界のマネーは米国株に向かう
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB077Q50X00C21A9000000/?unlock=1

 

※写真は、SPDの首相候補のショルツ氏(現財務大臣)

『世界』10月号に上村雄彦横浜市大教授の論文が掲載されました

雑誌・世界

 

雑誌『世界』10月号が本日発売となりましたが、その「脱成長――コロナ時代の変革構想」という特集で、上村雄彦・横浜市大教授の論文が掲載されていますので紹介します。この論文を読んで議論などができるとよいですね。

 

【世界 2021年10月号】

 

●特集1:脱成長――コロナ時代の変革構想
 いま、私たちは “右肩上がり” の状況を生きている――グローバル経済の指標と地球の平均気温、あるいは二酸化炭素の累積排出量と異常気象の発生確率。
 新型コロナウイルスによるパンデミックは、この急激な右上方への上昇曲線を、多少、緩和した。だが、そこには多くの人命の犠牲と生活上の困難、生きがいや働きがいの喪失がともなっている。
(中略)
 ”右肩上がり” は、歴史的役割を終えた。
 地球と我々の生活を壊さないオルタナティブが必要だ。
 新たな時代への政治的想像力を磨くために、特集する。

 

【目次】
〈変革に向けて〉
気候崩壊と脱成長コミュニズム――ポスト資本主義への政治的想像力
斎藤幸平(大阪市立大学)

 

〈アメリカの新しい潮流〉
アメリカ あらたな労働運動の波――パンデミックという危機をチャンスに変える
佐久間裕美子(文筆家)

 

〈日本への提起〉
社会的連帯経済 それは世界を変えつつある
廣田裕之(スペイン社会的通貨研究所)

 

〈地方から変革は起きる〉
ニュー・ローカルの設計思想と変化の胎動
山本達也(清泉女子大学)

 

〈地球規模の転換〉
グローバル・タックス、GBI、世界政府
上村雄彦(横浜市立大学)

 

●特集2:東京オリンピック 失敗の本質 <省略>

 

なお、特集とは別の「注目記事」でフォーラムのセミナーで講師を務めていただいた稲場雅紀さんも執筆していますので紹介します(勝俣先生も)。

 

《パンデミックとアフリカ》
 ○ポスト・コロナを切り拓くアフリカの肖像
 稲場雅紀(アフリカ日本協議会)
 ○新しい南北問題の中のアフリカ――パンデミック、武力紛争、気候変動
 勝俣 誠(明治学院大学名誉教授)

河野太郎議員、新刊『日本を前に進める』で「国際連帯税」を記述

 河野本

 

河野太郎議員の最新本、『日本を前に進める』(PHP新書)が27日に発売されました。この本の出版の意図は、今後の彼の政治活動の指針とするためのものではありますが、時期的に自民党の総裁選挙と衆議院選挙が近づいていることから、彼が総理になるための政治信条のための書とも言えるようです。

 

ところで、この本に対する当方の関心は、河野氏が外務大臣時代(2017年8月~19年9月)の後半に彼の政策の目玉としていた国際連帯税について、現在どのように考え記述しているかでした。

 

それは期待に反せずしっかりと述べられていました。「第三章 新しい国際秩序にどう対処するのか――安全保障・外交戦略」の「何のためのODAか」という箇所で(P104~105)。その記述要旨を挙げてみます。

 

【記述の要旨】

 

SDGsを達成するためには年間2.5兆ドルもの資金が不足している。ODAだけではとうていギャップを埋められない。グローバリゼーションの光が当たっている場所から手を差し伸べるべき。例えば、世界中の莫大な為替取引に0.0001%くらいの「国際連帯税」をかけ、その税収を直接国際機関に入れ、その国際機関が緊急の人道支援を行う。

 

外務大臣時代この課題を議論してもらうための有識者会議を立ち上げた。また国際的に議論するため「開発のための革新的資金資金調達リーディング・グループ」の議長国に就任し、国際社会における議論をリードした。

 

このように記述内容は外務大臣時代に主張していたこととまったく同じと言えます。当方としては国際連帯税を実現するための具体的方策などについて、じっくりと河野氏と話し合いところですが、自民党総裁選挙後の内閣改造が行われてからでしょうか。ひょっとして彼が総裁に立候補するかもしれず、そうすれば「次の総理にふさわしい人」という世論調査で1位になっている人ですから、総理になっているかもしれません。もっともその後になるであろう衆議院選挙で現与党が過半数を失うことも考えられますが、その時は国際連帯税創設を求める議員連盟の重要役員に就いていただきましょう。

 

以下、河野本の目次の紹介です。

 

【日本を前に進める】(PHP新書)

目次

第一章 政治家・河野太郎の原点

第二章 父と私――生体肝移植をめぐって

第三章 新しい国際秩序にどう対処するのか――安全保障・外交戦略

第四章 防災4.0

第五章 エネルギー革命を起爆剤に

第六章 国民にわかる社会保障

第七章 必要とされる教育を

第八章 温もりを大切にするデジタル化

 

※左上写真は、「国際連帯税シンポジウム2019」(2019年7月)で学生から要請文を受け取る河野太郎外務大臣(当時)

金融取引税はCOVID-19により国際法人税改革の次に浮上か⁉

●COVID-19の猛威とともに財源として金融取引税(FTT)が注目さる

 

COVID-19(新型コロナウイルス、以下コロナと略)が猛威を振るいはじめた昨年から、どの国も医療や事業支援など莫大な対策費を余儀なくされ、赤字国債(債券)を大量発行しました。そして問題はそのような赤字財政をどうファイナンスしていくかということで、そのリソースの有力なツールとして金融取引税(FTT:Financial Transaction Tax)が挙げられ、議論されていました。

 

日本でも前年度には60兆円もの赤字国債を発行し補正予算を組みましたが、このままでは財政の持続可能性を大きく損なってしまう恐れも生じてきています。これに対し、現在政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会で活躍されている小林慶一郎氏(東京財団政策研究所)など学者やエコノミストの一部から財政立て直しのため世界的規模での金融取引税(またはトービン税)実施の主張もされました。

 

世界的には、欧州連合(EU)の2021年前期議長国であったポルトガルや米国のバーニー・サンダース上院議員らのFTT実施に向けての動きがありましたが、実現に至っていません。もっともこれらの動きは主に国内政策への資金動員という性格のものですが、課税対象や税収の多寡いかんによっては途上国支援のための国際連帯税的な要素を十分持つことができます。例えば、G7など有力国で外国為替取引(通貨取引)へ共同で課税できれば、すぐれて国際公共財の資金源になります。

 

●ITR誌でのFTT小論の要旨

 

ITR(International Tax Review)誌に『金融取引税は反対がありながらもCOVID-19により、その可能性が高まっている』と題してFTTに関する現状と今後の展望について興味深い小論が載っていましたので、紹介します。以下、小論の要旨です。

 

1)世界的にコロナ禍対策による財政立て直しのために金融取引税(FTT)を求める声は高まっている

 

2)実際、FTTの中の株式取引税についてはフランス、イタリアはじめ相当の国で行われており、その実施に困難性はない

 

3)が、FTTはOECDやG20のような組織にとって優先順位は低いとのこと、現在の国際法人税のルール改革が優先されている。しかも、依然としてグローバル企業の反対も強い

 

4)とはいえ、「コロナにより必要になった収入を求める政府の窮状はこの税を採択することで局面が変わるだろう…(今のところ)EUでさえもコンセンサスを得る事は大変だろうが、個々の国々から変化を起こせるだろう」

 

●ITR誌でのFTT小論の全文(日本語・英語)

 

金融取引税は反対がありながらもCOVID-19により、その可能性が高まっている

FTTs more likely due to COVID-19 although objections remain

2021年8月18日 By Alice Jones

 

~各国政府はパンデミックの代償への支払策を探し求めており、金融取引税(FTT)を求める声は高まっている。しかし、論点が依然として残っている。~

 

税務専門家がITRに語った所によると、トービン税として知られている金融取引税(FTT)はCOVID19により失った収入を取り戻す政府の計画の一環として、今後数年間でその可能性が高まってくる。EUが国家間レベルでの課税を協議している間、スペインなど個々の国々は単独で行動をとってきた。

 

「FTTは長い長い間、浮き沈みを繰り返しながらやってきたが、今後目にする機会が多くなるかもしれない。」と税務・財務・会計のフリーランスコンサルタントであるJohn Bush氏は語っている。

(以下省略、続きはこちらをご覧ください

国際連帯税に関するアンケート結果(第1回)

ワクチン接種

 

●いっそう拡大する高所得国と低所得国とのワクチン格差

 

WHOは4日、コロナワクチンの3回目の接種につき、低所得国等でワクチン不足から9月末まで中止すべきと見解を出しました。実際、人口1人当たりのワクチン購入量は、カナダ10回強、英国8回などですが、アフリカ連合はわずか0.36回という状況です(8月5日付日経新聞)。しかし、高所得国はWHOの見解に構わず接種を行おうとしています。

 

低所得国などの支援への圧倒的な資金不足と特許の壁がグローバルなワクチン格差を招いています。前者の役割を担おうというのが国際連帯税であり、その実現が望まれるところです。

 

●国際連帯税に関するアンケートの結果

 

さて、先日「国際連帯税に関するアンケート」をお願いしたところ、386人からのアクセスがありまして、具体的な回答を38人の方からいただきました。まことにありがとうございます。みなさまの貴重なご意見、アイデアについては今後の国際連帯税活動の参考にさせていただきます。

 

なお、今回アンケート結果を第1回としたのは、これからもどしどしアンケートを実施し、みなさんのご意見等を聞いていこうと思っています。以下、結果についてご報告しますので、よろしくお願いします。

 

【Q1】国際連帯税に賛成ですか? 

 

・賛成 81.6% ・反対 5.3% ・どちらでもない 13.2%

 

【Q2】賛成/反対/どちらでもないの理由は?

 

1)主な賛成理由:

 

①不勉強なのですが…、気候危機にせよパンデミックにせよ、先進国だけで解決できる問題ではありません。そもそも先進国がその拡大により多くの責任がある事だと思います。先進国のリーダーシップや技術移転、資金援助のような上から目線の対策ではなく、フラットな関係で共に問題に取り組むためには国際連帯税のフレームがいいのではないかと考えました。

 

②国際間取引には国際的な目的税をかけるのが順当であり、また実態経済とかけはなれた自動高速投機の抑制にもなる。加えて、国境を越えた問題を解決するには国家政府を越えた地球政府機関の独自財源が必要だと考えるため。

 

③グローバルな問題を解決する上で、ODA資金やその亜種では、国の意向が強く働き過ぎるし、約束した拠出を守らない政府が多数存在するので、資金規模不安定となる。民間資金では利益に直結しにくい分野への投資は期待できない。したがって、旧来の公私の資金に依存しない新しい資金メカニズムが必要であり、国際連帯税はその可能性を有している。

 

④グローバルな課題の解決において、先進国の国際政治上のその時々の思惑に左右されることなく、持続的に資金が確保できる方策が必要であるため。

 

⑤炭素税などは国単位でも行っているところがありますが、まだまだグローバルには展開できていないのが現状ですし、為替税でケア階級の人にユニバーサルベーシックインカムを導入する一端を担うことを期待しております。

 

⑥各国の拠出金だけでは不測の事態に対応できない。実際、コロナ対応ですら失敗の連続だった。近代的な国民国家の枠組みにもそろそろ限界が来たのではないか、と改めて考えさせられた。二十一世紀、今こそ、世界的な視野を持ち、国際的な税の導入をすべきだと思う。

 

2)主な反対理由:

 

①意図は賛成できますが,徴収手段の構築が難しいと思います。

 

②学問的にまだ定まっていないから

 

③今時期尚早

 

【Q3】あなたの性別は?

 

・男性 65.8% ・女性 28.9% ・その他 5.3%

 

【Q4】あなたの年代は?

 

・10~20代 7.9% ・30~40代 34.2% ・50~60代 39.5% ・70代以上 18.4%

 

【Q5】主なアイデア・ご意見について

 

①賛同するNGO・NPOの世界的合流を通じ、国際連帯税の根拠となる国際条約成立の実現を目指し、取組みをより一層強化する。

 

②反対の立場に立ち得るステークホルダーの中から理解者や協力者を得て、幅広く捲き込んでいくことが、強硬な反対意見へのプレッシャーになっていく。

 

③炭素税、武器取引税、感染予防協力税、児童労働税など、SDGs問題解決のための課税を検討する。

 

 ④核保有国への核兵器開発を止める平和分担税など、無駄な軍事費を地球環境問題などに活かしていく。それには、核兵器禁止条約を国連加盟国に批准を求める運動を強化していく。

 

⑤まずは学問的な知見を国内で増やすことが肝要。

 

⑥中学校の道徳や自由研究、高校で言うところの総合的な学習に取り上げられるレベルを目指す。

 

⑦アイデアとしては、若者に訴え、世論を動かす為には、国際連帯税についてYouTubeなどに投稿する。

 

⑧まずは、先般(7/9~10)イタリア・ベネチアでの財相・中央銀行総裁会議(G20)合意を最終化するよう、日本政府に働きかける。合わせて法人最低税率引き上げ導入方策などさらなる国際課税ルールづくりのため、「国際連帯税創設を求める議員連盟」などにも具体的に提案し、働きかける。

 

⑨地方自治体からの請願を組織的に行う。国際的なネットワークを強化し、G7やG20の議題に取り上げるように働きかける。ダボス会議の活用も考慮する。

 

⑩ 国際連帯ってあまりにも抽象的なのでパンデミック対策税とかネーミングを工夫したらどうでしょうか?

 

 ⑪具体的に何に誰が課税する、あるいは使途はどのように決めるのか、また懸念されること、反対の立場の人たちの主張など、具体的な議論があれば、関連した議論が考えやすいものになると思います。

 

 ⑫今回のG20決議を踏まえて、国内の議論形成の場を早急に作る。

 

 

 

 

 

 

 

 

2021Summer:国際連帯税アンケートにご協力願います

グローバル連帯税フォーラム事務局では今回、国際連帯税に対する初めてのアンケート調査を行うことになりました。私たちは国際連帯税実現に向け、議員連盟も創設され、10年以上取り組んでおりますが、未だ実現には遠い状況にあります。

 

課税という行為がとりわけ国家主権と強く結びついていることが、実現を難しくする一つの要因です。現在私たちが置かれているのは、国境をいとも簡単に超えるコロナ禍の状況とその対策に要する資金の圧倒的な不足、そして同じく国境を軽々超える気候変動を始めとした課題に必要とされる莫大な資金の捻出が突きつけられているという状況です。しかし、各国がバラバラに課税主権の枠内で資金調達を行う現在のあり方では、とうていグローバルな課題に対処できないという現実があります。

 

一方、今月行われたG20でのデジタル課税などの「国際課税に関する歴史的合意(予定)」が日本メディアでも大きく取り上げられました。この背景にあるタックスヘイブンの問題やグローバル経済における課税の不公正さはまさに私たちが問題として掲げ、その是正に取り組んできたことでもあります。今このような世界的な「課税」問題に対し、未だかつて無いほど世論が大きく盛り上がっているタイミングではないかと考えております。

 

こうした中で、今日本でもとりわけ関心の高いSDGsや開発の資金に直結する、この「国際連帯税」というアイデアを、上記の国際課税ルールとともに今一度考えるべき一つのモメンタムに来ていると思い、今回のアンケートを行うことになりました。

 

このアンケートは国際連帯税というアイデアに対し、皆様が実際にはどのように考えていらっしゃるのか、率直な声を聴きたいというのが第一の目的です。

 

国際連帯税の簡単な定義も含めて、以下のアンケートリンクに掲載していますので、是非お力を貸して頂ければ、大変ありがたく存じます。

 

アンケート はこちらから ⇒https://questant.jp/q/0IGHEPZK

G20財務相等会議から(1)>法人課税の国際ルール改革、大枠合意したが

7月9-10日開催されたG20財務相・中央銀行総裁会合で、法人課税の国際的な改革(①デジタル<グローバル企業>課税、②国際的最低税率)について大枠合意しました。何よりも、現行課税ルールである、市場国=消費国に物理的拠点がないと課税できないという1国課税主義がグローバル化・デジタル化で機能していない中で、IT企業などグローバル企業に市場国も課税することができるルールが適用できるということで、「歴史的」出来事といっても過言ではありません。

 

とにかく、これまではGAFAなど巨大IT企業を筆頭にグローバル企業が好きなように税逃れをしてきました。例えば、アマゾンドットコムは日本国内に巨大な配送センターをいくつも有し、2兆円も売り上げながら、(工場や支店など物理的拠点がないということで)これまでほとんど法人税を払ってきませんでした(さすがに近年は一部払うようになったが)。上記、①②が最終合意されれば、グローバル企業の税逃れにもブレーキがかかると思います。

 

しかし、この大枠合意には様々な限界もあるようです。フィナンシャルタイムス(*)の記事から見てみましょう。次のようなものです。

 

1)対象となるグローバル企業があまりにも少ないこと(年商200億ユーロ超、利益率10%超が基準になりそうだが、これに該当する企業はたった78社しかない)

 

2)ほとんどの企業利益は従来通り物理的な拠点がある国で課税されること(利益率10%を超える利潤の20~30%が市場国の売上げに応じて分配するという制度設計のようなので、市場国の税収は圧倒的に少なくなる)

 

3)最低課税率が「少なくとも15%」とあまり高く設定できなかったため、そうした税率を採用する国に利益を移すインセンティブが残り続けること

 

4)銀行と資源会社が対象とされたこと(とくに銀行が除外とならなければ課税対象利益は2倍に膨れ上がるとの試算も)

 

(*)[FT]課税合意 多国籍企業へ網 簡素化に失敗、税逃れの道残す

 

ところで、FTでは指摘されていないが、今回の大枠合意には130か国・地域が参加しているが、グローバル企業を有しない途上国からすれば、上記2)からして国際課税改革の果実はほとんどないに等しいと言えます。中国を除く新興国にしても然りでしょう。多分途上国等から不満が出ていると思いますが、既存のメディアではほとんど報告されていません。

 

インドやインドネシア、トルコで実施中・実施予定のGAFAの売上高に課税するデジタルサービス税(DST)であれば、きわめてシンプルな制度であり、かつ公平に税収を得ることができますが、米国は国際ルールが合意されたのちにはDSTを取り下げるよう要望しています。

 

国際課税ルール改革は途上国に利益をもたらさず、金融取引税でカバーすべき

 

今回の大枠合意で税収を得るのは、順に「巨大IT企業の本社がある米国>グローバル企業の本社がある先進国と中国>中国を除く新興国>途上国」、となりますでしょうか。とするならば、別の税制改革でコロナ禍(ワクチンなど医療体制、債務問題など経済社会安定化)に苦しむ途上国を支援しなければなりません。それは「途上国支援のための金融取引税(国際連帯税)」についてまず金融市場が大きいのG7で共同実施することからはじめるべきです。もうひとつの国際課税ルール改革として。